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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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No.109 雛人形
3月3日更新のふたつ目は女の子ジョミーです。
転生のジョミーにしようかと思ったんですが、バレンタインでもすでに世界観がおかしな感じになっていたので、ここで雛祭りまでいれるとちょっと……!でも雛祭りなら一個くらいは女の子で~~!
ということで、読み切り女の子ジョミーです。
現代設定、義理親子。また義理親子……。
男の子版とはちょこちょこ違う箇所がありまして、ジョミーは友人の忘れ形見だとか、小さい頃は身体が弱くて、男の子の格好で育てられていた(古い言い伝えで、無病息災を願って幼い子供に逆の性別の格好をさせるという、あれ)とかいうことになっています。
すごい和風の家だなー……ブルーさん家。

そういう前提です。
シリアスに見せかけて始まりますが、あんまりシリアスじゃない…(特にブルーが)


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「ぼく、思うんだけどさー……」
床に胡座をかいて座り、7段飾りの人形を見上げながらジョミーは軽く息をつく。
「友達の娘だからって引き取った子供に、こんな立派な雛人形を用意とかしてるから、ブルーって未だに結婚できないんじゃないの?」
ぼんぼりの中の蝋燭を取り替えていたリオは、呆れたように肩を竦める主の養女の言葉に思わず苦笑した。
ジョミーの言った言葉がそのまま呆れを表したものであれば、尊敬する主をけなされたように思うかもしれないが、ジョミーのそれが照れ隠しだなんてことは、この邸に住まうものなら誰でも知っている。
それに、ジョミーがいつまでも独身の養父を心配していることも。
「ぼくがいるから、ブルーの結婚の邪魔になっているのかな」
幼い頃は何の気がかりもなくブルーに抱きついていた少女は、成長するにつれて時折そんなことを漏らし、徐々に養父との距離を空けるようになった。
しかし養父であるブルーはそれが不満であるらしい。
彼は常日頃、自分では独身主義であるとジョミーの公言して、「それなのにこんなに可愛い娘を得ることが出来た」と昔のように娘を可愛がろうとしている。
お互いの気遣いが上手く噛み合っていないことが、邸に仕える者たちとしては至極歯がゆい。
……というのは、ごく一般的な邸の者の見解であって、ブルーとジョミーの傍近くでお世話をするリオやブラウといった面々は、少し違う事情ですれ違う二人のやきもきしていたりする。

取り替えた蝋燭に火を灯し、ぼんぼりから漏れる仄かな明かりを確認すると、リオは小さくなった古い蝋燭を片付けた器を手に振り返った。
「雛人形は形代とも言われていますからね。あなたのお身体が心配だったソルジャーが、こんなに立派なものをご用意されたとしても当然かと思いますよ」
「それだよ。今では信じられないけど、小さい頃のぼくは何度も熱を出して入院してお医者さんに往診してもらったりとかさ、ただでさえブルーには色々と迷惑をかけてるのに、こんなものにまでお金を掛けなくたって」
「金銭で購えることなら、何でもするというだけのことだよ」
後ろの扉が開いて、ジョミーは床に座ったまま大きく肩を跳ね上げた。振り返っていたリオは正面から主と対面して頭を下げる。
「お帰りなさいませ、ソルジャー」
「ブルー!もう帰ったの?」
「ただいま、ジョミー。今日は早く切り上げることができてね」
肩を抱き寄せるように伸ばされた手は、床に手をついて立ち上がったジョミーに自然な形でかわされた。
「でも、薬代とかと違ってこんなことにまでお金をかけなくたって……」
雛人形を見上げるジョミーの横に並んで、ブルーは肩を竦めて苦笑した。
「生活に困っているのにそれを押してまで、ということでもないのだから、そんなに気にすることもないだろう。迷信は迷信としても、何でもやってみたくなるものなんだよ」
「娘がぼくでなければ……」
「僕は君が娘になってくれたなんて、こんなに幸福なことはないと思っている」
弾かれたようにブルーを振り仰いだジョミーは、すぐに眉を寄せて唇を噛み締める。
泣くのかと思ってしまいそうな表情に、ブルーの手が伸びる前にすぐに身を翻した。
「ぼくは、あなたの娘になんてなりたくなかった……っ」
「ジョミー!」
引き止める間もなく、ジョミーは部屋を飛び出してしまった。

ジョミーが立ち去った部屋で、空しく伸ばした手を降ろしてブルーは深く息をつく。
「年頃の女の子は難しい……」
「気を遣っていらっしゃるだけでしょう。ジョミー様はお優しい方ですから、ご自分があなたの負担になっているのではないかと、気にしておられます」
「ああ……そうだね、リオ。僕もそう思う。女の子は成長が早いというけれど、この頃ではすっかり僕から離れてしまって寂しいよ……」
ふと息をついたブルーは、伸ばされたリオの手に脱いだスーツを渡してネクタイを緩めながら雛人形を見上げる。
「……ところでリオ」
「はい」
「この人形はいつ片付けるつもりだ」
「今日が桃の節句ですから、今日の晩にでもと思っていますが」
「………そうか」
考えるように頷いた主は、既に日が暮れているにも関わらず、ワインを買って来いとリオを使いに出した。

「えー!買い物なんて、わたしが行ってきますよ?どうしてリオさんなんですか?」
「いや……これは私が行かないといけないことなんだ」
車のキーを取りに行った先で、メイドのニナが驚いたように声を上げる。今年入った新人なので、毎年の恒例行事を知らないのだろう。他の者はみな緩い笑みを浮かべて頷いている。
迷信は迷信として、なんでもやってみたい。
それはブルーの本心だろう。
毎年、3月3日からの数日間は息をつく間もないくらいに忙しい。現に明日から連日で人を招いての会食や、パーティーが邸で開かれる予定になっている。

雛人形の片付けが遅れると、それだけ行き遅れる。
そんな俗説が、ある。

本来、人形を片付ける役目は別にリオでなくても構わないはずだ。
だが、高価なものでおまけに掌中の玉ジョミーの形代である雛人形は、特に取り扱いに注意するように。
そう厳命されているために、大人数での流れ作業的な片付けはできない。結果的に、毎年リオが選任で準備から片づけまでを担うことになる。手伝えるのは、ブルーの厳命を知らないジョミーくらいのもので、そのジョミーもリオの指示なしにはきちんと片付けられる自信がないので、一人で片付けるということは絶対にしない。

「ジョミーに嫁ぎたい相手とやらができたときは、こんなおまじないのようなものなど役に立たないさ」
ブルーはそう自重して笑いながら、それでも今年も片付けを遅らせようとする。
「ジョミー様の花嫁姿を見ることが遅れれば遅れるだけ、ご自身がつらいと思うのですけれどね……」
リオは苦笑しながらキーを差込み、車のエンジンを掛けた。
ギアを入れる前に、邸と駐車場を繋ぐ扉から、ストールを巻いたジョミーが駆け出してきて、慌てて窓を開けた。
「どうなさったのですか、ジョミー様。なにかお使いでも?」
出かけるならついでに頼みたいことがあるのかと訊ねると、ジョミーはストールを掻き合わせて風になびく髪を押さえて首を振った。
「リオが出かけるって聞いて。人形の片付けはどうするのかなって思って」
「申し訳ありませんが、今年も遅れそうです。明日からパーティーなどが立て込んでいますから、ジョミー様も今夜は早くお休みください」
「そう……」
小さく呟きながら、指先を当てたジョミーの口は笑みの形を作る。
「うん、わかった。リオも気をつけて行って来てね」
「ありがとうございます。それでは行って参ります。ジョミー様はお早く邸に」
「うん、おやすみリオ」
「おやすみなさいませ」
手を振って邸に戻ったジョミーを見送ると、リオは改めてエンジンを掛け直してギアに手をかける。
ブルーは「娘になどなりたくなかった」と口にするジョミーの言葉のその裏に、まだ気づかない。
雛人形の片付けがずれ込むことに、ジョミーは毎年少しだけ笑みを零す。
「こんなに毎年遅く片付けていたら、ぼく一生結婚なんてできそうもないね」
そんなことを言いながら、それでも楽しそうに笑うのは、迷信を信じていないからではなくて、養父があくまで自分のことを、娘としてしか見ていないと思っているからだ。
早く独立してブルーの面倒にならないようにしなくちゃとくリ返しながら、ジョミーはこの邸から誰かに嫁ぐという形で出て行くつもりはほとんどない。
あるいはブルーの役に立つための政略結婚なら受け入れるかもしれないが、ブルーがそんなことをさせるはずもない。
「私も早く、ジョミー様ではなくて、奥様とお呼びしたいのですけれど」
どちらからも口止めされているので、リオは余計な差し出口を挟めない。
ジョミーが法令で結婚を許される歳まであと数年。
それまでにどちらかが踏み出すことを期待して、リオはアクセルを踏み込んだ。
3月3日だということに今日気づきました。またか(笑)
なにか行事ごとに毎回言ってるような気がしますが、ほんとに日時に対する認識が日々薄い……。
幸い(?)今日は仕事が休みなので、祝えるだけ雛祭りを祝ってみます。もう昼過ぎてるけど。
まずはシャングリラ学園。
今回はフィシスが腐女子です。ブルーが取り返しのつかない人なのはいつものこと(笑)




「待っていたよジョミー!」
生徒会室……もとい青の間の扉を開けた途端に猛烈歓迎されることには慣れていた。
ジョミーは特に驚くこともなく、はいはいと軽く受け流す。
「それで、今日は何を思いついたんですか」
こんな風に猛烈に歓迎されるときは、なにか企みがあるときだと、すでに理解したくなくとも理解している。気のない声で促したのに、ブルーは大仰に頷いた。
「今日は何の日か分かるかい、ジョミー?」
「分かるかもなにも……」
ジョミーは満面の笑顔のブルーの左手に下げられたものに視線を落として溜息をつく。何が言いたいのかは分かったが、何がしたいのかはまだ判然としない。
「雛祭りですね」
「そう!雛祭りだ!さあジョミー、あられをぶつけ合おうじゃないか!」
「また違う行事が混じってますよ!しかも節分もぶつけ合う行事じゃありません!」
あれは鬼役の者に向かって豆を投げるものであって、決して雪合戦のようにぶつけ合うものではない。
徳用のあられの大袋を手にしていたブルーは、そうだったかなとわざとらしく呟いた。
「せっかく色々期待したのに、ジョミーはノリが悪い」
「祭事のどこにノリの問題があるんですか。しかも色々って」
「それはもちろん、こうやって」
袋を破いてあられをひとつ取り出すと、ブルーはそれを唇に挟んでずいと顔を寄せてくる。
「くひうつひでわけはったり」
「口移しで分け合う必要なんてないでしょう!?お互い両手が開いてるんだから!」
ブルーの額を押さえて力の限り押し返すジョミーに、身を乗り出して迫っていたブルーは諦めたように咥えていたあられを口の中に収めた。
ようやくブルーが離れて、ジョミーは乱れた息を整えながら急に力を込めて痺れた手を振る。
「あとは、ほら、あれだ、投げつけたあられが襟元から服の中に入ってしまって
『ベタついて気持ち悪いよ……ブルー……取って……』とか」
「ぼくに醤油味のあられだけを厳選して投げつける気だったんですか」
白い目を向けたジョミーの横に、白魚のような細い指が握り締められた拳が現れた。
「そこでもちろん、『あ……違うよ、ブルー……それはあられじゃない……』
『おや、すまない。あまりにも美味しそうだったからつい、ね』
『だめ、やめて……いや……舐めちゃだめ……』
『ああ……ジョミー、なんて味わい深いのだろう。君のすべては余す事無く僕のものだ』
……というプレイに入るのですね、ブルー!」
「うわっ!?フィシス、いたの!?」
生徒会室に入ったときはブルーの姿しか見えなかったから、てっきりブルーしかいないと思い込んでいたジョミーは驚いて横に逃げた。
しかし今のフィシスのセリフはなんだ。
意味を考えるジョミーの前で、ブルーとフィシスは通じ合ったことに感動するように手を取り合っている。
「さすがだね、フィシス。僕の考えを読んでいる」
「もちろんですわ、ブルー。あられの投げ合いっこから、その後の身体中に降りかかったあられの除去、そしてそこから発展したあなたとジョミーの愛の営みの後片付けまで、すべてリオがいたしますから、あなたはどうぞお考えのままに……鍵はこちらで掛けておきますわ」
「僕は理解者に恵まれている!」
「つきましては、カメラはこのあたりの設置でよろしくて?」
ブルーがよく昼寝をしているソファーを映す位置に、リオがハンドビデオカメラを載せた三脚を立てている。
「リオもいたの!?……って、何してるの?」
「すみませんジョミー。僕はソルジャーとフィシス様には逆らえなくて……」
「は?」
「待ちなさいフィシス。言っておくが編集は僕がさせてもらうよ。あと、このカメラを視聴覚室や放送室に繋いでいないだろうね?」
「まあブルー!こんなにも協力をいたしますわたくしに、ジョミーの艶姿を見せてくださらないおつもりですか?」
「ジョミーの玉の肌を見せることまでは百歩譲って譲歩しないでもないが、淫らに喘ぐ姿は僕だけのものだ。あとで雛人形のコスプレをしたジョミーの写真をあげるから我慢しなさい」
「もちろんお内裏さまのコスプレをしたあなたが乱したあとですね!?」
「裾と……襟元までだね。赤い長襦袢と白い足袋、そしてジョミーの細く美しい太股……」
「鎖骨を忘れないでくださいね、ブルー!」
熱く語り合う二人に背を向けて、ジョミーは三脚の上のハンディカメラを取り上げた。そうして、部屋の端に椅子を移動させて、上の棚からリモコン式シャッターのカメラも見つけ出す。盗聴器は専用の機具がなければ見つけようがないので、あとでキースに依頼するつもりで、椅子の上から二つのカメラを思い切り床に叩き付けた。

「ああ!ひどいですわジョミー!」
「ジョミー!なんということを!」
「なんということを言ってるのはあんたたちです!何考えてるんですか!」
「せっかく超高感度カメラによる暗闇での撮影も可能、きめ細やかなカット割りに対応、まるでその場でそのまま再現されているかのように肌の質感まで再生してみせますのビデオカメラと、1.5秒間隔で連続24枚まで撮影可能な800万画素デジタルカメラを用意いたしましたのに!」
「素晴らしいよフィシス!ああ……それなのにジョミー……」
「なんだその無駄な機能!もっと有効なことに使ってくださいよ!」
ジョミーは床で粉々になったカメラの上に、念入りに踏みつけるようにして飛び降りた。



カメラの機能については、もっと高性能だったりとかも
あるかと思いますがツッコまないでください。
もしくはこっちのほうがいいという機能があれば教えてください。
ブルーかフィシス様が次回に備えて入手していると思います(笑)

ジョミシンの合間のちょっとした息抜き(記事の頭に別ジャンルのあの話題というのもあれですし^^;)
連載は先のことまで考える余裕が今はないので突発小話。
……というかですね、別ジャンルのサイト様の義理親子にうっかり萌えちゃっただけなんですが(笑)
ああいう付かず離れずな徐々に階段を昇って仲良くなっていく素敵な話は書けないので、10段くらい抜かした捏造親子。
ジョミーがブルーの養子になるパラレルです。
書き終わってみたら、あんまり義理親子である意味がなかったことに気づきました。またか……。
突発なんで唐突に始まり、続きません。




「ジョミー、おめでとう!」
「この家からシャングリラ侯爵家の養子が選ばれるなんて、こんな名誉なことはありませんよ!」
「幸せになってね、ジョミー」
「手紙書けよ!」

アルテメシアにある『心の平穏の家』からそんな風に送り出されたのは三年前、十一歳のことだった。
馬車に揺られて遠ざかる住み慣れた『家』。
これから先への期待と不安に胸をいっぱいにしながら振り返ったそのときだけは、別離の寂しさにほんの少しだけ涙した。


久々に友人たちやお世話になった先生たちを夢に見たジョミーは、薄暗い部屋で目を擦った。どうやら夜中に目が覚めてしまったらしい。手の甲を濡らすものに驚いて瞬きを繰り返す。
泣いているのは郷愁か。
そんなもの、感じる暇もないくらいに愛されているというのに。
つい寝返りを打ってしまって、身を固くする。傍らで眠る人を起こしていないだろうかと恐る恐ると伺うと、規則正しい静かな寝息が聞えた。
ほっと息をついて、己を囲うようにして眠る男の寝顔を見上げる。
薄暗い部屋では元より色なんてはっきりとは判別できないにしても、彼の真紅の瞳が今は白い瞼に覆われていることがひどく残念だった。
朝になればその瞳を見ることも出来ると、もう一度眠りに就こうとしてはたと気づく。
今日はこの人は隣の市へ泊りがけで出かけて帰らないと聞いていて、だからこそ久々にこの人の寝室ではなく自分の寝室へ引き取ったはずだった。
どうしてここにいるのだろう。
ジョミーが養父であるこの人と一緒に眠る習慣は、この邸に迎えられた日からずっと続いていることなので、このときジョミーが抱いた疑問は、いないはずの人が邸に帰ってきていたという一点についてのみのことだった。


邸に迎えられた当日、胸が張り裂けそうなほどの緊張で訪れた先の主は、急用で不在だった。
出迎えてくれた執事のハーレイは、主が非常に残念がっていたとだけ伝えたが、それをより詳しく説明してくれたのは、その後ジョミーを部屋まで先導してくれた使用人のリオと言う青年だ。
「ソルジャーはあなたを自ら出迎えることができなくなるから、行かないとわがままを仰られたくらいだったのですよ」
この家では、主のことを旦那様でもご主人様でもなく、敬愛を以って「ソルジャー」と呼ぶのだと教えられたのもこのときだ。
「え、えっと……」
それは光栄ですというべきなのか、子供じゃないんだからと呆れるべきか、そもそも大の大人が行きたくないだなんて駄々を捏ねる姿が想像不可能で、会ったことのない養父の人物像がジョミーの中で迷走していた。
結果としてこのときジョミーが結論付けたのは、リオがジョミーの緊張を解そうと大袈裟に茶目っ気を利かせたのだろうということだった。
シャングリラ侯爵がジョミーを歓迎しているのだと、そういう意味なのだろうと。
そんな風に話すリオの表情を見ているだけで、侯爵の人となりが見えてくるようでジョミーの中のある種の恐れは小さくなった。
「明日にはお帰りの予定です。それまでジョミー様はゆっくりとお寛ぎください。今日は長旅の疲れもおありでしょう」
結局そんなリオの気遣いは無用だったかのように、ジョミーは疲れなど微塵も感じさせることなく、主が不在の邸を案内してもらって、新しい家の広大さに眩暈を起こしそうになってその日は終わった。
用意されていたジョミーの部屋だという、やたらと広い部屋のやたらと広いベッドに飛び込む。
部屋もベッドも広すぎて落ち着かない。どうにかもう少し普通の部屋に替えて貰えないだろうかと明日、養父にお願いしてみようか。けれど好意を無にしたと不愉快にさせたらどうしようと、明日のことに思いを馳せているうちに、落ち着かないなりに眠りに落ちた。

緊張があったからか、夜中に目が覚めた。
月明かりだけの部屋でベッドの傍らに人影が見えたが、孤児院の大部屋で生活していたジョミーは夜中の人影に驚かない。
「……トォニィ……?それともタージオンか?そんなところでどうした?」
夜中に目が覚めたと彼らがジョミーのベッドに狭いのに無断で潜り込んでくることはよくあったことで、ジョミーは何の疑問も持たずにブランケットを捲くった。
「ほら、来いよ。恐い夢でも見たのか?」
人影は戸惑うように揺れただけで、ベッドに入ってこようとはしない。
兄弟同然で育った年少者たちには珍しい遠慮に、ジョミーは欠伸を噛み殺して自らの傍らを叩いた。
「早くしろって。寒いだろ。入らないなら、自分のベッドに戻れ」
「………入って、いいのかい?」
半ば以上寝惚けていて、遠慮がちの声が聞き覚えのないものだとは気づきもしない。そうして、やはり寝惚けていたから、孤児院ではありえなかったことを口にしても疑問にも思わなかった。
「いいよ。このベッド広すぎてひとりだと落ち着かない。眠れないなら、ぎゅっとしてやるから……」
そうベッドを軽く叩くと、人影が闇に馴染むようにすぐ隣に滑り込んできた。
やってやると口にしたから、トォニィたちが喜ぶようにと、ぎゅっと抱き締める。
「………なんか、お前も大きくなったな……」
トォニィかタージオンがタキオンがコブか分からないけれど。髪の手触りからするとタキオンだろうか……。
うつらうつらとしながら、ジョミーは抱き寄せた髪に顔を埋めた。
「それに、いい匂い……あー……なんか、ぼくのほうが落ち着……」


「おはよう、ジョミー」
目を開けると、カーテンの隙間から入る朝の優しい陽射しの中で、養父の優しい笑顔がすぐ傍にあった。
留守のはずの人がいることに疑問を持ったまま、もう一度眠ったらしい。
「おはようございます……ブルー……」
目を擦りながらもぞもぞと身動きをすると、軽く額に口付けを贈られる。
くすぐったそうに身を竦めながら、ジョミーはくすくすと笑いを零して養父に強く抱きついた。
「お帰りなさい。昨日はいつ頃に帰って来たんですか?夜中に目が覚めたら隣にいて、びっくりした」
「ただいま。ジョミーに会いたくて、夜を徹して戻ってきたんだ。広いベッドだと落ち着かないだろう?」
そう笑ったのは、ブルーも初めて会った朝のことを思い出したからだろう。


朝、目を覚ますと知らない男を抱き締めていたなんてこと、きっと人生最初で最後の経験に違いない。
知らない、けれど見たこともないほどに綺麗な男は、寝乱れた姿も絵画のようで、驚いて声も出ないジョミーに微笑み挨拶をした。
「おはよう、ジョミー。よく眠れたようで何よりだ。僕も君の心音を聞きながら穏やかに眠ることができたよ」
「え?ええ?あ、あれ?え!?」
乱れた寝癖もそのままに、首を傾げ、左右を見回して居場所を確かめ、また首を傾げるジョミーに男は楽しげに笑う。
「初めまして、僕のジョミー。僕はブルー。書類上は少し前から、そして今日から本当の君の家族になる。君が来てくれる日を心待ちにしていたんだよ」
「…………へ?」
明日からあなたのお父上はブルー・シャングリラ侯爵になるのですよ。
そう言い聞かされていて、しかも目の前で挨拶をされたというのに、それでもジョミーはその若すぎる侯爵を前に、ただ呆然と目を瞬いていた。


「それとも、もうさすがに広いベッドにも慣れてしまっただろうか?」
広すぎて落ち着かないなら慣れるまで僕の部屋で一緒に眠ろう……三年前、当たり前のように告げたブルーは、本当にその日の夜からジョミーを自分の寝室へと連れ込んだ。
結局それが習慣となってしまって、以来三年。ジョミーは自分の部屋では数えるほどしか夜を過ごしていない。
「慣れようがないですよ。だってずっとあなたと眠ってるのに」
「そうか。では今日も僕の部屋へおいで。一緒に眠ろう」
十四歳にもなって、と眉を潜めるのは教育係のエラとゼルで、養父はちっともジョミーを一人で寝かせるつもりはないらしい。
「夜の話はあとで。今は朝ですよ」
まずは一緒にご飯を食べましょう。
そうジョミーが誘いかけると、ブルーは嬉しそうに微笑んだ。



ブルーはジョミーの成長を待っているのでもいいですし、
本当にいい父親のつもりでいてもいいと思います。
前者なら美味しく導きそうですが、
後者なら後々ジョミー以上に戸惑いそう(笑)

No.94 黒と白
日付はすでに過ぎましたが、教授ブルーと学生ジョミー(まだ入学前の高校生)の続編で、バレンタイン小話。
……ジョミーが合格前ということになるので、続編ですが時間軸は逆回し。相変わらずぼや~とした設定のままです(^^;)




「……別に、分かってたことだけどさ」
書籍と紙で今にも雪崩が起きそうな部屋のデスクの上に、これまた雪崩が起きそうな適当さで色とりどりの可愛い包みが山と積み上げてあった。
ジョミーは面白くないとばかりに頬を膨らませて部屋に踏み込む。
「こんにちはー!教授、いますか?」
いるかと訊ねながら、研究室の扉は鍵が開いていたので在室しているのは分かっている。あとは起きているか、眠っているか。どこに埋もれているか、だ。
一度寝転んでいるブルーに気づかずに足に引っ掛かったときは、転んだ上から本が降ってきて酷い目にあった。
あのときはその後、ブルーが蒼白になってジョミーの安否を気遣い、あまりの心配ぶりについ怒り損ねたくらいだった。
けれど怪我はないかと手や顔を間近でジロジロと見回したのは視力が低いから仕方がないとして、痣はどうかとシャツを捲り上げて素肌の胸にまで触ってきたときはさすがに「何考えてるんですか!」と結局金切り声を上げてしまったんだった。
滑るように肌に触れた冷たい手を思い出してしまって、ジョミーは赤くなった頬をぺちりと叩く。
「何照れてるんだよ、ぼく。男同士だろ……」
思い出したものを振り切るように首を振った目に、デスクの上に山積みにされた綺麗な包みの数々が再び映って、弾んだ気持ちが一気に萎んだ。
「あー、もう!教授!どこですか!?」
時折床の本を拾いながら部屋を見て回ったジョミーは、机の影にも書籍でできたタワーの向こうにもブルーの姿が見えないことを確認して首を傾げる。
「……トイレかな?」
研究室に鍵をかけていなかったから、そう遠くへは行っていないはずだ。
とにかく座る場所を確保しようとソファーの上の本をいくつか本棚に直し、脱ぎっ放しで置いてあった皺だらけのジャケットに肩を落とした。
「ハンガーに掛けるくらいしたらいいのに!白衣は家でも洗えるよね……って、あの人がアイロン掛けするとは思えない……」
ジャケットはクリーニングに出すことに決めて、おざなりにでも白衣を畳んだジョミーはそれを鞄に詰めようとして、はたと手を止める。
「こんなの、彼女にでもやってもらえばいいんだよ。そんなのいないとか言ってたけど……」
目を横に向けると、デスクの上にはチョコレートの包みの山。
「……いくらでも候補はいそうだし」
なぜこんなにも、バレンタインデーにブルーが山とチョコレートを貰っていることにイライラするのか分からずに、ジョミーは溜息をついた。
「僻み根性だとは思いたくないんだけどなあ……」
こんな生活能力無能力者がもてるなんて、世の中理不尽だ。ジョミーは先輩ならまだしも、時折後輩にまで「可愛い」なんて言われてしまって、友人は多いけれどいまだに彼女を作れたこともない。
「でもあの美形でこのだらしなさというのが、案外女の人は受けるのかもしれない。完璧じゃないところがいいとかさ……」
悶々と考え込んでいると、そのうち腹が立ってくる。
何しろ今日は弁当を作る日でもないのに、ブルーから予定が空いていれば研究室へ来て欲しいと連絡があったから訪ねてきたのだ。
それなのに、呼び出した当人は不在。恐らく一時的な不在だとわかってはいるけれど……。
畳んだ白衣を握り締めて、ジョミーはムカムカと腹の底が気持ち悪くなってきて眉をひそめる。
「あーあ、もう弁当作ってくるのやめようかあ」
「それは困る」
背後から聞えた声に飛び上がって振り返れば、よれよれの白衣を引っ掛たブルーが、腕を組んで開けたままだった扉にもたれかかって立っていた。


「今日は制服なんだね。きちんと締めたネクタイがストイックな感じでとてもいい」
ブルーは軽く指先で眼鏡のフレームを上げながらにこにこと微笑み部屋に入ってくる。
「それにしても、そんな酷いことを言わなくてもいいじゃないか、ジョミー。僕が君の手料理しか食べられないことを知っていてそんなことを言うなんて」
「『しか』ってことはないでしょう、『しか』ってことは」
「でも、僕が料理を料理として味わえるのは君の料理だけだ」
嘆くように胸を手を当てて訴えるブルーにも心を動かされることもなく、ジョミーは肩を竦めた。
「味もみずに何にでもソースをかけるからでしょ」
珍しくジョミーが折れない様子を見て、ブルーはおやと首を傾げた。
「どうして怒っているんだい?」
「怒りもしますよ!なんですか、この本と紙の山!5日前に片付けたばっかりなのに!そりゃ確かにあなたには勉強を見てもらってますけど、その報酬としては重労働するぎるでしょう!?こんなの、彼女にでもやってもらえばいいんだ!」
「女性を労働力としてみるのはよくないよ、ジョミー」
「ものの例えだよ!」
片付けた端から散らかされるなんて、この数ヶ月で飽きるほど繰り返してきたのに、一体どうしてこんなに腹が立つのか不思議だったけれど、一度滑り出した口は止まらない。
「ぼく、もうここにくるのやめます!」
勢いで叫んで、あっと口を押さえる。
興奮して頭に昇っていた血が一気に下がるように身体が冷えて、蒼白になって恐る恐るとブルーに目を向けた。
その悲しそうな顔に、どくんと大きく心臓が跳ねる。
「あの……」
「君がいやだと言うのなら、強制することはできないね……」
ぽつりと呟かれた言葉に、ジョミーは手にしていた白衣を握り締める。
数字には強いと豪語するブルーは、確かに数学や物理や化学を分かり易く教えてくれる。けれどその代わりにこうやって頻繁に弁当を作ってきたり、研究室の掃除をしたりと大変なことも多い。来なくていいというのなら、もうそれでいいはずなのに、心の底で嫌だと嘆く声がする。
「けれど、少し落ち着いて、もう一度考えてくれないかい?そうだ、ひょっとすると空腹のせいでいらいらしているのかもしれない。そこの包みから、好きなものを選んで食べなさい」
ブルーが指を差しながら傍に来てデスクから取り上げたのは、チョコレートの包みのひとつだ。
「え、で、でもそれってバレンタインのチョコじゃ……」
「恒例だからと事務局の子たちからの義理だったり、レポートに添えて手心を少しだけ期待している生徒からとかのね」
そうして手にした包みをひらひらと振る。
「ほら、これなんて男子学生からの苦肉の策だ。これはよほどレポートの出来に自信がないのだろう」
レポートを見る前からその出来を暴露しているようなものだと笑うブルーに、ジョミーは一気に気が抜けたように、まだ片付けの終わっていないソファーに身体を投げ出すように座り込んだ。
「ジョミー!?どうしたんだい、貧血か?だったらやはり糖分を取ったほうがいい!」
ジョミーを仰向けにソファーに倒して上から圧し掛かるように、顔色を伺うどころかなぜか熱を測るように眼鏡を外しながら額に触れるブルーの赤い瞳との距離に、ジョミーは慌ててブルーとの間に手を挟む。
「だ、大丈夫です!平気!」
「そうかい……?」
なぜか少し残念そうな顔をしたブルーは、押し返されると眼鏡を掛け直しながら素直に起き上がった。ジョミーは続いて乱れた襟元を寄せながら起き上がり、放り出してしまったしわしわの白衣を手にする。
「……ごめんなさい、やっぱりお腹が減ってイライラしてたのかも。また……ここに来ても、いいですか?」
見上げると、ブルーはにっこりと微笑んで、ジョミーの隣に座りながらその頬を撫でた。
「もちろんだよ。君が来てくれたら嬉しい」
ブルーの微笑みに、ジョミーは嬉しくなって無意識に手にしていた白衣を抱き締める。
「とりあえず、今日のところは君を家まで送ろう。貧血を起こしているようだし」
「え……?い、いえ……大丈夫です」
ブルーの運転する車には以前に一度乗って大いに懲りていたジョミーは、視線を逸らしながら謝絶する。
「大丈夫です。それより、何が用事があってぼくを呼んだんじゃないんですか?」
ひょっとすると部屋の片付けを頼みたいのだろうかと部屋を見回せば、ブルーはテーブルに畳んで置いてあった皺の寄ったジャケットをちらりと見て軽く首を傾げる。
「君には日頃から世話になっているから、ランチかディナーでも一緒にどうかと思ったんだ」
「え!?奢ってくれるんですか?」
食べ盛りの少年の澄んだ翡翠色の瞳の輝きに、ブルーは微笑みながら頷いた。
「行くかい?大丈夫なら、僕のお勧めの店があるのだけど……」
「行きます!」
味音痴のブルーの勧める店と言われてもどれほどのものかは分からないけれど、自分が食べるなら質より量のジョミーだ。普段作ってくる弁当は、あくまで偏食な人のために考えているに過ぎない。
元気よく返事をしたジョミーに、ブルーは微笑みながら立ち上がる。クローゼットではなく窓際にかけていた皺のない背広を手にして、そのハンガーに白衣を代わりに掛けた。
「制服ならドレスコードにも掛からないだろう。さあ行こうか、ジョミー」
「え、ドレスコード……?」
聞きとがめて首を傾げたジョミーは、けれどブルーに肩を抱かれて強引に促され、手にしていた白衣を自分の鞄に詰めながら、研究室を後にした。


そして高級料理店でも調味料を所望するブルーに、
大変気まずい思いをするという……(^^;)

ちょっとした小話のはずが。長くなったので分けました。
分けたぶんだけ伸ばしたら、フィシス様のおかしな人具合に磨きがかかりました。その参考文献はいけないと思う……というか、シャングリラには何の文献があるのか。
この話のブルーはまとも(惚気以外は)だったんですが、この日を境に色々変わりそうです……。



「ジョミーがあなたともっと親密に話し合いたいと話していましたの」
フィシスがそう告げると、ブルーは意外なことを聞いたとばかりに長い睫毛を揺らして瞬きをした。
「親密に?しかし僕らは十分に……いや、もしかすると僕ひとりが満足していて、ジョミーは何か不満を貯めていたのだろうか」
表情を改めて、深く考える仕草で顎に指を当てたブルーに、フィシスは苦笑を零して首を振る。
「不満と言うより、不安でしょうか。詳しいことは今夜ジョミーが訪ねたときに分かると思いますわ」
「今夜?」
「ええ。私が後押しいたします。あなたも、ジョミーの元気の良い可愛らしい姿を見続けたいとお思いでしょう?」
「もちろんだとも!」
ブルーは確かに言った。
ジョミーの可愛い姿を見たい、と。
フィシスは両手を握り合わせて、にこりと微笑んだ。


「ジョミー。ブルーはあなたの可愛らしい姿を見たいと仰っておりましたの」
そう言った前後を略して伝えると、ジョミーの頬が一気に赤く染まった。
「か、可愛い!?あの人はまた……ぼくのこと孫みたいに言って……」
怒ったような、照れたような様子で赤くなった頬を拳で擦るジョミーに、フィシスは緩く首を振る。
「孫、とは違うと思います」
そうして、傍らのテーブルに置いていた服を取り上げてジョミーに手渡した。
「これなに?」
はい、と手渡された桃色の布を見てジョミーは首を傾げる。
「今夜はそれを着てブルーの元へ行かれるとよいでしょう。あなたもブルーとゆっくりお話したいでしょう?」
「それは確かにしたいけど……あんまり夜更かしするとブルーによくないし……」
「ですから、そんなときのためのこの服ですわ。どうぞここで試しに着替えてみてください」
「ここで!?え、って……フィシス……これ……」
広げた服を見て、ジョミーが絶句する。
「これスカートじゃないか!しかもなんか随分丈が短い……」
「看護士の服です」
「嘘だ!この船の看護士はみんなズボン型じゃないか。アタラクシアでだってスカートは膝下まであったよ!?これ太股まで出るじゃないか!」
「まあ……私が嘘を申したと……?」
眉を寄せ、傷ついたように手の甲を唇に翳してよろめくと、ジョミーは途端に慌てて首を振った。
「あ……ち、違うよフィシス。そんなつもりじゃないんだ。でもこれって……」
「ライブラリーに記録が残っておりました、地球で使われていた看護士の服を、再現させたものです」
「地球?」
その単語に、ジョミーはぴくりと反応を示す。
「これ、地球の服なの?」
「ええ。再現してくれた方は平面の資料を元に起こした型紙で作ったので、細部が怪しいとは言っておりましたけれど、サイズはジョミーにぴったりのはずです」
「地球の服……看護士の服……で、でもさフィシス。服を着たからってぼくが上手く看護できるようになるわけじゃないし」
「気は心です、ジョミー」
フィシスはキリリと表情を引き締めて、桃色のナース服を広げるジョミーに手を重ねた。
「桃色は人の気持ちを和ませるといいますし、あなたがその服を着ることによって、あなたの心がソルジャーにも伝わるでしょう。どうしても不安になる事態になりましたら、ドクターを呼べは良いだけです」
それでは別にいつもの服でも構わないだろうと、ジョミーに気づかせないうちに、フィシスは畳み掛けるように重ねた手から思念を送った。
「それとも、こちらの服のほうがよかったかしら?」
送られてきた映像は、フレアスカートの黒い半袖のワンピースに、白いレースのエプロンを掛けているものだった。その裾はやはり短く、裾と袖は白いレースで飾られている。頭部にも白いレースのカチューシャ。
次に送られてきた映像は、レオタードのような黒い衣装に燕尾服を重ねて着ていた。足を包むタイツは網目状で肌が見えるし、お尻にあたりには白いぼんぼりのようなものがついている。頭につけたウサギの耳のついたカチューシャと合わせてみて、どうやらウサギをイメージしているらしい。
そんな映像が、自分をモデルに送られてくるのだからたまらない。
「な……なにこれっ!?」
目を白黒させて絶叫するジョミーに、フィシスはそっと重ねていた手を解いた。
「これらは、身の回りのお世話をする者と、場を和ませる役割を担う者の衣装だそうです。ね、ジョミー。私はこれでも、あなたが抵抗少なく着ることのできるであろう服を選んだつもりだったのですけれど……」
「わかった。ぼく、これ着るよ……」
まるでどれかひとつは選ばなければならないかのような言葉に、ジョミーは少々青褪めた顔色で桃色の看護士の服を握り締めた。


「ここでジョミーが試着をしてくれなかったことだけが心残りです……」
頬に手を添えて、ふっと残念そうな溜息をつくフィシスに、リオとアルフレートはそれぞれ視線を他所へと泳がせた。
「それにしてもよい仕事でしたわ、リオ。よくあの短期間であの服を仕上げてくれましたね」
『あ、ありがとうございます………ジョミー、すみません……』
消え入りそうなリオの声など聞こえていないかのように、フィシスは手を叩いて椅子から立ち上がった。
「さあこれで、明日からは私も解放されますわ。さすがに今夜のことは私に話そうとはお二人とも、思いませんでしょうから」
「フィシス様……」
そっと目の端に浮かんだ涙を拭ったアルフレートの肩を、リオが叩いてゆっくりと首を振った。
慰めてくれるのか、同志。
唯一同じくすべてを知っているリオからのアクションに、アルフレートは共に嘆こうとした。
だが。
『必ずしもフィシス様の思惑通りにことが運ぶとは限りません。そのときは頑張ってください』
アルフレートは孤独をまざまざと実感した。


「女神は哂う」
配布元:Seventh Heaven


まさかのアルフレート締め(笑)
ジョミーは素直な子なので、ちゃんとピンクナースで青の間に行きます。

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