学園と言いつつ、相変わらずジョミーとブルーしか出てません。
しかも相変わらず日本みたいな舞台に……(笑)
拙いサイトですが、来年もよろしくお願いいたします。
それでは今年もあと残りほんの少しですが、よいお年を!
「この間クリスマスで遊んだのに、大晦日に年越しで初詣なんて、あなた受験生の自覚あるんですか?」
片手を上げて満面の笑顔で出迎えたブルーに、両手をポケットに入れたまま寒そうに首を竦めたジョミーは渋い顔で最初から説教の体勢だった。
「これはまたつれないことを言うね。ジョミーは僕に会いたくないのかい?」
そんなことを言いながら、ブルーは少しもそんな心配などしていない様子で手を差し出してくる。
「……なんですか?」
差し出された手を見下ろしながら胡乱な目を向けるが、ブルーの笑顔はまるで崩れない。
「人込みがすごいから、はぐれたらいけないだろう?」
「……手を繋げ、と」
「そう」
「いやですよ!恥かしい!」
差し出されていた手を叩き落すと、先に立って歩き出した。後ろでブルーの笑顔が深くなった気配がして、口を引き結んで前のめりになる。
文句を言いながら結局ここまで来ているのだから、ブルーの笑顔が曇るはずもない。
「ジョミー」
「なんで……うわぁっ、冷たっ!」
氷のような手に頬を掠められて、ジョミーは思わず悲鳴を上げた。
「なにするんですか!」
「いや、冷たいだろうと少し触ってみただけだよ。いい反応が返ってきたね」
嬉しそうに言われて、思わず拳を握り締める。殴っていいだろうか。今だったらきっと誰も咎めない気がする。
だがその衝動を実行するよりも、周囲の視線が一斉に集まったことのほうが耐え難かった。
高校生にもなって人込みの中で何をじゃれているかと思われていそうでいやだ。
「ほら!さっさと行って、さっさと帰りますよ!」
放っておくといつまでもダラダラとしていそうなブルーを引っ張って行こうと、その氷のような手を掴んで人込みの中を歩き出した。
「ジョミー」
「なんですか」
「さっき叫んだくらいなのに、僕の手を掴んで冷たくないかい?」
その前に手を繋ごうと言ってきたのは誰だ。今更そんなわけのわからないことを。
「冷たいですよ。だからさっさと帰ろうって言ってるんです!」
「でも初詣が終われば君と別れないといけないから、いやだな」
「ぼくは風邪を引くほうがいやです」
「……しょうがない」
深い溜息をつくと、ブルーは引かれた手を逆に後ろに引っ張り、握り合わせたまま自分のポケットに入れる。中はただポケットの中というだけではなく暖かい。
「……ブルー……あなた、中に何かいれてますね?」
「うん。カイロを」
「どうして手を温めないんですか!」
「だって冷たければ、君がこうやって握ってくれるから」
いい歳して「だって」ってなんだ、「だって」って!
けれど結局ブルーの思惑通りの行動をしているのかと思うと、文句を言うよりも肩が落ちた。
しかもそれがいやでないのだから、それこそが本当にブルーの思惑通りなのかもしれない。
限定話撤去に伴い、代わってこれまた小話アップ。
とはいえ、限定の続きではなく、表の続きのほうです。ふたりは健全(……だからジョミーがこんなことができる……)
「そういえば、プレゼント貰いっ放しだったっけ」
そうジョミーが気づいたのはクリスマスデートも終えた、更に翌日のことだった。
遅すぎるといえば遅すぎる話だが、ブルーからのクリスマスプレゼントがサンタクロースからという名目をつけられていたり、その渡し方が夜中に勝手に家に侵入するというとんでもない方法だったりで、すっかりと「お返し」が頭から抜けてしまったのだ。
資金の豊富なブルーとは違い、ジョミーは親からのお小遣いをやり繰りしている。そして今は月末だ。小遣いは月初めにまとめてもらう。ママは前借りはさせない方針を崩したことがない。
「……お金がない」
シャングリラ学園はアルバイトは禁止していないけれど、生徒会で忙しいジョミーに学外で働く時間なんてありはしない。ソルジャーを押し付けたのはブルーだ。
けれど。
「さすがにぼくだけ貰うのはまずいよなあ」
誕生日だとかジョミーの祝い事ならともかく、クリスマスは信者ではないジョミーとブルーにとってはいわばイベントだ。ブルーなら気にもしないだろうと分かっていても、一方的に貰うだけはジョミーの心情が許さない。
「でも……」
鞄に手を伸ばし、取り出した財布を確認したジョミーは遠い目をして息を吐いた。
「お金ないし……」
振れば小銭くらいは音を立てそうだった。
携帯電話が着信を告げると、ブルーはそれを光速の勢いで手に取った。
ジョミーからの着信は、すぐにわかる。何しろ、ジョミーの声を録音したものを使用しているので。
ジョミーに「メールだよ」とか「電話に出て」とか、音声をコレに吹き込んでくれとレコーダーを前にお願いしたときは鉄拳制裁と共に断られた。今携帯から流れているのは「仕事手伝ってください!」という怒鳴り声だ。
本当は「……好き」と言う言葉を録りたいところだが、盗み撮りなので囁かれるだけのそれを録音するのはなかなか上手くいかない。ちなみに現在のメール着信音は「いい加減にしてください!」である。
「ジョミー?」
録音もいいが、やはり機械越しだろうと本物の声は更にいい。すぐに通話にすると、ジョミーの声が耳に届いた。
『今いいですか?』
「もちろん。どうしたんだい?」
『どこにいますか?』
「家だけど」
珍しくジョミーから呼び出してくれるならすぐにでも出かけようとクローゼットを開けると、しばらく逡巡するような沈黙があった。
『………実はすぐに近くに来てるんですけど……』
「え、本当に?どこだい、すぐに迎えに行くよ!」
『家の前』
一瞬の間の後、ブルーは慌てて窓に飛びついて、カーテンを勢いよく開いた。
薄暗い夕闇の中、門扉の前で携帯電話を耳に当てたジョミーが部屋を見上げている。
門灯の明かりで寒そうな白い息が見えて、ブルーは急いで身を翻した。
「言ってくれたら君の家に行ったのに!もう暗いのに危ないじゃないか!」
『あのさブルー、ぼくはあなたと同じ高校生ですよ。しかも男。まだ七時にもなってないのに』
「年齢も性別も関係ない!ジョミーは可愛いのだから自覚を持ってだね……」
『可愛いってなんだよ!』
途端に不機嫌な声が返ってきた。
ともかく急いで階下に下りて玄関の扉を開けると、怒ったように唇を尖らせていたジョミーがぱっと表情を綻ばせた。
「急にごめんなさい」
ジョミーは携帯電話の通話を切ってポケットに入れる。
「いや、そんなことは気にしなくていい。君ならいつでも大歓迎だ」
駆け寄ったブルーに、ジョミーは締めたままの門扉の向こうから、いきなり手を突き出してくる。
「そんな薄着で出てきて!はい、これ。遅くなったけどクリスマスのお返し」
「お返し?」
まさかそんなものが来るとは思っていなくて驚いて目を瞬く。ジョミーが手にしているのは一枚の封筒だ。
受け取ると、ジョミーはバツが悪そうに首を竦めた。
「もう少しマシなものを渡せたらよかったんだけど、今金欠で」
ジョミーに目で問えば、開けていいと頷かれる。出てきたのは一枚の白いカード。
「『便利屋券』?」
表にはシンプルにそれだけ、裏を見るともう少しだけ分かり易く説明があった。
「『ひとつあなたの願いを叶えます。ぼくに出来ること限定なのでよろしく』。……ジョミー」
「あ、やっぱり呆れた?子供じゃないんだからさすがにそれはないかと思ったんだけど、新年になったらまともなものを贈るから今はそれで許してくれません?」
両手を握って頬に当て、誤魔化すように笑うジョミーは分かっていない。
ブルーはそのジョミーお手製のカードを大切に封筒に仕舞い、大切に懐に入れて、おもむろに門扉を開けて、それからジョミーの両手を上から包むように握り締める。
「ありがとう。僕にとってはこの上なく素晴らしい贈り物だ。だが『願いを叶える』だなんて、こんな贈り物は僕にしかしてはいけないよ?」
「あなた以外にそれを笑って許してくれる人なんていないからしませんよ」
聞きようによっては随分な言われようだったが、しないとはっきり約束してくれたのでほっと胸を撫で下ろす。
ジョミー、約束事、それも文章にしたものは、もう少し厳密に書かなければいけないよ。
ブルーは心の中だけでそっと呟いた。
カードには有効期限が記載されていない。
忘れた頃にカードを出されたジョミーが悲鳴を上げるのは、数年のちの話。
ジョミーは半分シャレのつもり。
ブルーのお願い事は結局なんでも聞かされているからいいかー、くらいの軽い考えが半分。
ブルーはやっぱり騙してます。色々と……(笑)
「ジョミー、ジョミー!」
ジョミーの姿を探して家中の扉を開けて回ると、ブルーの部屋でベッドにうつ伏せに寝そべりながら両手に顎を置いてマンガを読んでいるところを発見した。
「あ、お帰りブルー」
ゆらゆらと揺れていた足がベッドに落ちて、ベッドに手をつきながら振り返る、その仕草にブルーは緩みそうになる頬をどうにか保つ。
このまま上から覆い被さりたいのは山々だが、今日は別の目的がある。
「ただいま、ジョミー」
腰を屈めてその頬にキスを落とすと、くすぐったそうに片目を閉じたジョミーは、手を伸ばしてブルーを引き寄せ頬にキスを返してくれる。
頬に当てられた唇の感触にブルーは更に機嫌を良くしながら、脱いだコートを椅子にかけてネクタイを解く。
これが「いってらっしゃい、いってきます」と「おかえりなさい、ただいま」の挨拶なのだと教えると、ジョミーはなんの抵抗もなく受け入れた。
嘘は言っていない。この国ではあまり一般的ではないが、家族同士の挨拶である国だってあるのだから。
始め、養父のハーレイは、息子の所業に頭が痛いと額を押さえてよろめいたが、ブラウは喜んで協力してくれた。
つまり、ジョミーが地上に降りてきてからというもの、ハーレイとブラウも挨拶として頬にキスを贈りあう習慣を、ブラウによって定められたのだ。
ブルーとジョミーの視線を気にして抵抗したハーレイは、二人の姿が見えない玄関先でなら、という条件で結局妥協したらしい。
実は嬉しいくせに、とは思っていても口しない自分はできた息子だと思う。
ちなみに妻ではない女性には手の甲にするようにと教えているので、ジョミーがブラウに挨拶をするのは手の甲へのキスで、ハーレイは妻に操を捧げているという言い訳でキスの挨拶は拒絶した。むろん、息子からのプレッシャーに負けてのことだ。
ブルーは制服と学校指定のコートをクローゼットに仕舞いながら、今度は私服のコートを引っ張り出す。
「ジョミー、出かけよう」
「出かけるって、どこへ?」
「どこでも。君が行きたいところはないか?君はいらないといったけど、やっぱり僕は君にプレゼントを贈りたい。今思いつかなくても、街角を見て回れば欲しいものがあるかもしれないよ?」
起きがってベッドに胡座をかいていたジョミーは、軽く首を傾げて頬に指先を当てる。
「でも……ぼくは何も返せないし……」
「別にそんなことを気にしなくても。君はいつも僕にトレーニングをしてくれるのだから、そのお礼と思ってくれたら」
「それだよ。よくわからないけど、くりすます、だっけ?あれのせいでどこに行っても人だらけじゃないか。ブルーの訓練はまだ途中で、ときどきコントロールが効かなくなるだろう?人込みに行って大丈夫?」
ジョミーの危惧に、ブルーはにっこりと微笑む。
実はジョミーはまだ気づいていないけれど、ブルーの力のコントロールは至極順調に進んでいる。
順調でないのは、その振りをしているからだ。
少なくとも、道端を歩いていて突然バラの花束と共に見知らぬ男にプロポーズされたり、電車の中で杖をついたおばあさんに背後から抱きつかれて愛の告白をされたり、通りすがりの園児に離れたくないと腕にしがみ付いて大泣きされるなどという目には遭わなくなった。
ジョミーに落ち零れと思われるのはとても悔しいけれど、コントロールが上手く行くようになったのなら、天上へ行こうとジョミーにせがまれるはめになる。
ブルーはジョミーに詰め寄られて下から上目遣いでお願いされることには弱い。
だったら、最初からせがまれないようにしよう、というのがブルーの狙いで、今のところは上手くいっている。
そういうわけで、ジョミーが訊ねてくる前ほどブルーは人込みも苦手ではなくなっているのだが……。
「大丈夫だよ、ジョミー。君が一緒なら」
「もー!それじゃあブルーの訓練にならないじゃないか!」
ジョミーは頬を膨らませて不平を鳴らすが本気で怒っている様子ではない。
力をコントロールする方法として、ジョミーは初めにブルーと手を繋いだ。
ブルーに触れて力の方向の定め方を、同調して感覚で教えるためとのことで、指を絡めて、心を委ねるようにと言いながら。
以来ブルーはコントロールが苦手な人ということになっている。
「ジョミー」
ブルーが笑顔で手を差し出すと、ジョミーは膨れながらもベッドから降りて手を重ねた。
「クリスマスデートだね」
ブルーが微笑みかけると、ジョミーは軽く首を傾げる。
「くりすますって、家族で過ごす日だって言ってなかった?」
「うん。家族とか、友達とか……恋人とかの日なんだよ」
そうしてそんな日に、指を絡め合って寄り添って、ふたりで歩くのだ。
傍目にどう見えるのかなんて、ジョミーにはわからないかもしれないけれど。
ブルーは手を繋いで一緒に部屋を出ながら、腰を屈めてジョミーの頬にキスをした。
「なに?」
突然のキスに瞬きをするジョミーのにこりと微笑む。
「いってきますのキス」
「一緒に出かけるのに?」
「うん。だからいってらっしゃいのキスを僕からも贈るから」
君からも。
そう言ってもう一度頬にキスをすれば、やっぱりジョミーは背伸びをしてブルーの両の頬にキスを贈ってくれた。
相変わらずジョミーはツンデレ(でも今回はそれほどでもない?)
第一弾と言いつつ、一体何個書けるかはわかりません(苦笑)
「ジョミー、この紙に願い事を書いて」
「ま、でもぼくらまだ高校生だしね」
「メリークリスマス、ジョミー」
部屋は真っ暗だが、闇の中でも白いファーをつけた赤い服はしっかり見える。
しかし考えてみれば、緋色だとシンの方のジョミーは報われないような気が……(今更)
あくまでネタなんでこの話は続きません~。
「それで……」
ジョミーは紅い椅子の傍らに立つ青年を、呆然と見上げる。
「それで、ブルーは?」
戦慄く唇を一度噛み締め、震えを止めてシンを睨みつける。
「ブルーを見捨てたのか!?」
「ブルーは生きてる!」
ジョミーの叫びをかき消すほどのシンの怒号は、まるで悲鳴のようだった。
「放して……放してくれ、ハーレイさん!ブルーを助けに戻るっ」
「行かせません」
「ブルーを置いて行く気なのか!?」
盾になると言って付いて来た。盾になりに来たのだ。
斬られたといっても、相手はシンをブルーだと思いそれ以上はブルーに手を出さなかった。今戻って手当てをすれば、大事には至らないかもしれない。
「あれはアニアン家の刺客です。あの男ひとりとは限らない」
「だからなんだ!?それよりも早く……っ」
強く腕を掴む手。指が食い込み、シンは痛みに一瞬だけ息を詰める。
「あの傷では、恐らく彼は……もう」
「な……っ」
「ブルー様!」
腕が千切れても構わない。そう思い今度こそ大きな手を振り払ったシンに、ハーレイはそう叫んだ。
「ブルー様!早くこのまま私と城へ登るのです!」
大きく目を見開いたシンの目に映ったハーレイは、激しい瞳でシンを見据える。
「……僕に、ブルーの身代わりに、なれ、と……?」
答えはない。だがそれは肯定する沈黙。
「馬鹿なっ!そんなことできるはずがない!それにブルーは生きてる!絶対に生きて……っ」
「だからこそ!」
大きな両手で激しく顔を掴まれる。睨み据えるハーレイの目は、狂気でも逃避でもない、強い光が彼が正気であることをシンに激しく訴えかけた。
「だからこそ、私はあの方が座る椅子を守るのです。いつか我々の元へ帰って来られる時のために、あの椅子をアニアン家の好きにさせるわけには行かない。あの方もそう望まれたから、あのようなことを……」
―――行ってください、ブルー様!
最初にそう叫んだのは、ブルーだった。
「どうか私と一緒に城へ。そしてあの椅子を……」
頬を掴む手に力が篭る。ハーレイの手は震えている。
「ブルー様、ご決断を!」
紅い椅子の肘掛けに触れる手は、村を出て行ったときのブルーよりほんの少しだけ大きく見えた。
ぼんやりと見つめるジョミーの目に、その指が肘掛けを握り締める様子が映る。
「その後は無我夢中だ。ブルーが帰ってきたときのために、王座を誰にも渡すわけにはいかなかった。僕とハーレイは、ブルーが帰ってくる日だけを考えて、ずっと……」
溜息が聞えた。
言葉に詰ったわけではない様子のそれに、のろのろと顔を上げると、シンの横顔は紙のように白い。
「……本当は、ブルーは村に戻ったのかもしれないと思っていた。家も家族も友達も、ブルー以外には何もない僕に、城と王座をあてがって、ブルーはジョミーの傍に戻ったのではないかと……」
ジョミーと同じ翠色の瞳が伏せられる。小さな溜息。
「だが違ったんだな……」
椅子から手を離し、振り返ったシンの瞳は閃光のように鋭くジョミーを見据える。
「ならばブルーはどこかでここへ戻る機会を見定めている。傷を癒しながら、この椅子へ座るための道を」
それは自分を騙し、信じようとしている目ではない。
語ったままを、信じている目。
「僕はそれまで、この椅子を守る。ブルーが帰ってくる、その日まで」
強い瞳。
そっと手を伸ばす。
ゆっくりと伸ばされたジョミーの手に、同じように伸ばされたシンの指先が触れた。
互いに強く握り合い、身を寄せる。
どちらともなく背中に手を回し、手を握り合ったまま、抱き締め合った。
シンの手は、剣を握り慣れた固い掌をしていた。
「………ぼくはブルーを探す」
「うん……」
短く交わされた言葉。それで十分だ。
ジョミーはブルーを探す。
シンは玉座を守る。
ただ、ブルーの願いを叶えるために。
その帰還を想って。
「くれぐれも気をつけて、ジョミー。ブルーを探すということは、秘密に近付くということだ。皆は僕をブルーだと信じてるはずだが、アニアン家の当主キースだけは油断ならない」
「ぼくより危ないのはシンの方だろ?ブルーが帰ってくるまで、君には無事でいてもらわなくちゃいけないんだ。気をつけて」
「言われるまでもない」
王座から離れて階段を下り、広い広間を歩きながらシンは自信の笑みを見せる。
ジョミーはそれに微笑み返し、シンの腕を軽く叩いた。
「ブルーが帰ってきて役目が終わったら、君は村に帰ってくるといい。待ってる」
君に帰る場所がないのなら、ぼくが帰る場所になろう。
シンは驚いたように目を瞬き、ジョミーは悪戯が成功したように笑う。
「何を驚いているんだ。ぼくは君で、君はぼく。ブルーのことを想っている」
あの人の無事と幸せだけを、想っている。
ジョミーの言葉に、シンも眉を下げて、そっと頷いた。
広間から出ると、扉の前でハーレイが待っていた。
何も言わずに頭を垂れる。
ジョミーは眉を寄せて、困った男に苦笑を滲ませると、先に立って歩を進めた。
「時がくるまで、彼を頼みます」
ハーレイは無言で更に深く頭を下げた。
入ったときと同じように、通用門から王宮を出ると、既に日は傾き空は紅く染まっていた。
ジョミーはその光に目を庇うように手を翳しながら、それでも夕日を真っ直ぐに見上げる。
あの人の瞳のように紅い空が滲んだのは、強い光に目が眩んだからだ。
「どこから探そうかな」
そう呟いて、ジョミーは王都の道を走り出した。
ブルーはもちろん生きてます。