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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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緋色の中編。前後編で終わらなかった(またかorz)
せめて後編も一緒に上げます。
本当は陛下の名前は最後に分かるんですが、こっちではとっとと出ます。


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ハーレイに連れられて、通用門から王宮へとすんなりと入ることができた。
誰もいない王宮の廊下を歩きながら、ジョミーは目を閉じる。
この先に何が待っているかなんて知らない。だがブルーの行方は聞き出さなくてはならない。本物のブルーは一体どこへいったのか。
……無事で、いるのか。
大きな扉の前で、ハーレイは立ち止まった。広い背中しか見えないけれど、彼が大きく息をついたことがわかった。
扉がゆっくりと開かれる。
その先に立っていたのは、国王の服を来た、ジョミーと同じ金の髪と翠の瞳をした青年だった。
ジョミーと青年の視線が正面からぶつかる。
青年の背後には、紅い椅子が見えた。
緋色の椅子。王の椅子。
ジョミーが臆する事無く部屋へと踏み込むと、青年は小さく笑った。
「ハーレイは下がってくれ。彼と二人で話したい」
一礼をしてハーレイは踵を返す。すれ違うとき、彼はジョミーと目を合わせようとはしなかった。

「君がジョミーだね?」
「………あんた、何者?ブルーはどこ?」
「まっすぐだね」
青年は口の端を上げて笑みを浮かべる。かっと頭に血が昇ることを自覚した。自覚したからなんだ。
「ブルーはどこだっ!」
青年は、目を閉じて一度顔を伏せた。短い、だが息苦しい沈黙が部屋に降りる。
「私の……僕の名前は、シン」
ゆるゆると吐き出された小さな息に続いて消え入りそうな小さな声で呟くように囁くと、シンと名乗った青年は強い目で顔を上げた。
「君は知らないだろうけれど、僕はアタラクシアの外れの橋の下で暮らしていた」
「え……!?」
知らなかった。いや、もしかするとどこかで見た顔かもしれない。
ジョミーが記憶を探ろうとしていることに構わずに、シンは話を続ける。
「流れ着いて死にかけていた僕を見つけて助けてくれたのはブルーだ。あの村で、僕を知っていたのも、気に掛けてくれていたのも、ブルーひとりだろう。だから彼が旅の支度をして、見知らぬ男について橋を渡るところを見つけたとき声を掛けた」


「ブルー!どこかへ行くの!?」
剣を腰に、荷物を肩に掛けたブルーは橋からシンを見下ろして、ほんの少しだけ考えるように沈黙する。
「……敵の多い所へ」
「敵……?危ないところなの?もう帰ってこないの?」
「………一緒に来るかい?」
「ブルー様!」
男は批難するように声を荒げたが、ブルーは涼しい顔で気にも留めない。
「僕の味方になってくれるのなら、連れていってあげるよ」
そんなことを聞かれるまでもない。たとえ連れていってくれなくても、シンはブルーの味方だ。何か力になれるのなら、ブルーのためならなんでもする。
「盾くらいにはなれる」
迷いなく答えると、ブルーの手が差し伸べられた。

旅は村での暮らしよりずっと快適なほどだった。ハーレイは良い身なりの通り、路銀に困ることもない。
道すがら、ブルーは王になりに行くのだと聞いた。ブルーが「どこ」へ行くのかではなく、「どこか」へ行ってしまうことが重要だったシンにとって、行き先はどこでも構わなかった。
「君はジョミーと似ている」
「ジョミー?」
「僕の幼馴染み。君より小さいけれど、髪の色も瞳の色もそっくりだ。でも、きっと似ているのは見た目だけではないんだろう」
ジョミーの話をするブルーはいつも優しい目をしていた。
「城に着いて役目を終えたら、僕はいつか村に帰る……つもりだ。大切なものを置いてきた」
ハーレイが傍にいないとき、ブルーはそっとそう打ち明けた。
村のある方角を見て目を細めていたブルーの横顔は、愛しいものを見ているかのように温かい目をしていて。
ブルーは突然ぐっと息を飲むと、すぐに咳き込み始めた。それは旅の間、時折見かけたことで、シンはその背中を擦って下から覗き込む。
「大丈夫?」
「―――平気だ。口を漱いでくる」
ブルーは川へ向かい、着いて行こうとしたシンを後ろからハーレイが呼び止める。
「シン!少し来てくれ!」
道が悪くて今日はあまり進めず、野宿になってしまうかもしれないと言っていたから、寝床か食事でなにか支度がいるのだろう。ブルーから離れて、シンはハーレイの元へと近寄った。
「この先に小屋を見つけた。このところブルー様のお加減が少し良くない。旅の疲れが出ているのだろう。だから君は……」
「貴様がブルーだな!」
悪意に満ちた声に、シンとハーレイは同時に振り返る。
川べりのブルーに向けて、剣を振りかざす男の姿を捉えた。
咄嗟に走り出したシンの目に、剣で斬られたブルーの紅い血が散る。
「ブ……っ」
「行ってください!」
次の一撃を避けて地面に転がりながら、傷口を押さえたブルーは大声を張り上げる。
「行ってください、ハーレイさん!どうか早くブルー様を王都へお連れして……っ」
ブルーが何を言っているのか、分からなかった。
シンはブルーの盾になりに来た。ブルーを守るためにここにいる。なのに今、血を流して倒れているのはブルーだ。
一体、どういうことだ。
「ブルー様を、どうか国王にっ」
「な、にを……」
よろめきながらブルーへ駆け寄ろうとするシンの腕を、大きな手が掴んだ。
無言で強く引っ張られる。
「あっちが本物のブルーか!」
男の舌打ちが聞えた。掴まれた腕が痛い。振り払いたいたのに、強い力がそれを許さない。振り返ると男は血に濡れた剣を手にシンたちを追いかけてきている。
その後ろで、血を流しながら地面に倒れていたブルーは、痛みの中で笑みさえを見せて。
「行って」
声は聞こえなかった。だが確かに、ブルーはそう言った。
またダブルパロ(^^;)
緋色の椅子パロ。ジョミシン書きたい……とか思ったら我慢できなくなりました。
いや、ブルジョミなんですが、緋色パロだとジョミシンっぽくもあっていいよね、と……。
前後編の前編。続きはすぐに。



ぼくはブルーがいてくれたら他には何もいらなかった。
ブルーが傍に居て、笑ってくれるならそれだけで、お腹一杯の食事も、綺麗な服も、薪の量を気にしない赤々と火を灯した暖かい部屋も、いらなかった。
ただブルーがいてくれたら。
そんなこと、いつでも言えると思っていたんだ。
ずっと隣にいたから。


「ジョミー……ここでお別れだ」
後ろに背の高い体格の良い男を従えて、ブルーはまっすぐにジョミーを見て言った。
ジョミーは激しい動悸に胸を押さえて服を握り締める。
ブルーの瞳に迷いはない。
偶然聞いてしまった話。
ブルーの後ろに立つ男は、ハーレイとその名を名乗ると、ブルーの前に膝を着いて頭を垂れて言った。
「お迎えに上がりました、ブルー様。あなたこそ、国王陛下の血を引く唯一のお方。どうぞ私と一緒に王都へ。そして緋色の玉座をその手に」
ブルーは辺境の片田舎のアタラクシアでジョミーと一緒に育った、ただの子供のはずだ。だが纏う雰囲気が、他の誰とも違い気高く清廉であったことも、否定できない。
赤ん坊を抱えてひとり村に流れ着いたブルーの母親。
では、父親は?
木陰で偶然話を聞いてしまったジョミーは、声もなく立ち尽くしていたのに、ブルーはまるで初めからそこにジョミーがいることを知っているように振り返り、そして言った。


荷車に揺られてうとうとと居眠りをしていたジョミーは、五年前の記憶の夢から目を覚ました。
「おーい坊主、もうすぐ王都だぞ」
目を覚ましたところで、前の粗末な御者台から声を掛けられる。途中で道行が同じだからと、荷台に乗せてくれた男の声に、ジョミーは髪についた藁を払い落としながら起き上がる。
「……随分賑やかだ。さすが王都だな」
王都が近くなった道中は、行き交う人も多くジョミーが乗せてもらっている他にも幌をつけた立派な荷馬車がたくさん走っている。
「最近はな。以前は王都周辺も荒れたもんだったよ。この間即位した新国王が、王位継承者として現れてから良くなったのさ」
新国王。
夢に見たばかりのことに、ジョミーは胸を震わせる。
「しかしいい時期に来たな、坊主。もうすぐブルー陛下のお披露目がある。この日ばかりは俺たち民草にも姿をお見せくださるから、上手くすれば坊主も一目だけでも拝見できるかもしれないぞ」
「………うん、そうだね」
ジョミーは涙を堪えて頷いた。

彼は約束を守った。本当に即位を果たした。
五年前、村を出るときに彼は言った。
「ジョミー、僕は王都へ行く。行って必ず緋色の椅子を手に入れる。そして君の元まで、僕の名前を伝えてみせるよ」
ジョミーは開放された王宮の前庭に進みながら、果たされた約束に小さく笑みを浮かべた。
王宮のバルコニーから国民に顔を見せるという、たった一瞬。その一瞬のためにここまで来た。
五年間、王都までの旅費を貯めるために必死に働いたのも、剣の腕を磨いて村の小さな武術大会の大した額でもない賞金も貯めたことも、すべてはこの一瞬のため。
彼が王となり、この王宮で幸せに暮らすのだと確認したら、それでもう満足だ。村に居たとき、ブルーはそんなに身体が丈夫ではないのにいつもジョミーを守ってくれた。
だから、彼が幸せになるならそれでいい。

人の押し合う前庭で、ジョミーがそっと微笑んでいると周囲がわっと騒がしくなる。
「陛下だ、新王陛下だ!」
「ブルー陛下万歳っ!」
次々と周囲から上がる歓声に、ジョミーはゆっくりと顔を上げる。一目ブルーの顔を見たら、すぐにアタラクシアへ帰ろう。もう、手の届かない人なのだから。
あの美しい銀の髪と赤い瞳を求めてバルコニーを見上げたジョミーの目に映ったのは、自分と同じ金の髪と緑色の瞳をした青年の姿だった。
ブルーではない青年が、王の服を纏い、微笑みを浮かべて手を振って歓声に応えている。後ろに控えているのはあの時村にブルーを迎えに来たハーレイだ。
「だ………っ」
ジョミーの背中を、駆け抜けた激情。
「誰だ、お前えぇーっ!!」


「くそっ!どういうことだっ!」
歓声にかき消されたはずのジョミーの声を、青年は確かに捉えた。
一瞬だけだが、確かにジョミーをまっすぐに見て、そして顔色を変えた。間違いない、彼はジョミーに気づいていた。
ブルーの名を騙る偽物に詰め寄ってやりたくても、王宮の前庭に集まった民衆は王のお披露目が終わると例外なく追い出され、隙を突くことすらできなかった。
王宮の周りをぐるぐると徘徊しながら、どうにか忍び込めないかと隙を探すが、当たり前だがそんな隙など見つけるはできない。
「ジョミー」
耳に残る優しい声。
繋いだ手の暖かさを覚えている。
ジョミーと同じように泥まみれで働いていても、綺麗な人だった。銀の髪も、赤い瞳も大好きだった。
―――ブルー。君が幸せになると信じたから、あの時見送ったのに。
滲みかける涙を拭い、必ず真意を確かめると城を見上げる。
仇を射るように城を睨み付けるジョミーは、大きく息を吐いてもう一度城に忍び込む手を捜すために踏み出した。
「ジョミー」
低い男の声に、驚いて振り返る。
聞き覚えがあると思った通り、立っていたのはブルーを迎えに来て、偽のブルーの傍に立っていた男。
「ハーレイさん……」
「……陛下がお待ちです。こちらへ」
それは誰のことだ。
ジョミーが強く睨みつける視線に、ハーレイは目を伏せて何も言わずに先に立って歩き出した。
No.26 文化祭
前記事の感想で、あとでアップすると言っていた、シャングリラ学園の小ネタです。プレミアムファンディスクvol5のちょっとしたネタバレとも言えるのでちとご注意。
ここの二人はカップルです。付き合ってます。
……あれ?あのノリだけど実は付き合っているとしたら、ジョミーってツンデレになる?(笑)




わざわざ喧嘩を吹っかけに来たのか、嫌味を言うだけ言ったキースがいなくなり、フィシスが磨いた壷をリオに運ばせて、生徒会室には二人きりになった。
だというのに、ブルーは落語の練習を辞めようとしない。
「あそこの長屋の親父ときたら、宿六と言われてへぇと笑ってやがる。それというのも―――」
身振り手振りを交えて小噺をするブルーは本当に活き活きとして楽しそうではあるが、それを眺めているジョミーは面白くない。
決して落語が面白くないというのではなく……。

ジョミーは手にしていた、クラスや部活や、あちこちから出された申請書の分厚い束で机を叩いた。
大きな音にさすがに驚いたのか、ブルーが誰かの肩を扇子で叩いたような振りをした格好のままで目を丸めて動きを止める。
「どうしたんだい、ジョミー?」
「どうして落研の発表会の練習を生徒会室でしてるんですか。部活の練習は部室ですればいいでしょう!」
「部室だとジョミーがいない」
「はあ?」
正面を向くように座り直すと、眉をひそめるジョミーに真剣な眼差しを向けてブルーは同じことを繰り返した。
「部室だとジョミーがいない。ジョミーがいないと僕は動悸息切れ眩暈に頭痛と様々な持病が併発して……」
「はいはいはいはい」
無駄なことを聞いたと手を振って話を終わらせようとしたジョミーは、その手を扇子で止められてブルーに視線を戻す。

「文化祭当日、君は忙しい。きっと僕の勇姿を見ることもできない。だから今のうちに見て欲しいだけだよ。君のためだけの寄席を」
「そ………」
言っていることは感動するものでもなく、むしろ呆れ果てるような内容なのに、その赤い瞳をまっすぐに向けられて、甘い微笑みをのせた顔で言われると、どうにも文句が引っ込んでしまう。
「………ブルーの出番って、何時頃?」
「寄席は午前と午後と二回同じ噺をする。僕はトリを務めるからそれぞれ終わり頃だね」
「ふぅん」
ふいと顔を背けて気のなさそうな返事を返したのに、小さな笑い声が聞えた。
去年まではブルーがソルジャーをしていたのだから、ソルジャーの仕事のひとつに、見回りがあることなど分かっているに違いない。

膝に乗せていた手を上から握られて、ジョミーの手がぴくりと震えた。
片手は頬杖をついたまま、膝の上の手をそっと開く。
するりと指の間に入ってきた長い指に指を絡めたジョミーは、不機嫌そうな表情のまま、頬はほんのりと赤く染まっていた。









で、見回りに行ったらブルーはあんな調子で、結局勇姿は見せられない、と(笑)

前々から書いてみたかったシャングリラ学園(公式設定の)
あのジョミーが不憫で不憫で仕方なく、とても大好きです。

学園を聞いてない方への説明を小話の前に簡潔に書いてます。説明っていうか、説明でもなんでもないですが、それがすべてのドラマCDなんでまあこれでいいかな、と(笑)
学園では、あと学校物でスタンダードな七不思議なんかもやってみたいです。
解明したがるブルー(愉快犯)と、連れ回されるジョミー(やる気なし)の話。
七つ不思議が思いつかないと話が作れないので予定は未定。
キースが幽霊とか駄目だったりすると可愛いと思う。
(なんでも「プラズマだ!プラズマが原因だ!」とか叫んでいると楽しい)


シャングリラ学園とは。
入学式の当日、唐突に現れた生徒会書記のリオに生徒会室まで拉致されたジョミーは、副会長フィシスの占いによって次代のソルジャー(生徒会長)に選ばれたという理由で、生徒会長職をブルーに押し付けらた。
ジョミー以外すべての人物がボケという、過酷なジョミーの学園生活物語。




「ブルー、今日はよいお茶が手に入りましたの」
「おお、フィシス。素晴らしい!玉露か……しかも本当にいい茶葉のようだ。さぞぬか漬けが合うだろう。これは経費で?」
「ええ。ですがタイムサービス特売品を買ってきましたので五十パーセントもオフだったのですよ」
「さすが僕の女神だ!なんと賢い買い物だろう!」

「今更言うのもあれなんだけどさ」
向こうのテーブルから聞こえてくる会話は聞かないようにして、ジョミーは書類を捲りながらつまらなさそうに頬杖をついて呟いた。
「この学校って生徒会長は……」
「生徒会長ではありません。ソルジャーです!」
すかさず入る訂正に、溜息を堪えて代わりに眉間に皺が寄る。
「……ソルジャーはなんで指名制なの?普通生徒会なんて選挙で決めるものじゃないの?」
隣の机でなにやらレシートを見ながら電卓を叩いていたリオは、意外なことを言われたように顔を上げた。
「いいえ、以前までは選挙制でしたよ?」
「え!?だったらなんでぼくはブルーの一存でソルジャーやらされてるの!?みんなそれでいいのかよ!」
「ブルーが仰ることですから、みな納得していますよ」
にこにこと笑顔で、快活な返答を得てジョミーの眉間の皺がますます深まった。

「玉露は熱すぎるお湯では風味が損なわれてしまいますから……」
「む、さすがフィシスだ。熱過ぎずぬる過ぎず、ちょうどよい湯加減。はー、生き返る」

「……あれのどこにそんなカリスマが」
風呂にでも入っているのかと言いたくなるような感想で緑茶を愉しむ元生徒会長と副会長を見て、ジョミーは溜息を零しつつ首を振った。
「じゃあひょっとして、指名制になったのは、ぼくから?ブルーは選挙で選ばれたの?」
「そうです。正しくは選挙というより信任投票でしたけれど。ブルーが立候補した時点で、他の候補者がみな辞退したので。全票信任で可決投票でした」
「どうしうて辞退したんだ……いや、辞退しなくても結局ブルーが当選したのか……一体どうなってるんだ、この学校の生徒の思考回路」
リオから聞いた話では、ブルーもジョミーと同じく一年生の頃から生徒会長を務めていたという。なぜ一年の立候補者に譲る気になるのか。そしてアレを信任しようという気になったのか。
頭を抱えて机に突っ伏したジョミーのすぐ頭の傍で、ことりと陶器の音が聞こえた。

「ジョミー、なにか煮詰まっているね。少し休みたまえ」
その言葉だけ聞くと、とても優しい。
ジョミーが目を細めて顔を上げると、緩やかな湯気を昇らせる湯のみが傍に置いてある。机の前には見るも爽やかな笑顔。
そう、ブルーは表面上はとても優しい。
「そう思うなら手伝ってくださいよ。なんで引退したのに生徒会室に入り浸って、なんで生徒会の備品で寛いで、なんでここにいるのに遊んでばっかりなんですか、あなたは!」
「おお、ジョミー……」
ブルーは額に手の甲を当てて、僅かに後ろによろめいた。
「僕はもうすぐ燃え尽きる」
「今日はもう疲れたので手伝えないそうです」
「またそれか!しかも何にもしてないのになんでもう疲れているんですか!」
「ジョミー、もう放課後だ。何もしていないなどと……授業があったではないか」
「それはぼくもリオも同じだけど!?」
机を叩いて怒鳴りつけても、目の前の男はまるで堪える様子も反省する様子もない。
もっとも、こんなことくらいで反省してくれるようなら、ジョミーの今の苦労もありはしないのだが。

「大体、立候補したなら任期を最後まで真っ当すればいいでしょう。体を壊したって言っても、病院に行ってる素振りも見えないのに」
「僕は確かに立候補したが、元々は推薦を断れなくて仕方なく立候補したのだよ?」
「え!推薦!?あなたを?」
一体誰がこんなちゃらんぽらんを推薦したんだ!
ブルーの立候補による他の立候補辞退というだけでも驚きの話ではあったけれど、その立候補が推薦によると知ってますますこの学園が分からなくなる。
「そう……だから他者からの期待に応えてソルジャーとなったという点では僕と君は同じなんだ。ああ、まるで運命のようだね、ジョミー」
「運命もなにも、ぼくを一方的に指名したのはあなたで、しかもあなたは最終的に自分で立候補したんでしょうに」
「君という後継者を得て、僕の心は歓喜に絶えないよ。僕のジョミー」
「勝手にあなたのものにしないでください!」
本当に話の通じない人を相手に、ジョミーの疲労は深まる一方だった。


一方通行シンパシー
配布元:Seventh Heaven

ところでこの生徒会、会計がいないんですが、未登場なのか
会計がいないのかどっちなんでしょう?
(そんな生徒会あるのだろうか^^;)

今週はちょっぴり時間がキツイので、サイト更新は無理そうかとこっちでお題を借りてきて短文をアップです。
URL化しないでいいだけでも随分と違うもんです。楽だ……。

話の中身はなんの捻りも無くスタンダードに。ブルーは昏睡設定ではありません。
が、特にそれは話に関係なく(^^;)
何が書きたかったのか我ながら不明……。



「君にならできるよ」
にこにこと、まるでそれが不変の真実だというような笑顔で、悪びれもせず。
いつものようにいつものセリフを繰り返す人に、ジョミーは溜息をひとつ零した。
「あなたっていつもそれだ。できるって言うだけで、根拠がないんですよ」
「おや」
ジョミーが不満を漏らせば、ブルーは意外なことでも言われたかのように綺麗な弧を描く眉を少し上げる。
「根拠なんて。ジョミーがジョミーであることがすでに証明になっている」
「なってません」
ジョミーは二度目の溜息を零した。
別に卑屈になっているつもりはない。「ソルジャーとして落ち着きが足りない」なんて説教ならもう耳にタコができるほど聞いた。今更それくらいで落ち込んだりするものか。

「ソルジャー・ブルーを見習え」
それはソルジャーを継ぐと覚悟を決めた当初から言われ続けた言葉で、最初はジョミーも殊勝にもその通りだと頷いて努力をしようとした。
ブルーは最初からジョミーの思うようにやりなさいと、そのことには否定的だった。
ブルーが正しいとジョミーが実感したのは、それから割りとすぐのことだ。
ソルジャー・ブルーのようなソルジャーになるなんて、ぼくには無理だ。
早々に諦めたジョミーに、長老たちは努力が足りないと爆発したがブルーは手を叩いて喜んだ。

「そう、その通りだジョミー。僕と同じでは君に託した意味がない。僕は失敗した者だ。三百年、結局この惑星を周回しながら現状を維持することで精一杯だった。そんな真似をしても、なんの発展もない」
「そういう意味で言ったんじゃありません」
ブルーの三百年を否定するような、そんなことは一度も思ったこともない。現状を維持するだけというが、それが一体どれほど困難なことか。その『現状』をもブルーが皆と手を取り合って作り上げた努力の結晶だということを、ジョミーだって分かっている。
「経験とか、能力とか、そういう足りないものの問題だけじゃなくて、根本的に、性格が違うってこと」
「正しく真理だ」
ブルーは我が意を得たりとでも言いたげに深く頷いた。
「僕は君を、僕のコピーとしたくて惹かれたわけではない。むしろ、絶対に君ならそうならないと思うからこそ君に惹かれた。ジョミーはジョミーの考え方でやっていきなさい。長老たちのことなら、どうせ長い付き合いになるのだから、好きに説教ておけばいい」
三百年の歴史の一面が垣間見える言葉をさらりと紡いで、ブルーは嬉しそうな微笑みでジョミーの頬を撫でた。
「僕は大胆だと言われながら、実は迂遠なやり方しかできなかった。君は、君の思う通りに、ジョミー」

あれから数年。
「それが間違っていたかい?」
軽く首を傾げるブルーに、ジョミーは緩やかに首を振った。
「いいえ。ぼくがあなたのような指導にはなれないことも、ぼくはぼくのやり方でやっていくしかないことも、その通りだと思います。けどね」
ジョミーはいつの間にか上から重ねてきていたブルーの手を払いのけて、軽く息を吐く。
「ぼくならできるって言う、それがあなたのただの口癖だって、最近気づいただけです」
ジョミーがジョミーらしくやっていくと決めたことがブルーのせいだと言うつもりは毛頭ない。
ただ、背中を押してもらえた気分になっただけのことだ。ブルーに背中を押されなくても、恐らくこの結論に達していたには違いないが、きっと遠回りをしていた。
その分、ジョミーは理想のソルジャー像であるブルーに近づけないということに対してまで落ち込む羽目になっていただろう。今だって、ブルーみたいに上手くできないことに歯噛みしていることには変わりないけれど。

「口癖だなんて。僕は心から言っているのに」
心外だと大袈裟に息を吐き首を振るブルーに、ジョミーは肩を竦めた。
「そうでしょうね。あなたはきっと、心からそう信じてる。それでぼくは、それがただの親バカ心理だって気づいたんです。それだけの話」
「親バカ……」
赤い瞳を瞬かせたブルーは、ジョミーを手招いて自らも軽く身を乗り出す。
仕方なくジョミーもベッドに手をついて身を屈めるようにして耳を近づけると、手招きをしていたブルーの手がするりと首に絡みつく。
「なに……」
疑問を口にする間もなく、ぐるりと視界が反転した。
瞬きの間に、ジョミーは押さえつけられてベッドから流れ落ちてくる銀色を見上げる体勢になる。
「親子では、こういうことなんてしないと思うが、どうだろう?」
「誰が親子って言いましたか。いいですよ、別に孫バカでも恋人バカでも後継者バカでも、いっそジョミーバカでも、意味は一緒。あなたはぼくを無条件で信じすぎって言ってるんだから」
「それはお互い様だろう。君だって僕を無条件で信じすぎている」
「ぼくはいいんです」
「どうして」
「だってブルーだから」

赤い目が丸く縁を描くように見開いて、それからゆっくりと微笑むように細められた。
「それは君が、恋人バカで先代バカで、ブルーバカだと宣言しているのかい?」
「そんなつもりはありません」
「素直な君は可愛いね」
否定しているのに、どこが素直なんだ。
降りてくる口付けに、目を閉じながら恋人を引き寄せるようにその背中に腕を回した。


「オオバカモノ・ポルカ」
配布元:Seventh Heaven
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