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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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No.179 上邪
昨日呟いていた怪談ものパロ……のはずが、シャン学の二人になったリサイクルもの小話。いつものパターンです。
ブルーが在学中に戻っていますがお気になさらずに(笑)
そして再び文化祭に戻っていますが、それもお気になさらずに(おい)
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「今度の文化祭で生徒会の出し物は怪談演劇に決定しました」
クラスのホームルームが長引いて、遅れて青の間に入ったジョミーはにこやかなリオに言われて扉に手を掛けたまま目を瞬いた。
「え?そうなんだ……というか生徒会でも出し物なんてやるの?当日は役員の仕事だけで忙しいんじゃないの?」
今まさにクラスの出し物の決定を話し合いをしてきたばかりのジョミーは、渋面を作って一同を見渡す。
クラスと生徒会の仕事、それに加えて更に生徒会でも演劇?
「大丈夫だよ、ジョミー。心配しなくていい」
ブルーは奥のテーブルに両肘をついて組んだ手に顎を乗せ、笑顔で安請け合いをする。きっと去年も両立させたのだろう。先人の自信満々の笑みにジョミーは軽く息をついた。
ブルーにできたからといって、ジョミーに同じようにできるとは限らない。既に目が回るほどの忙しさを覚悟していたのに、それにまだ上乗せされるのか……。
それでも慣例なら生徒会でも出し物をするしかないだろう。それにしても、もっと簡単な展示物などにすれば楽なのに、なにも手の掛かる演劇を選ばなくたっていいと思う。
「でも、どうして怪談なんですか?怪談ってよっぽど凝って作らないと白けるだけのような気もするんですけど」
「いやなに、説話や名作といった類の話で夫婦といえば、大抵主人公の両親だったり、既に落ち着いた仲だったりするだろう?童話などは恋人関係が最後に成立して終わりなどだしね」
「ああ、夫婦役がやりたいんですか」
そう言うからにはブルーは夫役をするつもりだろう。だとすれば妻役はフィシスになる。ならジョミーは端役で済むかと気楽に頷く。
「でも怪談の夫婦って、それも大抵ひどいラストになると思うんですけど……」
「いや、これも夫婦の約束をするというものだが、牡丹灯篭なんてどうだろうと思ってね」
「牡丹灯篭……というと、死んだ人が毎晩やってきて、お札を貼って隠れていたけど最後に剥がしてしまうっていう、あの?」
「そう、想う人と死してなお添い遂げた、その話だ」
いや、連れて行かれた方からしたら、かなり迷惑な話だと思うけど。
連れて行かれる役のブルーがそう言うなら、それでいいのだろう。
恋人が死んだと知らずに逢瀬を重ねる男がブルーで、幽霊になっても通う女がフィシスだとして、話の前後をかなり省略して有名な場面だけに限っても明らかに人数が足りない。
女の明り取りをする、やはり既に死人となっている女中と、男に札を渡す和尚、通ってきている女が幽霊だと気づき忠告をする隣家の男。この三人がいる。
「うーん……削るとしたらやっぱり女中役かな?寺の和尚がリオで、隣の家の男がぼく、ってところですか?」
「何を言っているんだジョミー。君は僕の恋人お露役だろう」
「はあ?」
どうしてそこで、フィシスがいるのに男同士で恋人役なんだ。
「通ってくるのは女性なんですから、普通に考えてフィシスじゃないですか」
「まあジョミー、そんなはずはありませんわ」
当然同じ意見だろうと思っていた当フィシスに否定されて、ジョミーは眉をひそめる。
「ブルーの恋人だなんてそんな面ど……幸せな役は、ジョミーにしか務まりません」
「いま面倒って言わなかった?ねえフィシス!やっぱりあなたこの人のこと面倒だって思ってるんでしょう!?」
「ふむ、女性役が嫌だということかい?だったら君が新三郎で僕がお露をやってもいい」
「いや、そういう話じゃなくてですね……」
話がかみ合わない。どうして何の疑問もなくその配役になるのか不思議でならないのに、ブルーはさも当然だという顔で、逆にジョミーの不満が分からないとでもいうように首を傾げている。
「待つ男が僕、通う女がジョミー……ここは逆でもいいけれどね。札を渡す役はフィシスに、隣家の男はリオ、身分違いの二人の結婚を反対して生前の仲を引き裂く女の父にキース、とすれば完璧じゃないか」
「どこがですか。しかも勝手にキースを加えてますよ!いいんですか!?」
「気にしなくていい。古典作品ならば演劇に協力してもいいという話は取り付けてある」
「こんなときばっかり手際いいですね!」
普段はすぐに倒れたふりをするくせに、やりたいことに関してだけは素早く動くのだから腹立たしい。
もう燃え尽きるなんて絶対嘘だ。
ジョミーは深い溜息をついて、ふと目に入ったブルーの手許の紙を覗き込んだ。
「……なんですか、この買い物リスト。羽毛布団って」
「うん?それはそうだろう。学校のマットで代用では硬くて背中が痛いし、あれでは床を共にしたという雰囲気が出ない。おまけに掛けるものがないと……」
「古典作品の怪談で羽毛布団のほうが可笑しいでしょう!?こんな経費の無駄遣いは却下!」
「そんな……!ではジョミーは、僕達の睦み合いを筒抜けにしたいというのかい!?」
「あんた舞台でなにやるつもりだーっ!」




ブルーが演劇に牡丹灯篭を選んだのは、そういうシーンがあるから、
という辺りを書ききれませんでした。
生徒会で演劇ってそれなんてグリーンウッド?(笑)
ちなみに「上邪」とは読み人知らずの漢詩です。
諸説あるようですが、ともかく
「この世がある限り私は君を愛すると天に誓う!」
というノリで愛を捧げる歌だとか。
このブルーなら天地が崩壊しても、とか言いそうですが…(^^;)
No.173 疲労困憊

ひさびさの更新でこれはないだろう!と言われそうな馬鹿馬鹿しいSS。
い、いや、なんだろう、続きものの続きはもうちょっと落ち着いてから、とは思っていたんですが、思った以上に上手く書けないことに悩んでいたら、なぜかこういう話に。
一応、ばらいろすみれいろのパロ、魔性の男のジョミーとブルーの小話。
たまにはハーレイが苦労しない話も書きたいです(苦笑)


 


エレベーターに乗り込むと、僅かな浮遊感の後に箱が動き出してハーレイは軽く息をついてネクタイを緩めた。
今日は妻役――妻役として一緒に地上に降りてきて、実際に事実婚状態になった妻役――のブラウは、息子……ということになっているブルーの同級生の母親たちと食事会と言う名の飲み会に行くとのことで、夜まで出ているという。
地上に馴染む必要があったとはいえ、馴染み過ぎではないだろうかとほんの少しだけ思いながら溜息をつくと、買ってきた食材の入ったレジ袋がカサリと音を立てた。
今日は自分で食事を作るので素麺にしておいた。壊滅的に家事ができない息子と、その息子が過保護なまでに甘やかす同居人に食事の用意を期待してはいけない。
ジョミーもブラウの手伝いくらいはするらしく、またブラウの手伝いなら特に何も言わないブルーは、なぜかハーレイがジョミーに頼みごとをすると面白くないという態度を見せるのだ。
夕食に素麺だといえばあまりいい顔はしないだろうが、それくらいは勘弁してもらおうとエレベーターから降りて呼び鈴も鳴らさず自分で自宅の鍵を開けて扉を開けると、ジョミーの怒声が響き渡った。

「ブルーの馬鹿ーっ!」
「ジョミー!」
「ぼくがちょっと目を離した隙に……ひどい!手が早すぎるよ!」
「手が……その使い方はどうかと……ああいや、ジョミー、そんなに怒らないでくれ。もうしないから」
思わず扉を閉めたくなった。
どうにも誤解しそうな口論だが、それが誤解で実際はくだらない内容だなんてこと、ハーレイもいい加減に学習している。だがくだらない喧嘩なら、それはそれで酷い脱力感を覚えるはめになるということも学習している。
だから喧嘩というか、ジョミーの怒りが収まる(ブルーが収める)まで外で待っていようかと思った。そう長く掛からない。
もともとジョミーはさっぱりとした性格で長々と怒りを引きずらないし、あれでいてブルーに弱い。
そしてブルーもそのことを承知の上でそれを利用することに長けている。
見た目的に近い年頃に見える二人に、仲の良い兄弟だなと兄弟喧嘩のようで済むのならハーレイにダメージはないに違いないのだが。
振り返ると残照に赤く染まる空が見える。蜩の鳴く声を聞きながら額に汗が伝った。
他の食材はともかく、卵はあまりこの残暑の中で置いておきたくない。
諦めの心境でもう一度溜息をつくと、ハーレイは扉を潜った。

「怒らないでくれ、ジョミー。本当にわざとじゃないんだ。僕が君を悲しませるようなことをすると思うかい?」
「わざとじゃないのはわかってるよ!だからどうして一言先に声をかけてくれなかったのかって怒ってるんじゃないかっ」
リビングの扉を開けると、より一層二人の声がはっきりと聞こえる。
ジョミーが手にしている物が目に入り、説明を受けずともすべてを悟ったハーレイはいっそ無視をしてほしいと願ったのだがそれは叶わなかった。
「あ、ハーレイお帰り。聞いてよ、ブルーがひどいんだ!」
駆け寄ってきたきたジョミーの手にあった、オレンジ色の塗装も眩しい、艶やかな細身の缶は明らかに中身が空になっているようだ。
「……ジュースひとつでそこまで喧嘩するものでも……」
「喧嘩ではなくて、これは僕がジョミーに叱られているんだ」
そちらの方が情けなくないだろうか。
鋭く訂正を入れてきた息子に目を向けて、その赤い瞳と視線がぶつかり目を逸らす。
「そうだよ、ぼくが風呂上りにってとっておいたジュースを勝手に飲んだブルーが悪いんだから、喧嘩じゃないよ」
「だけどジョミー、君は帰宅したときも一本飲んでいただろう?だから今日はもういいかと思ったんだよ」
「そのつもりなら二本も買ってこないよ。風呂上りの一杯はまた別!」
どこぞの酒飲みの妻を彷彿とさせるジョミーの主張に、ハーレイは無言でそろりと移動して食材をキッチンへと運ぶ。
「わかった。……そうだね、君に確認を取らなかった僕が悪かった。ちゃんと明日、またジョミーのためにジュースを買ってこよう。いや、今から行ってくるよ」
「え……?えっと、謝ってくれたら……うん、謝ってくれたらそれでいいよ。今からなんてそんな面倒なことしなくていい。ブルーだってもうお風呂入ったでしょ?」
早々に和解してくれたのは結構だが、一言謝ればジョミーの気は済むのに、その前に誤解を解こうとかなんとかするから、しばらく喧嘩……叱られるはめになるのではなかろうか。
そんなことを承知していない息子ではないと思うが、ではなぜしばらくジョミーを怒らせておくのかというと、理由がない。ないだろう、ないはずだ。
なんとなく確認することが躊躇われたので、ハーレイの中でそれは「息子の若さ故の未熟である」という結論で片付けられることとなった。





怒ったジョミーも可愛いだなんてのろけ、聞きたくありません

うっかり7日を忘れてちょっとオーバーしましたが……(^^;)
クリスマスのときにブルーが混ぜた行事が七夕だったので、学園の小話で七夕はしようと心に決めていたのでした。なんてどうでもいい決意(笑)
一応ブルーが卒業した後ということになっていますが、今後学園を書くときは在学中とかに平気で戻ることもありますので……ご都合!

ところで短冊に書くものですが、あれは元々願い事じゃなかったとかいう話なんですがその辺りは最近の風習の方でいってみました(^^;)



「僕はこの日を待っていた!」
唐突に開いた扉の向こう、芝居がかったセリフを口にしながら立っていた人物に目を向けると、ジョミーは慣れた様子ですぐに手許に視線を落とした。
「卒業したっていうのに相変わらずですね。一体なんですか」
もうすぐ期末試験だというのに、生徒会の仕事はなくならない。遊んでいる暇はないとろくな相手もせずに話を促したと言うのに、大学部からわざわざやってきた前生徒会長―――
「生徒会長ではありません、ソルジャーです」
「モノローグにまでツッコむなよ!そうだよ、ソルジャーでした!」
書記の机から上がった抗議にジョミーが机を叩くと、その目の前に掌サイズの短冊が差し出される。
思わず仰け反ったジョミーが見上げると、満面の笑みを浮かべた前ソルジャーが更に短冊を前へ突き出した。
「さあジョミー、これに君の願いを書いてくれ。僕が責任を持って笹の天辺に括りつけてあげるからね」
「ああ……七夕ですか。そんな張り切るほどの行事なのかすごい疑問なんですけど……」
ここで無視をしても粘られるだけなので、素直に差し出された短冊を受け取ったジョミーは、手にしたペンをくるりと回して書く願い事を考える。
ここはごく普通に『期末テストで良い点数が取れますように』あたりでお茶を濁してしまう方がいいだろうか。ブルーは不満を漏らしかねないけど……。
「いや、待て」
そんな願い事を書いてみろ、きっとブルーのことだ。
「だったら、僕の出番だね!僕が付きっ切りで勉強を教えてあげよう!」
とか何とか言って、家に上がりこんでくるか、逆にブルーの家に連れ込まれかねない。
いっそ『ブルーが大人しくしていますように』というのはどうだろう。
「僕が大人しくしているかどうか、確認のために僕の傍にいてくれたまえ!」
そんなブルーの声が聞こえたような気がして、ジョミーは重い頭痛を覚えたような気がして額を押さえた。
『ぼくに平穏な時間を』
「では僕がジョミーの平穏を守ってあげよう!」
『生徒会の仕事が早く終わりますように』
「心をこめてジョミーを応援するよ!」(と言って、傍にいるだけで手伝わない)

何を考えてもブルーが切り返してくる光景しか思い浮かばない。
ジョミーはぐったりとして椅子に背中を預けた。
デスクの前でわくわくとした表情を隠そうともせずに待っていたブルーは、そんなジョミーに首を傾げる。
「ジョミー?そんなに願い事がたくさんあるのかい?」
「………ひとつ、お尋ねしますけど」
疲れた気力を振り絞ってじろりと目を向けると、ブルーは微笑みながら頷く。
「なんだい?ジョミーの質問になら何でも答えるよ」
こうしているだけなら、とても、とてもまともな人に見えるのに……。
「この短冊に書く願い事は、普通に笹に吊るすだけですよね?あなたが願いを叶えようとかしないですよね!?」
七夕の行事でなぜこんな心配をしなくてはいけないんだと思いつつも強く確認すると、ブルーはにっこりと笑って頷くような、傾げるような、微妙な角度に首を曲げる。
「もちろん、笹に吊るすさ。ただ僕に叶えられることなら……」
思ったとおりの返答に、ジョミーはペンを握って短冊の上にさらさらと走らせた。
「今のぼくの、一番の願いです!」
白い短冊の上に一言。
『今すぐ帰れ』
短い、心からの願望を書いた短冊をブルーに突きつける。
突きつけられたブルーは目を瞬いて、それから困ったように微笑んだ。
「……随分冷たいことを言うんだね」
「こっちは忙しいんですよ。手伝ってくれるなら、せめてアドバイスとかをくれるなら歓迎しますけど……どうせ邪魔するだけでしょう?」
ブルーに短冊を無理やり押し付けるとそれ以上は相手にせずに生徒会の仕事に戻る。
どうやっても前向きに変換などできない願いをどうするのか、沈黙するブルーに目だけをちらりと向けると、ブルーは深い溜息をついた。
「……わかった。ではこれを笹に吊るしてこよう」
「は……?」
わざわざ笹に吊るすような願いではないだろうに。
おかしなことを言うブルーに思わず聞き返してしまったが、ブルーは寂しそうな笑みを見せて頷くだけで踵を返した。
「え……あ………ああっと……お願い、します……?」
願い通りに大人しく帰るということか。
ブルーの意図を理解して頷いたものの、本当に大人しくブルーが生徒会室もとい青の間を出て行くと今度は複雑な気分になった。
「………珍しい」
「と、いうことはブルーが騒ぐと思いながらあんな願い事を書いたのですか?」
苦笑を見せたリオの言葉に、ジョミーは眉を寄せてじろりと面白くない視線をそちらに向ける。
「別に……本心だし」
「まあ、あの方は仕事がはかどるようなことより、邪魔をされるとは思いますけれどね……」
処理の終わった書類を机に落として端を揃えながら、リオは肩を竦めた。
「ですが、少し可哀想でしたよ」
「う……」
まさかブルーがあんなに大人しく帰るとは思わなかったのだ。
ジョミーは一言もなく、窓の外の大学部棟の方へと目を向けた。


願い事を取り下げに行くべきか、けれどそうやってまたブルーがやってきても困るし。
そわそわと落ち着きなく書類と窓の外を見比べるジョミーに、溜息をついたリオが口を開きかけたところで、再び青の間の扉が大きく開いた。
「君の願いを吊るしてきたよ、ジョミー」
ちょうど窓に目を向けていたジョミーも、ジョミーを送り出そうとしていたリオも、まさか帰ってくるとは思わなかった人物の帰還に唖然として戸口を振り返る。
ブルーは最初に来たときほどに活き活きとはしていなかったが、戻ってきたことに対しては何の疑問もない様子でジョミーの前まで移動した。
「ちゃんと笹の一番上にね」
「え、あれ、本当に飾ったんですか?」
単に言われた通りに帰る口実にしたのかと思っていたのに。
それが本当なら、一番上に「帰れ」の文字を書いた短冊を飾った、まるで意味不明な笹の出来上がりだ。
「だって君の願いだろう?せっかく年に一度の逢瀬にすぐに帰れとは天帝のように厳しいとは思うけれど」
「………ん?」
何か思ったものとはまったく違う返答に、ジョミーは考えるように首を傾げて腕を組む。
一度帰ったことで願いを叶えたということだろうか。
しかしブルーは卒業してもたびたび生徒会室……青の間に訪ねてくるし、学外で会う機会も考えれば卒業から半年弱ですでに年に一度どころではなく会っている。
「……えっと……?」
「しかしあの短冊を見れば、牽牛と織姫も逢瀬に溺れて自らの役目を忘れて帰らないということもあるまい……」
「なんでこんなときばっかり本気で織姫と彦星なんですか!」
自分に向けられたとは思わないのか!
思わず机を叩いて立ち上がったジョミーの視界の端で、リオが額を押さえて溜息を零していた。
同感だ。まったく、この自己都合のいい人を相手に、無駄な心配をしたものだった。




(おまけ)

「……ブルー、短冊をもう一枚もらえますか?」
「うん?何かもうひとつ願い事があるのかい?」
「願い事の内容を取り替えます。せっかく久しぶりに逢えるのに、最初から時間に追われるなんてあんまりだ」
「うん、確かに。では僕らも今度の日曜日、学校も生徒会の仕事もないときに逢おうか?」
「……………はい」




別に願い事を叶えるのは織姫と牽牛ではないそうですが。
わかっててとぼけるブルーと、とぼけていることがわかっていて
そういうことにしてくれたのにホッとしているジョミーでした。
傍で見てるリオはやってらんないぜ!(笑)

寝入りっぱなに「これいい!」と思ったネタを目が覚めたら忘れているのはよくあります。
………が、「書きてえええ!!」と思わず叫ばずにはいられなかったはずのネタを忘れたのはさすがに初めてです。あああ……すっごい気になる。一体どんなネタを書きたかったんだ自分orz

とりあえず、もっと普通に女の子らしい女の子ジョミーの話も書いてみたいと近頃色々考えていたので、女の子で記憶の底をさらっていたらできた話。
ということで、女の子ジョミーの現代パロ。ブルーとジョミーがいつもと反転した感じになりました。
しかし二人がちっとも絡んでいないという……。話の出だしみたいですが、続きません。
そして忘れたネタは未だに思い出せません。




「大きくなったら、ぼくのお嫁さんにしてあげる!」


昔そう言ったのは、3歳下の隣家の子供だった。
懐かしい夢を見た。
カーテンの隙間から差し込む光で目覚まし時計が鳴るより先に目が覚めたブルーは、その光に夢に見た金色の髪を思い出して目を細める。
両親同士の仲が良く、まるでほんとうの兄弟のように過ごしたブルーの後ろばかりをついて回ったあの子は、ブルーが学校へ上がるようになると公園で他の子供たちとすぐに親しくなっていた。
それでも一番好きなのはブルーだと、下校するブルーを見つけるとすぐに飛んできて手を繋いで家路についた。
友達から、大きくなったら兄弟なんてバラバラになるんだと聞かされて、ずっと一緒にいるのは「ふーふ」なんだと知ったときの宣言が、あれだった。
「僕の方がお嫁さんというのがね」
いつも泥だらけになって転げまわって、本当の弟のようだった可愛い子。
小さく笑いながら起き上がったブルーは、寝乱れた髪を掻きあげてカーテンを開けた。
「懐かしいな……ジョミー」
太陽の光に透けるような、金の髪が本当に綺麗だったことを、覚えている。
「今お嫁さんにして欲しいと言ったら、どんな顔をするかな」
笑いながらさすがにもう女の子には見えない自分の身体を見下ろして、もうずっと以前に引っ越してしまった懐かしい少年の姿を思い出す。
今頃は面影もないくらいに逞しく成長しているだろうか。それとも、あの頃のように元気で腕白な可愛い少年になっているだろうか。
窓を開いて桟に腰を掛けるのと、隣の空家の前に一台のトラックが止まった様子が見えた。



「ジョミー!転校するって本当!?」
職員室の扉を潜ったところで、周囲を憚らない大声に呼び止められてジョミーは溜息をついた。
「トォニィ、廊下は走るな」
窓から入ってきた風に靡いた長い髪を耳に掛け、駆けつけた勢いのまま飛びつこうとした少年の額に手をついて押し返す。
「だってさ!信じられない話を聞いたから……嘘だよね?転校だなんて嘘だよね?」
「嘘じゃない。今度引っ越すことになった」
「そんな!だって僕やっとジョミーに追いついて一緒の学校に通えるようになったのにっ」
「そんな理由でスキップするなよ、お前は……」
指先で弾かれた額を押さえたトォニィは、その指の合間から向けられた背を見て慌てて追いかける。
「だって大人しく待ってたら、僕が入学するときはジョミーは卒業しちゃってるじゃないか。それよりジョミー、転校って、引越しって……っ」
「……そうなんだ……三つの差って、ちょうど入れ違いになっちゃうんだよなあ……」
通りかかった窓枠に手を掛けて、遠くを眺めて溜息をついたその横顔に見惚れかける。
風に靡いた金の髪が手の甲を掠めて、慌てて首を振って呆けかけた意識を取り戻した。
「いいよ!だっからまた追いかけるから!ジョミーはどこに転校するの!?」
物思いに耽っていたジョミーは、拳を握り締めて決意を新たにする赤い髪の少年を振り返り、怪訝そうに眉を寄せる。
「追いかけるって、無茶言うなよ」
「ジョミーが行くなら、どこまでだって追いかけるよ!」
「いや、そうじゃなくて……」
いつの間にか自分よりも背の高くなってしまった従弟の少年の頭を撫でて、ジョミーは軽く首を傾げた。
「あのさトォニィ、ぼくが今度転校するところは、女の子しか入れないんだ」
「………え?」
「女子校なんだって。パンフレットをみたらさ、制服とか清楚ででもすっごく可愛くて、よく似合いそうだなって……」
頬染めてそんなことをいうジョミーが可愛いよ!
そう叫びたい衝動を堪えて、清楚で可愛い制服を着て、長い金の髪を揺らして手を振る従姉の姿を想像する。
「トォニィ」
微笑みながら、その細い手が伸ばされて……。
「うん、ジョミーによく似合うよ」
たぶん。
どんな制服かも知らないままに、想像だけでジョミーになら似合うと断言すると、きょとんと目を瞬いたジョミーは、次いでおかしそうに声を上げて笑い出した。
「ジョミー?」
「ち……違う違う、ぼくが似合いそうだって言ったのは、ブルーのことだよ」
「……またその話……?」
見たこともない相手だけど、その話は聞き飽きた。
ジョミーが大好きだった、昔住んでいた家の『隣のお姉さん』。
活発に動くことが好きなジョミーが、動きにくいといいつつ髪を伸ばしているのも「隣のお姉さん」がその髪を好きだと言ったからで、赤はあまり好きではないといいつつ髪をまとめるときに赤いリボンを使うのも、「隣のお姉さん」がジョミーには赤い色が似合うと昔言ったからだ。
「あんなに可愛かったんだから、きっと今頃美人になってるだろうな……ブルーの銀の髪は月の光みたいに目に柔らかで優しくて、赤い瞳はキラキラして綺麗で、それに笑顔がとっても可愛くてね!」
「僕は太陽みたいに輝くジョミーの髪の方が綺麗だと思うし、笑顔が可愛いのはジョミーだよ!」
こんなに可愛いのに、別の女のことばっかり誉めることが気に食わなくて強く割り込むと、ジョミーは目を瞬いて、頭を掻きながら苦笑する。
「ごめんごめん、知らない人のことを聞いても、トォニィは面白くないよな。でも一目ブルーを見たら、トォニィも絶対に納得するって。お姉様なんて呼びたくなるかもしれないよ?あー、早く会いたいな」
わかっていないジョミーに苛々と舌打ちをしかけたトォニィは、最後の言葉を聞き咎めて眉を寄せる。
「早く会いたい?なに、次に引っ越すところにそいつがいるの?」
「え、言ってなかったっけ?ぼく、アタラクシアに戻るんだよ。しかも最高なことに、前の家がちょうど空いてからそこに戻れるんだって!」
浮かれて喜ぶジョミーを見ていると、こんなに一緒にいたいと訴えていることをどう思っているのだと面白くない。どうせジョミーは弟のようにしか見てくれていないとわかっていても。
「そいつが引っ越してないといいね」
「……え?」
うっとりと隣のお姉さんの成長した姿を色々想像していたジョミーは、拗ねたような声を聞いて振り返る。
「だってジョミーだって何度も引越ししてるじゃないか。十年変わらずに、そいつがそこに住んでるとも限らないだろ」
「そ………」
言葉に詰まり、大きくよろけたジョミーが窓枠に縋りつくように寄りかかる。
「そんなこと……考えてもみなかった……」
思った以上の反応が返ってきたことに、少し意地悪をするくらいのつもりだったトォニィは慌てて前言を翻して大きく手を振った。
「で、でもさ、ジョミーのパパみたいに転勤を繰り返してるわけじゃないなら、まだそこにいるかも!三つ年上なら、まだ学生だし自宅通学の可能性が高いし!」
「そ……そうだよな……そうだよ、きっとあの家に引っ越したらまたブルーに会える。………ぼくとの約束、覚えてくれてるかな……」
少しの不安を残している様子で、それでも気を取り直したジョミーの呟きに、トォニィは天井を見上げて溜息をつく。
「覚えてても無効だと思ってると思うよ……」
女の子が女の子にプロポーズされたなんて話。
ジョミーがどれだけブルーを慕っていても、相手が女の子だから聞いていられたんだ。これで『ブルー』が男だったりしたら、確実に抹殺してやる。
そんな不穏なことを考えるトォニィの横で、ジョミーは来週の引越しを楽しみに遠い町を望んで窓の外へと視線を向けた。



――――――――――――――――――――――――

ブルーはジョミーを少年だと思っていて、ジョミーはブルーを少女だと勘違いしたままお姉様に憧れている、と。
ブルー←ジョミーな感じですが、多分再会したら逆転します。
後編です。
妙にギャグっぽい方向になりかけたので後編を全面書き直しとかしているうちにこんなに遅く……なぜこのテーマでギャグに走るのか、最初の自分が不思議でなりません。
ブルーとハーレイを並べると、どうしてもハーレイに胃痛をプレゼントしたくなる悪癖を直さねば……と書き直したらハーレイがいなくなりました。悪癖直ってない!
検査結果が出るのが異様に早いのは未来だからです(便利な言葉)

それでは遅くなりましたが、リクエスト本当にありがとうございました!!



シャングリラに迎えられてからというもの外で遊ぶ機会がなくなったとはいえ、ジョミーはアタラクシアにいた頃は元気に外を走って遊びまわっていた。
健康的に日焼けしているといっても、ブルー自身やシャングリラの他の子供たちと比べてのことではあるが、それでも他の子供たちよりのような病的な白さではない。
だが、だからといって熱を出して上気した頬を見ても、それをただ可愛いと思って流してしまっていたとは。
後悔してもしきれない。
ジョミーのことはシャングリラに連れて来る以前からずっと見守っていたし、シャングリラに迎え入れてからは更にも増して様子を伺っていた。
だというのに、ジョミーの不調に気づかなかったなどと。
ブルーの焦燥を他所にドクターは落ちついたもので、それが慣れているからだとかブルーが大袈裟なのだろうと分かっていても、どうしても落ち着かずに苛立ってしまう。
病のジョミーの枕元で苛々とした気配を出しているのはいかにもよくないと医務室を出てきたが、様子が見えないとそれはそれで落ち着かない。
思念波でリオに知らせたのでジョミーの傍には彼がついていてくれるだろうとは思いつつも、人気のない方へと歩きながら気が付けば医務室へ向けて思念体を飛ばしていた。


ジョミーが気になるのなら医務室に行けばいい。なのにわざわざ思念体で様子を伺うなど、ドクターに不審がらそうだと思うと、自然とドクターたちには見えないようにと視覚には映らないようにしてしまった。
誰も医務室にいるブルーの思念体に気づかずに動いている様子を見ていると、なにやら余計に後ろめたいことをしている気になってくる。
「ああ、こりゃ風邪だな」
何かの検査をしていたらしいドクターは操っていた端末の画面を覗きながら顎を撫でると、看護士に薬の処方を言いつける。
ドクターはブルーからの報せを受けて医務室に駆けつけていたらしいリオを振り返って、手にしたペンの先で画面を指した。
「咳も鼻も出ていないがウィルスの活動が活発だ。ま、薬を飲んで大人しく寝ていればすぐに治るだろう」
『よかった……』
ほっと胸を撫で下ろすリオに、ドクターは解析機にはめ込んでいたシャーレを取り出しながら苦笑する。
「ソルジャーも君も大袈裟だな。ジョミーの生命力は強い。大抵のことなら心配などいらないさ」
『その元気な子が熱を出したから、何か大きな病気ではないかと心配なんです』
「わかったわかった」
リオは両手を上げて降参のポーズを取るドクターに溜息をつきながら礼を言うと、踵を返してカーテンを引かれたベッドのほうへと歩み寄った。ブルーも姿を消したまま、その後についていく。
『ジョミー』
カーテンを開けると、冷却シートを額に張り付けたジョミーが熱に潤ませた瞳をリオに向けた。
「聞えたよ。ほら、なんともなかったのに。リオもブルーも心配しすぎだよ」
『なんともなくはないでしょう。ちゃんと寝ていてくださいね』
「はぁい」
苦虫を噛み潰したような表情で拗ねた返事をするジョミーに、リオは苦笑を零す。
『では、僕は一旦持ち場に戻ります。後でまた様子を見に来ますが、一人でも大丈夫ですか?』
「え、一人?」
ジョミーは目を瞬いて、リオの肩越しの後ろに目を向けた。
しっかりと視線がぶつかって、ブルーが驚く様子にジョミーは更に首を傾げる。
「ああ、うん。大丈夫だよ。ちゃんと寝てる」
ジョミーの返答に微笑むと、リオは優しくその髪を撫でてカーテンの向こうへといってしまった。
それを見送って振り返ると、ジョミーはやはり不思議そうな顔をしてブルーを見上げる。
「ブルーも行っちゃうんじゃなかったの?」
「やはり、僕が見えているのか」
視覚には映らないようにブロックしているはずなのに、ジョミーには何の障害もなくブルーの思念体が見えている。
今の状態でサイオンのコントロールなど言っていられないはずだろう。恐らくは生来の強さが現れている。
「当たり前じゃないか。何お化けみたいなこと言ってるのさ」
馬鹿にされていると思ったのか、ジョミーが頬を膨らませるとちょうどカーテンが揺れた。
「薬を持ってきたわよ。飲んでね」
優しい微笑みで楽しくないことを告げる看護士に眉を寄せたジョミーは、彼女がブルーの身体を通り抜けてベッドの傍らに移動したことに息を飲んだ。
「どうしたの?大丈夫、苦くないわ」
硬直したジョミーに首を傾げた看護士は優しく抱き起こし、微笑みながらだが半ば強引にジョミーに薬と水を手にもたせる。
「え、あ、え……」
ブルーが人差し指を立てて静かにという仕草を見せると、ジョミーはようやくなんとなくの事情が判ったのか不機嫌そうな顔をして、薬を口に入れた。
ブルーに気を取られて何気なく言われた通りにしたらしいジョミーは、薬が口の中に広がるとぐっと喉を鳴らして慌てて水を飲む。
「苦いよ!」
「ちゃんと飲めたのね。えらいわ、ジョミー」
ジョミーの苦情に看護士は微笑みながらコップを受け取る。
騙されたとうな垂れる子供を手際よく寝かしつけると、看護士はカーテンの向こうへと姿を消した。
「慣れたものだな」
子供の相手が慣れているその様子にブルーが感心したように呟くと、ジョミーはじろりと睨みつける。
「大人って嘘ばっかり」
「僕のこれは嘘ではないよ。以前に教えただろう?思念体だよ」
ベッドの傍らに立って伸ばしたブルーの手が髪を撫でる。
撫でる、仕草をしただけだ。
見た目に反して触れられた感覚がなかったことが不思議なのか、ジョミーはまじまじとその手と、ブルーの顔を見上げた。
「変なの……みんなには見えないの?」
「今は見えなくしている。ジョミーに見えたことの方が驚きだ」
やはり君は素晴らしい。
そう続ける前に、ジョミーの素朴な疑問がそれを遮った。
「なんで見えなくしているの?」
当然の疑問だろう。だがブルーに説明できる言葉は無い。
ジョミーの様子が見たいが何か手が離せないのなら、思念波でドクターに聞けばいい。あるいは思念体を飛ばすにしても見えなくする必要は無い。
「………なんとなく」
「なにそれ。いたずら?」
ジョミーの熱は重大な病気ではないと分かったし、ドクターもするべきことをしてくれた。自分に対する悔恨は残っているが、病気のジョミーの傍にいて問題があるほどの負の感情はもう出さずに済むだろう。ならば生身で傍にいてもかまわないはずだ。
ブルーは内心を隠しながらにこりと微笑んで、触れられない手をジョミーの頬を撫でるように滑らせる。
「今から傍に行くよ」
告げると同時に、思念体を消して今度は医務室の扉の前へと一瞬で移動した。

「ドクター」
「ああ、ソルジャー。お戻りですか。ジョミーのことですが」
「リオに聞いた。大したことでなくてよかった」
あれだけ急かしておいて、きちんと職務を果たしたドクターを適当にあしらうことは少々申し訳なくは思ったが、早くジョミーに直接触れたくて頷くだけでベッドへ向かう。
カーテンを開けて中を覗くと、汗を滲ませた顔でそれでも楽しそうにジョミーが笑った。
「やっぱり大人は嘘つきだ」
聞いたのはリオにではなく、ドクターからなのに。
くつくつと喉を鳴らすジョミーに苦笑を返しながら、ベッドの傍らに移動したブルーは額に掛かるその前髪を払うようにそっと撫でる。
掌に汗ばんだジョミーの熱が伝わった。
「早く君に触れたかったからね」
様子を見るだけなら、思念体でもいい。けれどできることなら、こうして触れて感じたい。
掌に伝わる熱は相変わらず高くて、大人しく眠っていれば大丈夫なのだと分かっていても、胸がちくちくと痛む。
じっとブルーを見上げていたジョミーはいつの間にか笑顔を消していて、シーツに落としてた手を上げて、髪を撫でるブルーの手の甲に触れた。
「ぼくも、触りたかったよ。ブルーの手、冷たくて気持ちがいい」
触れているように見えるのに、触れた感覚がしないのはいやだ、と。
「ああ……そうだね。さあ、もう眠りなさい」
熱い息を吐きながら小さく呟いた愛し子の額に、ブルーはそっと口付けを落とした。
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