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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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やっとアルテラ以外のナスチルが登場。
……ナスカの子供たちはジョミー大好きっ子でいてほしかった願望をここで丸出しに(笑)
シロエがサイオンを持っているか持っていないか、ちょっと迷ったんですが、基本アニメ準拠なのでタイプイエローのまんまです。


目次


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風を起こしながら影が駆け抜け、一瞬にして目の前に立っていたジョミーの姿が消えた。
「ジョミー!会いたかった!」
声が聞こえた斜め下を見下ろすと、タックルで抱きつかれたジョミーは横薙ぎに倒されて地面に転がって悶えていた。その上に、腰に抱きつくように手を回して一緒に転がる子供。
「せっかくノアに来たのに、どうして一度もセンターに顔を出してくれなかったんだよ!会いたかったのに……っ」
「タージオン、ジョミーが潰れてる」
風のように駆け抜けた黒髪の少年とは違い、歩いてきた亜麻色の髪の少年は呆れたような声でその行動を咎めたが、ジョミーに抱きついた少年は頬を膨らませて振り返る。
「コブはいいよ、アルテメシアでずっと一緒だったんだからさ。ボクらはずーっとジョミーたちが引っ越してくるのを楽しみに待ってたんだ。それなのにジョミーはちっともセンターに顔を出してくれないし……」
「ジョミー?」
ブルーは少年たちの会話よりも、押し倒されて地面に転がったままのジョミーが胸部を押さえて背を丸めて動かないことに眉を寄せる。
「どうかした……」
昨日からジョミーは胸を痛めていたはずだ。大したことはないと言い続けていたが、やはり大した痛みだったのではないだろうか。
ブルーが傍らに膝をついて手を伸ばすと、その指が触れるより先にジョミーが寝返りを打った。
「タージオン………」
「ご、ごめんジョミー。ボクはただ嬉しくて……ジョミーに怪我させる気なんてなかったんだ」
「わかってる。怒ってない。怒ってないから、とにかく上から降りてくれ」
眉を下げて、今にも泣き出しそうな顔をする少年に、ジョミーは苦笑を見せてその髪を優しく撫でる。
ジョミーの苦笑にタージオンと呼ばれた少年は少し安堵したように表情を緩めて身体を起こしたが、ブルーはジョミーの額に僅かに滲んだ汗に気がついた。
「ジョミー、相当痛むんじゃないのか?」
「背中を打ったし、それはまあちょっとは」
「少しのようには見えないが」
手を差し出し、ジョミーを助け起こしたブルーが指でその髪の生え際を軽く擦ると、大して暑いわけでもないのに汗が指を濡らす。
「ジョミー!ボクのせいで……っ」
「違う、昨日から少し痛かっただけだ。タージオンのせいじゃないよ」
顔色を青くして息を飲む少年に、ジョミーは緩く首を振りながら汗を拭ったブルーの手を握った。その掌もしっとりと濡れている。
だが強く力を込めて握るそれからは、これ以上は追及するなという拒絶を感じた。
タージオンという少年のために平気としておきたいようだが、それは逆にブルーには相当痛むのだと教えたに等しい。
後で追及しようと口を閉ざしたブルーに、ジョミーから少し安心したような気配が伝わって握っていた手が離れた。
「ボクが少し痛みを貰うよ」
そんな不可解なことを口にして手を伸ばした少年に、ジョミーは途端に顔色を変えて厳しい表情でその手首を掴んで自分から引き離す。
「サイオンをそんなことに使うな!」
「でも」
「繰り返すけどお前のせいじゃない。……タージオン、サイオンは人と人とがわかり合うことを助ける大切な力だ。それは便利な道具じゃない」
手首を握ったまま、真摯な表情でじっと瞳を覗き込んで言い聞かせるジョミーに、タージオンは言葉に困ったように沈黙して俯いた。
「コブも」
傍らに立っていた亜麻色の髪の少年も慌てたように首を立てに振って頷く。
「タージオン」
もう一度ジョミーがすぐ傍の少年を覗き込むと、黒髪が揺れて俯くように頷いた。

「そんなところに固まってしゃがみ込んで何をやってるのさ」
呆れたような声が背後から聞えて、ブルーは眉を潜めて振り返る。
昨日、食堂でなにやらジョミーに関して言いがかりをつけてきた少年だ。
だが少年は端からブルーを見ておらず、まるでそこにいないかのように横を通り過ぎて地面に座り込むジョミー達を見下ろした。
「タージオンがぼくに会いたかったって飛びついてきたんだ。可愛いだろ?」
ジョミーはにんまりと笑みを浮かべてタージオンの頭を抱えるようにして抱き込む。
「ジョミー!」
慌てたようなタージオンの声はけれどどこか喜びを隠し切れておらず、ブルーは僅かにムッとした。
子供を相手に一体何に腹を立てたのかは謎だが。
シロエは鼻先で笑い、ジョミーとは種類の違う笑みを少年に向けた。
「やっぱりタージオンは子供だな」
「シロエに言われたくない。ジョミーがノアに来る日をカレンダーとにらめっこして待っていたくせに」
「余計なことは言わなくていい」
睨みつけるシロエと、ジョミーに抱き込まれて余裕の笑みを見せたタージオンに、まったく無関係の位置に居たコブが溜息をつく。
「兄弟喧嘩はいいからそろそろジョミーを解放してあげなよ、タージオン」
「そうだった!ごめんねジョミー!」
慌てて立ち上がったタージオンは、ジョミーの手を取って立ち上がる手助けをすると、そのまま握った手を引いて歩き出す。
「お、おいタージオン」
「掌を擦り剥いてる。センターで消毒してもらおうよ」
「これくらい平気だって!」
引っ張られて行くジョミーの鞄をコブが拾って一緒に横に並んで建物に向かって歩いて行く。
ブルーは後に続こうとするシロエの腕を掴んで引き止めた。
「……なんですか」
先ほどの少年たちといいこの少年といい、ほとんどブルーが存在していないかような態度だがそれは別に構わない。
引き止めたのは用があるからだ。
「先ほど……君の弟、か?あの少年がジョミーの痛みを貰うと言ったのだが」
「タージオンが?痛みを?」
「飛びついて押し倒したせいでジョミーが痛がっていたためだ。ミュウにはそんなことが可能なのか?」
顎に軽く握った拳を当てたシロエは、考え込むような表情で眉を寄せる。
「ぼくには無理ですが、サイオン能力が高ければ可能です。タージオンとかアルテラとか。コブもできるかもしれないな」
その発言で、シロエもミュウであることがわかった。
今までミュウと接することなんて、ほとんどリオくらいしかいなかったのに、この数日で一体なんの変化だろう。
「……ジョミーにもできるのか?」
おかしな夢を見た。
夢の中では日の落ちたブルーの部屋にジョミーが居て、胸部の痛みを誤魔化したと言った。
その翌日から、ジョミーは胸を痛めている。
夢は夢だ。そう思うのに、気になって仕方がない。
だが考え込んでいた様子のシロエは、意外なことを聞かれたかのように瞬きをする。
「まさか。ジョミーはサイオンを使えない。センターに通うのはアルテラの付き添いですよ」
「本人がミュウだと気づいていない可能性は?」
「可能性としてはありますけど……なんていったってアルテラの姉妹ですからね。でもファントムペインは自覚のないミュウにできるようなことじゃありません」
「ファントムペイン」
「ええ、ぼくらはそう呼んでいます。本当に自分が持つ痛みではないから本来のファントムペインに近いものとして」
ジョミーにはできませんと繰り返すシロエに、今度はブルーが考えに沈む番だった。
出来すぎた偶然なのだろうか。
進んでいるように見えて進まず、進んでないようですがジリジリ進む。
登校風景が長くなるのは、二人の学年が違う上に、今のところ接点がほとんどないからですorz
シャン学設定だったらそれこそ生徒会とかがあるんですが、このブルーは自分からは理由をつけないとジョミーに近づけないからなあ……生徒会長……じゃない、ソルジャーを見習ってください(笑)


目次



「あ、じゃあセンターが近いんで、ぼくアルテラを連れて行ってきます。すぐに追いつくから先に行っててください」
ジョミーが幹線道路から通りを一本中へ入る建物を指差すと、アルテラは手を翳してそれを遮る。
「ひとりで大丈夫よ。それじゃあミスター・イリアッド。またね」
ジョミーの妹から不可解なことを言われてから考え込んでいたブルーは、再び手で握られてぎょっとする。
次の瞬間、アルテラの触れた箇所からまるで電流が走ったかのような痛みと痺れが駆け上り、思わず手を振り払うようにして引っ込める。
どうやら痛かったのはアルテラも同様だったらしく、振り払う動作をしたのはほぼ同時だった。
「なにが……」
顔をしかめるブルーに、アルテラは呆然と自分の右手と、ブルーの顔を見比べる。
「あなた……」
「アルテラ!」
口を開こうとしたアルテラは、ジョミーからきつく叱られて肩を震わせ首を竦めた。
「慣れていない人に無闇に思念波で語りかけるなと言ってるだろう!」
「でも!こんなの初めてのことよ!ミスター・イリアッドは力のあるミュウなの?」
「僕はミュウじゃない」
咄嗟に不機嫌な語調で否定してしまい、これではミュウであるアルテラが気を悪くするとぐっと口を引き結ぶ。だがアルテラはそれよりも他の事に気を取られているようだった。
「違うの?でも……今のは思念コントロールというより、サイオンの防壁だったと思うけど……あなたの中に、誰か別の」
「アルテラ、いい加減にしないか。なんのためにセンターに来たんだ。今日のお前はサイオンが上手く制御できてないだけだろう?ブルーに変なこと言ってないで、早く行く!」
ジョミーが厳しい口調でセンターの建物を指差すと、アルテラは少し落ち込んだように俯いた。
ジョミーはブルーがミュウを嫌っていることまでは知らないはずだが、それでもどこか否定的なところがあるとは気づいているのだろう。
気を遣っているのは分かったが、先ほどまで兄の様子を心配していた少女が叱られる様子は少し気の毒な気がする。
アルテラは気持ちを切り替えたように顔を上げて、今度はブルーの手を取らずに両手を後ろに組んで、身を翻そうと一歩下がりながらブルーを見上げる。
「……あのね、さっき言ったこと、お願いね。ミスター……」
「ブルーでいい」
歳に似合わない、苦い笑いを僅かに見せていたアルテラは口を開けたまま足も止めた。
「ブルーでいい。ミスターなどと聞き慣れない」
特に意味などなく、ただ本当に聞き慣れない呼びかけに馴染まなかっただけだ。
だが言われたアルテラは、きょとんと瞬いた目を、それから弧を描くように細めて嬉しそうに微笑む。
「うん、ありがとうブルー。それじゃあまたね」
手を振って今度こそ身を翻した少女は、まるで体重など感じさせないかのような軽やかな足取りで駆けて行った。

その背中がセンターの門を潜るまで見送ってきたジョミーは、おもむろにブルーを振り返る。
「すみません先輩。寄り道した上に。ちょっと甘やかしすぎたのか、アルテラは奔放で」
「別にいいさ」
それよりも「またね」と言って走り去ったことの方が気になる。どうやら彼女は本当にブルーに期待しているらしい。そう言われても、普段のジョミーのことさえ良く知らないのに、困る。
気もそぞろに生返事を返すブルーに、だがジョミーは眉を寄せてゆるく首を振った。
「ありがとうございます。でも、思念のやり取りに慣れていない相手に思念波で急に話し掛けることは、アルテラのためにもならないんです。まだ誰もがミュウを受け入れているわけじゃない……不用意なことをすればあの子が傷つく」
自分の考えに沈みかけていたブルーは、気鬱な声に振り返る。
ジョミーが厳しく叱ったのは、ブルーを気遣っただけではなくて、妹を守るためだったのかと、ようやく気づいたからだ。
「……経験が?」
「何度か。だからアルテラも家族や慣れた相手以外にはあんなことはしないのに」
「そうか……」
人のことは言えないが、ブルーには身近にミュウを恐れている人物がいるために、彼女が嫌悪か否定か、とにかくあまり良くない感情に晒されたことがあると言われても納得できる話だ。
それでも彼女が他人であるブルーを信用できるのは、こうして愛されていることを無意識にでも感じているからだろうか。人の悪意より、好意を信じている。
他人を嫌悪するブルーとは違って、強い子だ。
「羨ましいことだ」
その強さが、ブルーにはない。
「この話で羨ましがられるのは始めてだ」
小さく呟いた言葉がジョミーに届いてしまっていたらしい。丸めた目を向けられて、ブルーは居心地悪く首を振る。
「……それだけ『慣れた相手』がいるのなら」
ジョミーの口ぶりでは、アルテラが思念波を使って話し掛けるのはミュウには限らないと示している。ミュウと受け入れて、あるいは最初から区別などしていない信頼のできる人物が、彼女にはいるのだろう。
横についてきていた金の髪が視界の端から消えて、どうしたのかと首を巡らせる。
ジョミーは立ち止まって俯いていた。
「………あなたには、いないんですか?」
妹には不躾を叱っておいて、自分のそれは不躾ではないのだろうか。
半ば呆れながら、ブルーは息をついて歩き出す。
「いない」
「リオは?友達でしょう?」
ジョミーが後ろを小走りでついてくる気配がする。
遠ざからない声に、振り返らずに肩を竦めた。
「彼が酔狂なだけだ」
「じゃああなたは信頼してないの?」
それには答えず沈黙のままでいると、再び手を握られ強く引っ張られた。
後ろによろめきながら足を止めて不機嫌に振り返る。
兄妹揃って一体なんだ。スキンシップ好きは家庭環境なのだろうか。
だがそんな機嫌を悪くしたブルーとは対照的に、ジョミーは真剣な表情で身を乗り出してきた。後ろに傾いていたブルーと、必然的に顔が近付く。
「待……」
「だったら、ぼくがなりたい」
力強い言葉に、固まりかけていたブルーはやっとの思いで瞬きをした。
「あなたに信頼されるような存在に……」
吐息が掛かりそうなほどに近すぎる翡翠の色は、少しも逸らされることもなく。
「き……みは、何を言って、いるのか……自覚しているか?」
―――ジョミーのこと、好きになってくれてありがとう。
先ほど言われたばかりの言葉が脳裡に甦る。
なぜ、こんなときに。
緊張したように唾を飲み込もうとする。だが渇いた喉は空気を飲むだけだ。
開かれた薄い唇。
「ぼくは………」
「ジョミー!コブ、コブ!ジョミーがいたーっ!」
だがジョミーが何をか言う前に、元気の良すぎる子供の声が割り込んで来た。
ちょっと話が進む。
トォニィたちシャングリラのメンバーがノアに帰りつくまでにクリアしなければならないことが多々あるんですが、どれだけ詰め込む気だと今更思いました。
というか、いつになったらトォニィやフィシスの出番がくるんだ……。


目次




『地球を離れ再びノアへと航行中のシャングリラからの通信によると―――』
音声読み上げ機能でニュース記事を聞きながらコーヒーを口にしてたブルーは、呼び出しを告げる電子音に思わず溜息をついた。
怪我が良くなってからでも好きにしたらいいと伝えたことで、ジョミーにとっても送り迎えの時間は特に貴重なものではなくなったはずだった。
そう話した当日の放課後は返すものがあると伝えていたから教室の前で待っていたことに不思議はなかったが、結局今朝も迎えが来たようだ。
律儀なことだと苦笑を零しながら立ち上がったブルーは、呼び鈴に応じようとインターフォンの画面に手を伸ばす母親を制する。
「僕の迎えだから」
「迎え?」
「怪我をさせたことに対する詫びだそうだよ」
「あら……それじゃあ……」
インターフォンから手を引きながら言葉を濁す母親に、ブルーの機嫌は一気に下降した。ジョミーがミュウではないと言われても、あのときのやりとりがまだ彼女の中には残っているのだろう。
この人のこんな行動は今更だ。だが自分に向けられるものなら慣れたとしても、それを友人に向けられることはまた別の不快がある。
ブルーの咎めるような視線に気づいたのか、母親は気まずそうに顔を逸らし、ブルーもまたそれ以上は何も言わずにリビングを後にした。
玄関の扉を開けると、門扉の外で待っていたジョミーが満面の笑みを見せる。
「あ、おはようございます!」
「ああ……」
門扉までの短い道を歩く間にも、外で待つジョミーは尻尾を振らんばかりの様子で待ち構えている。
その笑顔を見ていると、先ほど母親に覚えた苛立ちが消えてなくなるような気がした。
ああ、まったくそうだ。あの人のあれは今に始まったことではない。いちいち気にしても消耗するだけだ。
門扉を開けようと手をかけたブルーは、ジョミーの後ろから黒髪を揺らしてひょっこりと顔を出した少女に驚いて一瞬、手を止めた。
「おはようございます。ミスター・イリアッド」
「……おはよう」
「ごめんなさい、今日は途中までアルテラも一緒に行くんですけど、だめでした?」
「いや、構わない」
予想外のことで驚いたのと、いよいよ母親が対応しなくてよかったと思っただけだ。
「だがジュニアスクールとは道が違うんじゃなかったか?」
「今日はスクールの前に支援センターに寄る事になって。通り道だからぼくが送ることになったんです」
門扉を出たブルーに、ジョミーが自然な動作で手を差し出した。ブルーも鞄を渡そうと肩紐に手を掛けると、ジョミーの腕にぶら下がっていたアルテラがぐいと強く引いてジョミーが後ろによろめく。
「おい、アルテラ!」
「構わない。彼女が一緒なのだから、今日は彼女と手を繋いであげるといい」
「でもそれじゃなんのためにぼくが来たのか……」
「鞄を持つのは口実なんだろう?」
半ば揶揄するように昨日のジョミーの告白を口にすると、途端にジョミーは顔を真っ赤に染めた。
「それは……その」
「責めているわけじゃない。だから彼女の手を取っていればいいと言っただけだ」
小さく笑みを零すブルーを、ジョミーの腕に取り付いたアルテラがじっと見つめていた。

「しかし休日でもないのに、センターに行くというのは穏やかではないな。どこか具合が悪いのか?」
思念の扱いに苦心する目覚めたばかりのミュウの年少者たちには、それを指導するためのセンターがある。参加は自由意志に任されるが、思念を扱いきれないことに一番苦痛を覚えるのは本人なので、ほとんどの者が一時期はお世話になるという。
しかしあくまで支援が目的の場所なので、大抵は放課後であったり休日であったり、通常の日常生活に障りのない時間を選んで通うとリオからは聞いている。
歩きながらでもジョミーの腕を放さないアルテラに目を向けると、正面から視線がぶつかった。ジョミーを挟んでずっとブルーを見ている様子に、観察されているような気がして少し不愉快になる。
「いえ、アルテラは他の子よりサイオンが強いから、少し調子が悪いと一応検診しておこうってだけのことなんです。な?」
ジョミーが目を向けると、アルテラはブルーを見つめたまま頷いた。
一度会ったことがあるだけだが、以前はもっと物怖じしない様子に見えたのに、今日は随分と避けるものだと疑問を抱いていると、どうやらブルーの感じたことは間違っていなかったらしい。ジョミーも首を傾げている。
「どうしたアルテラ?やっぱり具合が悪いのか?」
「……別に」
首を振るだけで何も言わないアルテラに、ジョミーは肩を竦めてブルーに目を向けた。
「気にしないで下さい。照れてるだけだと思います」
どちらかといえば警戒しているのではないかと思いながら、仲の良い様子の兄妹に苦笑する。
「ち、違うわよ!ジョミーの馬鹿!ミスター・イリアッド、行きましょう!」
抱きついていたジョミーの腕を振り払ったと思うと、少し前に出たアルテラは突然ブルーの手を握って足を速めた。
「あっ!おい、アルテラ!ブルーは怪我をしてるんだぞ!」
小走りのアルテラの速度は、ブルーにとっては少し早く歩く程度のものだ。昨日に続いて大して傷も痛まないのでそれは構わないが、それよりも繋がれた手の方が気になる。
「おい……」
「そのまま聞いて」
ブルーの手を引きながら振り返ったアルテラは、静かにするようにと立てた指を唇に当てると、ブルーの後ろから慌てて追いかけてくるジョミーを気にするように少しだけ目を動かした。
「昨日からジョミーの様子が少し変なの。ジョミーはなんともないって言うんだけど、思念を完全に閉ざしてる」
ジョミーに追いつかれる前にと急いで早口で告げるアルテラに、ブルーは眉を寄せた。
「家族であろうと、許可がない相手の思念を読むことは禁止されているはずだ」
「だから、ジョミーはわたしには許可をくれるの。ううん、何を考えているかまでは読まないわ。でもなんとなく感じていることとか、今の大体の気分とか、曖昧な感覚には触れさせてくれるの。でも昨日からはまったく何も感じない。ジョミーが閉ざしてしまっているんだわ」
「誰だって触れられたくないときくらいあるだろう」
閉ざしているというからには、ジョミーは思念を自由意志で閉ざすことができるようだ。あの年の人間には珍しいことだが、家族にミュウがいるならある程度は思念の扱いに慣れるのかもしれない。
だが陽気で明るく笑うジョミーが思念を閉ざす術を完璧に身につけているというのは少し意外だった。思念に触れることを妹に許可しているというように、漠然とした感覚までならオープンにしているタイプに見える。
「分かってる。でもおかしいような気がするの。お願い、ジョミーのこと見ててあげて。わたしには絶対に弱い顔は見せてくれないの」
家族としての違和感か、それともミュウの鋭い感受性か、どちらにしろアルテラの危惧は分かったがそれを託されたことに困惑せずにはいられない。
「なぜ僕にそんなことを」
ジョミーの友人ならサムがいる。
ジョミー自身ともそこまで親しくもなく、アルテラにとっても一度しか会ったことのないブルーに頼るより、アルテメシアからの知り合いのサムに頼むほうが筋だろう。
ブルーの疑問に、アルテラは溜息をついて首を振る。
「サムはだめ。正直すぎるからジョミーに直接聞いちゃうわ」
「だが僕は……」
家族にすら微かな違和感しか抱かせないことに気づけるほど、ジョミーとは親しくない。
そう言いかけたブルーに微笑みを見せて、アルテラは繋いだ手に力を込めた。
「でもあなたなら、きっと大丈夫。……ジョミーのこと、好きになってくれてありがとう」
この少女が何を言ったのか、最後の言葉が一切理解できなかった。
ホワイトデー更新で転生話の女の子のジョミーとブルーです。
バレンタインを書いちゃったからには、ホワイトデーもこれで……ということで、これもバレンタイン同様パラレルの更にパラレルの一種だと捉えてください(^^;)
(前のバレンタイン話 前編 後編
普段ツンデレだと、一体どういう顔をしてお返しをしたらいいのか困ります(笑)
ジョミーよりよっぽど乙女なブルー(^^;)
ホワイトデーより前の話。




2月14日に至る所で見かけた広告は、今度は3月14日に向けたものに代わって、同じように町中を彩っていた。
それらを見ないようにしていたブルーだったが、件の日付が近付いてくるほどに落ち着かなくなってくる。
生まれて此の方、まったく縁のなかった行事に、一体どう対処すればいいのか分からない。
今年までは、差し出されるものも、押し付けられたものも、さっぱりと無視をしていたが、今年はそうもいかない。
ジョミーから差し出されたチーズスティック型のパウンドケーキを、自分で受け取った。
ジョミーのあれはきっと義理だ、義理のものに違いないと思う。義理ならどの程度のものを返すのが妥当なのかさえ見当もつかないが、あれがブルーのためだけに作ったものだったということが迷いに拍車を掛ける。
別にこんな行事に踊らされることもない、いまさら不義理をするくらいなんだと、お返しの品を用意することを止めようかとも何度も考えたというのに、気が付けばホワイトデーのお返しに向けた広告をぼんやりと眺めていたりする。
街中で渡された、雑貨店のホワイトデー向けプレゼントを前面に出したチラシをまたじっくりと眺めていることに気が付いて、ブルーは渋面を作ってチラシを握りつぶした。
「何をやっているんだ」
友人にそれとなく、いつもはどんなものを返礼としているのかと訊ねようかとも思ったが、今までブルーがそんなことに興味を持った試しがない。必ず不思議がられるだろう。
先月ジョミーから手作りのお菓子を渡されたブルーは、それを友人にも秘匿した。
リオは麦チョコだったのに、ブルーが手作りお菓子だったなんてそんなことを言えばなんの嫌味かと言う話だ。
そう考えて家に戻って自分の部屋に篭るまで鞄に入れ込んでいたのだが、それを隠すかのように底にしまいこんでいたことについては、何の疑問も持っていない。
とにかく、そういうことなのでリオにジョミーから手作りお菓子を渡されたことは今更言えないし、言うつもりもない。
必然的に、まったく自分には向かない種類のことを、ブルーは一人で考える羽目になった。
別に、お菓子でいいじゃないか。
目的もなく……ないと信じてただふらふらと街中を歩き、そのついでに洋菓子店を覗きながらブルーは考え込むように眉を寄せる。
お菓子にするとして、一体どの程度のものが妥当だろうか。ジョミーから渡されたものが既製品なら、それに見合う返礼でいいのに、手作りとなると……また堂々巡りだ。
「……あれ、ブルー?」
店先に置かれた、クッキーを詰め合わせた手ごろな小袋の包みを手にして考え込んでいたブルーは、横合いから聞こえた声に激しく動揺した。

「こんなところで会うなんて珍しいですね」
来るなと心で願っても、普段から何かとブルーの傍にいたがるジョミーが避けてくれるはずもない。
駆けて来る当の本人に見つかる前にと包みは台に戻したが、立っていた位置からして何を見ていたかは明白だった。
「あれ、あなたは甘いものは嫌いだったんじゃ……ああ、ホワイトデーの」
バツが悪くてジョミーの方を向けない。
頑なに視線を向けようともしないブルーに気づいているのか気にしていないのか。
来るなと願った少女は、ブルーの隣に並んで一緒に居並ぶ商品を見回した。
「でもこのお店って、高くないですか?小包装でも、ほら」
自分が受け取るものを一緒に物色するとは何事だ!
いや、いっそジョミー本人に選ばせた方が簡単かもしれない。いったいどれほどの期間、気がつけばホワイトデーの文字を目が追っていたことか。
「あなただったら、お返しもたくさんいるでしょう?それなのに毎年こんなお返しをしてるんですか?」
ブルーは思わず首を巡らせて、避けていたはずの少女を見下ろした。本当にそう思って純粋な疑問を浮かべる新緑色の瞳に、盛大に眉を寄せた。
「僕が君以外に贈る必要がどこにある?」
バレンタインの贈り物をしてきたのはジョミーだけだと言いたかったブルーの返答に、ジョミーは目を丸める。
次いで、じわじわと広がるように頬から顔全体を赤く染めて、視線を逸らしてしまった。
視線を逸らすようにして俯いてしまったジョミーの赤くなった耳を見て、初めて己が口走った言葉を反芻したブルーは、慌てたように手を振る。
「違う、だから、僕は単に……ご、誤解をするな!」
何が違って何が誤解なのか、既にブルーにもよく分からない。
お菓子をジョミーからしか受け取っていないことは今更の事実で、今探していたものがジョミーへの返礼であることも事実だ。どこにも誤解などない……はずだ。
「ぼくのことだったら、気にしないで下さい」
ぐるぐると巡る思考に、言いたい言葉が形にならない焦燥に内心で舌打ちを零したブルーに、そんな言葉が向けられた。
ジョミーは赤く染めた顔を両手で隠すように頬を包み、軽く叩く。
「えっと、ぼくのは勝手に贈りたいと思っただけのものだったし、あの、あなたに受け取ってもらえただけで嬉しかったし……」
最初からお返しなど期待していなかったと言外に告げられて、なんだか面白くない。
本人がいらないというのだから、それでいいではないか。
そんなことを考えつつも、ジョミーが先ほど指を差した最小包装のものよりもふた周りほど大きなボックス仕様のものを取り上げて、店内に入る。
「え、ブルー!?」
慌てて追いかけてくるジョミーの手が届く前に、ブルーはカウンターにそれを置いた。
「そんな高いのもらえないよ!ぼくのなんて本当に下手なお菓子だったのに……っ」
「手作りが既製品に劣るというわけでもないだろう」
綺麗に包装したボックスは店のロゴの入った紙袋に収められ、手渡されたそれをブルーはそのままジョミーに差し出した。
「個人の好みに合わせた甘さの調節なんて、既製品にはできない」
満足だったのだ、と。
ジョミーの作ったお菓子はブルーの好みに合っていたのだ、と。
やはり言外に告げたブルーに、ジョミーは再び頬を赤く染める。
「えっと……あの……それじゃあ……」
おずおずと手を差し出したジョミーは、紙袋を受け取って、大事そうにそれを両手に抱えてはにかむように微笑んだ。
「ありがとう……」

とにかく返礼ができたと一仕事を終えた気分で、内心ほっと胸を撫で下ろしていたブルーに、その笑顔は不意打ちだった。
「い……行こう。店の中でこんなやりとり、迷惑だ」
顔に熱が篭ったような感じがして、それをジョミーに見せないように急いで店の外へ向かう。
「あ、はい!待ってください!」
置いていかれないようにと後ろから追ってくるジョミーの姿は、振り返らなくともガラス戸にしっかりと映っている。、慌てながらもブルーから渡された袋を大切そうに両手で抱え、本当に嬉しそうな笑顔を零して。
満足しながら店を出たブルーが、今日がまだホワイトデーより半月も先だったと気づくのはもう少し後の話。



実は3月頭の出来事だった、という話。
後で気が付いて、どんだけお返しに張り切っていたのかと
ジョミーの思われているのではないかと頭を抱えます。
ツンデレめ(笑)

今回はジョミーとシロエのみ。
ノアの住人のシロエがアタラクシアにいたジョミーと知り合った経緯はまた今度。秘密でも伏線でもなく、単なる1話の中の尺の問題です(^^;)
短い中でどうしても長くなる説明文調をどうにかしたい~!


目次



一人別行動を取っていたジョミーが教室に戻ってきたとき、その様子にシロエは眉を寄せた。
身体を動かすこと同様に食べることが好きなジョミーが、昼食を抜いたのに上機嫌だったからだ。その理由を嫌々ながら察することが出来ることが更に不愉快だった。
「ジョミー」
席についたままひらりと手を振って声を掛けると、弾むような足取りだったジョミーはぴたりと足を止める。その急な震動に少々顔をしかめたところを見ると、腹痛は治っていないようだ。それなのに。
「なに、シロエ」
上機嫌な様子は揺るがない。
「お腹」
「え?」
シロエの前の席に座ったジョミーに、頬杖をついたままじろりと探るような目を向ける。
「お腹、大丈夫?昼を抜くほど調子悪いんでしょう?」
「ああ、うん。平気。お腹は元から痛くないよ」
「はあ?」
腹の調子が悪いから昼を抜くと言っていたはずなのに、元から痛くないというどういうことだと眉を寄せると、ジョミーは慌てた様子で手を振った。
「あ、調子が良くないのはホント。痛い場所が本当はお腹じゃなかったってだけ」
「じゃあどこが痛いのさ?というより、なんでそんな嘘をついたの」
「胸の辺りだよ。嘘をついていたのは悪かったよ。でも、誰かに本当のことを言ったら、どこからあの人の耳に入るか分からないし」
あの人。
シロエの眉が僅かに跳ねたが、ジョミーは息をついて肩を竦めただけでその気づいた様子はない。
「じゃあ本当のことを言ったのは」
「うん、もうあの人にバレちゃったからいいんだ」
「その『あの人』にはなんで隠したかったの?バレたって、もしかして『あの人』が原因の痛み?」
「あの人のせいじゃないよ」
首を振ったジョミーは、少し考えるように天井に目を向けた。
そうして、胸を押さえて苦笑を見せる。
「時々痛むんだ。今月は……うん、ちょっと、ね」
「今月って、月ごとに痛むの?それって持病……」
「病気じゃないって」
やっぱりそうくるのかと溜息をついたジョミーの横顔を眺めていて、なんとなく理解できたシロエは頬を僅かに染めて咳払いをした。
「あー……そういうこと、か……」
見た目が男みたいでも、ジョミーも女の子だったとシロエが頬を染めると、反対に言葉を濁したはずのジョミーが首を傾げる。
「そういうことって、どういうこと?」
「え?どうって………ええっと……ち、違う、の?」
質問の答えにしては疑問に疑問で返した形になったが、ジョミーは気にしてない様子で頷いた。
「シロエは月経だと思ったんだよね」
「そんな単語をこんなところではっきり言うな!」
思わず机を叩いて立ち上がると、周囲の視線が一斉に集まってシロエは慌てて席につく。赤くなるやら青くなるやらで慌てるシロエに、仕掛けてきたジョミーは口を押さえて笑いを堪えていた。
「……ジョミー」
「ご、ごめん、予想以上にいい反応が返って来たからさ。そうだよね、月単位で痛かったりそうじゃなかったりで、女の子が口を濁す理由なら、少しくらいはそういう可能性を考えてくれてもよさそうなのに」
「………ひょっとして、また嘘?」
「うん、ごめん。だってあの人全然察してくれなくてさ。男には分からないのかなって思って試してみた」
「ジョミー!」
人を実験台にするなと憤慨したシロエに、ジョミーは楽しそうに笑いながらごめんと繰り返す。
あまりにもジョミーが笑うので、シロエはひとつ仕返しをしてやることにした。同時に、ジョミーの中で『あの人』の印象を悪くしてやろうという意図も少しはあった。
「ブルー・イリアッドがそういう可能性を考えなかったなんて当然だよ」
「え、なんで?」
目を瞬くジョミーは、どうやら『あの人』の勘違いに気づいていない。
これなら効果的だろうと、シロエは笑みを浮かべ呆れ口調で首を振った。
「だってあの人、ジョミーのこと男だと思ってるんだから」

食堂で声を掛けてきた相手を見たとき、それがジョミーに冷たく当たっている上級生だということにシロエは思わず眉を顰めた。
当然だろう。ジョミーがブルーの鞄を手に後ろを嬉しそうついて歩いて、相手にされなくても一人で話し掛けている通学風景を見たとき、シロエは我が目を疑うほどに腹を立てたというのに。
そうして、ジョミーに優しくしないくせに、姿が見えないと探したりする。
なんだこの男と不愉快に思って何がおかしい。
その上あの男は、ジョミーのことを「彼」と言ったのだ。
聞いた瞬間、よくある勘違いだとジョミーと笑い合った過去も忘れて一気に頭に血が昇った。
性別すら勘違いするほどジョミーのことを知らないのに、どうしてこんなのをジョミーが大事にしようとするのか分からない。
それが怪我をさせた負い目からくるものだと思えば仕方がないと納得できたに違いないが、ジョミーの様子からはそんな風には見えない。
今だって機嫌よく帰ってきたことといい、嘘をつく必要がなくなったという話といい、ブルーに会ってきたことは明らかだ。ブルーに会って、上機嫌になっているのだと。
ああ、面白くない。
拗ねそうになったシロエは、ふと思い返したことに疑問を抱いた。
ジョミーは胸部の痛みを、ブルーのせいではないと言った。月経からくるものだと言ったことも嘘だと。
では、一体何が原因で食欲をなくすほどの痛みを抱えているのだろう。
それに、痛んでいること自体が嘘でないのなら、それは食欲をなくすほどのものだということになる。
「ジョ……」
「なあんだ、そっかー」
血相を変えたシロエに気づくこともなく、ジョミーは溜息を吐いて机に突っ伏した。

「ジョ、ジョミー……?」
「男だと思ってたのか……通りでいきなり胸を触ってくると思った。いくら疑ってるからってさあ、女の子の胸を断りもなく触るっておかしいと思ったんだ。あぁ、じゃあキースも勘違いしてるのか」
ジョミーが事も無げに呟いた言葉に、シロエは一瞬活動を停止した。
「……胸を、触る……?」
「そうだよ、キースなんて鷲掴み。あーでもあれ、まだ気づいてないんだろうなー。ぼく、胸ないし」
机に倒した身体を起こして、ジョミーは明るく笑う。
「あははじゃないよジョミー!笑ってる場合!?しかもキースって、あいつ?キース・アニアン!?あいつまで触ったの!?」
「なんか動きが不自然に見えたみたいで、それで確かめたらしい。びっくりしたよ」
「だから呑気に笑っている場合じゃないだろう!?あの男!」
あの男の対象が増えたことに拳を握り締めたシロエは、直前に抱いた疑問を綺麗さっぱりに忘れてしまった。

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