日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.126 太陽の花30
Category : 転生話
ちょっと話が進む。
トォニィたちシャングリラのメンバーがノアに帰りつくまでにクリアしなければならないことが多々あるんですが、どれだけ詰め込む気だと今更思いました。
というか、いつになったらトォニィやフィシスの出番がくるんだ……。
目次
『地球を離れ再びノアへと航行中のシャングリラからの通信によると―――』
音声読み上げ機能でニュース記事を聞きながらコーヒーを口にしてたブルーは、呼び出しを告げる電子音に思わず溜息をついた。
怪我が良くなってからでも好きにしたらいいと伝えたことで、ジョミーにとっても送り迎えの時間は特に貴重なものではなくなったはずだった。
そう話した当日の放課後は返すものがあると伝えていたから教室の前で待っていたことに不思議はなかったが、結局今朝も迎えが来たようだ。
律儀なことだと苦笑を零しながら立ち上がったブルーは、呼び鈴に応じようとインターフォンの画面に手を伸ばす母親を制する。
「僕の迎えだから」
「迎え?」
「怪我をさせたことに対する詫びだそうだよ」
「あら……それじゃあ……」
インターフォンから手を引きながら言葉を濁す母親に、ブルーの機嫌は一気に下降した。ジョミーがミュウではないと言われても、あのときのやりとりがまだ彼女の中には残っているのだろう。
この人のこんな行動は今更だ。だが自分に向けられるものなら慣れたとしても、それを友人に向けられることはまた別の不快がある。
ブルーの咎めるような視線に気づいたのか、母親は気まずそうに顔を逸らし、ブルーもまたそれ以上は何も言わずにリビングを後にした。
玄関の扉を開けると、門扉の外で待っていたジョミーが満面の笑みを見せる。
「あ、おはようございます!」
「ああ……」
門扉までの短い道を歩く間にも、外で待つジョミーは尻尾を振らんばかりの様子で待ち構えている。
その笑顔を見ていると、先ほど母親に覚えた苛立ちが消えてなくなるような気がした。
ああ、まったくそうだ。あの人のあれは今に始まったことではない。いちいち気にしても消耗するだけだ。
門扉を開けようと手をかけたブルーは、ジョミーの後ろから黒髪を揺らしてひょっこりと顔を出した少女に驚いて一瞬、手を止めた。
「おはようございます。ミスター・イリアッド」
「……おはよう」
「ごめんなさい、今日は途中までアルテラも一緒に行くんですけど、だめでした?」
「いや、構わない」
予想外のことで驚いたのと、いよいよ母親が対応しなくてよかったと思っただけだ。
「だがジュニアスクールとは道が違うんじゃなかったか?」
「今日はスクールの前に支援センターに寄る事になって。通り道だからぼくが送ることになったんです」
門扉を出たブルーに、ジョミーが自然な動作で手を差し出した。ブルーも鞄を渡そうと肩紐に手を掛けると、ジョミーの腕にぶら下がっていたアルテラがぐいと強く引いてジョミーが後ろによろめく。
「おい、アルテラ!」
「構わない。彼女が一緒なのだから、今日は彼女と手を繋いであげるといい」
「でもそれじゃなんのためにぼくが来たのか……」
「鞄を持つのは口実なんだろう?」
半ば揶揄するように昨日のジョミーの告白を口にすると、途端にジョミーは顔を真っ赤に染めた。
「それは……その」
「責めているわけじゃない。だから彼女の手を取っていればいいと言っただけだ」
小さく笑みを零すブルーを、ジョミーの腕に取り付いたアルテラがじっと見つめていた。
「しかし休日でもないのに、センターに行くというのは穏やかではないな。どこか具合が悪いのか?」
思念の扱いに苦心する目覚めたばかりのミュウの年少者たちには、それを指導するためのセンターがある。参加は自由意志に任されるが、思念を扱いきれないことに一番苦痛を覚えるのは本人なので、ほとんどの者が一時期はお世話になるという。
しかしあくまで支援が目的の場所なので、大抵は放課後であったり休日であったり、通常の日常生活に障りのない時間を選んで通うとリオからは聞いている。
歩きながらでもジョミーの腕を放さないアルテラに目を向けると、正面から視線がぶつかった。ジョミーを挟んでずっとブルーを見ている様子に、観察されているような気がして少し不愉快になる。
「いえ、アルテラは他の子よりサイオンが強いから、少し調子が悪いと一応検診しておこうってだけのことなんです。な?」
ジョミーが目を向けると、アルテラはブルーを見つめたまま頷いた。
一度会ったことがあるだけだが、以前はもっと物怖じしない様子に見えたのに、今日は随分と避けるものだと疑問を抱いていると、どうやらブルーの感じたことは間違っていなかったらしい。ジョミーも首を傾げている。
「どうしたアルテラ?やっぱり具合が悪いのか?」
「……別に」
首を振るだけで何も言わないアルテラに、ジョミーは肩を竦めてブルーに目を向けた。
「気にしないで下さい。照れてるだけだと思います」
どちらかといえば警戒しているのではないかと思いながら、仲の良い様子の兄妹に苦笑する。
「ち、違うわよ!ジョミーの馬鹿!ミスター・イリアッド、行きましょう!」
抱きついていたジョミーの腕を振り払ったと思うと、少し前に出たアルテラは突然ブルーの手を握って足を速めた。
「あっ!おい、アルテラ!ブルーは怪我をしてるんだぞ!」
小走りのアルテラの速度は、ブルーにとっては少し早く歩く程度のものだ。昨日に続いて大して傷も痛まないのでそれは構わないが、それよりも繋がれた手の方が気になる。
「おい……」
「そのまま聞いて」
ブルーの手を引きながら振り返ったアルテラは、静かにするようにと立てた指を唇に当てると、ブルーの後ろから慌てて追いかけてくるジョミーを気にするように少しだけ目を動かした。
「昨日からジョミーの様子が少し変なの。ジョミーはなんともないって言うんだけど、思念を完全に閉ざしてる」
ジョミーに追いつかれる前にと急いで早口で告げるアルテラに、ブルーは眉を寄せた。
「家族であろうと、許可がない相手の思念を読むことは禁止されているはずだ」
「だから、ジョミーはわたしには許可をくれるの。ううん、何を考えているかまでは読まないわ。でもなんとなく感じていることとか、今の大体の気分とか、曖昧な感覚には触れさせてくれるの。でも昨日からはまったく何も感じない。ジョミーが閉ざしてしまっているんだわ」
「誰だって触れられたくないときくらいあるだろう」
閉ざしているというからには、ジョミーは思念を自由意志で閉ざすことができるようだ。あの年の人間には珍しいことだが、家族にミュウがいるならある程度は思念の扱いに慣れるのかもしれない。
だが陽気で明るく笑うジョミーが思念を閉ざす術を完璧に身につけているというのは少し意外だった。思念に触れることを妹に許可しているというように、漠然とした感覚までならオープンにしているタイプに見える。
「分かってる。でもおかしいような気がするの。お願い、ジョミーのこと見ててあげて。わたしには絶対に弱い顔は見せてくれないの」
家族としての違和感か、それともミュウの鋭い感受性か、どちらにしろアルテラの危惧は分かったがそれを託されたことに困惑せずにはいられない。
「なぜ僕にそんなことを」
ジョミーの友人ならサムがいる。
ジョミー自身ともそこまで親しくもなく、アルテラにとっても一度しか会ったことのないブルーに頼るより、アルテメシアからの知り合いのサムに頼むほうが筋だろう。
ブルーの疑問に、アルテラは溜息をついて首を振る。
「サムはだめ。正直すぎるからジョミーに直接聞いちゃうわ」
「だが僕は……」
家族にすら微かな違和感しか抱かせないことに気づけるほど、ジョミーとは親しくない。
そう言いかけたブルーに微笑みを見せて、アルテラは繋いだ手に力を込めた。
「でもあなたなら、きっと大丈夫。……ジョミーのこと、好きになってくれてありがとう」
この少女が何を言ったのか、最後の言葉が一切理解できなかった。
トォニィたちシャングリラのメンバーがノアに帰りつくまでにクリアしなければならないことが多々あるんですが、どれだけ詰め込む気だと今更思いました。
というか、いつになったらトォニィやフィシスの出番がくるんだ……。
目次
『地球を離れ再びノアへと航行中のシャングリラからの通信によると―――』
音声読み上げ機能でニュース記事を聞きながらコーヒーを口にしてたブルーは、呼び出しを告げる電子音に思わず溜息をついた。
怪我が良くなってからでも好きにしたらいいと伝えたことで、ジョミーにとっても送り迎えの時間は特に貴重なものではなくなったはずだった。
そう話した当日の放課後は返すものがあると伝えていたから教室の前で待っていたことに不思議はなかったが、結局今朝も迎えが来たようだ。
律儀なことだと苦笑を零しながら立ち上がったブルーは、呼び鈴に応じようとインターフォンの画面に手を伸ばす母親を制する。
「僕の迎えだから」
「迎え?」
「怪我をさせたことに対する詫びだそうだよ」
「あら……それじゃあ……」
インターフォンから手を引きながら言葉を濁す母親に、ブルーの機嫌は一気に下降した。ジョミーがミュウではないと言われても、あのときのやりとりがまだ彼女の中には残っているのだろう。
この人のこんな行動は今更だ。だが自分に向けられるものなら慣れたとしても、それを友人に向けられることはまた別の不快がある。
ブルーの咎めるような視線に気づいたのか、母親は気まずそうに顔を逸らし、ブルーもまたそれ以上は何も言わずにリビングを後にした。
玄関の扉を開けると、門扉の外で待っていたジョミーが満面の笑みを見せる。
「あ、おはようございます!」
「ああ……」
門扉までの短い道を歩く間にも、外で待つジョミーは尻尾を振らんばかりの様子で待ち構えている。
その笑顔を見ていると、先ほど母親に覚えた苛立ちが消えてなくなるような気がした。
ああ、まったくそうだ。あの人のあれは今に始まったことではない。いちいち気にしても消耗するだけだ。
門扉を開けようと手をかけたブルーは、ジョミーの後ろから黒髪を揺らしてひょっこりと顔を出した少女に驚いて一瞬、手を止めた。
「おはようございます。ミスター・イリアッド」
「……おはよう」
「ごめんなさい、今日は途中までアルテラも一緒に行くんですけど、だめでした?」
「いや、構わない」
予想外のことで驚いたのと、いよいよ母親が対応しなくてよかったと思っただけだ。
「だがジュニアスクールとは道が違うんじゃなかったか?」
「今日はスクールの前に支援センターに寄る事になって。通り道だからぼくが送ることになったんです」
門扉を出たブルーに、ジョミーが自然な動作で手を差し出した。ブルーも鞄を渡そうと肩紐に手を掛けると、ジョミーの腕にぶら下がっていたアルテラがぐいと強く引いてジョミーが後ろによろめく。
「おい、アルテラ!」
「構わない。彼女が一緒なのだから、今日は彼女と手を繋いであげるといい」
「でもそれじゃなんのためにぼくが来たのか……」
「鞄を持つのは口実なんだろう?」
半ば揶揄するように昨日のジョミーの告白を口にすると、途端にジョミーは顔を真っ赤に染めた。
「それは……その」
「責めているわけじゃない。だから彼女の手を取っていればいいと言っただけだ」
小さく笑みを零すブルーを、ジョミーの腕に取り付いたアルテラがじっと見つめていた。
「しかし休日でもないのに、センターに行くというのは穏やかではないな。どこか具合が悪いのか?」
思念の扱いに苦心する目覚めたばかりのミュウの年少者たちには、それを指導するためのセンターがある。参加は自由意志に任されるが、思念を扱いきれないことに一番苦痛を覚えるのは本人なので、ほとんどの者が一時期はお世話になるという。
しかしあくまで支援が目的の場所なので、大抵は放課後であったり休日であったり、通常の日常生活に障りのない時間を選んで通うとリオからは聞いている。
歩きながらでもジョミーの腕を放さないアルテラに目を向けると、正面から視線がぶつかった。ジョミーを挟んでずっとブルーを見ている様子に、観察されているような気がして少し不愉快になる。
「いえ、アルテラは他の子よりサイオンが強いから、少し調子が悪いと一応検診しておこうってだけのことなんです。な?」
ジョミーが目を向けると、アルテラはブルーを見つめたまま頷いた。
一度会ったことがあるだけだが、以前はもっと物怖じしない様子に見えたのに、今日は随分と避けるものだと疑問を抱いていると、どうやらブルーの感じたことは間違っていなかったらしい。ジョミーも首を傾げている。
「どうしたアルテラ?やっぱり具合が悪いのか?」
「……別に」
首を振るだけで何も言わないアルテラに、ジョミーは肩を竦めてブルーに目を向けた。
「気にしないで下さい。照れてるだけだと思います」
どちらかといえば警戒しているのではないかと思いながら、仲の良い様子の兄妹に苦笑する。
「ち、違うわよ!ジョミーの馬鹿!ミスター・イリアッド、行きましょう!」
抱きついていたジョミーの腕を振り払ったと思うと、少し前に出たアルテラは突然ブルーの手を握って足を速めた。
「あっ!おい、アルテラ!ブルーは怪我をしてるんだぞ!」
小走りのアルテラの速度は、ブルーにとっては少し早く歩く程度のものだ。昨日に続いて大して傷も痛まないのでそれは構わないが、それよりも繋がれた手の方が気になる。
「おい……」
「そのまま聞いて」
ブルーの手を引きながら振り返ったアルテラは、静かにするようにと立てた指を唇に当てると、ブルーの後ろから慌てて追いかけてくるジョミーを気にするように少しだけ目を動かした。
「昨日からジョミーの様子が少し変なの。ジョミーはなんともないって言うんだけど、思念を完全に閉ざしてる」
ジョミーに追いつかれる前にと急いで早口で告げるアルテラに、ブルーは眉を寄せた。
「家族であろうと、許可がない相手の思念を読むことは禁止されているはずだ」
「だから、ジョミーはわたしには許可をくれるの。ううん、何を考えているかまでは読まないわ。でもなんとなく感じていることとか、今の大体の気分とか、曖昧な感覚には触れさせてくれるの。でも昨日からはまったく何も感じない。ジョミーが閉ざしてしまっているんだわ」
「誰だって触れられたくないときくらいあるだろう」
閉ざしているというからには、ジョミーは思念を自由意志で閉ざすことができるようだ。あの年の人間には珍しいことだが、家族にミュウがいるならある程度は思念の扱いに慣れるのかもしれない。
だが陽気で明るく笑うジョミーが思念を閉ざす術を完璧に身につけているというのは少し意外だった。思念に触れることを妹に許可しているというように、漠然とした感覚までならオープンにしているタイプに見える。
「分かってる。でもおかしいような気がするの。お願い、ジョミーのこと見ててあげて。わたしには絶対に弱い顔は見せてくれないの」
家族としての違和感か、それともミュウの鋭い感受性か、どちらにしろアルテラの危惧は分かったがそれを託されたことに困惑せずにはいられない。
「なぜ僕にそんなことを」
ジョミーの友人ならサムがいる。
ジョミー自身ともそこまで親しくもなく、アルテラにとっても一度しか会ったことのないブルーに頼るより、アルテメシアからの知り合いのサムに頼むほうが筋だろう。
ブルーの疑問に、アルテラは溜息をついて首を振る。
「サムはだめ。正直すぎるからジョミーに直接聞いちゃうわ」
「だが僕は……」
家族にすら微かな違和感しか抱かせないことに気づけるほど、ジョミーとは親しくない。
そう言いかけたブルーに微笑みを見せて、アルテラは繋いだ手に力を込めた。
「でもあなたなら、きっと大丈夫。……ジョミーのこと、好きになってくれてありがとう」
この少女が何を言ったのか、最後の言葉が一切理解できなかった。
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