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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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No.122 理解不能
ホワイトデー更新その2。教授ブルーと学生ジョミーの話をば。
一応バレンタインデーの話からの続き。(バレンタイン話
やっぱり3月14日当日より数日前の話から始まります。



「お兄ちゃん、ホワイトデー楽しみにしてるから」
笑顔で告げた妹のレティシアに、ジョミーは僅かに頬を引きつらせた。
「……三倍返しとかは、将来の彼氏に期待しろ」
「えー!別にすごいものをねだってるんじゃないのに」
「ホテルシャングリラのケーキなんて十分高い!」
しかもレティシアがねだったのはカットケーキではなく、ホールでだ。
指で軽く額を突くと、嫌がって避けながらレティシアは可愛らしく頬を膨らませた。


妹へのホワイトデーのお返しは、ホールケーキとまではいかないまでも希望通りホテルのケーキを用意するつもりで、ジョミーはふと最近懇意になった大学の教授のことを考えた。
ブルーには先月の14日、壊滅的な味覚音痴お勧めの店とは思えないような料理の美味しいレストランで、バレンタインデー限定のお勧めメニューをご馳走になった。
カップルが溢れる店内で、男同士でバレンタインメニューは少々気恥かしかったけれど、この日限りと言われるとつい限定メニューを頼みたくなると言ったブルーの気持ちもよく分かる。
最初は値の張りそうな外観と内装に緊張で硬くなっていたが、いざ運ばれてきた食事に手を付けると、あまりの美味しさに思わず笑みを零してしまったほどだ。
……そんな料理にすら、ブルーは調味料を惜しげもなく振りかけたけれど。
何かお返しをしたほうがいいのだろうか。
あれに釣り合うお返しは無理だとしても、せめて心ばかりのものでも。
けれどあれは別にバレンタインの贈り物でもないのだから、ホワイトデーに何か返すのもおかしな気がする。
腕を組んでしばらく考えたジョミーは、まだ日付に余裕もあるし、明日弁当を届けに行ったときにそれとなく話を向けてみようと結論付けた。

「ジョミー、14日に予定はあるかい?」
弁当を届けに行くと、こちらから訊ねるよりも先に予定を聞かれてしまった。ジョミーの予定を尋ねるということは、ブルーは空いているのだろう。バレンタイン当日もジョミーと過ごしていたのだから今更だが、これは本格的に恋人などいないのだろう。女性受けは良さそうな人なのに。
ジョミーは弁当の包みをデスクに置きながら、荒れ放題の研究室を見回した。
もっとも、この部屋の有様を見たら百年の恋も冷めるかもしれない。
「ジョミー?」
「あ、はい。大丈夫です。空いてますけど、何かご用ですか?」
「いや、この間のレストランで今度はホワイトデー限定メニューがあってね。あの店は君も気に入ったようだから、また食事でもどうかと思って」
「そんな!この間ご馳走になったばかりなのに、悪いですよ!」
「気にすることはない。僕の我侭だ。考えてもみたまえ。14日にあの店で一人で食事をするのは空しい気がしないか?」
言われて想像してみる。
カップルの溢れる高級レストランで、一人で食事。普通の日の普通の食事ならともかく、ホワイトデー限定メニューを一人で食べるとなると……ともすればフラれたようにも見えるだろう。男二人でも楽しげに食事をしていれば限定メニュー目当てと正当に解釈されるとも思う。
「でも……奢ってもらってばかりじゃ悪いし……他に誘う人とか、いないんですか?」
わざわざ知り合い程度のジョミーを誘うくらいだからいないのかもしれないけれどと、一応訊ねてみてもブルーは肩を竦めるだけだ。
いないのかと思えば、ブルーは眼鏡を外しながら苦笑を零す。
「僕は君と行きたいんだよ」
レンズを隔てずに赤い瞳と目が合うと、胸の奥で大きく鼓動が跳ねた。
それが一体なんだったのか、思わず胸に手を当て言葉を捜すジョミーに微笑みながら、ブルーは軽くレンズを拭って眼鏡を掛け直す。
「ジョミーが付き合ってくれたら嬉しい」
あのレストランの料理は美味しかった。ブルーは食べに行きたがっている。一人で行くには敷居が高いという気持ちもよく分かる。
けれど、先月に奢ってもらったのに今月もということがどうしても気になる。いくらお返しといっても、まさかジョミーが奢ることが出来るような店でもない。
「えっと……」
「駄目かな?」
「駄目って……言うか……」
レンズの向こうの赤い瞳が僅かに陰って、ジョミーは慌てて手を振った。
「だって、ホワイトデーってあの量のお返しもあるんでしょう?その上ぼくが奢ってもらうなんて悪いし……」
先月の14日、一緒に食事に出かける前にこの部屋を訊ねたとき、デスクの上に山積みになっていた包みを見た。正確には数えていないが、かなりの数があったはずだ。賄賂代わりのチョコはともかく、事務の人たちとか、個人的な知り合いにはお返しをするだろう。
まさか賄賂のチョコが半分もあるとは思えないから、義理返しとはいえあれは相当な額になるに違いない。
「まあ……それなりに数はあるが、どうせ大した物を返すわけでも……ああ、そうだ」
ブルーは両手を組んでその上に顎を置くと、にっこりと綺麗に微笑んだ。
ジョミーだっていい加減、それが何かを企んでいる笑顔だとくらいは悟れる。
「君がお返しの菓子を作ってくれないか?」
「……はあ!?なんでぼくが!?」
どうしてそんな話になるのかと思わず裏返った声を上げて自分を指差せば、ブルーはわざとらしく重々しい様子を作って頷く。
「そうすれば僕の出費も押さえられ、君も僕に何か返した形になるから一緒に食事に行っても、正当な報酬だと思えるだろう?」
「え、でも、義理とはいえホワイトデーのお返しですよ?」
「手作りなんて心が篭っているじゃないか」
それはあなたが作って返した場合では。というか、バレンタインならともかくホワイトデーに手作りでお返しなんてあまり聞いたことがない……。
心の中ではそう呟いていたのだが、名案とばかりに目を輝かせるブルーにそうと正面から言えなくて、ジョミーは溜息を零した。

しかしジョミーが本当に驚いたのは、無事に件のレストランでブルーと差し向かいで14日のホワイトデー限定メニューに舌鼓を打った、その翌日のことだった。
正当な報酬とは言われたけれど、奢ってもらったお礼にと連日で弁当を持参した、その通りすがりの事務室から聞えてきた会話に思わず足を止める。
「ブルー教授に恋人が居たなんて、ショックだよねー」
開けっ放しのドアから僅かに見える光景からすると、どうやらお茶の時間のようだ。姿が見えたのは一人だけだったものの、その女性が摘んでいるのは一昨日ジョミーがブルーに渡しておいた、ホワイトデーのお返しのクッキーだった。
せっかく作ったからついでにとレティシアにもクッキーでお返しをして、手抜きだと怒られたそれだ。
それにしても、ブルーに恋人がいたとは何の話だろう。バレンタインもホワイトデーもブルーはジョミーと過ごした。それなのに恋人がいるのだろうか。
「えー、やっぱりそういうこと?」
「当たり前よ。こんな手作りクッキーでお返しって……思い切り牽制されたようなものじゃない。『私の男に手を出すな』ってことでしょ。包装まで可愛くしちゃって」
それはレティシアに手抜きだと怒られたから、せめて見た目だけでも整えようとしただけのことで。
誤解だと事務室に乱入したいけれど、ジョミーはまだこの学校の正式な学生ではないのに敷地に入っている身だし、第一ホワイトデーのお返しに本人ならまだしも、他の人の手作りお菓子だっただなんて勝手に公言するのもどうだろう。
「それに教授も、いかにも恋人がいることをアピールしてるみたいなお返しを、それは嬉しそうに渡してきたでしょ?あれは恋人自慢も入ってるわね」

「教授!大変な誤解をされてますよ!誤解を解かないと!」
慌てて階段を駆け上がって研究室に飛び込むと、経緯を説明されたブルーは、別に慌てた様子も、気を悪くした様子も見せずに、逆に笑顔で首を傾げる。
「どうしてだい?」
「どうしてって……だって、恋人がいるなんて誤解されてたら、本当の恋人ができませんよ?」
「構わないさ。いっそ君を恋人だと公言したいくらいだね」
「はあ!?」
「ああ……でももうすぐ入学するのに、それはさすがに良くないかな。せっかくジョミーが入学するのに、学生に手を出したと職を追われたらもったいない」
もったいないどころの話ではないと思う。大体、一万歩譲って女子学生ならまだしも、男子学生に手を出したなんて言われては大問題だと思うのだが。
冗談だと言うどころか、公表するとしたら卒業してからだね、なんて冗談を重ねる理解不能な相手に、ジョミーは頭痛を覚えて額を押さえながら溜息を零した。
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