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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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過去の情景について、細かな点はアニメや原作とは異なっていることがあります。理由があるときもあれば、単にセリフや動作に自分の記憶の自信がないからというだけのこともあります。
今回は後者(^^;)
でもリオがいないのは仕様です(笑)


目次

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気がつくと薄暗い部屋の中に立っていた。
仄かな青い光に照らされた部屋は、どこからか水の音が聞える。
「ここは……」
どこかで見覚えがあるような気がするのに、記憶のどこにも掛からない不思議な場所。
薄暗い明かりに目が慣れてくると、部屋の中央へ続く一本の通路が走っていることに気がついた。その先には、大きなベッドがひとつ置かれている。
確かに見覚えがある、とは感じた。だが部屋の全容が見えてくるほどに、見飽きた気分になるのは何故だろう。そこまで馴染みのある場所ではないはずなのに。
周囲を見回しながら歩を進め、支柱を持たないのに宙に浮く天蓋を持つベッドの傍らに立った。
「技術の無駄遣いだな」
持ち主の趣味なのか、それとも何か雰囲気でも出そうとしているのかと、無造作にカーテンを払ってみたが、そこには誰もいない。
「一体ここはどこなんだ」
溜息をついたところで、背後から誰かが駆けて来る騒々しい足音が聞えてきた。

振り返ったブルーの視界に、明るい金色の光が飛び込んでくる。
「ジョミー」
昨日からブルーの頭を悩ませている原因の少年の登場に、ブルーは天井を見上げて溜息をついた。
また君か。
だがブルーがそう零すより先に、扉を潜って部屋に入ってきたジョミーは荒い足取りで喧嘩腰に声を荒げる。
「来たぞ、ソルジャー・ブルー!」
その態度の悪さにブルーの眉間にしわが寄った。
「僕は君なんて呼んでいない。勝手に来ておいてなんて言い草……」
「ぼくはミュウなんかじゃない!」
咎める前に、更に意味の分からない言葉をぶつけられる。
「昨日の話か?あれは……」
これだから人と関わるのは面倒なんだと、忌々しげな溜息を零しながら髪の掻きあげたブルーは、ふとその手を止めた。
「……ソルジャー・ブルー?」
駆け込んできたジョミーは、確かにそう呼んだ。
ソルジャー・ブルーはブルーの名の元になったであろう人物ではあるが、ブルーのことではない。いくら『ジョミー・マーキス・シン』と『ブルー』が揃ったからといって、変な小芝居につき合わされるのは真っ平だ。
ムッと眉を寄せたブルーを、ジョミーは眦を上げて睨みつける。
初めて見せるその表情。
泣き出しそうな表情や、嬉しそうな笑顔、申し訳なさそうに肩を小さくすぼめて落ち込む様子。たった一日しか経っていないのに、あんなに色々な表情を向けられるなんて、他人と関わりを持つことを忌避するブルーにはあまり経験のないことだ。
その中でも、この表情はなかった。
純粋な怒りを秘めたその瞳は、まるでその中央に炎を宿しているのかと思うほどの生命力に満ち溢れ、緑玉よりも鮮やかに輝く。
言葉を失うブルーの前で、ジョミーは握り締めた拳を振るった。
「ぼくを家に……アタラクシアに帰せ!」
叩きつけられた言葉に唖然とするブルーの反応など見てもいないように、ジョミーの興奮状態が治まる様子はない。
帰せと言われても。アタラクシアとは……確か、アルテメシア星の首都がそんな名前だったはずだ。
「転校したくなかったとかいう話なら、僕にするのは筋違い……」
半ば呆けたまま、それでも反射のようにボソボソと言い差したところで、違和感に口を閉ざした。
おかしな点なら最初からすべてがそうだ。気がつけば見覚えはあるがどこかも知らない場所に立っていて、駆け込んできた顔見知りの少年は訳の分からない文句ばかりぶつけてくる。
だが最大の違和感は、目の前のその顔見知りの少年自身にあった。
どことはっきりとは言えないが、強いてあげれば全体的に何か違和感がある、としか言いようがない。
どうしたものかと沈黙するブルーを睨みつけていたジョミーは、突然はっとしたように息を飲み、ブルーの背後に視線を送る。
その視線を追って振り返っても誰もいない。
一体なんだとジョミーに目を戻すと、当のジョミーは既に背を見せて歩き出している。
「ちょっと待て!説明くらい……」
肩越しに振り返ったその視線。胡散臭いと言う不審を残しているのに、まるで去り難いような……。
思わず、手が伸びていた。
「行くな、ジョミー!」

「はい、行きません」
表情とは裏腹に、素直な返事が返ってきた。
いつの間に顔を腕に伏せていたのか、はっと起き上がるとそこは見知らぬ部屋ではなく、見慣れた教室の中だった。
周囲の不審そうな、好奇を含んだ、そんな視線が集まっていて、ブルーは眉を寄せて机から起き上がる。
居眠りか。
おぼろげなイメージしか残っていない夢の、更にその向こうの記憶を辿ると、たしかとてつもない睡魔が襲ってきて、しばらく戦った後にあっさりと降伏したような気がする。
そういえば、痛み止めを処方した医者は、ごく稀に副作用として強烈な眠気を覚えることもあるという話をしていた。
「くそ……あれのせいか……」
まだ眠気の残る頭で腕時計を見るとすでに昼休みの時間だ。時計を見ながら額を押さえようとして、右手が自由にならないことに不審を覚えて自分の手に目を向ける。
誰かの手がある。掴んでいるのは相手ではなくてブルーだ。自由にならなかったのは、その手に指が食い込むほどにきつく握り締めていたせいだろう。まるで言うこと聞かない手をどうにかしようと、左手で右手の手首を思い切り掴む。
硬直したように固く力を込めて手首を絡め取っていた指が、ようやく掴んでいた手から剥がれた。
息を吐くブルーが先ほどまで握っていた手はすいと引かれて姿を消したが、机の前に立つ人の気配は変わらずそこにある。
「ご用はなんですか?」
聞き覚えのありすぎる声に、ブルーは力の込めすぎで固くなった指を解す動作をぴたりと止めた。
ゆっくりと視線を上げると、予想に違わず、犬なら尻尾を振っていそうな嬉しそうな様子で、後ろに手を組んだジョミーが立っていた。
ジョミーが女の子な分、アニメよりちょっと心配性なサム、のつもりであって、サムに恋愛感情はありません。彼にとっては、今回のことがあるまでジョミーは男友達感覚だったので(^^;)


目次



キースには「犬みたいに嬉しそうに」なんて冗談混じりの比喩で言ったものの、一人校舎へ入って行く先輩の背中を見送るジョミーの残念そうな様子は、主人に置いて行かれた犬を連想させて、あまり笑えない。
それとも思い込みが入っているのだろうか。もしかして、ジョミーがあの先輩のことを好きになっているんじゃないか、という心配で。
「おい、行かないのか」
ジョミーの様子に気づいていないのか、興味がないのか、キースが軽く肩を叩いて促すと、ようやくジョミーは軽く首を振って気を取り直したようだった。
「行くよ。こんなところに突っ立ってても仕方ないし」
歩き出したジョミーからは、もうそんな寂しそうな様子はなくなっていたけど、一度見た表情が気になって仕方がない。
「……おい、ジョミー。放課後はやっぱり俺が行くよ。先輩に怪我させたのって、俺にも責任あるしさ、交替で行くことにしようぜ」
「いいよ、ぼくが行く」
「なんでだよ。お前にばっかり負担を掛けるわけにいかないだろ」
「サムには無理だよ。だって先輩、手伝いなんて何もいらないって突っぱねるし。強引に押していかないといけないんだぞ?」
あの素っ気なさで毎回突っぱねられてもめげずに食い下がる……というのは確かに骨が折れそうだ。
僅かに怯みかけたものの、それではとジョミーに任せるのはやはり気が引ける。
「大丈夫だって。俺だって相当なお節介って言われるくらいだし」
自信満々で言うことでもないことを胸を張って言い切ると、ジョミーが反論するより先にキースが口を挟んできた。
「それより、そこまでいらないと言われたなら、それこそ放っておいたらどうだ。ブルーはそういったものは嫌うと教えただろう」
サムとジョミーの押し合いに、傍で聞いていたキースは呆れたように嘆息を漏らす。
「どうも見たところ、常に付き添いが必要なほどの状態ではないようだし、それだけアピールしておいたなら、必要があればブルーから呼び出すだろう。遠慮するという柄の男ではないしな」
「それもそうだよな。なあジョミー、キースの言う通りにするのが一番じゃないか?俺やお前より先輩のことわかってるだろうしさ」
きっとそれが一番いい。見たところあの先輩から呼び出すようなことは滅多にないと思えるし、そうすればジョミーがあの人に近付く機会はぐっと減る。
おかしな評判さえなければ、いかにも人気が高そうで難しそうな相手でも、頑張れと言えたかもしれないが、女生徒絡みで問題を起こしがちと聞いては、さすがに親友が心配で到底応援する気にはなれない。
だがキースの助言も、サムの危惧も飛び越えて、ジョミーは足を止めて長身のキースを見上げる。
「キースはあの人と、そんなに親しいのか?」
強い口調ではなかったけれど、キースの足が止まった。

時折。そう、本当にごくたまに、ジョミーの様子が一変するときがある。
普段サムと泥だらけになって走り回っているときは、男っぽいだけでどこにでもいる子供にしか見えないのに、静かな表情で、ひたと相手を見据えると、誰もが目を逸らせなくなる。
そんな瞬間が、ジョミーにはある。
例えばアルテラがミュウであることを誰かに疎まれたときがそうであったし、サムの弟がミュウに覚醒した時もそうだった。
ジョミーは手を上げることも声を荒げることもなく、アルテラを背中に庇って、妹を傷つけた相手を静かな瞳で見つめて黙らせた。その視線に怯えたのではなく、ばつが悪そうに俯いた相手の少年は、小さな声で謝って、二度とアルテラを傷つけるようなことは口にしなかった。
サムの弟がミュウに目覚めたとき、急に得た力に戸惑いながら強がっていた弟から本心を引き出したのもジョミーだった。パパとママを不安にさせたくないと零した弟の背中を優しく撫でながら、「子供の間くらいは親に心配をかけたっていいんだよ」と、まるで大人のようなことを言って。
「パパたちは、どうせぼくらがどれだけ大丈夫って言ったって、何でもないことでも心配したりするんだ。いつも強がっていたら、ママたちはどんなことにも心配する。たまには甘えて寄りかかってあげるのも親孝行さ」
ジョミーの言う恩着せがましい親孝行に苦笑したあと両親に正直に不安を口にした弟は、不安定になっていたサイオン数値が安定したと聞いた。
アルテラも、弟も、普段は恥かしがって口にしたり態度に出したりはしないけれど、ジョミーのことを心から好いている。きっと弟なんて、実の兄であるサムよりジョミーのほうをより信頼しているに違いない。

そんなことを思い出していたサムは、蛇に睨まれた蛙の状態で硬直しているキースに同情の溜息をついた。
ジョミーが纏う雰囲気は決して攻撃的ではないのだが、曖昧さを許さない厳しさがある。今回は「怒らせるな危険」の方の琴線に触れたらしい。
「おい、ジョミー。そう睨んでやるなって」
後ろから軽く肩を押してやれば、ジョミーは前へたたらを踏んで目を瞬いた。
「睨んでないよ。失礼だな。純粋な疑問ってやつだろ」
いつもの様子に戻ったジョミーに、キースは目の調子を確かめるように軽く右の瞼に手を当てている。
その気持ちはとてもよくわかる。ジョミーはどこかにスイッチでもあるのかと思えるくらいに、切り替えたときのギャップが激しい。
「で、どうなのさ。キースはそぉーんなに、ブルーと仲がいいの?」
改めてキースを見上げたジョミーは、先ほどの雰囲気とは違うものの、それでもにっこりと笑顔を見せる。
どこか感じる重石のような重圧に、キースは沈黙に落ちた。
サムは友達思い。ブルーは自分の気持ちに無自覚。ジョミーはどちらの内心も分かってない。キースは鈍い。
このメンバーだと話がややこしくなるだけのような……(苦笑)


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「ジョミー!」
後ろから足音も騒がしく駆けてくる少年の声に、ブルーの眉間にしわが寄った。
あの下級生には特に非はないはずだ。今も斜め後ろから話し掛けてくるジョミーとは違い、ブルーにやたらと関わってくるわけではない。今だって彼が呼んだのはジョミーだ。
だというのに、つい身体が急ぐように僅かに前のめりになる。
気が付けば空いていたらしい距離は、向こうが少し走ると簡単に詰められた。
後ろから引っ張られたらしく、触れるような距離にいたジョミーが不自然な動きで視界の端から急に消える。
空いた右側につい振り返りそうになって、首に力を入れてそれを避けた。
「お前、はえーよ。先に行くなって」
「ぼくも先輩も速くないよ。サムがゆっくりしすぎなんだろ。ほら、キースなんて走ってなくてももう追いついた」
「コンパスの差があるからな」
「…………うわあ……すごいな……」
「キース……悪気がないからって何でも許されると思うなよ!」
「僕は何かおかしなことを言ったか?」
すぐ後ろの喧騒に、ブルーは更に少し前のめりになる。
キースは自分と同種に近い人間だと思っていたが、少し違うようだ。彼は人が嫌いなのではなくて、単に心の機微に鈍いだけらしい。だから友人は少ないが、心を許した相手を持つ事も、自らも歩み寄ることもする。
ブルーにはひとり友人がいるけれど、彼がいい加減に呆れてブルーから離れて行けば、果たして追いかけるだろうか。恐らくは否、だ。
キースとマツカもそんな関係だろうと見ていたけれど、そうではないかもしれない。キースは、マツカの優しさに報いることもあるかもしれない。
そしてジョミーは明らかに、そんなキースたちといるほうが似合う少年だ。
ブルーの世話を焼きたがる様子は一生懸命で誠実で、どれほど明るく振舞っていてもそこにはどこか必死な痛々しさがある。
だがキースやサムと過ごすジョミーは、快活な彼らしい様子が伺える。
馬鹿馬鹿しい。関係が違うのだから当然だ。
ジョミーはサムと友人で、恐らくそのサムを通してキースとも友人になって、けれどブルーとはあくまで責任を挟んだ関係。
だったら無理をしてまで、ブルーの世話を焼こうとしなければいいのに。こちらが生活の補助をしろと言ったわけでもないのに勝手に押しかけて、義務感を振りまくくらいならこなければいい。

学園の門が見えたときには、ほっと息をついてしまった。
何に対して安堵したのかと思えば、そんな些細な行動さえも面白くない。
「もう着いた。鞄を」
振り返って手を差し出せば、ジョミーはそれを忌避するようにブルーの鞄の肩紐を握り締めてブルーから少し遠ざけた。
「教室までまだあります」
「教室まで着いてくる気か?」
「したいようにすればいいって言ったのは先輩じゃないですか」
確かにそうは言ったけれど。
ジョミーがただ難色を示しただけなら更に不快が煽られたかもしれないけれど、彼は拗ねたように唇を尖らせて抗議する。
ジョミーの見せる素直な感情表現は、時にブルーを苛立たせるのに、時に落ち着ける。よく分からないが、とにかく今は嫌な気分ではなかった。
いちいち揉めるのが面倒で好きにしろと言ったのだから、もって行きたいと拗ねるならそうさせようか。
ブルーがそう手を引っ込めようとしたところで、ジョミーの肩から別の手が鞄をひょいと取り上げた。
「あっ、サム!」
「お前ね、お世話するのはいいけど、限度ってもんを考えろよ。何でもかんでも自分がやりたいことをやるんじゃなくて、相手の要望に応えるのが『いい具合』ってもんだろ。やりすぎるとただの押し付けだぞ」
サムはジョミーに苦言を呈すると、むっと頬を膨らませたジョミーからブルーへと視線を移して、笑顔で鞄を差し出してくる。
「すみません、先輩。こいつにはあとでちゃんと言って聞かせますから」
一瞬だけ浮かびかけた言葉をすぐに振り切って、ブルーは淡々と頷いて鞄を受け取った。
「そうしてくれ」
彼が言ったことは間違っていないし、ブルーの要望にも叶っている。
それなのに、まるで無理やり嘘を口にしたように違和感が残る。
鞄を肩に掛け直すと、礼も言わずに背を向けた。そうでもしなければ、自分でもおかしな表情をさらしそうな気がしたのだ。
「あ、先輩!放課後もぼく迎えに行きますから!他にも何かあったら連絡くださいね!」
慌てたようにジョミーが声を張り上げたけれど、ブルーは振り返りもしなかった。

校舎に足を踏み入れると、ちょうど階段を降りて来たところだった友人と出くわした。
「おはようございます、ブルー。教室から見えたので迎えに来ましたよ。鞄を持ちましょう」
偶然ではなく、彼も迎えだったらしい。
「……余計なことを」
口にした言葉に、胸のつかえが取れたような気分になった。先ほどジョミーの友人に向かって言いたかったのはこちらだったらしい。
ブルーの要望に叶うのに、何が余計なのか。
奇妙なことだと自分自身を訝りながら、リオには素直に鞄を渡した。

サムの視点にて。
気が付いたらジョミーとの会話まで辿り着かず、サムとキースばっかりの回に。


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ごくごく一般的に暮らしてきたと自負している身は、注目を集めることに慣れていない。
手ぶらでさっさと歩く先輩に、その鞄を預かって後ろをちょこちょこと付いて歩いては話し掛けている親友と、今自分の隣でその二人の様子に呆れたような目を向けるもう一人の親友と。
「……目立つんだよ、お前ら」
そう呟かずにはいられなかった。

「サム、どうした?」
溜息をついたサムに気づいたのは隣にいたキースで、先を行っていたジョミーの声を聞きつけて振り返る。
「なにかあった?」
「サムの様子が変だ」
「変ってなんだ、変って。俺だってなあ、キースの横にいたり、ジョミーとつるんだりするのは慣れてたよ。慣れてたけど、一足す一は二じゃなくて五だったり十だったりしたらさすがに気後れの一つもするっての」
おまけに更にもう一つ足されてしまえば桁が違う。
「何を言っている。一と一を足せば二にしかならないだろう。それとも二進法のことか?だがそれでも五や十というのは矛盾が」
「ああもうキース、お前って奴は……」
言葉を額面通りに受け取るなと額を押さえて苦笑いしたけれど、もう一人の親友などは早々に興味を先に行く先輩に戻して追いかけている。
「なんて友達甲斐のないやつ」
「そうなのか?」
「本当にお前って奴は」
わざとらしく涙を拭う仕草をしてふざけてみても、期待していなかった通りキースはそれには乗ってくれなかった。
冗談混じりに落ち込んで見せるのを止めると、頭の後ろで腕を組んで軽く背を反らす。
「それにしても、ちょっと意外かな」
「何がだ」
「ジョミーだよ。あいつは割りと面倒見もいいほうだけど、どっちかっていうと年下とかに対してなんだよな。そういうの。確かに怪我をさせたし悪いのはこっちだけど、忠犬みたいに家の前で待ってたり、犬っころみたいに嬉しそうに後ろについて歩くってタイプじゃないのに」
「そうなのか?……あまり違和感はなかったが」
「まあ、責任感の強い奴だから、分からなくもないっていやー、分からなくもないんだけどさ」
「どっちなんだ」
「言ってて俺も分からなくなってきた」
苦笑するキースに、サムも鼻の下を擦りながら苦笑いを漏らすしかなかった。

もう一度周囲を見回すと、女生徒たちの視線はやはりブルーとジョミーとキースにほぼ等分に分かれているように見えた。
その、ブルーに向けられる熱の篭った視線を見て、ジョミーの背中を見る。
「……あいつに限ってとは思うけど……」
「何を」
今度こそ正真正銘独り言のつもりだったサムは、聞き返されて難しいことを聞かれたように眉を寄せる。
「いや、俺もあいつが面食いだとは思ってなかったけど、知らなかっただけかもしれないし」
「だから何の話だ」
重ねられる問いにサムは思わず髪を掻き毟った。ほとんど男友達としか思えないような親友のそちら向けの話を、どうして自分が考えているのかと思うとかなり馬鹿馬鹿しい気分になってくる。
「ジョミーがあの先輩に惚れちゃったんじゃないかって話」
半ば投槍にそう口にして、言葉に直すと途端に心配になってくる。
ジョミーはああいう格好をしているから分かりにくいが、元は悪くないはずだ。けれど相手があの冷徹な美形だと思うと、どう見てもジョミーの手には負えない。
ジョミーが泣くのは見たくないと思う反面、恋に悩むジョミーという図は想像だけでも難しく、やはり自分の勘違いだろうかと首を捻り始める。
だがキースは別の意味で首を捻っていた。
「サム」
「なんだよ」
顔を横に向けると、キースはサムを見ていなかった。やや複雑そうな表情で、前の二人を見ている。
「彼は同性愛者か?」
「は?俺が知るかよ」
彼、といえばジョミーの隣を歩く先輩しかない。だがそれでは会話が噛み合わない。ブルーの人となりはキースのほうが知っているはずだし、サムは今ジョミーの話をしていたのに。
振り返ってみて、キースの勘違いに気づいたサムは思わず吹き出してしまった。
「お、お前、今のジョミーの話か?」
「そう言ったのはサムだろう」
キースはジョミーを男だと勘違いしている。
無理もない。服装は男のものだし、言動も妹のアルテラの方がよほど少女らしい。周りの視線も、ジョミーに向けられている大半は「可愛い男の子」を見つけた年上の女生徒ものだ。
考えてみれば、もしもジョミーがブルーに対して異性としての好意があるのなら、あの格好はない。
いきなり妹のように可愛くおしゃれとはいかなくとも、少なくとも性別を勘違いされるような格好では迎えに行ったりしないだろう。
「お前、そりゃーさ」
急に気が楽になったように思えて、胸を撫で下ろしながらどうにか笑いを治めようとしている間に、キースの渋面は深くなる。
「僕はそういったことに偏見はないつもりだ。だがブルーは止した方がいいと思うが」
「いや、だから偏見とかじゃなくて」
「いつでもあの調子だからな。昨年はあれでどれだけ女生徒絡みの問題を起こしたか……」
「問題?」
ジョミーに限って、まさかとは思う。思うけれど。
「女癖悪いとか?」
もしもジョミーがあの先輩に好意を寄せているのかもしれないと思うと、それは気が気ではない情報だ。
「逆だ。自分に興味を示す異性に対しては敵意に近い感情を向ける。ブルーが意図しているわけではないようだが、どうも事を大きくする」
「……それはそれで厄介だな」
ジョミーに限って、まさかとは思うけれど。
振り返らない先輩の後ろに一生懸命ついていくジョミーの背中に目を向けると、急に不安になって来た。
ブルーが鈍すぎて思わず苦笑いです。こっちのブルーはまだ17年しか生きてないんだから300歳と一緒にしては気の毒なんですけれど。
みんなマイペースな人たちの中で、サムは気遣いの人。マツカもリオいないと一人で大変です(^^;)

実は書きあがり間近でうっかり一度全部消してしまいまして、書き直し分ですorz
大して変わり映えもしないのに、こういうときって消してしまったものの方がまだ少しは上手く書けていた気がするんですよね……証拠がないから特に(笑)


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「鞄持ちますってば」
「だから、必要ないと何度言えば君は理解するんだ」
後ろから手を伸ばされて、それを振り払う。ジョミーは手伝うつもりなのかもしれないが、どうにもじゃれてきているようにしか思えないのは、その仕草のせいだろうか。
肩紐に掛かった手をもう一度叩き落したところで、昨日を髣髴をさせるかのように、見知った少年と行く道を合流することになった。
昨日と違うことは、連れの少年がいたことと、まっすぐにこちらに向かってきたことだ。
「よおジョミー!おはよう」
「おはよう、サム。それにキースも」
「ああ、おはよう」
サムと呼ばれた少年は、昨日校庭でジョミーと肩を組んだあの少年だ。マツカの話では、確かキースの友人とのことだった。
「迎えに行ったら、おばさんにもう家を出たって言われて驚いたぜ」
「あー、今日はね」
笑顔の少年に、ジョミーも曇りのない笑顔を向ける。
ピリッとした痛みのような感覚が指先に走った。
キースはそんな様子には気づいた風もなくブルーを見て、何も言わずにそのままジョミーに向き直る。
「ブルーのことは気にするなと言っただろう。むしろ面倒がると」
どうせ邪険にされているのだろうという意図が見えたが、本当のことなので黙っておく。それにキースの言うことは正しい。
「そんなわけにはいかないよ。だって骨にヒビが入ってたんだよ!責任取らなきゃ!」
「ヒビ!?昨日の被害者の人なのか!?あ、す、すみません!俺、サムって言います。昨日は俺とジョミーのせいでどんなことに巻き込んじゃって……」
「キースも言った通り、気にしなくていい」
人の良さそうな、感じの良い少年に、なぜか苛立ちを覚える。
素っ気なく通り過ぎ様、視界の端にサムの腕がジョミーの首に回る様子が映って苛立ちは頂点に達した。

「お前さ、なんでそういう大事なことを俺に言わないんだよ」
「だってぼくが勝手に飛び降りなければ先輩を怪我させることもなかった。これはぼくの責任だ。だからブルー先輩のお世話はぼくがする」
「俺もするって」
一人先に歩き出したブルーを慌てて追ったからか、少年たちは声を潜めることを忘れているらしい。会話がすべて筒抜けだ。しかもブルーに取っては大変面白くない話が。
「どちらも必要ないのではないか?」
「キースの言う通りだ」
この際、ブルーの心情を理解したくなくともこういったことでは分かってしまうキースがいるうちに、はっきりさせておこうと振り返る。
ジョミーは昨日の校庭のときのようにサムと肩を組んで、顔を寄せ合ってひそひそ話の体勢だった。右の眉の角度を上げたブルーは、眉間のしわもそのままに二人を睨みつける。
「ヒビについては固定した。それでも痛むときは鎮痛薬も持っている。世話は必要ない!」
睨みつけられて僅かにおよび腰になったサムと、ほらみろと言わんばかりのキースに挟まれて、ジョミーだけは肩を組んだ友人に目を向けた。
「ほら、こう言ってるから、二人で押しかけたら余計にダメなんだって。ぼくがするから」
「どっちかがするなら、そりゃ俺だろ?お前は非力なんだし」
「非力って言うな!」
「僕は人数を減らせといっているのではなく、来るなと言っているんだ」
「大体、世話と言っても何をするつもりだ」
キース本人はこう言われるのは不本意に違いないが、いい助太刀だ。世話など必要ないと、言い含めてくれ。
そんなブルーの考えなど、何度も言われて知っているはずのジョミーがあっさりと無視をする。
「鞄持ちとか」
「持ってないだろう」
「だって先輩が渡してくれないんだもん」
ジョミーは拗ねた口調で唇を尖らせる。
「必要ないからだ」
何度同じことを言えばいいのか、うんざりとしてブルーはまた少年たちを置いて歩き出す。
鞄を肩に掛け直そうとして、動き方が悪かったのか肺の辺りが痛んだが、顔に出さないように奥歯を噛み締めた。

「え、えーと……それにしてもジョミー、お前がこんなに早く登校できるなんて珍しいな」
刺々しい空気が息苦しかったのか、後ろから付いて来ながらサムはいささか苦しい話題転換をする。
「だってお世話に行くのに寝坊してどうするのさ」
「やればできるんならいつもやれよ……昨日も遅刻寸前になったのは誰のせいだと……」
「ぼくにも色々あるんだよ。自分のためだったら起きられるもんか」
「開き直るな……」
とうとうキースも呆れた声で溜息をつく。
「そんなに朝が弱いなら無理をしなくて………待て、君。さっき家の前で待っていたな?一体いつからいた」
もう来るなと言い差して、再び足を止めて振り返る。
ジョミーが家の近くで待っていたことを思い出した。呼び鈴を鳴らされたわけでもなく、あるいはちょうどタイミング良くブルーが家を出た可能性もある。だが恐らくは違う。
「あなたが出てくる、ほんの少し前ですよ」
「だったらどうして呼ばなかった。僕が家を出るのがもっと遅れていたら」
「そうしたら、それまで待つだけで……」
「休む可能性は考えなかったのか?」
怪我をしているのだ。大したことはないと言い続けはしたが、急に休む可能性だってあるだろう。まさか出て行くまで呼びもせずに待っているつもりだったのかと驚けば、ジョミーは初めて気づいたように手を叩いた。
「それは考えてませんでした」
頭が痛い。
「……なぜ呼ばなかった」
額を押さえるブルーに、ジョミーはとんでもないと首を振る。
「だってぼくは先輩に不自由が少しでもないようにお世話するために行ってるんですよ?あなたのペースを乱すつもりはありません」
もう十分乱されている。
声を大にして叫びたい衝動を堪える代わりに、ブルーは深く息を吐き出した。おかげでまた胸が痛む。
世話に来ているのか、怪我に負担を掛けに来ているのかどっちだと問いたいくらいだ。
「……家の傍でずっと待たれるのは迷惑だ」
「すみません……」
近所の目などもあるのだと思ったのか、ジョミーはきゅっと唇を噛み締めて俯く。
「そんな待ち方をされるくらいなら、家まで押しかけられた方が幾分もマシだ」
恐らく、この少年には何を言っても無駄だ。これだけ言っても、少しも聞きはしない。
「……それって……」
弾かれたように顔を上げたジョミーの鼻先に、肩から降ろした鞄を突きつける。
「したいなら鞄持ちでもなんでもすればいいだろう」
「はいっ」
冷たく言われても何がそんなに嬉しいのか、ジョミーは鞄を受け取って笑顔を見せる。先ほど、サムに向けていたような、屈託のない笑顔。

結局、僕が妥協するのか。
空を見上げて息を吐いたブルーは、荷物のない身軽な様子で足を踏み出した。
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