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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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本編に戻ります。
ブルーが避けがちなのでジョミーからアプローチするしかない、というのは新鮮です(^^;)
14歳頃のジョミーなら、友達になりたいと思った相手には積極的にアプローチするか、あるいは自然に仲良くなった、の方かと思うのですが、以前の記憶があってブルーが相手となるとなかなか微妙な感じに。


目次



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「おはようございます、ブルー先輩」
玄関を開けた先で待っていた少年の姿に、ブルーは早くも扉を閉じたくなった。
また明日とは言っていたが、今朝になってみれば訪ねて来る気配がなかったので油断していた。
「鞄持ちます」
「結構だ」
にっこり微笑み両手を差し出したジョミーににべもなく言い捨てると、さっさと学校へ向かって歩き出す。
ジョミーの母親を前に一応は取り繕った昨日とは違い、明らかに嫌がったのは分かっているはずなのに、ジョミーは気にした様子もなく小走りですぐ後ろについてきた。
「でも、鞄も結構重いでしょう?」
「たかが通学鞄ひとつがそんなに負担になるほど、僕が虚弱に見えるということか?」
ジョミーの意思を挫くつもりの嫌味のはずが、口にしてみると本当に腹が立ってくる。確かにブルーはお世辞にも逞しいとは言えず、ジョミーは単に怪我のことを気にしているだけだと分かっていても、辛うじて人並み程度という体力と筋力の無さはブルーにとってコンプレックスになっている。
ましてジョミーだって大して大柄ではない……いやむしろブルーよりも背が低く、腕だって細いのに、手を貸すと言われるのは不愉快だ。
「そんなこと言ってません。でも傷に響きませんか?」
「薬が効いている。いいから君はもう気にするな。明日も来なくていい」
「そんなわけには行きません。ママにだって叱られるし、ぼくを助けると思って世話されてくださいよ」
「どうして僕が譲歩しなければならないんだ!」
いちいち癪に障る。律儀に答えず、すべて無視してしまえばいい加減にジョミーとて諦めて離れるだろうにと思うと更に苛立つ。うるさい連中に纏わりつかれても無視することなど慣れているはずなのに、どうして。

振り返らずに、気配だけで後ろを探る。
振り回されて苛立っているはずなのに、ジョミーの気配が傍にあることは不快にはならない。
子供の頃に散々病院で身体中を触られ、ESPチェックでは身体の内側までもを探られるような感覚に晒されたせいか、ブルーは人肌も、近すぎる人との距離も気に障る。
特に苦手なのは大人の、それも白衣を着た医者や、あるいは研究者といったタイプの人々なので、病院と検査が愉快ならざるものとして深層意識に刷り込まれたのかもしれない。その点で言えば、ブルーよりも小さな、学生のジョミーは条件には当てはまらないが、それにしたって。

「お願い、待って」
後ろから腕を掴まれて、考え込んでいた意識が浮上して、足が止まった。
視線を落とすと、手首を掴んだ手の甲が見える。一年次生ということはブルーより4つ年下のはず。まだ子供だ。だがそれにしたって柔らかい掌。
「ぼくの顔を見たくないくらいに嫌い?」
そうだと言えばいい。今まで何度となく言ってきた言葉だ。ブルーの周りに纏わりつく女生徒たちを散々冷たくあしらった。あれと同じだ。
無言のブルーにそれが了承の意だと思ったのか、ジョミーの表情が曇った。
けれどジョミーはすぐに俯いてその表情を隠す。
「……ごめんなさい。しつこくし過ぎた」
手首を掴んだ指から力が抜ける。
あれだけ押しかけてきたのに、随分とあっさりと退くものだ。
手首から離れる指を、掌を、目が追う。
掴まれて手首を覆っていた熱は、すぐに消えた。

「別に嫌いだとは言っていない」
何を、言っているのだろう。せっかく相手が諦めそうだったのに。
弾かれたように顔を上げたジョミーの丸められた瞳に、ブルーの眉間に知らず皺が寄る。
「ただなんでもないことにまで口出しをされることが煩わしいだけだ」
「嫌って、ないの……?本当に?」
「聞いているのか?」
「聞いてる!ちゃんと聞いてる。よかった、だって嫌われていても仕方がないと思っていた」
本当に聞いているのだろうか。
零れるような笑顔を見せるジョミーを疑いながら、どうして完全に諦めさせるように更に突き放さなかったのか、自分がよく分からない。
「あー本当によかった!これで気兼ねなく渡せる。えっと……」
ジョミーは鞄の中から紙を取り出すと、サラサラと何かを書き付けてそれを差し出してくる。
「はい、ブルー先輩」
「……これは?」
思わず受け取ってしまったそれを見て、ブルーの声が低くなる。
見れば聞くまでも無い。番号は、各個人で持っているはずの携帯端末の番号だ。こういった紙を差し出されたことは幾度となくあるが、咄嗟とはいえ受け取ったのは初めてだった。
「なにかあったらそれで呼び出してください。あなたからのコールならいつでも駆けつけます」
「そこまでしなければならないほどの怪我か!?」
渡された紙を突き返そうとしても、ジョミーは両手を身体の後ろに回してそれを拒絶する。
「朝と放課後は必ずお迎えに上がります。それ以外で必要なことがあれば、ってことで」
「朝と帰りの迎えも必要ない!君の番号も必要ない!しかも今、『気兼ねなく』と言ったか?もしかして僕が君を嫌っていようと押し付ける気だったのか!?」
「だって、嫌ってるなら顔も見たくないだろうから、少しお迎えに上がる回数を減らしたほうがいいかと思って。それがあれば、頻繁に顔を出さなくても何かあったときに呼び出せるでしょう?」
「嫌っているなら番号も見たくないものではないのか?」
「治療費のこととか、話があるときにあなたからぼくへの連絡の取り方を探させるほうが失礼じゃないですか」

離れると思ったのだ。
ブルーに嫌われていると思い込んだ彼が、自分からようやく離れてくれるのだと。
……引き止めるまでもなく、初めからあちらにそんな意図はなかったらしい。
何を、やっているのだろう。いなくなってくれれば、少なくとも少し距離をとってくれるだけで、すっきりしたはずなのに。
もうすでに冷えた手首。
伏せられた、あの時の表情。
「先輩?学校行かないんですか?」
まるで小動物のように小首を傾げて伺うジョミーを見下ろしても、答えは出ない。
今回は幕間といいますか、14話のそのまま続きではありますが、ブルーの家から帰る途中のジョミーとアルテラ(とママ)。
せっかく姉妹なので、姉妹らしい会話を!と思ったのに、ジョミーが中途半端に男の子の意識があるので、きゃっきゃっと華やかな会話にならない~(笑)


目次




「すっごく格好いい人だったね、ジョミー!」
帰る道すがら、ママについてきていいものが見れたとジョミーの袖を引いて感激のままにそう言うと、ママは額を押さえて溜息をついて、ジョミーは片方の眉を軽く上げて苦笑を滲ませた。
「アルテラ、お前ね……」
「だって本当のことだもん。赤い目がルビーみたいで綺麗だったわ」
「そうだね……」
「でもちょっと冷たそうだった」
「こら、アルテラ」
ママに頭を小突かれて、頭を押さえながら頬を膨らませる。
「だって本当のことだもん!」
「………そうだね」
ママに小突かれたところを、ジョミーが優しく覆うように撫でてくれる。
「少し不機嫌だっただけだよ。本当はとても優しい人だ」
「あらジョミー、あなたあんな綺麗な子と知り合いだったの?そんなこと、ママに一言も言ってくれなかったじゃない!」
「ほらぁー!ママだってあの人のこと綺麗だって思ってたんじゃない!」
注意したくせにと唇を尖らせて抗議すると、ママはこほんと咳払いをして誤魔化した。
「知り合いじゃないよ。ううん、知り合いじゃ無かったよ。だってあの人はノアの人じゃないか。ぼくら引っ越してきたばっかりだよ?」
「でも今、」
「優しい人だよ。ぼくのせいの怪我を、何度も気にするなと言ってくれたじゃないか」
「あれはどちらかと言えば、面倒だからに見えたけれど」
「そうかもね」
くすくすと楽しそうに笑うジョミーに、ママと顔を見合わせて首を傾げる。何がおかしいのかわからない。
「だってすごく不器用そうだと思わない?あの人が微笑みながら、自分に向けて手を差し出すところとかを想像してみてよ。きっと誰だって虜になっちゃうよ。なのにぶすーっとしているの。もったいない」
「それは……」
「確かに、そうね」
ママと同時に空を見上げて、想像しただけてそれはとても魅力的なお誘いだった。
だけど空を見上げて思い出す。今はまだ青いけれど、夕焼け空はあの人の色。
「でもでも!すごく綺麗だけど、わたしはソルジャー・アスカの方が格好いいと思うわ!素敵よ!」
「ブルーが格好いいって言い出したのはお前じゃないか」
「それはそれ!ソルジャー・アスカの貴重映像をジョミーは見たことある?すごく格好いいのに、笑ったら可愛いの!」
「見たよ。お前が散々見せてくれたじゃないか。地球で咲いた『ユゥイの花』を手に微笑んだあれだろ?」
「そう!いつもメディアに出るのは責任のある人らしい微笑みなのに、あの時の笑顔がすごく可愛くて、わたしもう、ソルジャー・アスカ以外は目に入らない!」
「だからブルーが格好いいって言いだしたのはお前じゃ……」
「それはそれなの!」
揚げ足を取らないでと大声で怒れば、ジョミーは軽く肩を竦めてはいはいと手を振る。
「そんなこと言って、コブとはどうなんだ?それにノアにくればタージオンにも会えるって張り切ってなかったか?」
「コブもタージオンも子供なんだもん。ソルジャー・アスカとは違うわよ。二人は友達なの」
「やれやれ……最近の子供って色気付いてるよなあ」
年寄りみたいなことを呟くジョミーに、ママは頬に手を当てて深い溜息をついた。
「アルテラくらいが普通なのよ。ママはジョミー、あなたの方が心配だわ。サムくんとはまるで男の子同士の付き合い方みたいだし……」
「サムは友達なんだから、男も女もないじゃないか」
自転車で二人乗りして、ブレーキが利かなくなって飛び降りる。確かにサムとは甘い関係にはなりそうもないわ。
「じゃあジョミー、さっきのブルーって人は?あの人のことは格好いいってジョミーも認めたじゃない。どきどきしない?しばらく一緒にいるんでしょう?頑張ってみたら?」
「そんな甘いもんじゃないだろ」
ジョミーは呆れたように溜息をついて、肩を落として振り返る。
「ぼくがあの人の傍にしばらくいるのは、怪我をさせたお詫びだぞ?印象最悪で始まって、頑張るもなにもないだろ」
「なに言ってるのよ!最悪だったら、あとは上がるしかないんじゃない!ジョミーは努力が足りないのよ!」
「………アルテラ、お前、なかなか的を射たことを言うなあ……」
感心されたのに、なぜか馬鹿にされているようにしか聞えなくて、眉を吊り上げて拳を振り上げる。
「どうしていつまでもそんな男の子みたいな格好してるの?スカートは?可愛いブーツは?髪を伸ばしてみたらいいのに!」
「お前までママみたいなこと言うのは勘弁してくれよ」
ジョミーは頭を抱えて逃げ出してしまう。
「ジョミー!ちゃんとしたら、絶対可愛いのにー!」
「可愛いのはアルテラに任せるよ!ぼくには無理っ」
「まず「ぼく」って言うのはやめるの!」
隣でママは溜息をついた。
「本当にね、あなたの半分でいいから、ジョミーも女の子の自覚を持ってくれたら嬉しいのだけど……ママもジョミーは絶対可愛いと思うわ。どうしてあんなに男の子みたいな格好しかしてくれないのかしら……」
「ミニのタイトスカートとロングブーツとか、可愛いけど活動的な格好から始めたらどうかしら?動きにくいのが嫌っていうなら、アンダースコートみたいなのを履いておけばミニでも大丈夫だと思うし……」
「だめよ、それじゃジョミーは見せても平気とか言って、スカートでとんでもないことをしそうなんだもの」
だったらズボンでいてくれたほうがまだ被害が少ないと溜息をつくママに、一緒になって額を押さえるしかなかった。

ちと遅れましたが30日分の更新です。31日分はまた夜に…できればいいな…。
ブルーさん家の家庭の事情……が詳しく出るのはもうちょっと先です。でもその一端はでているかと。
ブルーをつらい状況に追い込むのが好きなわけじゃないはずなんですが、かといって幸せに満たされた生活をしているブルーという想像があまりできないのも事実。ひ、酷いこと言うなあ……。


目次



ジョミーの母に送られて帰宅したブルーに、母は困惑した様子で玄関まで出てきた。
「このたびはうちのジョミーが大変なことを」
「いいえ、そんな……運の悪い事故だったと聞いています。顔を上げてください」
腰を直角に曲げるほどに深々と、親子で並んで頭を下げられて、母はジョミーの母親とジョミーの肩にそっと触れる。
「これ、お詫びにもなりませんけれど……」
顔を上げたジョミーの母親は、子供に預けていた紙袋を手にすると、そのまま母にぐいっと差し出す。
「まあ、そんな!わざわざこんなことまでしていただかなくても……」
「いいえ。事故と言いましてもうちの子供の不注意ですから。もちろん治療費はうちのほうで。それから」
母親に頭を押されて、半分よろめいたジョミーがブルーのすぐ目の前に押し出された。
「登下校や他に何か不自由なことがあったら、この子のことをどんどん使ってくださいね」
「マ、ママ……手…」
「黙らっしゃい!」
頭を押さえつけられたジョミーが僅かに顔をしかめるが、ジョミーの母親は眉を吊り上げる。ともすれば頭に角でも生えて見えそうだ。ジョミーの妹はそれを見て肩を竦めている。まるで、見慣れた光景だとでも言うように。
しかしブルーはそうはいかない。ジョミーがトラブルを起こしやすい生活をしていようと、それとこれとは別の話だ。ブルーはとにかく、傍にいられると調子を崩すジョミーとはあまり関わりたくないのだ。
「ジョミーくんはこちらへ越してきたばかりだと聞きました。自分のことだけでも大変でしょう。僕のことは気にしないでください」
「そんなこと。この子はそんなに繊細ではないし」
「確かに、ミュウなら相手の気持ちを察することに長けているかもしれませんが、その分繊細だと聞き及んでいます。本当に、僕のことは気にしないでください」
ブルーはしれっとして、母がジョミーを敬遠するようなことを口にした。

ミュウ、と。
その言葉でその場にいた全員の表情が変わった。
母は思惑通り強張った。ミュウを嫌う母はそれだけで僅かに一歩後ろに下がる。彼らは心を読まないと決められているのに、まだ心の中を読まれることを恐れているのだ。
だがシン親子は共にきょとんと目を瞬いた。
「あの……あなたの身の回りのお世話をするのはジョミーで、アルテラではないのだけれど」
「え……」
そんなことは言われなくても分かっている。そうではなくて、まるでそれでは。
「ぼく、ミュウじゃないよ?」
ジョミーは自分を指差して軽く首を傾げた。
「ミュウじゃない?」
「うん。一度でもそんなこと言ったっけ……じゃなくて、言いましたっけ?リオ先輩もそんなこと言ってたけど。ESPチェックは悉く空振りで、検査官の人に無駄足だって嘆かれたくらいだし」
「だけど君、僕は名乗ってもいないのに、僕の名前を知っていた……っ」
「リオ先輩が呼んだじゃないですか。『大丈夫ですか、ブルー!』って」

「……そ、う……だったかな……」
あまりにも意外な答えに、ブルーは額を押さえて思い出そうとする。そう言われてみれば、そんな声を聞いた気もする。
あのとき、見上げてきた、鮮やかな新緑色。
あの目、が。
「そうですよ。じゃないとぼくにあなたの名前が分かるはずないじゃないですか。それにたとえぼくがミュウだったとしても、口にされていないことを読むのは禁じられているし、禁じられていなくても勝手に人の心の中を読んだりしませんよ」
ジョミーは呆れたように肩を竦めて同時に首を振るという器用なことをやってみせる。
思い出した瞳に、引き込まれるように思考がそこで完全に止まっていたブルーは、すぐに慌てて頭を振って気持ちを切り替えようとする。
「リオ先輩と友達なのに、ちょっとミュウに偏見がないですか?」
咎めるというよりは、心底不思議そうに首を傾げられてバツが悪くなって目を逸らした。
嫌っているのだからちょっとどころではない偏見だ。そうと自覚のあるブルーは少々居心地悪く、特にジョミーの母親の言葉からミュウだと分かったジョミーの妹のほうは見ることができない。
「そういうつもりでは、なかったんだが」
「ま、いいですよ。嫌ってたらリオ先輩と友達なはずはないし。とにかく、ぼく明日から迎えに来ますね」
「待て、何の話だ?」
「だって鞄を持つのも大変でしょう?」
「まったく大変じゃない。鎮痛薬も処方されたし、固定もしているから然したる痛みは……」
「じゃあまた明日!」
人の話を聞きもしない。ジョミーは明るくブルーにそう言い放つと、ブルーの母に対して母親と共にもう一度丁寧に頭を下げて、ブルーの自宅を辞去した。

「……さっきの子、本当にミュウではないのね?」
「本人がそう言ったならそうなんだろう」
ブルーは玄関まで運ばれた鞄を手に、家に上がる。これを部屋まで運ぶと上がり込まれなくて本当によかった。
「あなた、まだリオ君と一緒にいるのね。連絡もあの子がしてくれたけれど……」
ミュウかもしれないと思えばこの態度だ。こんな母に接すれば、本人が違うとしても妹がミュウのジョミーは嫌な思いをすることになっただろう。どうやら母はあの妹のほうがミュウだということに気づいていない。ジョミーの母親の言葉をしっかりとは聞いていなかったのだろう。幸いだ。
ブルーは母と顔を合わせようともせず、そのまま横を通り過ぎた。どうせ目を向けても母もブルーを見ていない。
だがブルーが横を通るとき、母は少し怯えたように横へと避けた。顕著な反応を示したのは久しぶりだ。ジョミーを遠ざけようと、ミュウの話題を持ち出したりしたからだろう。
自分の子供がミュウかどうかなんて、散々ESPチェックに付き添って、よく知っているだろうに。
「心配しなくても、僕はミュウではないし、いくらミュウでも電話では相手の心まで読めやしないさ」
リオからの電話に対して、感謝よりも怯えるのが先かと冷ややかな目を向けると、見るも分かり易く青褪めていた。さすがに自分の行いを恥じるだけの心はあるようだ。
そんな母を冷たく一瞥するだけで、まっすぐに自分の部屋へと向かおうと階段に足をかけたところで、自分の行動を思い返して顔をしかめた。

実際は違ったから意味をなさなかったが、ミュウであることを利用して母に敬遠させてジョミーを遠ざけようとした自分の行いを恥じたからではない。
その部分もないわけではないが、それ以上にそんなことをしておきながら、母の態度でジョミーがあれ以上の嫌な思いをしなくてよかった、だなんて。
こんな矛盾した話はない。
ギリギリ29日に滑り込み更新。
ジョミーのママはマリアさん(アニメのジョミーママ)で、出てきませんが恐らくパパはウィリアムさん(ハーレイじゃないほうの(笑))
でも妹はレティシアではありません。ジョミーの妹はそれでもまだ予想の範囲内の人かと。


目次




「ジョミー!」
待合室でブルーの隣に腰掛け会計が済むのを待っていたジョミーは、自動ドアを潜って入ってきた女性を見て素早い動作で立ち上がった。
「ママ、早かっ……」
「早いに決まってるわ!家を出たところで連絡が来たのよ!信じられないわ、入学早々、式もまだなのにもう問題を起こすなんて!」
眉を吊り上げ我が子を怒鳴りつける女性は、ジョミーとは似ても似つかない黒髪と黒い瞳の持ち主だった。スーツを着ているのは入学式に出席するはずだったからだろう。時間を見れば、式はきっと今頃つつがなく進行中だ。
そのスカートの裾を、小麦色の肌をしたこげ茶色の髪の小さな少女が掴んでいる。やはり似てもいないが恐らくジョミーの妹だろう。
少女は女性のスカートから手を放すと二つに括った髪を揺らして、怒鳴りつけられて首を竦めたジョミーに呆れたように首を振って見せた。
「ジョミーは相変わらずね。いくつになっても落ち着きがないんだから!」
「アルテラ……お前、ジュニアスクールは」
「わたしは明日からよ」
澄ました顔でつんと顎を上げた少女に、ジョミーは溜息をついた。
「ママ、この人がぼくのせいで怪我をさせちゃった人」
椅子に座ったまま傍観を決め込んでいたブルーを示されて、ジョミーの母親はまあと大きく悲鳴のような声を上げる。
「ごめんなさいね!大変なことになって、本当に申し訳なく思っています」
「いえ……」
正直なところ謝罪や補償などどうでもいいから、早く解放して欲しい。とにかくジョミーといると落ち着かなくて、さっさと会計が済んでくれないだろうかと会計カウンターに目を向ける。
ちょうどそのときブルーの名前が呼ばれてホッとした。これで会計が終わればジョミーは学校に戻るだろう。

だがそう思い通りにはいかない。
「ジョミー、これを持ってて。アルテラはジョミーと一緒にいなさい」
ジョミーの母は会計から呼ばれた名前にブルーが反応したとみるや、持っていた紙袋をジョミーに押し付けてさっさとカウンターに向かってしまう。
「え、あ、待ってください」
慌てて引き止めようとするがジョミーの母は振り返りもしないし、ジョミーはジョミーでブルーの服を掴む。
「あなたは怪我人なんだから座ってて」
「バンドで固定されたから痛みも大分治まった。もう君に世話をしてもらう必要もない」
服を掴んだその手を振り払うと、ジョミーは素直に手を引っ込めながら、けれど決して頷かずかずに首を振る。
「それとこれとは別ですよ」
「別なものか。今からでは式には間に合わないだろうが、せめて最初のホームルームにくらいは出席してくるといい。さあ、戻って!」
「そんなのママが許さないわ」
アルテラという少女はジョミーの腕にぶらさがるように抱きつきながら、ブルーを見上げて肩を竦めた。
「あなたのママと会ってないもん。ちゃんと謝るまで、ママはそんなの許さないわよ。ねえジョミー?」
「まあね」
ジョミーはアルテラの頭をくしゃりと撫でながらあっさりと頷いて同意を示し、ブルーの眉間にしわが寄る。
「そんなことは気にしなくていい。僕の母は恐らく来ない」
「どうして!?ママはジョミーが外で怪我するたびに、いつも急いで駆けて行くわ!わたしなんて、何度手を引かれて走ったか、覚えてないくらいよ!」
「アルテラ」
ジョミーは少女をたしなめる様に少し語気を強めた。
ブルーの家庭の事情など知らなくとも、少なくとも家ごとに家族の在り方など違うことくらいは理解しているのだろう。
「そうか。僕の両親はそうではないだけだ」
さすがに子供相手に嫌味を言う気にはなれず、ブルーは軽く受け流すと椅子から立ち上がる。
ジョミーといい、その母親といい、妹といい、傍からでは理想的な家族のように見える。
「だからもう行ってくれ。謝罪なら僕が受け取った」
「そういう訳にはいきません」
強い語調の抗議に振り返ると、いつの間に戻ってきたのか会計を済ませたジョミーの母が腰に手を当てブルーの背後に立っていた。
「大切なご子息にこんな大怪我をさせてしまったんですから、ちゃんとお詫びしないわけにはいかないでしょう。あなたを送るついでと思ってくれていいから」
来なくていいと気を遣っているのではなくて、本当に厄介ごとに関わりたくないだけだ!
ブルーの切実な願いは、あっさりとなかったことにされてしまった。

一体どうしてこんなことになっているのか、不本意なことだらけでブルーはタクシーの後部座席で不貞腐れて頬杖をついて流れる外の風景を見ていた。
隣にはジョミーの妹がこちらをちらちらと気にしながら兄に何かを囁いていて、彼女の向こうにいるジョミーはまた、妹とは違う様子でブルーが気になっているようだった。
全部窓に映っている!
ブルーが気づいていないと思っている二人にそう言ってやりたいくらいに、二人はブルーを見てひそひそと言葉を交わしていた。
だがそれも面倒だし、そんな気力もない。
息子が登校して、入学式と同時に別の講堂で行われている始業式が終わるまでは帰ってこないとほっとしているだろう母が、早々に帰ってきたブルーを見てどんな顔をするか。
想像するだけでも憂鬱になりそうだった。
「やっぱり寮に入ればよかった……」
溜息をついて後悔しようと、すでにどうしようもないことだ。

強引に行く重要さを(前世で)教えたのは最長老様なので、諦めてください(苦笑)
そんな感じの12話目。本当はリオのハンカチから広げようかと思っていたのはここだけの話。
さすがにそれじゃ弱かった(^^;)


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「あら……まあ……」
大人しくしない生徒の怪我の具合を連続で診て少し不機嫌の様子だったエラ校医は、小さく声を漏らして呆れたようにブルーに目を向ける。
「よくこれで大したことがないなんて。呼吸をするだけでも痛むでしょう。あなた、友人の忠告はきちんと聞かないといけませんよ」
「え、え?どうしたんですか、先生」
ジョミーが不安に満ちた声でエラの白衣を引っ張り、ブルーは嫌な予感に眉を潜めた。
リオの忠告を聞けといい、大したことないというのが間違いなら、その推測が当たっていたということか。
思わぬ不運の怪我も痛むし面倒だし不愉快だが、それ以上に今にも泣き出しそうな新入生を見ている方が不快だった。
ジョミーに状態を説明しようと口を開いたエラの邪魔をするように、ブルーはベッドに手をついて起き上がる。一瞬痛みに息が詰りかけたが、どうにか堪えた。
「わかりました、すぐに病院に行ってみます。君はもうすぐ入学式だろう。行け」
「いやだ!」
ジョミーは大きく首を振って、追い払うように振ったブルーの手を掴む。
「あなたが怪我をしたって分かってて、向こうに行けって言われたって絶対に行かない!絶対に!」
今までの態度から反論は受けるだろうと思っていた。だがジョミーの反応は予想を上回るほど激しい。
柳眉を逆立て怒鳴りつけられて、怪我をさせられたのはこちらの方なのに、どうしてだか悪いことをした気にさせられる。
ああ、そうか。
ブルーは握られた手にちらりと視線を送った。
ジョミーの手が、僅かに震えているからだ。
もう一度見上げた翠の瞳は、力強く睨みつけているはずなのに、ブルーには涙を堪えているようにしか見えなかった。
その強い視線に、吸い寄せられる。
まるで、澄んだ湖底の深い色。
伸ばしかけた自由の利く手を、ブルーは眉を寄せて握り込んだ。

「あ……『あなた』に……ぼくが怪我をさせるなんて……」
その声が僅かに上擦ったように聞えたのは気のせいだろうか。
ジョミーは深く息をつく。
「サムの安全のことばかりに気を取られて、人がいると気づけないなんて情けない。……ごめんなさい……」
「もう十分に謝ってもらった」
どうしてだろう。彼が落ち込む様子を見るのは、常にないほど苛立つ。
なぜ君が謝る―――怪我をさせたからだ。
どうしてそんなに悲しそうな顔をする―――僕が跳ねつけるからか?
馬鹿馬鹿しい。たかが骨の一本や二本、―――がしたことに比べれば……。

「………誰だ?」
「え?」
痛ましい目をしたまま、ジョミーが聞き返すように首を傾げた。
ブルーは思考の底から意識を戻して、はっと背を伸ばす。途端に痛みが胸に響いた。
「っ……」
「ブルー!」
ジョミーがブルーの手を握り締めた両手に力を込める。
「痛い?苦しい?ごめんね、ごめんなさい。ぼくのせいだ……ぼくはまた……」
握り締める手に、更に力が篭る。
見上げたジョミーの瞳は、悔恨よりも違う色が大きくなっていく。
「エラ先生」
「え、ええ。何かしら?」
「ブルーの怪我は酷いんですか?」
「そうね……きちんと検査したわけではないからはっきりとは言えないけれど、長くてもひと月もあればヒビも完治すると思うけれど」
やっぱりヒビが入っていたのか。
暴力的に人が降ってきたとはいえ、その衝撃をそのまま受けることしかできない筋力のなさが情けない。
ブルーが呆れたのは自分に対してで、このとき既にジョミーに対する怒りや苛立ちはない。
だというのに、ジョミーは両手でブルーの手を握り締めたまま、ずいと身を乗り出す。
「じゃあそれまでの間、ぼくがあなたの身の回りのことをお手伝いします!」
「なぜそうなる」
ブルーは思い切り不賛同を表したというのに、ジョミーはぎゅうぎゅうと握り締めた手から力を緩めようともしない。
「だって、ぼくのせいで怪我をしたんだから、当然でしょう!」
「少しも当然だとは思わない。別に腕や足を骨折したわけじゃない。日常生活に障りはない」
「じゃあまず病院に行きましょう。ぼく付き添います。治療費のこともあるし……そうだ、ママに連絡しなくちゃ」
「わかった、治療費を払うというなら、後でまとめて請求する。謝罪も受けた、もうそれでいい!」

出逢って僅か数十分。接触した時間に直せばたかが数分。
たったそれだけで、ジョミーには調子を狂わされてばかりいる。これ以上関わるなんてごめんだ。
そんなブルーの切実な叫びは、使命感に燃える少年にあっさりと聞き流された。
「リオ先輩、ブルー……先輩の家へ連絡したいんですけど、番号わかりますか?」
「ええ、わかりますよ。僕が連絡しておくから、君はブルーを病院へ連行してください」
「連行ってなんだ、リオ!」
「その人、病院がすごく嫌いなんですよ。逃がさないでくださいね」
「わかりました!」
どうして君たちが連携するんだ。
納得できないままジョミーに手を引かれてベッドから降りる。
やることを決めたことでジョミーは気落ちを払えたようで、それだけがブルーの苛立ちを小さくさせた。
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