日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.183 太陽の花34
Category : 転生話
ようやくちょっとだけ話が動いたような気がします。
気がするだけとも……。
目次
支援センターへ向かうジョミーの友人の背中を見送りながら、後に続くか迷ったのはほんの数秒のことだった。
ここで待つという選択肢もある。ブルーに一言も告げる暇なく引きずられて行ったのだから、ジョミーなら慌ててすぐにでも帰ってくるかもしれない。
だがそれを待つより、ブルーは踵を返して先に学校へ向かうことにした。
ブルー自身はさしてミュウに関して詳しくはないが、幸いというべきかミュウの友人はいる。
ジョミーの友人であるという少年の言葉を疑っているわけではないが、どうしても腑に落ちないのだ。
これで友人からも同じ答えが帰ってきたら納得するのかといえば、正直なところ自信はまるでない。聞きたい答えだけを求めた質問に意味などあるのだろうか。
だが、どうしても腑に落ちないのだ。
目当ての人物には、教室に行く前に会うことができた。通学中の後姿を発見したブルーは、気が急くように足を速める。
「リオ!」
ちょうど道を分かれようとしていた弟と一緒に、リオが振り返って首を傾げた。
「あれ、今日は一人ですか?」
あれだけ鞄を待つ、送り迎えをすると息巻いていたジョミーの姿が見えないことに首を傾げるだけのリオの横で、マツカは珍しい物でも見たかのように目を瞬いている。
そんな二人ののんびりとした様子には目もくれずに、足早に追いついたブルーはリオの腕を掴んだ。
「聞きたいことがある。君は人の痛みを引き受けることが可能か?」
「なんですか、一体?」
朝の挨拶すらも惜しんで唐突に向けられた質問がこれだ。リオが驚くのも無理はない。マツカなど瞬きすら忘れている様子だ。
そのマツカにも、目を向ける。
「君はどうだ、マツカ」
「ぼ、僕ですか!?」
鞄を両手で胸に抱きかかえ、声を裏返して怯えたように肩を揺らした弟に、リオがその頭を優しく撫でながら苦笑を漏らす。
「急にどうしたんですか?痛みを引き受けるって、僕やマツカに訊ねるということは、サイオンでの話ですよね?」
「ジョミーの知り合いの子供が言っていたんだ。ジョミーの怪我の痛みを引き受ける、と。強いサイオンを持つ者にしかできないとも聞いたが、事実か?」
「事実だと思いますよ」
頭を撫でていた手を肩に落として、軽く二度ほど宥めるように叩いてから、リオは弟を送り出すように軽く押し出した。
リオに話が聞ければ十分なので、それに関しては特に気にすることもない。どこか……恐らくキースの家の方へ向かうつもりなのだろうマツカに目だけで頷いて見せると、マツカは無言で頭を下げて踵を返す。
「少なくとも僕やマツカにはできません。あれはタイプブルー並みの力が必要だと聞いています。痛みを共有するだけなら、誰でもできるんですけどね」
弟の背中を見送りながら学校へ向けて歩き出したリオと足を並べ、ブルーは眉を寄せる。
「……引き受ける、というからには、もちろん引き受けた側に痛みがあるわけだな?」
シロエという少年が言っていたように本来の幻視痛から名前を持ってきたことを考えれば、そのはずだ。だが一応と確認すれば、リオは肩を竦める。
「ですから、わかるわけはないでしょう。僕はしたことも、されたこともないんですから。ただそういうものだと聞いたことがあるだけです。それで、一体それがどう……」
「……ジョミーが、僕の怪我と同じ場所を痛めている」
リオの足が止まった。ブルーも足を止める。
「夢を見た。僕が眠気で早退した、あの日だ。部屋にジョミーがいて、僕の怪我の痛みを誤魔化したと言った。目が覚めれば、当然部屋には僕しかいない。だが痛みは驚くほど小さくなっていた。あの日から、僕は薬を飲んでいないが、痛みに悩まされることはなくなった。そして夢の翌日、ジョミーは胸を痛めていた」
偶然か?
目で問い掛ければ、リオは難しい顔で眉を寄せる。
偶然だ、思い込みだろう。
そんな答えも予想してたが、リオは即答を避けた。
「……ジョミーはミュウではない、と聞いています」
「僕もだ。だが自覚のないミュウだとして、怪我をさせた罪悪感で無意識にサイオンを使ったという可能性はないか?」
「ありえません。他人の感覚を弄るなんて真似を無意識にしてしまうような力なんて、気がおかしくなりますよ。他人と自分の境界が曖昧になっていなければできない。普通は意識して働きかけない限り、サイオンは生命に対して受動的なものなんです」
「では、ミュウだということを隠している可能性は?ジョミーの妹が、昨日から完全に思念を閉ざしていると言っていた。あの歳でそこまで完璧に思念を閉ざせるものか?」
「思念を閉ざせると言えば、あなたもでしょう」
長年の付き合いのリオは呆れたように肩を竦めて、軽く首を振る。
「隠すなんて無理です。あなたも何度もESPチェックは受けたでしょう。ごく微弱なサイオン波形すら見つけ出すチェックなのに、強い力を持つならなおさらです。それに意味がないですよ。ジョミーのご家族がミュウを嫌っているのならまだしも、ジョミーにはミュウの妹がいて、ご両親とも仲がいいのでしょう?」
「そう……だな……そうだ、確かに」
隠している、意味がない。
可能性を潰していきながら、それでも納得できない自分を自覚している。
ブルーが黙り込むと、今度はリオが納得していないような声で「でも」と呟いた。
「でも……僕も、実は僕も疑問に思っていました」
ゆっくりと顎を挙げ、顔を向けると、リオはブルーを見下ろしていた。
「初めて会ったとき、僕はジョミーがミュウだと思い込んでいました。違うと言われて驚いて、そして納得できなかった」
一度言葉を切ってブルーを伺うリオに、無言のまま視線で続きを促す。
二人はすっかり足を止めて話し込んでいて、その両脇を同じ目的地を目指す学生たちが通り過ぎていく。
「先ほど、あなたも思念を閉ざせるといいました。でもジョミーは完璧すぎるんです。後になればなるほど、そう思わずにはいられない」
「探ったのか?」
彼の思考を。
禁じられているはずの行為を試みたと、堂々と言ってのけた友人に驚いた。この友人が穏やかで人がいいばかりではないことは知っていたが、それにしても大胆な告白だ。
リオは緩く首を振った。だがすぐに首を傾げる。
「いいえ。ああ、でも、はいともいえます。ジョミーがあなたの上に降ってきたあの日、ジョミーがあなたを初めて目にしたあの瞬間……」
リオは眉を寄せて視線を行く先の方へと転じた。ブルーもそれを追う。
この道路のずっと先、下り坂になったその先で、ジョミーと初めて出逢った。
「ジョミーの感情は凄まじいほどに揺れていました。閉じていた僕の思念を揺るがすほど、動揺していた。僕はその波に飲まれそうなほどでした。でもたった一瞬で、それらを全て消し去ってしまった。それからは意図して探っても、まったく感じられないほど完璧に」
なぜそんなに動揺することがあったのか。
初めて目を合わせたときの、ジョミーのあの泣き出しそうな、嬉しそうな、苦しそうな、その表情を思い出す。一瞬で消し去ってしまったあれは、やはり見間違いなどではなかったのか。
「チェックをすり抜けるはずがありません」
ブルーの意識が他所へ向いた間にも、リオの話は続いていた。疑問ばかりが増えて行く。
「ですから、もしかするとジョミーの家族は、家族ぐるみでジョミーがミュウであることを隠しているのではないかと、疑っていたのですが……」
「それこそ何のために」
リオの出した結論に、ブルーは思わず反射的に否定的な声を上げた。最初にジョミーがミュウではないかと疑問を投げかけたくせに否定したブルーを、リオは責めなかった。代わりに、困ったように眉を下げる。
「そうなんです。それもまた、理由がないんですよね」
違う、そうではない。ブルーが聞きたかったことはそうではない。
リオはチェックを素通りできるはずがないと言った。実際、300年前のSD体制化のチェックでは稀に、それこそ奇跡に近い確率であったがチェックを抜けた例があるという。だがそれを教訓に、今では更にチェック方法が細分化されてそのようなことはもうありえないとされてはいる。
だが本当にそうだろうか。
300年前だって、当時はミュウがESPチェックをすり抜けることがあるなんて思っていなかったはずだ。だが実際には、片手で足りほどとはいえ、例がある。
今だってそうではないと、どうして言い切れるだろう。
そう、ブルーが疑っているのは、そういうことだ。
気がするだけとも……。
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支援センターへ向かうジョミーの友人の背中を見送りながら、後に続くか迷ったのはほんの数秒のことだった。
ここで待つという選択肢もある。ブルーに一言も告げる暇なく引きずられて行ったのだから、ジョミーなら慌ててすぐにでも帰ってくるかもしれない。
だがそれを待つより、ブルーは踵を返して先に学校へ向かうことにした。
ブルー自身はさしてミュウに関して詳しくはないが、幸いというべきかミュウの友人はいる。
ジョミーの友人であるという少年の言葉を疑っているわけではないが、どうしても腑に落ちないのだ。
これで友人からも同じ答えが帰ってきたら納得するのかといえば、正直なところ自信はまるでない。聞きたい答えだけを求めた質問に意味などあるのだろうか。
だが、どうしても腑に落ちないのだ。
目当ての人物には、教室に行く前に会うことができた。通学中の後姿を発見したブルーは、気が急くように足を速める。
「リオ!」
ちょうど道を分かれようとしていた弟と一緒に、リオが振り返って首を傾げた。
「あれ、今日は一人ですか?」
あれだけ鞄を待つ、送り迎えをすると息巻いていたジョミーの姿が見えないことに首を傾げるだけのリオの横で、マツカは珍しい物でも見たかのように目を瞬いている。
そんな二人ののんびりとした様子には目もくれずに、足早に追いついたブルーはリオの腕を掴んだ。
「聞きたいことがある。君は人の痛みを引き受けることが可能か?」
「なんですか、一体?」
朝の挨拶すらも惜しんで唐突に向けられた質問がこれだ。リオが驚くのも無理はない。マツカなど瞬きすら忘れている様子だ。
そのマツカにも、目を向ける。
「君はどうだ、マツカ」
「ぼ、僕ですか!?」
鞄を両手で胸に抱きかかえ、声を裏返して怯えたように肩を揺らした弟に、リオがその頭を優しく撫でながら苦笑を漏らす。
「急にどうしたんですか?痛みを引き受けるって、僕やマツカに訊ねるということは、サイオンでの話ですよね?」
「ジョミーの知り合いの子供が言っていたんだ。ジョミーの怪我の痛みを引き受ける、と。強いサイオンを持つ者にしかできないとも聞いたが、事実か?」
「事実だと思いますよ」
頭を撫でていた手を肩に落として、軽く二度ほど宥めるように叩いてから、リオは弟を送り出すように軽く押し出した。
リオに話が聞ければ十分なので、それに関しては特に気にすることもない。どこか……恐らくキースの家の方へ向かうつもりなのだろうマツカに目だけで頷いて見せると、マツカは無言で頭を下げて踵を返す。
「少なくとも僕やマツカにはできません。あれはタイプブルー並みの力が必要だと聞いています。痛みを共有するだけなら、誰でもできるんですけどね」
弟の背中を見送りながら学校へ向けて歩き出したリオと足を並べ、ブルーは眉を寄せる。
「……引き受ける、というからには、もちろん引き受けた側に痛みがあるわけだな?」
シロエという少年が言っていたように本来の幻視痛から名前を持ってきたことを考えれば、そのはずだ。だが一応と確認すれば、リオは肩を竦める。
「ですから、わかるわけはないでしょう。僕はしたことも、されたこともないんですから。ただそういうものだと聞いたことがあるだけです。それで、一体それがどう……」
「……ジョミーが、僕の怪我と同じ場所を痛めている」
リオの足が止まった。ブルーも足を止める。
「夢を見た。僕が眠気で早退した、あの日だ。部屋にジョミーがいて、僕の怪我の痛みを誤魔化したと言った。目が覚めれば、当然部屋には僕しかいない。だが痛みは驚くほど小さくなっていた。あの日から、僕は薬を飲んでいないが、痛みに悩まされることはなくなった。そして夢の翌日、ジョミーは胸を痛めていた」
偶然か?
目で問い掛ければ、リオは難しい顔で眉を寄せる。
偶然だ、思い込みだろう。
そんな答えも予想してたが、リオは即答を避けた。
「……ジョミーはミュウではない、と聞いています」
「僕もだ。だが自覚のないミュウだとして、怪我をさせた罪悪感で無意識にサイオンを使ったという可能性はないか?」
「ありえません。他人の感覚を弄るなんて真似を無意識にしてしまうような力なんて、気がおかしくなりますよ。他人と自分の境界が曖昧になっていなければできない。普通は意識して働きかけない限り、サイオンは生命に対して受動的なものなんです」
「では、ミュウだということを隠している可能性は?ジョミーの妹が、昨日から完全に思念を閉ざしていると言っていた。あの歳でそこまで完璧に思念を閉ざせるものか?」
「思念を閉ざせると言えば、あなたもでしょう」
長年の付き合いのリオは呆れたように肩を竦めて、軽く首を振る。
「隠すなんて無理です。あなたも何度もESPチェックは受けたでしょう。ごく微弱なサイオン波形すら見つけ出すチェックなのに、強い力を持つならなおさらです。それに意味がないですよ。ジョミーのご家族がミュウを嫌っているのならまだしも、ジョミーにはミュウの妹がいて、ご両親とも仲がいいのでしょう?」
「そう……だな……そうだ、確かに」
隠している、意味がない。
可能性を潰していきながら、それでも納得できない自分を自覚している。
ブルーが黙り込むと、今度はリオが納得していないような声で「でも」と呟いた。
「でも……僕も、実は僕も疑問に思っていました」
ゆっくりと顎を挙げ、顔を向けると、リオはブルーを見下ろしていた。
「初めて会ったとき、僕はジョミーがミュウだと思い込んでいました。違うと言われて驚いて、そして納得できなかった」
一度言葉を切ってブルーを伺うリオに、無言のまま視線で続きを促す。
二人はすっかり足を止めて話し込んでいて、その両脇を同じ目的地を目指す学生たちが通り過ぎていく。
「先ほど、あなたも思念を閉ざせるといいました。でもジョミーは完璧すぎるんです。後になればなるほど、そう思わずにはいられない」
「探ったのか?」
彼の思考を。
禁じられているはずの行為を試みたと、堂々と言ってのけた友人に驚いた。この友人が穏やかで人がいいばかりではないことは知っていたが、それにしても大胆な告白だ。
リオは緩く首を振った。だがすぐに首を傾げる。
「いいえ。ああ、でも、はいともいえます。ジョミーがあなたの上に降ってきたあの日、ジョミーがあなたを初めて目にしたあの瞬間……」
リオは眉を寄せて視線を行く先の方へと転じた。ブルーもそれを追う。
この道路のずっと先、下り坂になったその先で、ジョミーと初めて出逢った。
「ジョミーの感情は凄まじいほどに揺れていました。閉じていた僕の思念を揺るがすほど、動揺していた。僕はその波に飲まれそうなほどでした。でもたった一瞬で、それらを全て消し去ってしまった。それからは意図して探っても、まったく感じられないほど完璧に」
なぜそんなに動揺することがあったのか。
初めて目を合わせたときの、ジョミーのあの泣き出しそうな、嬉しそうな、苦しそうな、その表情を思い出す。一瞬で消し去ってしまったあれは、やはり見間違いなどではなかったのか。
「チェックをすり抜けるはずがありません」
ブルーの意識が他所へ向いた間にも、リオの話は続いていた。疑問ばかりが増えて行く。
「ですから、もしかするとジョミーの家族は、家族ぐるみでジョミーがミュウであることを隠しているのではないかと、疑っていたのですが……」
「それこそ何のために」
リオの出した結論に、ブルーは思わず反射的に否定的な声を上げた。最初にジョミーがミュウではないかと疑問を投げかけたくせに否定したブルーを、リオは責めなかった。代わりに、困ったように眉を下げる。
「そうなんです。それもまた、理由がないんですよね」
違う、そうではない。ブルーが聞きたかったことはそうではない。
リオはチェックを素通りできるはずがないと言った。実際、300年前のSD体制化のチェックでは稀に、それこそ奇跡に近い確率であったがチェックを抜けた例があるという。だがそれを教訓に、今では更にチェック方法が細分化されてそのようなことはもうありえないとされてはいる。
だが本当にそうだろうか。
300年前だって、当時はミュウがESPチェックをすり抜けることがあるなんて思っていなかったはずだ。だが実際には、片手で足りほどとはいえ、例がある。
今だってそうではないと、どうして言い切れるだろう。
そう、ブルーが疑っているのは、そういうことだ。
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