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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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転生女の子ジョミーでハロウィンです。
この話のジョミーとブルーは、うちでの普段と逆で楽しいです。
とはいえ立場が逆でも、たぶんジョミーはブルーほど余裕はないと思われます。
そうなると、そんな女の子に頑張らせているブルーはヘタレというこ……(以下略)



「ブルー!」
街中で、嬉しそうな声を掛けられた。
以前にはなかったことで、最近では慣れつつあるそれ。
だが振り返れば、カボチャの被り物がいるという状況には絶句した。

「………何をしているんだ、君は」
「知らないの?ジャック・オ・ランタン」
野菜を象った頭部全体を覆うマスクの奥の翡翠色の瞳が楽しそうに眇められ、そんな動きにくそうな格好に反して、身軽にくるりと回ってみせる。身体を覆う黒いケープの裾が揺れて、スニーカーを履いた白い足が僅かに覗く。
それは知っている。誰がそんなことを聞いた。
ブルーは嫌そうに眉をひそめてオレンジ色のマスクを見やる。
「今更ハロウィンという歳でもないだろう」
確かにパーティーなどは好きそうなタイプだとは思うが、街中にそんな格好で繰り出す歳ではもうないはずだ。
「違います、ぼくは付添い」
ケープの下から伸びた白い手が指を差す方を見ると、すぐ傍の家のポーチに仮装をした可愛らしい影が三つ見えた。
なるほど、妹とその友達に付き合ってのことかと納得したところで、目の前のジャック・オ・ランタンは首を傾げた。
「ところでブルー、なにかお菓子持ってますか?」
「僕がそんなものを持ち歩いていると思うか」
「ですよね」
頷いたジャック・オ・ランタンはケープの下でごそごそと手を動かして、やがて拳を突き出した。
「はい、これ。お菓子をあげないとアルテラたちに悪戯されますよ」
誰もそんな遊びに付き合うなんて言っていない。今のうちに立ち去れば関係ないと言おうとしたが、突き出された拳を押し付けられ、数個の飴を渡される。
「君な……」
「いいじゃないですか。Trick or Treat!って言われたらお菓子をあげるだけなんですから、付き合ってあげてくださいよ」
飴をつき返されないようにジャック・オ・ランタンが一歩下がったところで、元気に弾んだ少女の声が聞えた。
「あ、ブルー!いいところにっ」
とんがり帽子にお菓子のステッキを手にした可愛らしい魔女が、お菓子をもらい終えた家のポーチから体重を感じさせない軽やかさで飛び降りた。
黒いケープは姉妹揃って同じだが、最終的な出来は姉と妹で雲泥の差だ。
魔女の後ろには狼の耳と牙を付けた少年と、白いシーツを頭から被った少年が続いている。
友人の弟も一緒なら、ジャック・オ・ランタンは友人に任せて姉妹揃いの魔女の仮装でもすればいいものを。
小さな魔女に見つかったブルーは二重の意味で溜め息をついた。
「ブルー!Trick or Treat!」
地を蹴った魔女は魔法ではなくサイオンでふわりと飛び、ブルーに抱きつく勢いで手を差し出した。
抱きとめるというより、抱きつかれないようその身体を両手で受けたブルーの掌から、渡されたばかりの飴が滑り落ちる。重力に従って地面へと落下した飴は、だが地面と激突することなく空中で停止した。
数個の飴はそのまま均等に分かれて三人の子供の下へと移動する。
「あ、タージオンずるい!イチゴ味はわたしの!」
どうやら力を使ったのはシロエの弟のようだ。
ブルーが地面に降ろすと、目の前に運ばれた飴を手にしたアルテラはケープを翻して友達の方へと駆けていく。
「……君の妹は君に似て奔放だ」
「だってぼくの妹ですから」
むしろ嬉しそうに返されて、ブルーは額を押さえながら溜息を零した。
「ありがとう、ブルー!」
「お菓子をありがとう!」
飴を分け合った子供たちから元気よく礼を言われて、自分で用意したわけでもないお菓子の礼に複雑な気分になる。
おざなりに手を振って返答しておくと、子供たちは元気よく次に訪ねる家を相談しながら歩き出した。
「ブルー」
ようやく行ったかと息をついたブルーの目の前に、白い手が差し出される。
「Trick or Treat」
手を辿って目線を上げると、大きくくり抜かれたジャンク・オ・ランタンのマスクの口の奥の唇も笑っている。
ジャック・オ・ランタンのどこかグロテスクな笑みとは対照的に、形のよい桃色のそれは可愛らしいものではあったが。
「君は付添いじゃなかったのか?」
「せっかくこんな格好をしてるんだから、ぼくも言ってみたくて」
「言うのは勝手だが、僕が何も菓子など持っていないのは知っているだろう」
「固いなあ。そういうときは、別の物に替えてもいいじゃないですか」
「別の物?」
ケープの下から伸びた手がマスクを外すと、ジャック・オ・ランタンの下から柔らかそうな金の髪が流れて、今日ようやくジョミーの顔をまともに見ることができた。
大きなマスクが相当暑かったのか、既に肌寒い季節にも関わらず僅かに汗ばんだ額についた前髪を軽く払い、マスクを小脇に抱えてブルーの肩に手を置く。
「お菓子がないならね」
肩に置いた手に軽く力を入れて、ジョミーは僅かに踵を浮かせて背伸びをした。
一瞬の出来事だ。
だが確かに触れた柔らかな感触が残っている。
「『甘いキスをあげる』……くらい言ってくれてもいいのに」
呆然と立ち尽くすブルーがおかしかったのか、艶やかな桃色の唇が軽く弧を描いた。
呆然と立ち尽くしているのに、その唇から目が離せない。
一瞬だった。だが、確かに触れた。
「なっ………」
何をされたのか、ようやく理解したと同時に腕を上げて顔を半分、ジョミーから隠した。
一瞬にして顔が熱くなった、その様子を見せたくなくての咄嗟のことだ。
ブルーの激しい動きに、肩に置いた手を振り払われた形になったジョミーは、だがおかしそうに笑いながらマスクを被り直す。
「イタズラ成功!」
「い、悪戯!?」
ジャック・オ・ランタンに戻った少女は、やはりその動きにくそうなマスクを感じさせない軽やかな足取りでくるりと舞うように踵を返し、振り返りながら手を振る。
「じゃあぼくは、アルテラたちを追いかけるのでこれで!Happy Halloween!」
既に遠くなっていた子供たちの背を追って、ジャック・オ・ランタンは駆けて行く。
「君は……」
遠くなっていく背中を見送りながら、ブルーは柔らかな感触を覚えている頬を手の甲で抑える。ぐらりと足元が揺らぎ、近くにあった家の壁に背中を預けた。
「君の悪戯は、性質が悪すぎる……!」
頬へのキスなど挨拶だ。それこそ悪戯と言うほどの悪戯ではない。
そう思うのに、小悪魔のような笑顔を見せる艶やかな唇が脳裡から消えてくれず、ブルーはしばらくその場から動けなかった。

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