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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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パラレルのパラレル(苦笑)、転生話のバレンタイン後編。
こちらはブルーの視点です。素直でない人……。


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「今年はいくつポストに入っていましたか?」
友人はおはようの挨拶の代わりに、顔を合わせた途端、そう言った。
「知らない」
「また無視したんですか?」
「無視も何も。入ってたなら母さんが処理しただろ」
朝のブルーが眠気の残る気だるさに不機嫌なのはいつものことなので、素っ気ない答えでもリオは気を悪くすることもなく肩を竦めるだけだった。
「では、教室の机がどうなってるか楽しみですねえ」
「迷惑だ。勝手に押し付けるくせに、捨てたら酷いと喚く」
「その場で捨てるからですよ」
「後で捨てるなら持って帰るのが面倒だ」
こんな迷惑な行事なくなればいいと思いながら、ふと鮮やかな金色の髪を揺らして明るい笑顔で手を振る少女が脳裡に浮かぶ。
ブルーはすぐに首を振って重く息を吐き出した。
「あ……」
隣を歩いていたリオが小さな声を上げて立ち止まり、思考を他所へ飛ばしていたブルーが前を見ると、ちょうどその姿を思い浮かべた少女が視界に飛び込んでくる。
……隣を歩く友人に、可愛らしい包みを渡してる姿が。


「ブルー!リオ!おはよう!」
後ろにいたブルーたちに真っ先に気づいたのはジョミーだった。
屈託のない笑顔で手を振りながら声を掛けてくるその姿に、ブルーはいつの間にか止めていた足を進める。
「ああ……おはよう」
心なしか声が低く出た。隣で何か言いげな目を向けてくるリオにも無性に腹が立つ。
ジョミーが誰かにチョコレートを渡したくらい、一体なんだというのか。どうせ義理のものだろうと、ブルーは甘い物が苦手だから関係もない。
ブルーたちが追いつくのを待っていたジョミーは、クラスメイトが持っていた徳用菓子の大きな袋を手にして、それをリオに差し出した。
「はい、リオ。取って」
「え………」
いきなり黒い粒の菓子を差し出されたリオは、当然ながら戸惑う。
前置きもないジョミー、シロエが溜息をついた。
「それ、バレンタインの義理チョコだそうですよ。今ちょうどぼくらも貰ったところです」
「……これが、義理チョコ……ですか……」
リオは複雑そうな表情で呟いて、サムの手にある綺麗なセロファンで作られたバレンタインカードのついた袋を見て、そしてブルーに一瞬だけ目を向けた。
その視線にブルーはまた僅かに機嫌を下降させたが、サムは何かを誤解したらしい。
「あー……色気も素っ気もなくて、困った奴でしょう。こいつ毎年手抜きなんですよ」
「……毎年、ね……」
ブルーは我知らずサムの手にある包みに目を向けたが、その視線を断ち切るように首を振った。
「たまにはこういうチョコもいいと思いますよ?童心に帰るような気がしませんか?」
ジョミーに礼を言いながら麦チョコを手にしたリオが、そうブルーに視線を向けて勧めようとする。
ブルーは手を翳してそれを拒絶した。
「結構だ。必要ない」
にべもなく言い切ったブルーに、サムは包みを小脇にぽんと得心したように手を打つ。
「あー、ブルーさんなら高級チョコとかいっぱい貰いそうですよね」
「別に、そういうわけではない」
どうせ甘いものは嫌いだ。貰っても捨てるだけで、大体直接手渡しされるものはすべて受け取らない。
これもまた、ブルーにとっての毎年のことだ。
元からジョミーからも受け取るつもりは……。
「あ、うん。ぼくもブルーにチョコは持ってきてないよ」
リオが麦チョコを手にすると、ジョミーはその包みをあっさりと下げてしまった。
「ジョ、ジョミー!」
一瞬だけ立ち尽くしたことに気づいたのは、隣でリオが引きつった声を上げてからだった。
なぜ自失したのか。ブルーは頭を振って気を取り直す。
「それはよかった」
「うん、だってあなた甘いもの嫌いでしょう?」
にっこりと、天使のような微笑みでジョミーは麦チョコの袋を閉じて鞄に詰め込んだ。


ジョミーの義理チョコの手抜き具合を笑い話に、校門まで集団でぞろぞろと歩いた。
人と関わることが苦手なブルーだが、今年は今日という日に道を歩いていて呼び止められることが一度もなかったことに少し感心してしまった。意外な効果があったものだ。
しかし元からこんな行事がなければそんなことに感心しなくてもよかったのにと考えれば、それがプラスとも思えない。
校門を潜ると、キースたちは二年次生の教室へ向かう道へ分かれた。キースを小突きながらマツカとも何かと話しているサムの後姿を一瞥して、ブルーはすぐに視線を外した。
そうして目を背けた先で何か言たげなリオと目が合う。
「なんだ」
「いえ、別に」
首を傾げて微笑む友人のすっきりとしない態度に、ブルーは肩を竦めて手を振った。
「先に行ってくれ」
「ブルー……あの」
「何が言いたいのかは大体分からないでもないが、君の想像を押し付けるなといつも言っているだろう。先に行ってくれ」
「分かりました……あの、気を落とさないで下さいね。ジョミーはこういった行事は儀礼としか思っていないのではないかと……」
「だからそれが余計な気の回し過ぎだと言ったんだ」
ジロリと睨みつけると、リオは息を吐いて先に階段を登っていった。
別に、本当にチョコレートなどどうでもいい。元より甘い物は嫌いだ。自分の意思では一度も受け取ったこともない。
ただ、いつもならこちらの話なんて聞きもしない強引なジョミーにしては、珍しい気の回し方だと思っただけだ。
いつものジョミーなら。
「ブルー」
ちょうど思い浮かべていたところに声を掛けられて驚いて振り返ると、先ほど別れたはずのジョミーが肩に掛けていた鞄を腕に抱いて、小走りに駆け寄ってきた。
「ブルー、ちょっと待って、渡したいものが」
足を止めて身体ごと振り返ると、すぐ傍まで駆けて来たジョミーは、辺りを見回して人目がないことを確認してから、鞄から包みを取り出す。
「これ、受け取ってください」
薄いグリーンの半透明紙は折り畳んで口を止めただけの簡素な包み方だったが、それだけにそれがジョミーの手で包んだものなのだと分かる。
その中には、何かスティック状のお菓子のようなものが見えた。
「……これは」
「あの、だってあなたは甘いもの嫌いでしょう?だから、チーズ味のお菓子にしてみたんです。これなら塩気のお菓子だから……ぼ、ぼくアルテラと違ってお菓子なんて作ったことなかったから形とか悪いけど、でも味は大丈夫だったから……えっと…」
「作ったことがない……」
ジョミーの自己申告の言葉を肯定するように、確かに半透明の包みから透けて見えるスティックの形は少々、歪だ。
「では、僕と先ほどの君の友人が初の実験台ということか」
「え、友人?」
きょとんと首を傾げるジョミーに、ブルーは視線で促すように、階段の方へと目を向ける。
「サムとかいう、君の友人」
「サム?サムにはぼく、麦チョコしか……あ、ああ、サムが持ってたのはアルテラからものです」
「……君の……妹の?」
「そうです。毎年ぼくがサムの分は届けるんですよ」
呆然と目を瞬くブルーに、ジョミーは居心地が悪そうに肩を揺すって僅かに俯く。
「それで……えっと、その……」
そうして、下から覗くようにちらりと視線を向けてくるジョミーに、精々重々しく頷いた。
「せっかく僕に合わせて作ったというのなら、貰わないでもない。もったいないからね」
ブルーは妙に気持ちが軽くなった思いで、仕方がないという風な溜息をつきながらジョミーの手から包みを受け取る。
「ありがとうございます」
安堵したように、胸を撫で下ろして笑顔を見せたジョミーに、ブルーも自然を笑みを返していた。

転生でバレンタイン小話。
未来時間なので、多分に想像が入っています。
バレンタインはおろか、義理チョコ文化まであるので、パラレルの更にパラレルくらいに捉えていただけたらと(^^;)
せっかく女の子ジョミーなのに、このイベントには乗っからないと!ということで~。
でもって二人はまだ恋人同士ではありません。
そしてフライングで本編より先にシロエが出ます……す、すみません!




「よう!おはよう、ジョミー!」
白い息を吐きながら、いつにも増して朝から元気に挨拶をしてきたサムに、ジョミーは溜息をついて肩をすくめる。
「おはよう、サム。ひょっとして、今年も君のママとぼくとアルテラくらいしか当てがないのか?」
「………そう言うなよ……」
がっくりと肩を落とすサムと、くすくすと笑うマツカの横で、キースだけが首を傾げた。
「何の当てだ?」
「え、待てよキース。まさか心当たりがないなんて……」
「ジョミー、キースはこういう奴なんだ」
「嘘だろ!?だってキースってモテるのに!?」
「受け取ってくださいなんて差し出したら『これはなんだ、一体どういう意図のものだ?』とか鋭い目を向けて言い出しかねない人に、正面きって渡せる猛者がいるはずないと思うけど」
「あ、おはよう、シロエ」
後ろから声を掛けられて振り返ったジョミーは、その言葉に酷く納得して頷いた。
「イベントでもそれか、キース」
「ジョミー、機械に情緒を求めるだけ無駄だよ」
キースを一瞥して、つんと顔を逸らしたシロエに苦笑しながら、ジョミーは肩に掛けていた鞄を下ろして中を探る。
「まあなんでもいいや。全員揃ってちょうどよかった。シロエは同じクラスだから後でもいいと思ってたんだけどさ」
そう言ってジョミーが鞄から引きずり出した袋に、シロエとマツカが目を丸めた。サムはまたかと呟き額を押さえ、キースは眉を寄せる。
「ジョ……ジョミー……それって……」
「えーと……」
シロエは袋を指差して言葉に詰り、マツカも戸惑うように首を傾げてサムを伺う。サムは苦笑を零して頷いた。
「ジョミー、学業に菓子は必要ないぞ」
「バレンタインなんだから大目に見てよ。はい、キースも一掴み取っていいから」
バリンと音を立てて徳用の大袋の口を開けると、まずキースに差し出した。
「バレンタイン……?」
「そ。これは日頃仲のいい友達とかに渡す……」
「いくら義理だからって、麦チョコっていうのはどうなのさ、ジョミー!」
「やっぱり……それが義理チョコだったんですね……」
さすがのマツカも引きつった笑いで呟いた。

「いいじゃないか、麦チョコ。美味しいさ、クラス全員に勝手に取って行ってーってできるし、貰うほうだってお返しはいらないか、それこそ10円チョコでいいかって思えるだろ」
「ジョミーは毎年こうなんだよ」
学校へ向かって揃って歩きながら、ジョミーが掲げている袋に手を入れてサムは苦笑いを見せる。
「まあ……百パーセント誤解なく義理チョコだとは分かりますよね」
「いい風に言いすぎだよマツカ。どう見ても手抜きじゃないか」
「そう言いつつ、君らも食べてるだろ」
「本人も食べてるけどね……」
溜息をつくシロエに肩を竦めて、ジョミーはまだ一度も手を出さない男に袋を向ける。
「ほら、キースも食べなよ」
「しかし歩きながらものを食べるというのは……」
「お堅い奴……じゃあ仕方ない、キースには特別だ。えーと……」
ごそごそとポケットを探るジョミーに、シロエはえっと声を上げる。
「なに?別に普通のチョコレートも持ってたの!?なんでキースにだけ……」
「ほら、ティッシュに包んであげるから、後で食べるといいよ」
手にしていた麦チョコを握り締めて叫びかけたシロエは、取り出したポケットティッシュから一枚抜いたその上に、ザラザラと麦チョコを入れて口を捻るジョミーに、力なくうな垂れる。
「そ、そうか……すまない……」
そのラッピングとも言えないぞんざいなチョコを入れた包みを渡されて、キースは戸惑いながら礼を言った。
「だからさあ、ジョミーに夢見んなって」
サムは笑いながら、うな垂れたシロエの背中を叩く。
「義理でもこいつがバレンタインにチョコを用意すること自体がすごいんだって」
「た……確かに……ジョミーならあげるより逆に貰っても不思議じゃないよね……」
「ああ、こいつ後輩とか先輩からよく貰ってたぜ」
「そ……そう……なんですか……」
もはやシロエが声も出ない様子で額を押さえて溜息をついたので、代わってマツカが引きつった笑いで頷いた。
義理用にと用意したチョコレートを自分でもポリポリと食べながら歩いていたジョミーは、思い出したように麦チョコの袋をシロエに渡す。
「ごめんシロエ、ちょっと持ってて。ほら、サム。アルテラから」
「おー、サンキュー」
サムはジョミーが鞄から取り出したもうひとつの袋を両手で受け取って、笑顔で礼を言う。
「アルテラにもありがとうなって伝えておいてくれ」
シロエはサムが受け取った袋をまじまじと眺めて、溜息をついて首を振る。
その言いたいことが容易に想像できてしまったマツカがくすくすと笑いながら、サムの持つ袋を指差した。
「妹さんは手作りなんですね」
こちらは色の着いたセロファン紙を重ねて作った袋に、ピンク色のリボンで口を縛って、バレンタインのカードもついている。
「毎年だよ。サムにはついでだけどねー」
「わかってるよ。俺はコブとタージオンのおまけだろ。いいんだよ、それでも!麦チョコで済ませるお前に比べて、アルテラはなんて可愛いんだろうな、お姉ちゃん?」
「ぼくに夢見るなって言ったのはサムだろ……あ」
何気なく振り返って見つけた人影にジョミーは手を上げて大きく振った。
「ブルー!リオ!おはよう!」
手を振るジョミーに釣られて全員が振り返ると、いつもの温和な笑みが僅かに凍った様子のリオと、不機嫌そうなブルーが並んでいる姿があった。
ちょっとした小話のはずが。長くなったので分けました。
分けたぶんだけ伸ばしたら、フィシス様のおかしな人具合に磨きがかかりました。その参考文献はいけないと思う……というか、シャングリラには何の文献があるのか。
この話のブルーはまとも(惚気以外は)だったんですが、この日を境に色々変わりそうです……。



「ジョミーがあなたともっと親密に話し合いたいと話していましたの」
フィシスがそう告げると、ブルーは意外なことを聞いたとばかりに長い睫毛を揺らして瞬きをした。
「親密に?しかし僕らは十分に……いや、もしかすると僕ひとりが満足していて、ジョミーは何か不満を貯めていたのだろうか」
表情を改めて、深く考える仕草で顎に指を当てたブルーに、フィシスは苦笑を零して首を振る。
「不満と言うより、不安でしょうか。詳しいことは今夜ジョミーが訪ねたときに分かると思いますわ」
「今夜?」
「ええ。私が後押しいたします。あなたも、ジョミーの元気の良い可愛らしい姿を見続けたいとお思いでしょう?」
「もちろんだとも!」
ブルーは確かに言った。
ジョミーの可愛い姿を見たい、と。
フィシスは両手を握り合わせて、にこりと微笑んだ。


「ジョミー。ブルーはあなたの可愛らしい姿を見たいと仰っておりましたの」
そう言った前後を略して伝えると、ジョミーの頬が一気に赤く染まった。
「か、可愛い!?あの人はまた……ぼくのこと孫みたいに言って……」
怒ったような、照れたような様子で赤くなった頬を拳で擦るジョミーに、フィシスは緩く首を振る。
「孫、とは違うと思います」
そうして、傍らのテーブルに置いていた服を取り上げてジョミーに手渡した。
「これなに?」
はい、と手渡された桃色の布を見てジョミーは首を傾げる。
「今夜はそれを着てブルーの元へ行かれるとよいでしょう。あなたもブルーとゆっくりお話したいでしょう?」
「それは確かにしたいけど……あんまり夜更かしするとブルーによくないし……」
「ですから、そんなときのためのこの服ですわ。どうぞここで試しに着替えてみてください」
「ここで!?え、って……フィシス……これ……」
広げた服を見て、ジョミーが絶句する。
「これスカートじゃないか!しかもなんか随分丈が短い……」
「看護士の服です」
「嘘だ!この船の看護士はみんなズボン型じゃないか。アタラクシアでだってスカートは膝下まであったよ!?これ太股まで出るじゃないか!」
「まあ……私が嘘を申したと……?」
眉を寄せ、傷ついたように手の甲を唇に翳してよろめくと、ジョミーは途端に慌てて首を振った。
「あ……ち、違うよフィシス。そんなつもりじゃないんだ。でもこれって……」
「ライブラリーに記録が残っておりました、地球で使われていた看護士の服を、再現させたものです」
「地球?」
その単語に、ジョミーはぴくりと反応を示す。
「これ、地球の服なの?」
「ええ。再現してくれた方は平面の資料を元に起こした型紙で作ったので、細部が怪しいとは言っておりましたけれど、サイズはジョミーにぴったりのはずです」
「地球の服……看護士の服……で、でもさフィシス。服を着たからってぼくが上手く看護できるようになるわけじゃないし」
「気は心です、ジョミー」
フィシスはキリリと表情を引き締めて、桃色のナース服を広げるジョミーに手を重ねた。
「桃色は人の気持ちを和ませるといいますし、あなたがその服を着ることによって、あなたの心がソルジャーにも伝わるでしょう。どうしても不安になる事態になりましたら、ドクターを呼べは良いだけです」
それでは別にいつもの服でも構わないだろうと、ジョミーに気づかせないうちに、フィシスは畳み掛けるように重ねた手から思念を送った。
「それとも、こちらの服のほうがよかったかしら?」
送られてきた映像は、フレアスカートの黒い半袖のワンピースに、白いレースのエプロンを掛けているものだった。その裾はやはり短く、裾と袖は白いレースで飾られている。頭部にも白いレースのカチューシャ。
次に送られてきた映像は、レオタードのような黒い衣装に燕尾服を重ねて着ていた。足を包むタイツは網目状で肌が見えるし、お尻にあたりには白いぼんぼりのようなものがついている。頭につけたウサギの耳のついたカチューシャと合わせてみて、どうやらウサギをイメージしているらしい。
そんな映像が、自分をモデルに送られてくるのだからたまらない。
「な……なにこれっ!?」
目を白黒させて絶叫するジョミーに、フィシスはそっと重ねていた手を解いた。
「これらは、身の回りのお世話をする者と、場を和ませる役割を担う者の衣装だそうです。ね、ジョミー。私はこれでも、あなたが抵抗少なく着ることのできるであろう服を選んだつもりだったのですけれど……」
「わかった。ぼく、これ着るよ……」
まるでどれかひとつは選ばなければならないかのような言葉に、ジョミーは少々青褪めた顔色で桃色の看護士の服を握り締めた。


「ここでジョミーが試着をしてくれなかったことだけが心残りです……」
頬に手を添えて、ふっと残念そうな溜息をつくフィシスに、リオとアルフレートはそれぞれ視線を他所へと泳がせた。
「それにしてもよい仕事でしたわ、リオ。よくあの短期間であの服を仕上げてくれましたね」
『あ、ありがとうございます………ジョミー、すみません……』
消え入りそうなリオの声など聞こえていないかのように、フィシスは手を叩いて椅子から立ち上がった。
「さあこれで、明日からは私も解放されますわ。さすがに今夜のことは私に話そうとはお二人とも、思いませんでしょうから」
「フィシス様……」
そっと目の端に浮かんだ涙を拭ったアルフレートの肩を、リオが叩いてゆっくりと首を振った。
慰めてくれるのか、同志。
唯一同じくすべてを知っているリオからのアクションに、アルフレートは共に嘆こうとした。
だが。
『必ずしもフィシス様の思惑通りにことが運ぶとは限りません。そのときは頑張ってください』
アルフレートは孤独をまざまざと実感した。


「女神は哂う」
配布元:Seventh Heaven


まさかのアルフレート締め(笑)
ジョミーは素直な子なので、ちゃんとピンクナースで青の間に行きます。

前回が暗かったので、明るい話にしようとしたら無自覚傍迷惑Wソルジャーになりました。この二人は今のところ師弟関係、純粋なる好意だけの信頼関係の間柄。
でもこの話の主人公はフィシスです。このフィシスは腐女子ではなくて、単に嫌気が差しただけで。
ブルーのことをあまり大事にしていないフィシスですのでご注意ください(^^;)
黒フィシス、天然Wソルジャー、女装等、色物ご注意。

 
 
「聞いてくれ、フィシス!」
満面の笑顔のソルジャー・ブルーが天体の間に訪れる。その足取りは軽やかであるのに力強く、彼の人の威厳とご機嫌が同時に伺えるものだった。
「まあ、ソルジャー・ブルー。ようこそいらっしいました。お待ちしておりましたのよ」
かたりと椅子を立ったフィシスの言葉に、ブルーは更に機嫌を良くした。
このところフィシスは忙しかったり、体調が優れないなどが続いて、あまり長く話し込むことができなかったからだ。
待っていた、というからには存分に話せるのだろうと喜び階段に足をかけたブルーは、階段下で竪琴を鳴らしていたアルフレートの額から冷や汗が流れていたことに気づかなかった。アルフレートはそのまま一礼をして、二人の時間を邪魔しないように遠慮した態で天体の間から逃げ出す。
「今日はあなたに、お伝えしなくてはならないことがあります」
「え?それはソーサラーとしての言葉かい?」
「いいえ。ですがあなたと、ジョミーのために必要なことですわ」
ジョミーのため、と聞いてブルーが反応しないわけがない。
フィシスが予想するまでもなく確信してた通り、ブルーは途端に表情を引き締めてフィシスの前に立った。
「聞こう」
その表情は、ソルジャーとして相応しいものだった。

「やあ、フィシス。こんにちは。いや、こんばんはかな」
夕方と夜との狭間の時間に訪れたジョミーの表情には、一日の疲れが透けて見えたが、それ以上に彼は上機嫌だった。
「まあ、いらっしゃい、ジョミー。お待ちしてましたのよ」
昼間にブルーを招き入れたときと同じような状況で、同じようなことをいうフィシスに、アルフレートは今度は早々に階段から立ち上がった。
そうして、ジョミーに挨拶もせずに足早に天体の間を後にする。
フィシスのファンであるアルフレートには、常々フィシスに近付くことをあまり快く思われていない自覚のあるジョミーは、珍しく一瞥もくれなかったアルフレートに首を傾げたが、フィシスに呼ばれてすぐに気を取り直した。
「今日は時間は大丈夫だったかな?」
女の子たちに占いをする約束がありますの、そろそろ入浴しようとしていたところですの、など最近はすれ違いが多かったことを指しているのだろうジョミーに、フィシスはにっこりと微笑んだ。
「ええ、今日はあなたに大切なお話がありまして……」
「大切な話?」
ちょこんと首を傾げたジョミーは、本人が聞けば断固として否定しそうだったが大層可愛らしい。
……この可愛らしさに、絆され続けてしまったのだ。
フィシスが手を伸ばすと、ジョミーはそれを握ってくれる。
「ええ、ソルジャー・ブルーのことです」
「ソルジャーがどうかしたの?」
途端にジョミーの雰囲気が引き締まった。


「フィシス、聞いてくれ!今日の目覚めはジョミーで迎えることが出来たんだ。僕が眠っていようと目覚めていようと、夜に挨拶にきてくれていることは知っていたが、なんとジョミーは朝も僕の顔を見てから訓練に行っていたと言うじゃないか!なんて可愛いのだろう!」(うっとり頬を染める)
「聞いて、フィシス!今日は朝の挨拶のときにソルジャーが目を覚ましてくれたんだよ!ぼく、一日がすごく楽しくて、機関長に怒られても幸せだったんだ。おかげでヘラヘラするなって、余計に怒られちゃったよ」(ペロリと舌を出して悪戯な微笑み)

「フィシス、聞いてくれ!今日のジョミーは休憩時間に子供たちとかくれんぼをしていたんだ。途中で疲れが出たのだろうね。隠れた木の上で眠ってしまった。その寝顔は天使のように清らかで……いや、天使如きがジョミーに叶うはずもないのだが。しかし眠っているのが木の枝の上だったからね。落ちては危ないと僕が迎えに行ったら、逆に怒られてしまったよ」(幸せそうな笑みで頭を掻く)
「フィシス聞いて!今日、ソルジャーったら広場まで出てきて、サイオンを使って木の上にあがってきたんだよ!……そりゃ、あんなところで居眠りをしたぼくも悪いんだけどさ……でも、そんなの下から声を掛けてくれたらいいのに、わざわざサイオンを使うなんて、自分の身体に無頓着すぎるよ、あの人!抱っこなんてしてくれなくても、落ちたりしないのに!」(頬を膨らませつつ、ほんのりと嬉しそうに)

「フィシス、聞いてくれ!今日はジョミーが手料理を作ってくれたんだ。卵の殻が少し痛かったが、カルシウムが不足しているだろう僕にはぴったりのオムレツだった!卵のふわふわとした食感が、まるで愛らしいジョミーのようで、今日は素晴らしい食事だった……」(感歎の溜息)
「フィシス……聞いてくれる?今日はぼくからソルジャーに、オムレツを作ってみたんだけど……失敗して卵の殻が混じってたみたいなんだ。ガリってすごい音がから、びっくりして吐き出してって言ったらあの人、『僕は歳だから多少の殻はカルシウムにちょうどいい』なんて言って、全部食べちゃったんだ。ぼく本当に申し訳なくて……ねえ、お詫びにもう一度何か作ろうと思うんだけど、あの人が好きな料理って知ってる?」(少し照れたような上目遣い)


「私は、惚気は聞き飽きました」
冴え冴えとする美貌でフィシスがテーブルを叩くと、さたる音も立てなかったというのに、傍らに立っていたアルフレートと、正面に所在なげに座っていたリオが同時にびくりと震えた。
『え……ええ……フィシス様、お気持ちはわかります……』
「確かに、この15年間、ジョミーを見つけてからのソルジャーからは来る日も来る日も「今日のジョミー」を聞いておりましたが、ジョミーをようやく迎え入れ、念願が叶ってからのあの方は更に磨きが掛かってしまいました」
ジョミーを遠くから見守るだけの日々の間の話は、傍に行くことのできない寂しさが含まれていたから、まだ素直に聞くことが出来た、の間違いではないだろうかと、アルフレートとリオは同時に考えたが、賢明なことに口にも思念も乗せなかった。
「それでもソルジャーおひとりからでしたらまだ我慢もできましたが、ジョミーまでが私に喜びの報告をするようになって……正直に申し上げてつらかったのです」
それは、様々な用事を作っては逃げ出していたことを考えると容易に想像はつく。
ほぼ毎日、二人掛かりで昼と夜、同じ話を、別々の視点で、惚気て聞かされていれば、それは嫌気も差すだろう。その点は確かにフィシスに同情する。リオはジョミーからしか惚気は聞かないので、まだマシだろう。
『……ですが、どうしてアレなんですか?』
衣装協力と称してフィシスの意趣返しに巻き込まれたリオが恐る恐ると訊ねると、フィシスは口元にほっそりとした指を翳して、あらと微笑む。
「だって、あのお二人は傍から見れば相思相愛は明白なのに、そのことに無自覚だからああして公害……こほん。人に話して内に篭った想いを発散しているのですわ。でしたら、その想いを互いに向けてしまえば、すべては解決ではありませんか」
『はあ、まあ………』
理屈はわからないでもないですが、何もあそこまでしなくても。
リオはそう思ったものの、やはりそれをフィシスに面と向かって告げはしなかった。
最近パラレルぱっかりだったので、久々にソルジャーな二人で。
……と思ったのですが、すごい暗い話になりました。ブルーが非常に後ろ向き。ご注意。



キリキリキリキリ。
ゼンマイを巻く。
ぎこちない動きで、ブリキの玩具が両腕を動かす。
それを輝く瞳で見つめる子供。

やがて玩具はゼンマイが壊れ、忘れられる。


目を覚ますと、ほの暗いいつもの見飽きた部屋の天井が映る。
ブルーは起き上がろうとベッドに肘をついて。
身体を起こすことも出来ずにベッドに沈んだ。
溜息が漏れる。
久々に昔の夢を見た。
このシャングリラに来てからではない。アルタミラ時代のつらく忌まわしい記憶でもない。
もうほとんど白紙に近い、ミュウとして目覚めた切っ掛けの成人検査を受けるより、その前の記憶だ。三百年という月日の中で、わずか十四年にも満たない期間とはいえ、それなりにあってしかるべき記憶は、そのほとんどが消去され、まるで壊れたレコードのように、短い断片を繰り返すことしかできない。
「ブリキの玩具……ゼンマイ……」
滑稽なことに、両親、生家、友達、それらの人々のこと、それらの人々と過ごした大切だったであろう日々は虫食いの酷い書籍のように二度と復元もできないほどに壊されたのに、誰から貰ったのかも分からない、壊れかけたブリキの玩具のゼンマイを巻くシーンだけは繰り返し再生される。
滑稽だ。だがテラズナンバーを作った者の思惑を思えば、その記憶が大切であればあるほど、その人格を形成するために必要なものであればあるほど、それを消去するだろうから不思議でもない。

ゼンマイを巻いても動かなくなった玩具は、打ち捨てられ、やがて忘れ去られた。
キリキリキリキリ。
ゼンマイを巻いても、動かなくなったことまで覚えてる。
なのにその玩具が、最期はどうなったのかをまるで覚えていない。
これは消された記憶の中にあったというよりも、ブルー自身がまるで覚えていないのだろうと、なんとなく確信できてしまう。
直されることも、捨てられることすらなく。
忘れられたのだ、あの玩具は。


部屋と空間を仕切っていたカーテンが揺れる。
「ブルー」
目を向けると、まだ幼さを残す少年が顔を覗かせて、表情を輝かせる。
「起きていたんですか?気分は悪くないですか?何か欲しいものとかありますか?あ、ドクターを呼んできたほうがいいのかな」
嬉しそうにベッドの傍らに膝をつき、シーツに両手をついて身を乗り出した少年は、水を指差したり振り返ったりと忙しい。
ブルーは思わず小さく吹き出して、シーツの波間から僅かに手を上げた。
「ジョミー、落ち着いて。ドクターは呼ばなくてもいい」
声を出すと、思った以上に喉が渇いていて、ひりつくように痛かった。掠れた声に、ジョミーは勢いよくベッドに乗り出していた身体を起こす。
「喉が痛いの!?すぐにドクターを……っ」
「ちがう……」
制止しようとした声がまた割れて、ブルーはジョミーの手を掴んだ。
『喉が渇いているだけだ。ドクターより水をくれないか、ジョミー』
声を出すとジョミーがうろたえると思念で伝えると、少年は半信半疑の様子でベッドサイドの水差しからグラスに移して、そこではたと止まった。
水を飲むには横たわったままでは支障がある。けれどブルーを助け起こすためには片手がグラスで塞がっている。
早く水を飲ませてあげなくてはと慌てているジョミーが、グラスを一旦テーブルに戻すという選択肢を忘れていることに、ブルーは苦笑を漏らした。
『ジョミー、器は君で』
そう伝えてみると、初め意味のわからなかったらしいジョミーはきょとんと目を瞬いた。
にこりと笑みを見せるブルーに、ようやく察したらしい。みるみるうちの頬を赤く染める。
「あ、あなたって人はっ!」
『喉が渇いたよ、ジョミー』
わざとらしく詰るような弱々しい渇いた咳を一度出すと、ジョミーは頬を膨らませたあと、結局さして迷うこともなくグラスに口をつけた。
少量を口に含むと、ベッドに手をついて身を乗り出す。
顔の横の枕がジョミーに押されて沈む感覚が、やけに生々しかった。
温かな唇が重なり、冷たい水が滑り込んでくる。
自覚していたよりも渇いていたのか、一口の水がまるで身体の底にまで染み渡るようだった。
ジョミーは身体を起こすと、再び水を口に含み同じことを繰り返す。
数度に渡る水の供給に、そろそろいいかとジョミーが考えていることが伝わった。ブルーは目を細めて流し込まれる水に逆らって薄く開いていたその口内へ舌を捻じ込む。
「んっ!」
急に行動に移されたことに、ジョミーは驚いたように跳ね起きた。お陰で水はブルーの口へ正しく移されず、その頬を濡らす。
「ジョミー」
「だって!今のはあなたが悪い!」
「水と一緒に君の愛情が欲しいと思っただけなのだがね。とにかく何か拭くものを取ってくれないか」
「はいはい」
ジョミーは諦めたように肩を落として、テーブルに手を伸ばす。グラスを置きながら、代わりにタオルを手にして、小さく小さく呟いた。
「愛情なら、たっぷりあげてたのに……」
「渇いていると、貪欲でね。足りないと言ったら怒るかい?」
「聞いてたの!?」
「聞えたんだよ」
軽く応えると、ジョミーはむっと頬を膨らませながら、濡れたブルーの頬と、枕を拭う。
「それで」
「ん?」
「どうしたら、ブルーの渇きは収まるの?」
膨れていたのは怒ったのではなく、ただの照れ隠しだ。
「さあ……どうすればいいのか、君が色々試してくれないか」
頬を撫でる優しい指先に、ブルーは目を細めて微笑んだ。


キリキリキリキリ。
ゼンマイを巻く。
壊れかけた身体は、少年の手によって、命を吹き込まれる。


願わくば。
直せなくなったそのときは、うち捨てて欲しい。
どうか、忘却の彼方へと消さないでくれと。
玩具の去就を忘れた身で、それでも願う。


「ゼンマイ仕掛け」
配布元:Seventh Heaven
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