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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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3月3日更新三つ目は教授ブルーと学生ジョミーの話。
とうとう雛祭りから離れましたが、実はこれは予定通りでして……そう、最初に書き間違えたんです(苦笑)
雛祭り祝いというか、これは3月3日という日にちなんだ更新だったのに!
これで時間的にラストかなーと思うのですが、できれば会話だけの短い話でいいからもう一個捻じ込めたら……ともうちょっと頑張ってみます……。

この話は……えー……ブルーがまたやりたい放題。
それでもこの二人はまだ恋人同士じゃありません(ーー;)

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「今日は何の日か、分かるかいジョミー」
万年筆を手にくるくると回しながらデスクで微笑む人を見やって、片付けの最中だったジョミーは本を拾う手を止めた。
今日の弁当にはちらし寿司を詰めようと思った理由がそれだったので、考えるまでもない質問だ。つい顔を上げたのは、妹のレティシアならともかくここにいるジョミーにも、そして質問をしてきたブルーにもまるで関係のない話だと思ったからだ。
「雛祭りですね」
「ん?ああ、そういう日でもあったかな」
そういう日でもって。
「違うんですか?」
拾い集めた本をアルファベット順に並べながらジョミーが首を傾げると、ブルーは満面の笑みでデスクから立ち上がる。
「確かに、違わない。だがもうひとつ別の日でもある」
別の日でもとは何があっただろうかと考えながら、並べた本を数冊両手に抱えて本棚の前に移動する。そのすぐ横にブルーが立った。
手伝ってくれるのだろうかと―――元々これはブルーが散らかしたもので、本来片づけを手伝っているのはジョミーだが―――隣に立った部屋主を見上げるのと、相手の指がジョミーの耳を撫でるのはほぼ同時だった。
ブルーは指先で軽く摘んで、人の耳で遊ぶように少し引っ張る。
「……なんですか?」
「耳の日だ」
ああ、3月3日をそんな風に言うこともあったか。昔、3月3日生まれの友達が、女の子の日生まれだとからかわれたときに、そんな反論をしていたことを思い出す。
「で、それがなにか」
両手に本を抱えるジョミーの傍にいるのに、手伝う素振りも見せずにブルーは人の耳で遊ぶだけ。
力は加減されているから痛くはないが、軽く摘んで引っ張って挟んで捏ね回されてでは、さすがに気になる。
「やめてくれませんか」
「ジョミー、僕はこの日に気付いてから、君の耳が気になって仕方がない」
「なんでなんですか!?」
今のところ傷もないし、ちゃんと掃除をして、汚れてもいないはずだ。
本を直す手を止めて勢い込んで振り仰ぐと、ブルーは輝くような笑顔を振りまく。
「なぜって君、こんな美しいフォルムを僕はいまだかつて見たことがない」
「は……?……あ、ちょ……!」
ブルーの指先はジョミーの耳を摘んでいた指を離すと、その形を辿るように柔らかく滑り始める。
たったそれだけの変化なのに、ジョミーは言いようのない奇妙な感覚を覚えて肩を竦めた。
「ちょっと……やめてくださいっ」
両手が本で塞がっていて押し返すこともできない。逃げようと足を引けば、ブルーは斜めに足を踏み出しながら本棚に片手をついて、巧妙にジョミーを追い詰める。
背中を本棚にぶつけて逃げ道はないし、両手は本で塞がっていてブルーの手を止めることもできない。
その間にも指先は外縁を辿り終え、くすぐるような柔らかさで耳の内側を余すことなく探りながら奥の方へとゆっくりと進む。
感覚の鈍い耳朶をくすぐられていたときとは違うなにかが、ジョミーの背筋を緩やかに上る。
「や……な、なに……?」
「美しさを数値で表すのなら、一体どの数値を取ればいいと思う?外周の長さ?それとも耳朶の面積?君のこの美しい頭部とのバランスだろうか。どうしたらこんなに僕の目を魅きつけてならない誘惑を醸し出すことになるのだろう……」
「何を言ってるのか、全然わかりません!」
いつも意味不明なところがあるが、今日のは格別だと力一杯に叫んでみるが、ブルーは理解不能を叫ばれたことなど気にも留めずにジョミーに耳を存分に愛で続ける。
「触れてみると素晴らしいことに手触りまで完璧だ。ほどよい柔らかさも、手に返る耳骨の反発も……ジョミー、もう少し触れてもいいかい?」
「今まで散々触ってるでしょう!?」
もう十分だろうと拒否したつもりだったのに、ブルーは感動したと言わんばかりに目を輝かせる。
「そうか、もう触っていたね」
今更断る必要もないだろう、と言ったように取られた。
「そうじゃなく……てっ」
眼鏡の奥の赤い瞳がゆっくりと降りてきて、近付く顔にジョミーは硬直する。
綺麗だなんて調べたいなら、自分の顔を鏡で見ればいいじゃないか!
思わず身を竦めて強く目を閉じたジョミーの頬に、ブルーの髪が柔らかく触れる。
次いで、柔らかな物で耳朶を軽く挟まれた。
なんだろうと目を開けようとしたところで、軽く食むように擦られたそれが唇であると気がついた。
一体なにをしてるんだ、この人!
指で捏ねられる右の耳と、唇で弄ばれる左の耳。ブルーの暖かい吐息が奥にまで伝わり、背筋を走る感覚に力が抜けそうになる。
目なんて到底開けられない。
震える膝に力を入れて、抱えていた本を強く抱き締めて。
両手が塞がっていたって、いっそ体当たりすればよかったのだと後で気がついたが、このときは覚えのない感覚に押し流されそうになることに抗うことだけで必死だった。
だというのに、新たな感覚を与えられる。
「ひっ……」
ぬるりと熱いものが耳を這う。
ブルーの舌が、耳朶を舐めた。
「いや………だ……」
全身から力が抜ける。身体が熱くなる。
「ジョミー……」
鼓膜を直接震わせる熱い吐息と共に、掠れるほどに小さな声で優しく名前を囁かれて、血が逆流するかと思った。

両手から抱えていた本が滑り落ちた音で、沈みかけていた意識が浮上する。
「も……いい加減にしてくださいっ」
本を取り落としてしまったが、そのお陰で両手が自由になって力を込めてブルーの身体を押し返した。
今度はブルーも逆らわなかった。
「いきなりなんですか!」
「だから君の耳のその造形美の謎に迫ろうと……」
「舐めてなにが分かるんですか!?」
数値だの云々言っていたくせに、実際にやったことといえば指で遊んで唇で挟み、舌で舐めただけ。
左耳を手で押さえると、ブルーの唾液が掌にもついた。
耳の奥。
もう聞えないはずの舌の辿る濡れた音と、柔らかな熱い囁きが、まだ残っているかのようで。
かっと全身が熱を発したかのように熱くなる。
妙に恥ずかしくて赤くなった顔で目の前の、それこそ神秘の美しさを誇るような麗人を睨み付けると、ブルーは軽く指先で顎を擦った。
「味、かな」
「ぜんぜん数値と関係ないじゃないですかーっ!」
ジョミーが思わず繰り出してしまった拳を掌で止めて、ブルーは掴んだ手を軽く引く。
本気ではなかったとはいえ殴りかかろうとしたジョミーは、その軽い誘導でも前へとバランスを崩して、ブルーの腕の中に収まってしまう。
「だが、美味しかったよ」
ごちそうさま。
再び耳に吐息を掛けられて、ジョミーは顔も上げられずにブルーの白衣を握り締めて額を胸に押し付けた。

No.109 雛人形
3月3日更新のふたつ目は女の子ジョミーです。
転生のジョミーにしようかと思ったんですが、バレンタインでもすでに世界観がおかしな感じになっていたので、ここで雛祭りまでいれるとちょっと……!でも雛祭りなら一個くらいは女の子で~~!
ということで、読み切り女の子ジョミーです。
現代設定、義理親子。また義理親子……。
男の子版とはちょこちょこ違う箇所がありまして、ジョミーは友人の忘れ形見だとか、小さい頃は身体が弱くて、男の子の格好で育てられていた(古い言い伝えで、無病息災を願って幼い子供に逆の性別の格好をさせるという、あれ)とかいうことになっています。
すごい和風の家だなー……ブルーさん家。

そういう前提です。
シリアスに見せかけて始まりますが、あんまりシリアスじゃない…(特にブルーが)




「ぼく、思うんだけどさー……」
床に胡座をかいて座り、7段飾りの人形を見上げながらジョミーは軽く息をつく。
「友達の娘だからって引き取った子供に、こんな立派な雛人形を用意とかしてるから、ブルーって未だに結婚できないんじゃないの?」
ぼんぼりの中の蝋燭を取り替えていたリオは、呆れたように肩を竦める主の養女の言葉に思わず苦笑した。
ジョミーの言った言葉がそのまま呆れを表したものであれば、尊敬する主をけなされたように思うかもしれないが、ジョミーのそれが照れ隠しだなんてことは、この邸に住まうものなら誰でも知っている。
それに、ジョミーがいつまでも独身の養父を心配していることも。
「ぼくがいるから、ブルーの結婚の邪魔になっているのかな」
幼い頃は何の気がかりもなくブルーに抱きついていた少女は、成長するにつれて時折そんなことを漏らし、徐々に養父との距離を空けるようになった。
しかし養父であるブルーはそれが不満であるらしい。
彼は常日頃、自分では独身主義であるとジョミーの公言して、「それなのにこんなに可愛い娘を得ることが出来た」と昔のように娘を可愛がろうとしている。
お互いの気遣いが上手く噛み合っていないことが、邸に仕える者たちとしては至極歯がゆい。
……というのは、ごく一般的な邸の者の見解であって、ブルーとジョミーの傍近くでお世話をするリオやブラウといった面々は、少し違う事情ですれ違う二人のやきもきしていたりする。

取り替えた蝋燭に火を灯し、ぼんぼりから漏れる仄かな明かりを確認すると、リオは小さくなった古い蝋燭を片付けた器を手に振り返った。
「雛人形は形代とも言われていますからね。あなたのお身体が心配だったソルジャーが、こんなに立派なものをご用意されたとしても当然かと思いますよ」
「それだよ。今では信じられないけど、小さい頃のぼくは何度も熱を出して入院してお医者さんに往診してもらったりとかさ、ただでさえブルーには色々と迷惑をかけてるのに、こんなものにまでお金を掛けなくたって」
「金銭で購えることなら、何でもするというだけのことだよ」
後ろの扉が開いて、ジョミーは床に座ったまま大きく肩を跳ね上げた。振り返っていたリオは正面から主と対面して頭を下げる。
「お帰りなさいませ、ソルジャー」
「ブルー!もう帰ったの?」
「ただいま、ジョミー。今日は早く切り上げることができてね」
肩を抱き寄せるように伸ばされた手は、床に手をついて立ち上がったジョミーに自然な形でかわされた。
「でも、薬代とかと違ってこんなことにまでお金をかけなくたって……」
雛人形を見上げるジョミーの横に並んで、ブルーは肩を竦めて苦笑した。
「生活に困っているのにそれを押してまで、ということでもないのだから、そんなに気にすることもないだろう。迷信は迷信としても、何でもやってみたくなるものなんだよ」
「娘がぼくでなければ……」
「僕は君が娘になってくれたなんて、こんなに幸福なことはないと思っている」
弾かれたようにブルーを振り仰いだジョミーは、すぐに眉を寄せて唇を噛み締める。
泣くのかと思ってしまいそうな表情に、ブルーの手が伸びる前にすぐに身を翻した。
「ぼくは、あなたの娘になんてなりたくなかった……っ」
「ジョミー!」
引き止める間もなく、ジョミーは部屋を飛び出してしまった。

ジョミーが立ち去った部屋で、空しく伸ばした手を降ろしてブルーは深く息をつく。
「年頃の女の子は難しい……」
「気を遣っていらっしゃるだけでしょう。ジョミー様はお優しい方ですから、ご自分があなたの負担になっているのではないかと、気にしておられます」
「ああ……そうだね、リオ。僕もそう思う。女の子は成長が早いというけれど、この頃ではすっかり僕から離れてしまって寂しいよ……」
ふと息をついたブルーは、伸ばされたリオの手に脱いだスーツを渡してネクタイを緩めながら雛人形を見上げる。
「……ところでリオ」
「はい」
「この人形はいつ片付けるつもりだ」
「今日が桃の節句ですから、今日の晩にでもと思っていますが」
「………そうか」
考えるように頷いた主は、既に日が暮れているにも関わらず、ワインを買って来いとリオを使いに出した。

「えー!買い物なんて、わたしが行ってきますよ?どうしてリオさんなんですか?」
「いや……これは私が行かないといけないことなんだ」
車のキーを取りに行った先で、メイドのニナが驚いたように声を上げる。今年入った新人なので、毎年の恒例行事を知らないのだろう。他の者はみな緩い笑みを浮かべて頷いている。
迷信は迷信として、なんでもやってみたい。
それはブルーの本心だろう。
毎年、3月3日からの数日間は息をつく間もないくらいに忙しい。現に明日から連日で人を招いての会食や、パーティーが邸で開かれる予定になっている。

雛人形の片付けが遅れると、それだけ行き遅れる。
そんな俗説が、ある。

本来、人形を片付ける役目は別にリオでなくても構わないはずだ。
だが、高価なものでおまけに掌中の玉ジョミーの形代である雛人形は、特に取り扱いに注意するように。
そう厳命されているために、大人数での流れ作業的な片付けはできない。結果的に、毎年リオが選任で準備から片づけまでを担うことになる。手伝えるのは、ブルーの厳命を知らないジョミーくらいのもので、そのジョミーもリオの指示なしにはきちんと片付けられる自信がないので、一人で片付けるということは絶対にしない。

「ジョミーに嫁ぎたい相手とやらができたときは、こんなおまじないのようなものなど役に立たないさ」
ブルーはそう自重して笑いながら、それでも今年も片付けを遅らせようとする。
「ジョミー様の花嫁姿を見ることが遅れれば遅れるだけ、ご自身がつらいと思うのですけれどね……」
リオは苦笑しながらキーを差込み、車のエンジンを掛けた。
ギアを入れる前に、邸と駐車場を繋ぐ扉から、ストールを巻いたジョミーが駆け出してきて、慌てて窓を開けた。
「どうなさったのですか、ジョミー様。なにかお使いでも?」
出かけるならついでに頼みたいことがあるのかと訊ねると、ジョミーはストールを掻き合わせて風になびく髪を押さえて首を振った。
「リオが出かけるって聞いて。人形の片付けはどうするのかなって思って」
「申し訳ありませんが、今年も遅れそうです。明日からパーティーなどが立て込んでいますから、ジョミー様も今夜は早くお休みください」
「そう……」
小さく呟きながら、指先を当てたジョミーの口は笑みの形を作る。
「うん、わかった。リオも気をつけて行って来てね」
「ありがとうございます。それでは行って参ります。ジョミー様はお早く邸に」
「うん、おやすみリオ」
「おやすみなさいませ」
手を振って邸に戻ったジョミーを見送ると、リオは改めてエンジンを掛け直してギアに手をかける。
ブルーは「娘になどなりたくなかった」と口にするジョミーの言葉のその裏に、まだ気づかない。
雛人形の片付けがずれ込むことに、ジョミーは毎年少しだけ笑みを零す。
「こんなに毎年遅く片付けていたら、ぼく一生結婚なんてできそうもないね」
そんなことを言いながら、それでも楽しそうに笑うのは、迷信を信じていないからではなくて、養父があくまで自分のことを、娘としてしか見ていないと思っているからだ。
早く独立してブルーの面倒にならないようにしなくちゃとくリ返しながら、ジョミーはこの邸から誰かに嫁ぐという形で出て行くつもりはほとんどない。
あるいはブルーの役に立つための政略結婚なら受け入れるかもしれないが、ブルーがそんなことをさせるはずもない。
「私も早く、ジョミー様ではなくて、奥様とお呼びしたいのですけれど」
どちらからも口止めされているので、リオは余計な差し出口を挟めない。
ジョミーが法令で結婚を許される歳まであと数年。
それまでにどちらかが踏み出すことを期待して、リオはアクセルを踏み込んだ。
3月3日だということに今日気づきました。またか(笑)
なにか行事ごとに毎回言ってるような気がしますが、ほんとに日時に対する認識が日々薄い……。
幸い(?)今日は仕事が休みなので、祝えるだけ雛祭りを祝ってみます。もう昼過ぎてるけど。
まずはシャングリラ学園。
今回はフィシスが腐女子です。ブルーが取り返しのつかない人なのはいつものこと(笑)




「待っていたよジョミー!」
生徒会室……もとい青の間の扉を開けた途端に猛烈歓迎されることには慣れていた。
ジョミーは特に驚くこともなく、はいはいと軽く受け流す。
「それで、今日は何を思いついたんですか」
こんな風に猛烈に歓迎されるときは、なにか企みがあるときだと、すでに理解したくなくとも理解している。気のない声で促したのに、ブルーは大仰に頷いた。
「今日は何の日か分かるかい、ジョミー?」
「分かるかもなにも……」
ジョミーは満面の笑顔のブルーの左手に下げられたものに視線を落として溜息をつく。何が言いたいのかは分かったが、何がしたいのかはまだ判然としない。
「雛祭りですね」
「そう!雛祭りだ!さあジョミー、あられをぶつけ合おうじゃないか!」
「また違う行事が混じってますよ!しかも節分もぶつけ合う行事じゃありません!」
あれは鬼役の者に向かって豆を投げるものであって、決して雪合戦のようにぶつけ合うものではない。
徳用のあられの大袋を手にしていたブルーは、そうだったかなとわざとらしく呟いた。
「せっかく色々期待したのに、ジョミーはノリが悪い」
「祭事のどこにノリの問題があるんですか。しかも色々って」
「それはもちろん、こうやって」
袋を破いてあられをひとつ取り出すと、ブルーはそれを唇に挟んでずいと顔を寄せてくる。
「くひうつひでわけはったり」
「口移しで分け合う必要なんてないでしょう!?お互い両手が開いてるんだから!」
ブルーの額を押さえて力の限り押し返すジョミーに、身を乗り出して迫っていたブルーは諦めたように咥えていたあられを口の中に収めた。
ようやくブルーが離れて、ジョミーは乱れた息を整えながら急に力を込めて痺れた手を振る。
「あとは、ほら、あれだ、投げつけたあられが襟元から服の中に入ってしまって
『ベタついて気持ち悪いよ……ブルー……取って……』とか」
「ぼくに醤油味のあられだけを厳選して投げつける気だったんですか」
白い目を向けたジョミーの横に、白魚のような細い指が握り締められた拳が現れた。
「そこでもちろん、『あ……違うよ、ブルー……それはあられじゃない……』
『おや、すまない。あまりにも美味しそうだったからつい、ね』
『だめ、やめて……いや……舐めちゃだめ……』
『ああ……ジョミー、なんて味わい深いのだろう。君のすべては余す事無く僕のものだ』
……というプレイに入るのですね、ブルー!」
「うわっ!?フィシス、いたの!?」
生徒会室に入ったときはブルーの姿しか見えなかったから、てっきりブルーしかいないと思い込んでいたジョミーは驚いて横に逃げた。
しかし今のフィシスのセリフはなんだ。
意味を考えるジョミーの前で、ブルーとフィシスは通じ合ったことに感動するように手を取り合っている。
「さすがだね、フィシス。僕の考えを読んでいる」
「もちろんですわ、ブルー。あられの投げ合いっこから、その後の身体中に降りかかったあられの除去、そしてそこから発展したあなたとジョミーの愛の営みの後片付けまで、すべてリオがいたしますから、あなたはどうぞお考えのままに……鍵はこちらで掛けておきますわ」
「僕は理解者に恵まれている!」
「つきましては、カメラはこのあたりの設置でよろしくて?」
ブルーがよく昼寝をしているソファーを映す位置に、リオがハンドビデオカメラを載せた三脚を立てている。
「リオもいたの!?……って、何してるの?」
「すみませんジョミー。僕はソルジャーとフィシス様には逆らえなくて……」
「は?」
「待ちなさいフィシス。言っておくが編集は僕がさせてもらうよ。あと、このカメラを視聴覚室や放送室に繋いでいないだろうね?」
「まあブルー!こんなにも協力をいたしますわたくしに、ジョミーの艶姿を見せてくださらないおつもりですか?」
「ジョミーの玉の肌を見せることまでは百歩譲って譲歩しないでもないが、淫らに喘ぐ姿は僕だけのものだ。あとで雛人形のコスプレをしたジョミーの写真をあげるから我慢しなさい」
「もちろんお内裏さまのコスプレをしたあなたが乱したあとですね!?」
「裾と……襟元までだね。赤い長襦袢と白い足袋、そしてジョミーの細く美しい太股……」
「鎖骨を忘れないでくださいね、ブルー!」
熱く語り合う二人に背を向けて、ジョミーは三脚の上のハンディカメラを取り上げた。そうして、部屋の端に椅子を移動させて、上の棚からリモコン式シャッターのカメラも見つけ出す。盗聴器は専用の機具がなければ見つけようがないので、あとでキースに依頼するつもりで、椅子の上から二つのカメラを思い切り床に叩き付けた。

「ああ!ひどいですわジョミー!」
「ジョミー!なんということを!」
「なんということを言ってるのはあんたたちです!何考えてるんですか!」
「せっかく超高感度カメラによる暗闇での撮影も可能、きめ細やかなカット割りに対応、まるでその場でそのまま再現されているかのように肌の質感まで再生してみせますのビデオカメラと、1.5秒間隔で連続24枚まで撮影可能な800万画素デジタルカメラを用意いたしましたのに!」
「素晴らしいよフィシス!ああ……それなのにジョミー……」
「なんだその無駄な機能!もっと有効なことに使ってくださいよ!」
ジョミーは床で粉々になったカメラの上に、念入りに踏みつけるようにして飛び降りた。



カメラの機能については、もっと高性能だったりとかも
あるかと思いますがツッコまないでください。
もしくはこっちのほうがいいという機能があれば教えてください。
ブルーかフィシス様が次回に備えて入手していると思います(笑)

同じ事をやらかしても、キースよりずっと当たりが柔らかいです。
よかったね、ブルー(お前が言うなとシメられそう……)
しかし二人とも、気づかないものなのか……。ジョミーは未だノーブラか、せいぜいタンクトップと一体型のスポーツブラしかしてないと思います。


目次




人気のない中庭に、渇いた音が高く響く。
理由が分からないまま叩かれた頬の痛みに、しばし呆然とその鮮やかな瞳をただ見つめていた。


顔を真っ赤に染めたジョミーはブルーの手から自身を庇うように胸元に腕を固めてベンチから逃げる。
「ど……どうしてあなたも、キースも!どっちもそうデリカシーがないんですか!」
「キースと一緒にしないでくれ」
どうして男の胸に触ったくらいでそこまで言われなければならないんだということよりも、キースと一括りにされたことに不満を覚える。
ジョミーは首を振って、平手で打たれた頬を押さえるブルーを睨みつけた。
「一緒ですよ!やってることが同じ!」
「君が嘘をついているかどうか、見極めようとしただけだ。そして実際に痛んだようだが」
ジョミーは言葉に詰ったように息を飲み、眉をひそめて視線を逸らす。
「やはり」
「………痛いですよ。でも、あなたが気にすることじゃありません」
「では腹痛というのはやはり嘘か」
「う、嘘じゃありません。その……ときどき……痛いだけで……今月は、ちょっと」
「ときどき?持病でもあるのか?」
首を傾げて訊ねれば、ジョミーは途方に暮れたような目でブルーを見る。何かを察してくれと言いたげなそれに、残念ながらブルーは応えられなかった。
「ジョミー……」
返答を促せば、ジョミーはぎゅっと口を引き結び、緩く首を振った。
「持病……じゃないです。痛いけど、別に怪我でもないし、原因も分かってる。本当に大したことじゃないから、あなたは気にしないで」
「気にしないわけにはいかないだろう。君が不調だというのに、世話をさせるわけにはいかない。キースから預かった物は後で渡すから、今日はまっすぐ家に帰るといい」
言いたくないのなら、理由を無理に聞く必要はない。ジョミーが本当にどこか不調であるのか分かれば、それで十分だ。
そう口にすれば、ジョミーは駄々を捏ねるように首を振る。
「嫌だ。こんな痛み、本当に大したことじゃないのに!」
「君の目的なら、リオにでも手を貸してもらうから気にするな」
そうではないというように、ジョミーは大きく首を振って拳を握る。
「あなたの傍に居られる時間を、これ以上減らしたくないんだ!」

それはまるで、ジョミーの目的が罪悪感からくる償いではないかのように聞えた。
「時間がないのに……ひと月しかないのに。これくらいの痛みなんてなんともない」
「時間が?どうして」
転校するというのならまだしも、ジョミーは逆にこちらに越してきたばかりだ。居住場所を変えるということでもないのに、なぜそんなに時間がないのだろう。
「あなたの怪我が早く治ればいいって思うよ。でも、口実がなくなる。あなたの傍にいていい口実が……」
唇を噛み締めて、握った拳を更に上から掌で包み込んだジョミーは、眉を寄せて切なげな眼差しをブルーに向ける。
それは見ているブルーの胸に迫るような、真摯な光。
「だから時間がもったいな……」
なおも言い募ろうとしていたジョミーは、はっと息を飲んで握り込んでいた拳を解いて口を押さえた。
我ながら間の抜けた顔だっただろうとは思うが、唖然と口を開けてジョミーの切羽詰った様子を見ていたブルーに、ようやく自分が何を言っているかに思い当たったのだろう。
ジョミーの訴えは、先ほどブルーが感じたことが間違っていなかったことを証明していた。
ブルーの怪我はひと月ほどで治るだろうと校医も担当医師も見立てた。
怪我が治ればいいと思いながら、怪我が治ればブルーの傍に居る口実がなくなる。
だからひと月しか時間がなく、寸暇を惜しんでブルーの傍にいたい、と。
義務感ではなかったのか。
「ご………ごめんなさい……」
むしろその義務は口実だったのだと。
恐らくするつもりはなかったはずのジョミーの告白に、ブルーは不愉快になるどころか少し気を良くしたために、初めジョミーの謝罪の意味を捉え損ねた。
「すごく不謹慎でした……」
「いや……別に」
ブルーは口元が不思議と笑みの形を作りそうなむず痒さに、手で隠すように覆いながらもごもごと口の中で謝罪は不要だと呟く。
「だが……なぜそんなに僕にこだわる」
落ち着かない気を逸らそうと疑問を口にしてみると、それは今更だが確かに不思議なことだった。
怪我をさせた罪悪感なら、面白くはないが理由はあるし納得もできる。
だが世話をすることを口実にするほどに近付きたいのだと言われると、妙にそわそわと落ち着かない上に理由が分からない。ジョミーとはたった三日前に会ったばかりだ。
リオならば後輩に懐かれることも分かるが、ブルーは特に好意を抱かれる先輩ではないと自身が一番よく分かっている。
ジョミーは困ったように視線を落とし、しばらく沈黙した。
そんなに言えない理由とはなんだと考えるブルーの耳に、小さな呟きが届く。
「………ませんか……」
「なに?」
俯いていたジョミーがゆっくりと顔を上げる。
翡翠色の瞳は、直前まで目を逸らして逃げていたのだということをまるで感じさせないほどに、まっすぐにブルーを射抜く。
「いけませんか。理由がなくちゃ」
深い翡翠の色は、深奥にブルーを誘うように底が見えない。
その瞳に映るものはブルーだけ。
そうして、瞳に映るブルーもまた、ジョミーだけしか見ていない。見えていない。
「いけない……わけではないが、疑問に思うのは当然だろう」
答えはジョミーの問い返しへの単なる対のようなものだった。口にしながら、それは最早半ばどうでもいい。
理由が知りたいという気持ちがなくなったというより、それ以上にそうジョミーが心の底から願い、訴えてきている事実が大事なのだというかのように。

「好きにすればいい」
「……え……?」
言われた意味がわからなかったこともあるのだろうけれど、理由を追及する手を引いたことに、ジョミーは目を瞬いた。瞬きと同時にジョミーの瞳から息苦しいまでの深い色は消えた。
「君が口実など必要とする柄か?あれほど必要ないと言っても押しかけてきたくせに」
今更だろうと息を吐いて見せれば、それこそ今更のことにジョミーが頬を染める。
「それは……その、必死だったから……あの、でも、本当に?」
それが照れだけでなく、興奮で染まっていることは、輝く瞳を見れば分かる。
そんなにも、傍にいたいと願うのか。
ブルーは気を良くした事実を見せないよう、せいぜい肩を竦めて諦めたような表情を作る。
「どうせリオに会いにくれば、僕がそこにいることも多い。僕が君に応えるとは限らないが」
「そんなの別に構わない!あなたの所に行ってもいいのなら、ぼくはそれで!」
喜び勇むジョミーに、このときブルーは確かに満足していた。

理由を問いただしておけばよかったと、後悔するのはずっと先のことだ。

ガンダムの感想を書いたらすぐにこれを更新するはずが、気づけば「t」を大量に羅列して寝てました……睡眠が好きすぎるこの身が憎い。調子の良くないパソコンを立ち上げっぱなしにしていた報いで、半日休めたのに今もちょっとご機嫌斜めです。わーん、頑張ってくれ~。

で、本題。
ようやくちょっとはブルジョミらしくなってきた……かなあ……(遠い目)
今回の舞台(人気のない中庭)は、自分が行っていた高校に似たようなのがありました。日中ずっと日陰で、本当に人がいるところを見たことがなかった……絶対設計ミスだと思う(笑)

目次



「どうしたんですか、こんなところで」
ベンチに座ったまま目を瞬くジョミーに、思わず溜息が漏れる。
「君こそ、こんなところでどうしたんだ」
まさかこんなところにいるとは思わなかった。校舎と校舎に挟まれた日陰のデッドスペース。ほとんど人が来ることもなく、植えられた木で死角になっていて、こんなところにベンチがあると気づいてすらいない生徒もいるくらいだ。
こんな寂しい場所にジョミーが一人でぽつんと座っている様子はおよそ彼には似合わなかった。
ジョミーは太陽の下で、輝くように笑っている姿が似合う。他人の興味のないブルーでさえ思わず目を奪われるような、そんな少年なのに。
すぐ傍まで歩み寄り、断りもせずに隣に腰を掛けると、ジョミーは更に目を丸める。
「……なんだ」
「あ、いえ……」
その視線に眉をひそめると、ジョミーは慌てたように手を振った。
「あなたから、ぼくの近くに来てくれたことが珍しくて」
事実を事実として述べたまでに違いない。
だがブルーはその微笑みと指摘されたことに、居たたまれない気持ちにさせられる。
「用事があっただけだ。他意はない」
「そんなところかな、とは思いましたけど。でも十分嬉しいな」
「嬉しい?」
「だって、ぼくに用事ができるくらいには、あなたに近づけているのなかって」
ふわりと綿毛のように柔らかい微笑みを見せる、その翡翠色の瞳に。
ブルーは反射のように思い切り顔を背けてしまった。
あまりにも露骨なそれに後悔しても、やってしまった行動は巻き戻らない。
あからさまな拒絶をジョミーはどう感じただろう。そんな態度を取るのは今更のことだが、今はブルーの方から用事があると近付いておいて、これはないだろう。
気を取り直そうと、そろりと視線を戻せば、ジョミーの瞳は傷ついたというよりも、寂しそうに僅かに伏せられていた。だがブルーの視線に気づくと、その陰をすっかり潜ませて再び柔らかく微笑む。
胸が痛んだのは、何故だろう。
傷によるものとはまるで違う、それよりもずっと深く抉り込むような痛み。
ブルーの態度がそうなのだから当然だが、ジョミーはキースやサムや、あのシロエとかいった少年たちといるときのような笑顔をブルーに向けることはない。
そんなことは立場が違うのだから当然だと考えたばかりだというに、どうして気になるのだろう。
そう、彼のことなど、ブルーにはなんの関係もなく、むしろこのまま縁が切れてしまえばいいとずっと考えていたことなのに。

ブルーはゆっくりと息を吐いて気持ちを切り替えようと自身に言い聞かせる。
どうにもジョミーのことでは調子が狂いっ放しだ。さっさと気になることを済ませて別れるに限る。
「キースから預かった物があるんだが」
ブルーの口から出た名前に、ジョミーはぴくりと震えて分かり易く表情を変えた。みるみるうちに不機嫌なものになり、ベンチについていた手をぎゅっと握り締める。
不愉快な名前を聞いたかのようにキースを忌避するその様子に、なぜか胸のうちで溜飲を下げたような心地になる。他人に関わることをあまり良しとしないブルーにとって、他人同士の諍いもどうでもいいことのはずなのにつくづく不思議なことだ。
「それは生憎、今は持ち合わせてない。あとで返す。それより、胸を痛めているらしいと聞いた」
「キースの気のせいです」
「彼はああ見えて……いや、見た目の通り人の動作の変化には聡い。その彼が、あまり無茶をさせるなと釘を刺してきた」
「わざわざそんなことをあなたに?」
ジョミーは軽く親指の爪を噛むような仕草をして、口の中で小さく舌打ちをする。
感情の一面をさらけ出した行為は、今まで表面上は穏やかに、あるいは強引ではあるが心配をするようにブルーに向けていたものとは明らかに違う。
それを向けられているのはキースだったが、それでも興味深いことに代わりはなかった。
興味深い?
他人に興味を持たない自分が、知り合ったばかりの年下の少年の新たな面にそんな風に感じるだなんて、どうかしている。
「痛めているのは、腹ではなくて胸なのか?」
「キースの気のせいです」
同じ事を繰り返したが、今度は突っぱねるように硬質な声に変わっていた。
「否定するのは、ただの腹痛でなければ僕が君の干渉を一切拒むと思っているからか?」
「だからそれはキースの気のせいです。ぼくのは食べすぎだか昨日冷やしたか、その辺りの単なる腹痛で……」
不機嫌そうに繰り返したジョミーの言葉が、一瞬息を飲んで途切れた。
だがジョミーはすぐに目を丸めて、胸に触れるブルーの手を見ている。
触れた胸は贅肉なんて欠片も見えない見た目に反して、少し柔らかかった。
「な……っ」
「やっぱり、痛いのか」
どうしてもジョミーが否定するのなら、実際に試してみれば早いと手を伸ばした。さすがに本当に痛めていたときのことを考えて、強くではなく軽く押す程度に胸に触れた瞬間にジョミーが痛みに顔をしかめたのは確かだった。
掌に伝わる鼓動が一気に跳ね上がる。
秘密にしていたことを知られた焦りかと思えば、顔を上げたジョミーの頬は赤く染まって、翠色の瞳には今にも泣いてしまいそうなくらいに涙が溜まって……。
掌が飛んできた。
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