日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.107 太陽の花28
Category : 転生話
同じ事をやらかしても、キースよりずっと当たりが柔らかいです。
よかったね、ブルー(お前が言うなとシメられそう……)
しかし二人とも、気づかないものなのか……。ジョミーは未だノーブラか、せいぜいタンクトップと一体型のスポーツブラしかしてないと思います。
目次
人気のない中庭に、渇いた音が高く響く。
理由が分からないまま叩かれた頬の痛みに、しばし呆然とその鮮やかな瞳をただ見つめていた。
顔を真っ赤に染めたジョミーはブルーの手から自身を庇うように胸元に腕を固めてベンチから逃げる。
「ど……どうしてあなたも、キースも!どっちもそうデリカシーがないんですか!」
「キースと一緒にしないでくれ」
どうして男の胸に触ったくらいでそこまで言われなければならないんだということよりも、キースと一括りにされたことに不満を覚える。
ジョミーは首を振って、平手で打たれた頬を押さえるブルーを睨みつけた。
「一緒ですよ!やってることが同じ!」
「君が嘘をついているかどうか、見極めようとしただけだ。そして実際に痛んだようだが」
ジョミーは言葉に詰ったように息を飲み、眉をひそめて視線を逸らす。
「やはり」
「………痛いですよ。でも、あなたが気にすることじゃありません」
「では腹痛というのはやはり嘘か」
「う、嘘じゃありません。その……ときどき……痛いだけで……今月は、ちょっと」
「ときどき?持病でもあるのか?」
首を傾げて訊ねれば、ジョミーは途方に暮れたような目でブルーを見る。何かを察してくれと言いたげなそれに、残念ながらブルーは応えられなかった。
「ジョミー……」
返答を促せば、ジョミーはぎゅっと口を引き結び、緩く首を振った。
「持病……じゃないです。痛いけど、別に怪我でもないし、原因も分かってる。本当に大したことじゃないから、あなたは気にしないで」
「気にしないわけにはいかないだろう。君が不調だというのに、世話をさせるわけにはいかない。キースから預かった物は後で渡すから、今日はまっすぐ家に帰るといい」
言いたくないのなら、理由を無理に聞く必要はない。ジョミーが本当にどこか不調であるのか分かれば、それで十分だ。
そう口にすれば、ジョミーは駄々を捏ねるように首を振る。
「嫌だ。こんな痛み、本当に大したことじゃないのに!」
「君の目的なら、リオにでも手を貸してもらうから気にするな」
そうではないというように、ジョミーは大きく首を振って拳を握る。
「あなたの傍に居られる時間を、これ以上減らしたくないんだ!」
それはまるで、ジョミーの目的が罪悪感からくる償いではないかのように聞えた。
「時間がないのに……ひと月しかないのに。これくらいの痛みなんてなんともない」
「時間が?どうして」
転校するというのならまだしも、ジョミーは逆にこちらに越してきたばかりだ。居住場所を変えるということでもないのに、なぜそんなに時間がないのだろう。
「あなたの怪我が早く治ればいいって思うよ。でも、口実がなくなる。あなたの傍にいていい口実が……」
唇を噛み締めて、握った拳を更に上から掌で包み込んだジョミーは、眉を寄せて切なげな眼差しをブルーに向ける。
それは見ているブルーの胸に迫るような、真摯な光。
「だから時間がもったいな……」
なおも言い募ろうとしていたジョミーは、はっと息を飲んで握り込んでいた拳を解いて口を押さえた。
我ながら間の抜けた顔だっただろうとは思うが、唖然と口を開けてジョミーの切羽詰った様子を見ていたブルーに、ようやく自分が何を言っているかに思い当たったのだろう。
ジョミーの訴えは、先ほどブルーが感じたことが間違っていなかったことを証明していた。
ブルーの怪我はひと月ほどで治るだろうと校医も担当医師も見立てた。
怪我が治ればいいと思いながら、怪我が治ればブルーの傍に居る口実がなくなる。
だからひと月しか時間がなく、寸暇を惜しんでブルーの傍にいたい、と。
義務感ではなかったのか。
「ご………ごめんなさい……」
むしろその義務は口実だったのだと。
恐らくするつもりはなかったはずのジョミーの告白に、ブルーは不愉快になるどころか少し気を良くしたために、初めジョミーの謝罪の意味を捉え損ねた。
「すごく不謹慎でした……」
「いや……別に」
ブルーは口元が不思議と笑みの形を作りそうなむず痒さに、手で隠すように覆いながらもごもごと口の中で謝罪は不要だと呟く。
「だが……なぜそんなに僕にこだわる」
落ち着かない気を逸らそうと疑問を口にしてみると、それは今更だが確かに不思議なことだった。
怪我をさせた罪悪感なら、面白くはないが理由はあるし納得もできる。
だが世話をすることを口実にするほどに近付きたいのだと言われると、妙にそわそわと落ち着かない上に理由が分からない。ジョミーとはたった三日前に会ったばかりだ。
リオならば後輩に懐かれることも分かるが、ブルーは特に好意を抱かれる先輩ではないと自身が一番よく分かっている。
ジョミーは困ったように視線を落とし、しばらく沈黙した。
そんなに言えない理由とはなんだと考えるブルーの耳に、小さな呟きが届く。
「………ませんか……」
「なに?」
俯いていたジョミーがゆっくりと顔を上げる。
翡翠色の瞳は、直前まで目を逸らして逃げていたのだということをまるで感じさせないほどに、まっすぐにブルーを射抜く。
「いけませんか。理由がなくちゃ」
深い翡翠の色は、深奥にブルーを誘うように底が見えない。
その瞳に映るものはブルーだけ。
そうして、瞳に映るブルーもまた、ジョミーだけしか見ていない。見えていない。
「いけない……わけではないが、疑問に思うのは当然だろう」
答えはジョミーの問い返しへの単なる対のようなものだった。口にしながら、それは最早半ばどうでもいい。
理由が知りたいという気持ちがなくなったというより、それ以上にそうジョミーが心の底から願い、訴えてきている事実が大事なのだというかのように。
「好きにすればいい」
「……え……?」
言われた意味がわからなかったこともあるのだろうけれど、理由を追及する手を引いたことに、ジョミーは目を瞬いた。瞬きと同時にジョミーの瞳から息苦しいまでの深い色は消えた。
「君が口実など必要とする柄か?あれほど必要ないと言っても押しかけてきたくせに」
今更だろうと息を吐いて見せれば、それこそ今更のことにジョミーが頬を染める。
「それは……その、必死だったから……あの、でも、本当に?」
それが照れだけでなく、興奮で染まっていることは、輝く瞳を見れば分かる。
そんなにも、傍にいたいと願うのか。
ブルーは気を良くした事実を見せないよう、せいぜい肩を竦めて諦めたような表情を作る。
「どうせリオに会いにくれば、僕がそこにいることも多い。僕が君に応えるとは限らないが」
「そんなの別に構わない!あなたの所に行ってもいいのなら、ぼくはそれで!」
喜び勇むジョミーに、このときブルーは確かに満足していた。
理由を問いただしておけばよかったと、後悔するのはずっと先のことだ。
よかったね、ブルー(お前が言うなとシメられそう……)
しかし二人とも、気づかないものなのか……。ジョミーは未だノーブラか、せいぜいタンクトップと一体型のスポーツブラしかしてないと思います。
目次
人気のない中庭に、渇いた音が高く響く。
理由が分からないまま叩かれた頬の痛みに、しばし呆然とその鮮やかな瞳をただ見つめていた。
顔を真っ赤に染めたジョミーはブルーの手から自身を庇うように胸元に腕を固めてベンチから逃げる。
「ど……どうしてあなたも、キースも!どっちもそうデリカシーがないんですか!」
「キースと一緒にしないでくれ」
どうして男の胸に触ったくらいでそこまで言われなければならないんだということよりも、キースと一括りにされたことに不満を覚える。
ジョミーは首を振って、平手で打たれた頬を押さえるブルーを睨みつけた。
「一緒ですよ!やってることが同じ!」
「君が嘘をついているかどうか、見極めようとしただけだ。そして実際に痛んだようだが」
ジョミーは言葉に詰ったように息を飲み、眉をひそめて視線を逸らす。
「やはり」
「………痛いですよ。でも、あなたが気にすることじゃありません」
「では腹痛というのはやはり嘘か」
「う、嘘じゃありません。その……ときどき……痛いだけで……今月は、ちょっと」
「ときどき?持病でもあるのか?」
首を傾げて訊ねれば、ジョミーは途方に暮れたような目でブルーを見る。何かを察してくれと言いたげなそれに、残念ながらブルーは応えられなかった。
「ジョミー……」
返答を促せば、ジョミーはぎゅっと口を引き結び、緩く首を振った。
「持病……じゃないです。痛いけど、別に怪我でもないし、原因も分かってる。本当に大したことじゃないから、あなたは気にしないで」
「気にしないわけにはいかないだろう。君が不調だというのに、世話をさせるわけにはいかない。キースから預かった物は後で渡すから、今日はまっすぐ家に帰るといい」
言いたくないのなら、理由を無理に聞く必要はない。ジョミーが本当にどこか不調であるのか分かれば、それで十分だ。
そう口にすれば、ジョミーは駄々を捏ねるように首を振る。
「嫌だ。こんな痛み、本当に大したことじゃないのに!」
「君の目的なら、リオにでも手を貸してもらうから気にするな」
そうではないというように、ジョミーは大きく首を振って拳を握る。
「あなたの傍に居られる時間を、これ以上減らしたくないんだ!」
それはまるで、ジョミーの目的が罪悪感からくる償いではないかのように聞えた。
「時間がないのに……ひと月しかないのに。これくらいの痛みなんてなんともない」
「時間が?どうして」
転校するというのならまだしも、ジョミーは逆にこちらに越してきたばかりだ。居住場所を変えるということでもないのに、なぜそんなに時間がないのだろう。
「あなたの怪我が早く治ればいいって思うよ。でも、口実がなくなる。あなたの傍にいていい口実が……」
唇を噛み締めて、握った拳を更に上から掌で包み込んだジョミーは、眉を寄せて切なげな眼差しをブルーに向ける。
それは見ているブルーの胸に迫るような、真摯な光。
「だから時間がもったいな……」
なおも言い募ろうとしていたジョミーは、はっと息を飲んで握り込んでいた拳を解いて口を押さえた。
我ながら間の抜けた顔だっただろうとは思うが、唖然と口を開けてジョミーの切羽詰った様子を見ていたブルーに、ようやく自分が何を言っているかに思い当たったのだろう。
ジョミーの訴えは、先ほどブルーが感じたことが間違っていなかったことを証明していた。
ブルーの怪我はひと月ほどで治るだろうと校医も担当医師も見立てた。
怪我が治ればいいと思いながら、怪我が治ればブルーの傍に居る口実がなくなる。
だからひと月しか時間がなく、寸暇を惜しんでブルーの傍にいたい、と。
義務感ではなかったのか。
「ご………ごめんなさい……」
むしろその義務は口実だったのだと。
恐らくするつもりはなかったはずのジョミーの告白に、ブルーは不愉快になるどころか少し気を良くしたために、初めジョミーの謝罪の意味を捉え損ねた。
「すごく不謹慎でした……」
「いや……別に」
ブルーは口元が不思議と笑みの形を作りそうなむず痒さに、手で隠すように覆いながらもごもごと口の中で謝罪は不要だと呟く。
「だが……なぜそんなに僕にこだわる」
落ち着かない気を逸らそうと疑問を口にしてみると、それは今更だが確かに不思議なことだった。
怪我をさせた罪悪感なら、面白くはないが理由はあるし納得もできる。
だが世話をすることを口実にするほどに近付きたいのだと言われると、妙にそわそわと落ち着かない上に理由が分からない。ジョミーとはたった三日前に会ったばかりだ。
リオならば後輩に懐かれることも分かるが、ブルーは特に好意を抱かれる先輩ではないと自身が一番よく分かっている。
ジョミーは困ったように視線を落とし、しばらく沈黙した。
そんなに言えない理由とはなんだと考えるブルーの耳に、小さな呟きが届く。
「………ませんか……」
「なに?」
俯いていたジョミーがゆっくりと顔を上げる。
翡翠色の瞳は、直前まで目を逸らして逃げていたのだということをまるで感じさせないほどに、まっすぐにブルーを射抜く。
「いけませんか。理由がなくちゃ」
深い翡翠の色は、深奥にブルーを誘うように底が見えない。
その瞳に映るものはブルーだけ。
そうして、瞳に映るブルーもまた、ジョミーだけしか見ていない。見えていない。
「いけない……わけではないが、疑問に思うのは当然だろう」
答えはジョミーの問い返しへの単なる対のようなものだった。口にしながら、それは最早半ばどうでもいい。
理由が知りたいという気持ちがなくなったというより、それ以上にそうジョミーが心の底から願い、訴えてきている事実が大事なのだというかのように。
「好きにすればいい」
「……え……?」
言われた意味がわからなかったこともあるのだろうけれど、理由を追及する手を引いたことに、ジョミーは目を瞬いた。瞬きと同時にジョミーの瞳から息苦しいまでの深い色は消えた。
「君が口実など必要とする柄か?あれほど必要ないと言っても押しかけてきたくせに」
今更だろうと息を吐いて見せれば、それこそ今更のことにジョミーが頬を染める。
「それは……その、必死だったから……あの、でも、本当に?」
それが照れだけでなく、興奮で染まっていることは、輝く瞳を見れば分かる。
そんなにも、傍にいたいと願うのか。
ブルーは気を良くした事実を見せないよう、せいぜい肩を竦めて諦めたような表情を作る。
「どうせリオに会いにくれば、僕がそこにいることも多い。僕が君に応えるとは限らないが」
「そんなの別に構わない!あなたの所に行ってもいいのなら、ぼくはそれで!」
喜び勇むジョミーに、このときブルーは確かに満足していた。
理由を問いただしておけばよかったと、後悔するのはずっと先のことだ。
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