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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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さくっと更新できなかった……orz
書いてる途中で意識がオチてました。あわわ……変なところで記事投下してなくてよかった……。


目次




夢はあくまで夢であって、この状態とは何の関わりもない……はずだ。
今朝はジョミーの迎えを断わり、病院へ行って新たな鎮痛薬を処方してもらったものの、いまだ薬を飲んでいないにも関わらず、痛みは耐えられないほどではない。
薬と相性の悪いブルーにとって、飲まずにすむなら薬など飲みたくもないものなのでそれは構わないのだが、昨日の夢が妙に気に掛かって仕方がない。
ブルーはなんともすっきりとしない心境のままに、正当な理由で遅刻した校門の前で学生証を取り出して、所定の差込口を通過させた。
『チェックします。カメラの正面に立ち、名前と遅刻理由をどうぞ』
映像が出た校門のモニターに、ブルーは僅かに息を吐いた。
「ブルー・イリアッド。病院へ寄っていたために遅れました」
『網膜パターン照合クリア。通行を許可します』
重厚な門扉が音を立てて開いて行く。
生徒の安全のため、学校の敷地内のおける自治権を保持するために、こうして予定外の時間の通行者はすべてチェックを受けなければならない。そういう些細なチェックも、ブルーは好きではない。
面倒だからではなく、この嫌悪感はESP検査に向けるそれに近い。
「つまりは、機械が気に食わないのでしょう」
とはあの気さくな友人の言だ。僕もあまりチェックは好きではありませんけどね、と付け足して。
恐らくそういうことなのだろう。
人が嫌いでミュウが嫌いで機械が嫌い。とんだ我侭だ。抵抗なく許容できることのほうが少ないのではないだろうかと、我ながら訝るほどに。

ちょうど次の授業の準備時間に到着したらしく、ブルーは喧騒の正面玄関に足を踏み入れた。
本館と別館を繋ぐ連絡口にもなる場所に人がいることは当然のことだが、その中の声から、一つの名前を拾ってしまう。
「おいジョミー、急げよ!」
ジョミーなんて名前は珍しくもないが、ブルーがつい上を見上げると、教科書を小脇に抱えた一年次生が階段の半ばで振り返っているようだった。
「トイレに寄ってくから先に行ってていいよ」
まだ姿は見えないが、聞えてきたのはあのお節介な少年のものに違いない。
見つかれば遅刻理由を知っているだけに、また大丈夫かとか薬はどうなったとかを聞いてくるだろう。面倒だし、それ以上に彼の夢なんてものを見てしまったことが頭の端に引っ掛かり、ブルーはつい柱に身体を寄せるようにして隠れてしまう。
「なんだよ、腹でも痛いのか?早くしないと次の授業に遅刻するぞ」
「分かってるって」
ジョミーの友人らしき生徒は先に一人で階段を下りて、別館へ向けて駆けて行く。
トイレに行くなら、その間に階段を抜けられるだろうと身を寄せていた柱から無防備に離れると、階段の影から金色の光が見えた。
「ブルー!……先輩。もう登校できたんですか?病院に行ったって大丈夫ですか?」
避けたはずなのに、正面から見つかってしまった。
溜息をつくブルーに気づいた様子もなく、ジョミーは急いで駆けてくる。
ふと、その動きが少々気になった。ジョミーの表情はどこまでもブルーの心配しかしていないが、動きがどこかを庇っているような気がする。
「……トイレに寄るんじゃなかったのか?」
ブルーに触れそうになった指先が、ぴくりと震えて止まった。
「聞いてたの?」
なにか気まずいことでもあるのかと思った矢先、ジョミーは恥かしそうに頬を染めて唇を尖らせた。
「お腹が痛いのって波あるし、平気です」
トイレに行くだなんて大声で叫んだことを指摘されて恥かしかったのだろう。ましてジョミーは思春期真っ只中と言ってもいい歳だ。言わずもがなのことを訊ねたブルーは、珍しく素直にジョミーに申し訳ない気分になった。
「ぼくのことはいいんです!それよりあなたはどうだったんですか?」
「別に。新しい薬をもらってきた」
「眠気とか副作用は?」
「今は痛みがあまりなくて、まだ飲んでいない」
少し拗ねた様子だったジョミーは、痛みが少ないと聞いた途端に我がことにように喜んで手を打った。
「そう!よかった。薬がなくてもいいくらいには痛くないんですね。でも無理しないで下さいね。治ったわけじゃないんだから」
「分かっている―――」
ふと、まるで昨夜のような会話だと言葉が途切れた。正しくは、昨日見た夢の中会話のよう、だ。
痛みを誤魔化した……そう言ったのは彼だが。
「でも教室までは鞄を運びたいところなんですけど……」
ブルーを伺うように下から覗きこみながら、ついと細い指が伸びてきて、ブルーはそれを掴んだ。
「授業に遅れる。君は移動教室へ行け」
「はい。それじゃあ、また後で」
さすがにここでまでごねることはなく、ブルーが手を離すとジョミーは素直に別館へ向かって歩き去った。時間がないのに走らないとは随分と余裕だ。
「細い手だな……」
見た目から分かっていたことだが、直接触れるとまた驚いてしまう。あんな手に鞄を持たせているのかと思うと、自然に眉が寄った。
「違う。僕は気が済むようにと付き合ってるだけだ」
首を振小さな背中が別館に消えるのを見送って、自分も教室へ向かおうと振り返ったところで、再び数少ない顔見知りが階段を降りてきた。
ブルーも相手も、特にいちいち挨拶するような間柄ではなかったので、そのまま無視をしようと思っていたのに、珍しく呼び止められる。
「おい、ブルー。ちょうどいいところにいた」
「なんだい。もうすぐ君も次の授業があるだろう」
「お前は今日もジョミーと会うのだろう?ちょうどいい、これを渡しておいてくれ」
差し出されたのは、ローラースケートの靴だった。しかも片方だけ。
「忘れ物だ」
「直接渡せばいいだろう」
面倒だと渋れば、キースも渋い表情を見せて、断ったというのに更に靴をブルーに押し付けてくる。
「そこに確実に会う人間がいるのに、僕まで行く必要もあるまい」
合理的なキースらしい答えだが、どうにもその表情はすっきりしない。
僅かに眉を寄せていたキースは、ブルーの視線に気づいたのかやがて咳払いをした。
「……喧嘩をした」
「彼とか?それで気まずくて僕を使おうと?情けない!」
「なんとでも言え。それに気まずいわけではなく、こちらも奴の顔を見ると腹立たしいから会いたくないんだ」
「へえ、なるほど。けれど僕には関係のない話だ」
「これを投げつけられた」
「……これ?」
キースが差し出していた靴を揺らして、ブルーは思わず目を張った。本当だとすれば、随分危険な行為だ。
「サムに預けようかと思ったが、喧嘩などと彼に心配をかけることは本意ではない。こんなときに限ってマツカも捕まらん」
「だからって僕に渡すな」
「お前には注意しておきたかったことがあったからだ」
「またか……」
去年一年でキースにはなんど苦言を受けたことか。しかし今回はまるで心当たりがない。
眉を寄せるブルーに、ぐいぐいと靴を押し付けながらキースは肩を竦める。
「どうも奴は胸部を痛めているらしい。お前に言わないくらいだから大したことはないのかもしれんが、あまり無茶はさせるなよ」
「僕がいつ無理をさせた。あれは勝手に―――」
ブルーの責任のように言われるのは心外だと抗議しかけた意識に、不意に引っ掛かった。
「胸部?腹部ではなくて?」
「胸だろう。押さえていたのがお前と同じ、そこだった。あくまで違うと言い切る本人に、見せろと言ったらそれを投げられた」
「……見せろって、どこで?」
「ここだ」
キースは何でもないことにように床を指差したが、ここは正面玄関だ。いくらなんでもこんなところで服を肌蹴ろなんて、それはジョミーでなくても嫌がるだろう。さすがにスケート靴を投げつけたのは危険だが。
呆れているうちに、手に強く靴の一端を捻じ込まれた。つい反射で指が握ってしまう。
「とにかく、任せた」
キースはその隙に手を離し、ブルーが靴を落とさずにいたことを確認すると、さっさと身を翻してしまう。
「なっ……ちょっと待て!」
靴を握らされた方ではない左手でキースを掴もうとしたが、僅かに指先が届かずキースは素早く階段を登っていく。
「待て、キース!」
「とにかく、あまり無茶はさせるな」
気まずさから逃げているやつに言われるようなことではない。
不愉快に眉を寄せたブルーは、さっさと逃げ出したキースに舌打ちをしながら、ふと思い返した言葉に気を引かれた。
「……僕と同じ箇所を傷めているって……?」
偶然同じときに、偶然同じ箇所を、偶然顔見知りが怪我をする。
そんな偶然、珍しいどころではない。
ブルーは思わずローラースケートを片手に、別館へ首を廻らせた。
……夢は、夢のはず。

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