日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.84 太陽の花24
Category : 転生話
書き直し24話目。
キース……自業自得とはいえ……ご愁傷様(^^;)
目次
その朝キースは教室の窓から、何気なく校庭に目を向けた。
朝の登校時間が終わり校門が閉まる合図のチャイムを聞きながら、今日も遅刻寸前の生徒たちが必死に走っているが、なぜあともう少し早く起きないのだろうと呆れるばかりだ。
「その閉門待ったーっ!」
そんな中、機械仕掛けで閉まって行く門に向かって叫んだ声が聞こえて、思わず額を押さえた。
人通りの少なくなった通学路を、同じく遅刻寸前の者たちを華麗に避けながら、ローラースケートで滑走する人物を知っていたからだ。
「ジョミー……」
溜息をついたキースの横から、ひょいと校庭を覗いたサムもまた溜息をつく。それはキースほど重くはなく、仕方のない友人を苦笑いするようなものではあったけれど。
「あーあー、早速遅刻寸前かよ。けど、今日は先輩はどうしたんだろう」
「大方寝過ごしてそれどころではなかったのではないか?」
「お迎え二日目にして迎えに行けずか……ジョミーらしいなあ」
そう言いながら、心なしか楽しそうな友人にキースは眉をひそめる。
「ジョミーはそんなに遅刻の常習者なのか?」
「あいつ、朝に弱いんだよ。低血圧だって」
「低血圧と目覚めの悪さの関連は医学的根拠が薄い。夜に眠る時間が遅いなど本当の理由が別にあるのだろう」
「あー、それな、アルテラが不思議がってたな」
聞き覚えのない名前と、今の話のどこが不思議なのかと、どちらを先に聞くべきかと考えているうちに、校庭では門が完全に閉ざされていた。
「おー、間に合った」
感心するサムの視線を追って校庭に目を向けると、閉門ぎりぎりに滑り込んだらしいジョミーが教師に掴まっていた。危険な駆け込み登校を注意されているのだろう。閉ざされた門の向こうの遅刻者たちも記録を取られているが、恐らくジョミーも違う名目で記録を取られるに違いない。
「やれやれ、馬鹿だなー」
窓を開けたサムが息を吸い込んだところで、階下から声が上がった。
「遅刻回避おめでとう、ジョミー!」
「それでもって二度目のチェックおめでとう!」
「うるさいなっ!拍手するなっ」
斜め下に位置する窓を見下ろすと、数人の男子生徒が窓から身を乗り出してはやし立てていた。おそらくクラスメイトだろう。
「相変わらず男友達ばっかだな、あいつ」
キースは苦笑しながら肩を竦めるサムを見上げて、校庭で拳を振り上げるジョミーを見下ろす。
「それがどうかしたのか?」
異性の友人がいてもおかしくはないが、同性の友人の方が多くても特に不思議なことはないだろう。
目を瞬くキースに、サムは「あー」と気の抜けた呟きを零しながら頭を掻いた。
「……なんだか段々面白くなってきたから、このままでもいいかな……」
「なにが……」
「ジョミー・マーキス・シン!早く教室へ入りなさいっ」
校庭で拳を振り上げていたジョミーは、後ろから教師に怒鳴りつけられて肩を竦めた。
そうして一呼吸置いて、正面玄関に向かって再び滑り始める。
ふと、その動きに違和感を覚えて席を立った。
「お!?そ、そんなに怒らなくても大した秘密じゃ……おい、どこ行くんだキース!」
楽しそうに頭を抱えたサムは、そのまま素通りしたキースに驚いて振り返る。
その不思議そうな顔を見て、キースはひとつ首を振った。
昨日から、サムは何かとジョミーの心配をしている。何も不確定な話をしてこれ以上心労をかけることもないだろう。事実がはっきりしてから話せばいい。
「すぐに戻る」
「もうすぐホームルームが始まるぞ!?」
驚くサムを後において、足早に教室を飛び出した。
どんな事情にしろ廊下を走ることは良しとはできないので、なるべく早く歩くことにする。
半ば走っているような速度で階段を駆け下りて正面玄関に辿り着くと、時間が時間だけに玄関は静かなものだった。
「い、ててて……」
そのがらんどうの空間で、壁際の傘立てに腰を掛け、引き寄せた足の踵を乗せてローラースケートの靴紐を解いたジョミーは、独り言のように小さく呟きながら眉を寄せて唇を噛み締めていた。
「やはり、どこか痛めているのか」
「うわっ!?キ、キース?」
驚いたように飛び上がったジョミーは、僅かに息を飲んで胸を押さえた。
だがすぐにスケート靴を片方脱ぎ捨てると、普通のシューズに足を通しながら首を傾げる。
「なんの話?」
僅かな変化を見逃していれば、信じてしまいそうな自然な動作だ。だがキースはジョミーが胸を押さえた一瞬を見逃してはいない。
「それよりこんな時間にこんなところにいるなんて、どうしたんだよ。もうすぐホームルームだろ」
もう一方の靴を脱ぎかけて両手が塞がっていたジョミーの腕を間をすり抜け、患部だろう胸に触れる。
「ここか?」
触れただけで分かるとは思っていなかったが、意外な手ごたえがあった。ただし、怪我とは関係のない手ごたえ。
もうすでに暖かい季節だというのにジョミーはまだかなり厚着をしているのか、僅かに柔らかいような気がした……直後、キースの手をジョミーが鋭く叩いた。
「なにするんだよ!」
ジョミーは眉を吊り上げて、胸元を掻き抱くようにして背を丸める。
「医務室へ行け。ブルーにあれだけ口うるさくしておきながら、君が不養生でどうする」
「怪我なんてしてないっ」
「なら見せてみろ」
「はぁ!?」
頭の天辺から出したかのような裏返った声を上げて両手で胸を抱き締めるジョミーに、ますます確信を深めて手を伸ばす。
どうしてこんなに意地になっているのか我ながら少々不思議ではあったけれど、サムが心配をするからはっきりさせておきたいのだろう。
キースの指先が襟元に掛かったところで、ジョミーが右手を振り上げた。
ぎょっと目を見開き慌てて首を捻ったキースの頬を掠めるように、大きなローラーが並ぶスケート靴が飛んで行った。後ろで壁にぶつかったらしい派手な音が上がる。
「なにをする!」
「こっちのセリフだ!この変態っ」
「へ……」
一応は心配して様子を見に来たというのに、随分な言われようだ。
「前にサムが言った通り、ほんっとにデリカシーがないなっ」
目元を赤く染めて殺気立った目でキースを睨み据えたジョミーは、鋭く足を振り上げた。
脛は人体の急所の一つだ。
さすがのキースも声を詰らせて、鈍い音を立てて蹴りつけられた脛を押さえて跪くのを、ジョミーは上から冷たい目で見下ろしてから身を翻す。
「くっ……き、貴様……」
「この痴漢男!」
捨て台詞まで残して、ジョミーは教室へ向かって廊下の角に消えてしまった。
キース……自業自得とはいえ……ご愁傷様(^^;)
目次
その朝キースは教室の窓から、何気なく校庭に目を向けた。
朝の登校時間が終わり校門が閉まる合図のチャイムを聞きながら、今日も遅刻寸前の生徒たちが必死に走っているが、なぜあともう少し早く起きないのだろうと呆れるばかりだ。
「その閉門待ったーっ!」
そんな中、機械仕掛けで閉まって行く門に向かって叫んだ声が聞こえて、思わず額を押さえた。
人通りの少なくなった通学路を、同じく遅刻寸前の者たちを華麗に避けながら、ローラースケートで滑走する人物を知っていたからだ。
「ジョミー……」
溜息をついたキースの横から、ひょいと校庭を覗いたサムもまた溜息をつく。それはキースほど重くはなく、仕方のない友人を苦笑いするようなものではあったけれど。
「あーあー、早速遅刻寸前かよ。けど、今日は先輩はどうしたんだろう」
「大方寝過ごしてそれどころではなかったのではないか?」
「お迎え二日目にして迎えに行けずか……ジョミーらしいなあ」
そう言いながら、心なしか楽しそうな友人にキースは眉をひそめる。
「ジョミーはそんなに遅刻の常習者なのか?」
「あいつ、朝に弱いんだよ。低血圧だって」
「低血圧と目覚めの悪さの関連は医学的根拠が薄い。夜に眠る時間が遅いなど本当の理由が別にあるのだろう」
「あー、それな、アルテラが不思議がってたな」
聞き覚えのない名前と、今の話のどこが不思議なのかと、どちらを先に聞くべきかと考えているうちに、校庭では門が完全に閉ざされていた。
「おー、間に合った」
感心するサムの視線を追って校庭に目を向けると、閉門ぎりぎりに滑り込んだらしいジョミーが教師に掴まっていた。危険な駆け込み登校を注意されているのだろう。閉ざされた門の向こうの遅刻者たちも記録を取られているが、恐らくジョミーも違う名目で記録を取られるに違いない。
「やれやれ、馬鹿だなー」
窓を開けたサムが息を吸い込んだところで、階下から声が上がった。
「遅刻回避おめでとう、ジョミー!」
「それでもって二度目のチェックおめでとう!」
「うるさいなっ!拍手するなっ」
斜め下に位置する窓を見下ろすと、数人の男子生徒が窓から身を乗り出してはやし立てていた。おそらくクラスメイトだろう。
「相変わらず男友達ばっかだな、あいつ」
キースは苦笑しながら肩を竦めるサムを見上げて、校庭で拳を振り上げるジョミーを見下ろす。
「それがどうかしたのか?」
異性の友人がいてもおかしくはないが、同性の友人の方が多くても特に不思議なことはないだろう。
目を瞬くキースに、サムは「あー」と気の抜けた呟きを零しながら頭を掻いた。
「……なんだか段々面白くなってきたから、このままでもいいかな……」
「なにが……」
「ジョミー・マーキス・シン!早く教室へ入りなさいっ」
校庭で拳を振り上げていたジョミーは、後ろから教師に怒鳴りつけられて肩を竦めた。
そうして一呼吸置いて、正面玄関に向かって再び滑り始める。
ふと、その動きに違和感を覚えて席を立った。
「お!?そ、そんなに怒らなくても大した秘密じゃ……おい、どこ行くんだキース!」
楽しそうに頭を抱えたサムは、そのまま素通りしたキースに驚いて振り返る。
その不思議そうな顔を見て、キースはひとつ首を振った。
昨日から、サムは何かとジョミーの心配をしている。何も不確定な話をしてこれ以上心労をかけることもないだろう。事実がはっきりしてから話せばいい。
「すぐに戻る」
「もうすぐホームルームが始まるぞ!?」
驚くサムを後において、足早に教室を飛び出した。
どんな事情にしろ廊下を走ることは良しとはできないので、なるべく早く歩くことにする。
半ば走っているような速度で階段を駆け下りて正面玄関に辿り着くと、時間が時間だけに玄関は静かなものだった。
「い、ててて……」
そのがらんどうの空間で、壁際の傘立てに腰を掛け、引き寄せた足の踵を乗せてローラースケートの靴紐を解いたジョミーは、独り言のように小さく呟きながら眉を寄せて唇を噛み締めていた。
「やはり、どこか痛めているのか」
「うわっ!?キ、キース?」
驚いたように飛び上がったジョミーは、僅かに息を飲んで胸を押さえた。
だがすぐにスケート靴を片方脱ぎ捨てると、普通のシューズに足を通しながら首を傾げる。
「なんの話?」
僅かな変化を見逃していれば、信じてしまいそうな自然な動作だ。だがキースはジョミーが胸を押さえた一瞬を見逃してはいない。
「それよりこんな時間にこんなところにいるなんて、どうしたんだよ。もうすぐホームルームだろ」
もう一方の靴を脱ぎかけて両手が塞がっていたジョミーの腕を間をすり抜け、患部だろう胸に触れる。
「ここか?」
触れただけで分かるとは思っていなかったが、意外な手ごたえがあった。ただし、怪我とは関係のない手ごたえ。
もうすでに暖かい季節だというのにジョミーはまだかなり厚着をしているのか、僅かに柔らかいような気がした……直後、キースの手をジョミーが鋭く叩いた。
「なにするんだよ!」
ジョミーは眉を吊り上げて、胸元を掻き抱くようにして背を丸める。
「医務室へ行け。ブルーにあれだけ口うるさくしておきながら、君が不養生でどうする」
「怪我なんてしてないっ」
「なら見せてみろ」
「はぁ!?」
頭の天辺から出したかのような裏返った声を上げて両手で胸を抱き締めるジョミーに、ますます確信を深めて手を伸ばす。
どうしてこんなに意地になっているのか我ながら少々不思議ではあったけれど、サムが心配をするからはっきりさせておきたいのだろう。
キースの指先が襟元に掛かったところで、ジョミーが右手を振り上げた。
ぎょっと目を見開き慌てて首を捻ったキースの頬を掠めるように、大きなローラーが並ぶスケート靴が飛んで行った。後ろで壁にぶつかったらしい派手な音が上がる。
「なにをする!」
「こっちのセリフだ!この変態っ」
「へ……」
一応は心配して様子を見に来たというのに、随分な言われようだ。
「前にサムが言った通り、ほんっとにデリカシーがないなっ」
目元を赤く染めて殺気立った目でキースを睨み据えたジョミーは、鋭く足を振り上げた。
脛は人体の急所の一つだ。
さすがのキースも声を詰らせて、鈍い音を立てて蹴りつけられた脛を押さえて跪くのを、ジョミーは上から冷たい目で見下ろしてから身を翻す。
「くっ……き、貴様……」
「この痴漢男!」
捨て台詞まで残して、ジョミーは教室へ向かって廊下の角に消えてしまった。
PR