ジョミーのママはマリアさん(アニメのジョミーママ)で、出てきませんが恐らくパパはウィリアムさん(ハーレイじゃないほうの(笑))
でも妹はレティシアではありません。ジョミーの妹はそれでもまだ予想の範囲内の人かと。
目次
「ジョミー!」
待合室でブルーの隣に腰掛け会計が済むのを待っていたジョミーは、自動ドアを潜って入ってきた女性を見て素早い動作で立ち上がった。
「ママ、早かっ……」
「早いに決まってるわ!家を出たところで連絡が来たのよ!信じられないわ、入学早々、式もまだなのにもう問題を起こすなんて!」
眉を吊り上げ我が子を怒鳴りつける女性は、ジョミーとは似ても似つかない黒髪と黒い瞳の持ち主だった。スーツを着ているのは入学式に出席するはずだったからだろう。時間を見れば、式はきっと今頃つつがなく進行中だ。
そのスカートの裾を、小麦色の肌をしたこげ茶色の髪の小さな少女が掴んでいる。やはり似てもいないが恐らくジョミーの妹だろう。
少女は女性のスカートから手を放すと二つに括った髪を揺らして、怒鳴りつけられて首を竦めたジョミーに呆れたように首を振って見せた。
「ジョミーは相変わらずね。いくつになっても落ち着きがないんだから!」
「アルテラ……お前、ジュニアスクールは」
「わたしは明日からよ」
澄ました顔でつんと顎を上げた少女に、ジョミーは溜息をついた。
「ママ、この人がぼくのせいで怪我をさせちゃった人」
椅子に座ったまま傍観を決め込んでいたブルーを示されて、ジョミーの母親はまあと大きく悲鳴のような声を上げる。
「ごめんなさいね!大変なことになって、本当に申し訳なく思っています」
「いえ……」
正直なところ謝罪や補償などどうでもいいから、早く解放して欲しい。とにかくジョミーといると落ち着かなくて、さっさと会計が済んでくれないだろうかと会計カウンターに目を向ける。
ちょうどそのときブルーの名前が呼ばれてホッとした。これで会計が終わればジョミーは学校に戻るだろう。
だがそう思い通りにはいかない。
「ジョミー、これを持ってて。アルテラはジョミーと一緒にいなさい」
ジョミーの母は会計から呼ばれた名前にブルーが反応したとみるや、持っていた紙袋をジョミーに押し付けてさっさとカウンターに向かってしまう。
「え、あ、待ってください」
慌てて引き止めようとするがジョミーの母は振り返りもしないし、ジョミーはジョミーでブルーの服を掴む。
「あなたは怪我人なんだから座ってて」
「バンドで固定されたから痛みも大分治まった。もう君に世話をしてもらう必要もない」
服を掴んだその手を振り払うと、ジョミーは素直に手を引っ込めながら、けれど決して頷かずかずに首を振る。
「それとこれとは別ですよ」
「別なものか。今からでは式には間に合わないだろうが、せめて最初のホームルームにくらいは出席してくるといい。さあ、戻って!」
「そんなのママが許さないわ」
アルテラという少女はジョミーの腕にぶらさがるように抱きつきながら、ブルーを見上げて肩を竦めた。
「あなたのママと会ってないもん。ちゃんと謝るまで、ママはそんなの許さないわよ。ねえジョミー?」
「まあね」
ジョミーはアルテラの頭をくしゃりと撫でながらあっさりと頷いて同意を示し、ブルーの眉間にしわが寄る。
「そんなことは気にしなくていい。僕の母は恐らく来ない」
「どうして!?ママはジョミーが外で怪我するたびに、いつも急いで駆けて行くわ!わたしなんて、何度手を引かれて走ったか、覚えてないくらいよ!」
「アルテラ」
ジョミーは少女をたしなめる様に少し語気を強めた。
ブルーの家庭の事情など知らなくとも、少なくとも家ごとに家族の在り方など違うことくらいは理解しているのだろう。
「そうか。僕の両親はそうではないだけだ」
さすがに子供相手に嫌味を言う気にはなれず、ブルーは軽く受け流すと椅子から立ち上がる。
ジョミーといい、その母親といい、妹といい、傍からでは理想的な家族のように見える。
「だからもう行ってくれ。謝罪なら僕が受け取った」
「そういう訳にはいきません」
強い語調の抗議に振り返ると、いつの間に戻ってきたのか会計を済ませたジョミーの母が腰に手を当てブルーの背後に立っていた。
「大切なご子息にこんな大怪我をさせてしまったんですから、ちゃんとお詫びしないわけにはいかないでしょう。あなたを送るついでと思ってくれていいから」
来なくていいと気を遣っているのではなくて、本当に厄介ごとに関わりたくないだけだ!
ブルーの切実な願いは、あっさりとなかったことにされてしまった。
一体どうしてこんなことになっているのか、不本意なことだらけでブルーはタクシーの後部座席で不貞腐れて頬杖をついて流れる外の風景を見ていた。
隣にはジョミーの妹がこちらをちらちらと気にしながら兄に何かを囁いていて、彼女の向こうにいるジョミーはまた、妹とは違う様子でブルーが気になっているようだった。
全部窓に映っている!
ブルーが気づいていないと思っている二人にそう言ってやりたいくらいに、二人はブルーを見てひそひそと言葉を交わしていた。
だがそれも面倒だし、そんな気力もない。
息子が登校して、入学式と同時に別の講堂で行われている始業式が終わるまでは帰ってこないとほっとしているだろう母が、早々に帰ってきたブルーを見てどんな顔をするか。
想像するだけでも憂鬱になりそうだった。
「やっぱり寮に入ればよかった……」
溜息をついて後悔しようと、すでにどうしようもないことだ。