日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.75 太陽の花23
Category : 転生話
夢と現の狭間で。
目次
「生きて」
まるで切望するような、胸を軋ませるほどの強い願い。
温かな、それでいて力強い何かに、包まれたようだった。
「ブルー……ごめんなさい、ブルー……」
目を開けると、はらはらと大粒の涙を零す翡翠色の瞳がすぐ傍にあった。
頬に落ちかかる冷たい雫に、ブルーは驚いて目を瞬いた。
色々な表情を見せてくれる少年ではあったけれど、こんな風に激しく泣くなんて、一体何があったのだろう。
「どうしたんだ、一体……」
手を伸ばそうとしたのに、右手がまるで鉛のように重い。
どうしたのだろうと意識が目の前のジョミーから自分の身体へ向くと、腕だけではなく足も、他の何もかもが重く、自覚した途端に意識が再び闇の底へ引きずられそうになった。
「なんだ……一体僕はどう……」
「ぼくのせいで……ごめんなさい……ソルジャー・ブルー……」
まただ。またジョミーはソルジャー・ブルーと呼ぶ。
そこでこれが夢だと言うことに気付いた。
どういうわけか目を覚ますと忘れているようだが、夢の中では以前の夢も覚えているらしい。なんとも不可解なことだ。
もっとも、夢に合理性を求めても無意味なのかもしれないが。
背中に添えられた手の感触で、どうやらジョミーの膝の上に抱き上げられていることだけはわかった。
「それにしても君、なんて格好だ」
髪はぼさぼさだし、頬には煤のような汚れがついているし、良く見れば少し怪我をしている風でもある。
だがなによりもブルーを驚かせたのは、着ている服が既に服の様相をしておらず、手首のあたりに僅かに布が残っているだけだったことだ。
「どうしてそんな、まるで服だけ燃えたような……」
おかしな格好をしているのだと笑おうとしたそのとき、まるで誰かに肩を掴まれたようにジョミーが仰け反った。同時に、ブルーは誰かに抱き上げられたらしい。肩から手を回すようにして脇と、それから両足の両方を持たれて、近くにあったらしいストレッチャーに乗せられる。
こういった物に乗せられることにいい思い出がないブルーは、途端に不愉快になって身じろぎをしようとしたが、何しろ身体が思うように動かない。
「ブルー!」
激しいジョミーの叫びに、首だけをどうにか捻ると、ジョミーは後ろから誰かに両手を掴まれて後ろに引きずられているような状態で、身体だけでも前へと向かうように必死に抗っている。
「ブルー!ブルー!ソルジャー・ブルーっ!!」
「何を……」
そんなに必死になって。
その叫びがあまりにも悲痛で、さすがのブルーもいつもの斜に構えた態度を取ることも出来ない。
ジョミーの身体から、まるで火花のような光が一瞬爆ぜて、拘束する手を振り解くと、走り出したストレッチャーを追って駆け寄ってくる。
「ブルー!お願い、死なないで……生きて………生きてっ」
誰かに妨害されるように押しとめられながら、ジョミーの指先がブルーの右手に触れた。
それはほんの一瞬でことで、もしかすると気のせいだったのかもしれない。
だがジョミーの手が触れた処から熱が腕を昇り、息苦しい胸の痛みが、確かに消えた。
胸に誰かが触れているような気がして目を開けると、弾かれたように手が遠のいた。
帰ってから眠気のままに逆らわずベッドに入っているうちに日が落ちたのか、部屋の中は真っ暗だ。……真っ暗なはずだった。
それなのにベッドの傍らには仄青い光があった。それを纏っているのは、まるでホールドアップしているように両手を上げたジョミーだ。
「………どうやって入った……と聞くのもナンセンスか。夢の続きか?」
だらだらと冷や汗を流しそうな様子で両手を上げていたジョミーは、ブルーの呟きを聞くとなぜか安堵したように息をついて両手を降ろした。
「え、続きって、ぼくの夢を見てたの?」
「いや……どうだったかな……」
「どっちさ」
「君の顔を見たら、そんな気がしただけだ」
片手で額を抑えながら、片手をベッドについて身体を起こす。ふと、それがスムーズに行えたことに額を押さえていた手を外した。
「痛まない……?」
今朝は怪我の痛みで目を覚まして、起き上がることも慎重にしていたのに、まるで完治したかのように痛くない。
「治ってないよ。ほんの少しだけ、痛みを誤魔化しただけだから、無茶をしたらだめ」
「誤魔化した?どうやって」
「夢に理屈を求めないでよ」
「夢の中で夢だと言い切る奴も珍しいな」
「先に夢って言ったのはあなたでしょ」
肩を竦めたジョミーに、納得するような、なんとなく腑に落ちないような気分で首を傾げる。
「しかしなぜ僕はこんな夢を……昨日から君の夢ばかりみているような気がする」
夢の内容ははっきりとは覚えてないが、そんな気がすると見上げると、青く光るジョミーは頬を赤く染めて唖然としたように目を見開いていた。
「あ……あなたって……」
軽く握った拳で頬を擦り、半ば顔を隠すような仕草でジョミーは何かを小さく呟く。
「ジョミー?」
「と、とにかく!」
ジョミーは一歩近付くと、ブルーの額に手を翳した。
「無茶は禁物だからね。安静にしてよ!」
「夢と現実を混同するほど馬鹿ではないよ」
今は夢だから痛まないとはいえ、目が覚めればまた痛みか、薬の副作用かの二択になるのは目に見えている。
「目が覚めて痛くなくても、だよ。無茶して怪我の完治が長引いたら、その分だけぼくが周りをうろちょろするんだって、忘れないでよ」
触れそうで触れない距離にあるはずの手の気配がしない。
ふとそう気づいたときに翳されていたジョミーの手が下へと下りてきて、視界を遮った。
目を覚ますと、真っ暗な部屋の中だった。
思わず首を巡らせたが、当たり前だが部屋には誰もいない。
「なんて夢だ」
夢から醒めたら、まだ夢の中で、どちらもあのお節介な少年が出てきた。
夢の中の夢の内容は思い出せないからそんな気がするだけだが、二つ目の夢はまだ覚えている。
ジョミーが立っていた辺りに目を向けならが慎重に起き上がる。
胸の痛みを覚悟して一瞬だけ息を詰めたが、眠る前に比べたら驚くほどに小さなそれに拍子抜けした。
「……なんだ?」
胸に手を当てる。服の上から、固定バンドに触れた。
―――目が覚めて痛くなくても、だよ。
夢の中のジョミーの言葉が脳裡を過ぎり、すぐに馬鹿馬鹿しくなって首を振った。
「まだ薬が効いているのか」
目が覚めたことで副作用が収まったようだから痛みもぶり返すと思っていたのに、嬉しい誤算だ。
どちらにしても薬の処方は変えてもらわなくてはならないだろう。
ふと、放っておけば明日もジョミーが迎えにくることを思い出して、帰ってきて適当に放っていた鞄を拾い上げると、携帯端末を取り出した。
一緒に挟んでいた紙が、ベッドの上に落ちる。
そこに書かれたたった数桁の番号を見て、ブルーは溜息を零した。
これを使うつもりなんて、さらさらなかったのに。
きっとあの少年は、ブルーから連絡をくれたと喜ぶだろう。それが明日は病院に寄るから、迎えに来なくていいというものであっても。
「こんなことなら、早退するときに言っておけばよかった」
眠気と不可解な苛立ちでそんなことにまで思い至らなかった昼間の自分に舌打ちをしながら、紙に書かれた番号を押す。
ディスプレイに表示されたそれをしばらく眺めたあと、もう一度溜息をついてそれを端末の短縮番号へ登録をして、明日のことを伝えるべくコールを掛けた。
目次
「生きて」
まるで切望するような、胸を軋ませるほどの強い願い。
温かな、それでいて力強い何かに、包まれたようだった。
「ブルー……ごめんなさい、ブルー……」
目を開けると、はらはらと大粒の涙を零す翡翠色の瞳がすぐ傍にあった。
頬に落ちかかる冷たい雫に、ブルーは驚いて目を瞬いた。
色々な表情を見せてくれる少年ではあったけれど、こんな風に激しく泣くなんて、一体何があったのだろう。
「どうしたんだ、一体……」
手を伸ばそうとしたのに、右手がまるで鉛のように重い。
どうしたのだろうと意識が目の前のジョミーから自分の身体へ向くと、腕だけではなく足も、他の何もかもが重く、自覚した途端に意識が再び闇の底へ引きずられそうになった。
「なんだ……一体僕はどう……」
「ぼくのせいで……ごめんなさい……ソルジャー・ブルー……」
まただ。またジョミーはソルジャー・ブルーと呼ぶ。
そこでこれが夢だと言うことに気付いた。
どういうわけか目を覚ますと忘れているようだが、夢の中では以前の夢も覚えているらしい。なんとも不可解なことだ。
もっとも、夢に合理性を求めても無意味なのかもしれないが。
背中に添えられた手の感触で、どうやらジョミーの膝の上に抱き上げられていることだけはわかった。
「それにしても君、なんて格好だ」
髪はぼさぼさだし、頬には煤のような汚れがついているし、良く見れば少し怪我をしている風でもある。
だがなによりもブルーを驚かせたのは、着ている服が既に服の様相をしておらず、手首のあたりに僅かに布が残っているだけだったことだ。
「どうしてそんな、まるで服だけ燃えたような……」
おかしな格好をしているのだと笑おうとしたそのとき、まるで誰かに肩を掴まれたようにジョミーが仰け反った。同時に、ブルーは誰かに抱き上げられたらしい。肩から手を回すようにして脇と、それから両足の両方を持たれて、近くにあったらしいストレッチャーに乗せられる。
こういった物に乗せられることにいい思い出がないブルーは、途端に不愉快になって身じろぎをしようとしたが、何しろ身体が思うように動かない。
「ブルー!」
激しいジョミーの叫びに、首だけをどうにか捻ると、ジョミーは後ろから誰かに両手を掴まれて後ろに引きずられているような状態で、身体だけでも前へと向かうように必死に抗っている。
「ブルー!ブルー!ソルジャー・ブルーっ!!」
「何を……」
そんなに必死になって。
その叫びがあまりにも悲痛で、さすがのブルーもいつもの斜に構えた態度を取ることも出来ない。
ジョミーの身体から、まるで火花のような光が一瞬爆ぜて、拘束する手を振り解くと、走り出したストレッチャーを追って駆け寄ってくる。
「ブルー!お願い、死なないで……生きて………生きてっ」
誰かに妨害されるように押しとめられながら、ジョミーの指先がブルーの右手に触れた。
それはほんの一瞬でことで、もしかすると気のせいだったのかもしれない。
だがジョミーの手が触れた処から熱が腕を昇り、息苦しい胸の痛みが、確かに消えた。
胸に誰かが触れているような気がして目を開けると、弾かれたように手が遠のいた。
帰ってから眠気のままに逆らわずベッドに入っているうちに日が落ちたのか、部屋の中は真っ暗だ。……真っ暗なはずだった。
それなのにベッドの傍らには仄青い光があった。それを纏っているのは、まるでホールドアップしているように両手を上げたジョミーだ。
「………どうやって入った……と聞くのもナンセンスか。夢の続きか?」
だらだらと冷や汗を流しそうな様子で両手を上げていたジョミーは、ブルーの呟きを聞くとなぜか安堵したように息をついて両手を降ろした。
「え、続きって、ぼくの夢を見てたの?」
「いや……どうだったかな……」
「どっちさ」
「君の顔を見たら、そんな気がしただけだ」
片手で額を抑えながら、片手をベッドについて身体を起こす。ふと、それがスムーズに行えたことに額を押さえていた手を外した。
「痛まない……?」
今朝は怪我の痛みで目を覚まして、起き上がることも慎重にしていたのに、まるで完治したかのように痛くない。
「治ってないよ。ほんの少しだけ、痛みを誤魔化しただけだから、無茶をしたらだめ」
「誤魔化した?どうやって」
「夢に理屈を求めないでよ」
「夢の中で夢だと言い切る奴も珍しいな」
「先に夢って言ったのはあなたでしょ」
肩を竦めたジョミーに、納得するような、なんとなく腑に落ちないような気分で首を傾げる。
「しかしなぜ僕はこんな夢を……昨日から君の夢ばかりみているような気がする」
夢の内容ははっきりとは覚えてないが、そんな気がすると見上げると、青く光るジョミーは頬を赤く染めて唖然としたように目を見開いていた。
「あ……あなたって……」
軽く握った拳で頬を擦り、半ば顔を隠すような仕草でジョミーは何かを小さく呟く。
「ジョミー?」
「と、とにかく!」
ジョミーは一歩近付くと、ブルーの額に手を翳した。
「無茶は禁物だからね。安静にしてよ!」
「夢と現実を混同するほど馬鹿ではないよ」
今は夢だから痛まないとはいえ、目が覚めればまた痛みか、薬の副作用かの二択になるのは目に見えている。
「目が覚めて痛くなくても、だよ。無茶して怪我の完治が長引いたら、その分だけぼくが周りをうろちょろするんだって、忘れないでよ」
触れそうで触れない距離にあるはずの手の気配がしない。
ふとそう気づいたときに翳されていたジョミーの手が下へと下りてきて、視界を遮った。
目を覚ますと、真っ暗な部屋の中だった。
思わず首を巡らせたが、当たり前だが部屋には誰もいない。
「なんて夢だ」
夢から醒めたら、まだ夢の中で、どちらもあのお節介な少年が出てきた。
夢の中の夢の内容は思い出せないからそんな気がするだけだが、二つ目の夢はまだ覚えている。
ジョミーが立っていた辺りに目を向けならが慎重に起き上がる。
胸の痛みを覚悟して一瞬だけ息を詰めたが、眠る前に比べたら驚くほどに小さなそれに拍子抜けした。
「……なんだ?」
胸に手を当てる。服の上から、固定バンドに触れた。
―――目が覚めて痛くなくても、だよ。
夢の中のジョミーの言葉が脳裡を過ぎり、すぐに馬鹿馬鹿しくなって首を振った。
「まだ薬が効いているのか」
目が覚めたことで副作用が収まったようだから痛みもぶり返すと思っていたのに、嬉しい誤算だ。
どちらにしても薬の処方は変えてもらわなくてはならないだろう。
ふと、放っておけば明日もジョミーが迎えにくることを思い出して、帰ってきて適当に放っていた鞄を拾い上げると、携帯端末を取り出した。
一緒に挟んでいた紙が、ベッドの上に落ちる。
そこに書かれたたった数桁の番号を見て、ブルーは溜息を零した。
これを使うつもりなんて、さらさらなかったのに。
きっとあの少年は、ブルーから連絡をくれたと喜ぶだろう。それが明日は病院に寄るから、迎えに来なくていいというものであっても。
「こんなことなら、早退するときに言っておけばよかった」
眠気と不可解な苛立ちでそんなことにまで思い至らなかった昼間の自分に舌打ちをしながら、紙に書かれた番号を押す。
ディスプレイに表示されたそれをしばらく眺めたあと、もう一度溜息をついてそれを端末の短縮番号へ登録をして、明日のことを伝えるべくコールを掛けた。
PR
じりじりと… By らく
2008/02/03(Sun) 23:56
EDIT
はじめまして。
EDIT
最初からどきどきしながら読ませていただいてます。
ブルーがじりじり落ちつつありますね。
始めの内はブルーのそっけなさにやきもきしたものですが、今では「気付いたときには深みに嵌っていた状態になってしまえばいいw」と、にまにましつつブルーの自覚が遅れるのを楽しんでます。
それにしても今回覚えてないとはいえ上半身もろ肌のジョミーを見てしまったブルーはますます「ジョミーは少年」と無意識に刷り込まれてしまったのでは。
このあともジョミーに振り回されるだろうブルーがたまらなく楽しみです。
困った人です^^;
はじめまして、らく様。転生話に感想ありがとうございますv
「気付いたときには深みに嵌っていた」はいいですね!たぶんこのブルーはそうなる気がします。
むしろそうなりたくなくて自分では認めなくて、余計に深みに自分から嵌って行くくらいのことになりそうで(^^;)
今回の覚えていない夢ですが、そういえばそうですね!覚えてないとはいえ、あの頃のジョミーはちゃんと男の子なので、上半身を見ちゃったら深層意識に男の子という意識が刷り込まれそうで……い、いつになったら彼はジョミーが女の子だと気づくのか…(笑)
「気付いたときには深みに嵌っていた」はいいですね!たぶんこのブルーはそうなる気がします。
むしろそうなりたくなくて自分では認めなくて、余計に深みに自分から嵌って行くくらいのことになりそうで(^^;)
今回の覚えていない夢ですが、そういえばそうですね!覚えてないとはいえ、あの頃のジョミーはちゃんと男の子なので、上半身を見ちゃったら深層意識に男の子という意識が刷り込まれそうで……い、いつになったら彼はジョミーが女の子だと気づくのか…(笑)