日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.150 きみの熱(前編)
Category : 小話・短文
170000ヒットのキリ番でリクをいただいた話です。
色々考えた結果、子ジョミの番外編的な話に。
そ、それにしてもめちゃくちゃ遅くなりました……申し訳ありません……m(_ _)m
なんのためのmemo更新リクだったのかorz
そして2話に分かれてしまいました。い、いつものこととはいえ、まとめベタ。
その日のジョミーは、朝からどこか上の空だった。
最初は眠いのだろうとあまり気に留めなかったブルーだったが、訓練を始めてみるといつにも増して集中力が欠けているように思えて眉を潜める。
テーブルの上の水を注いだグラスをサイオンで浮かすという課題に挑むジョミーは、顔を真っ赤にしてグラスを睨みつけている。
「……ジョミー」
「ああっ、もう!」
顔を真っ赤にして、両手を握り締めて、力を込めたところでサイオンは使えないと以前にも教えて直したはずの癖が再び見えたところで呼び掛けると、ジョミーは苛立ちの声を上げた。
「ブルーが邪魔するから集中できない!」
そのまま、後方にあった椅子に身体を投げ出すようにして座り込む。
八つ当たりのような怒りを受けながら、ブルーは考える仕草で軽く掌で頬を撫でる。
テーブルを回り込んでジョミーの傍らに移動すると、グローブを外した右手を伸ばした。
「なに?」
赤い顔のまま、ジョミーは不服そうな表情を見せるが逃げようとはしない。初めてシャングリラに連れてきた頃のような敵愾心はなく、容易に触れさせてくれるようになった。
だがそれに感慨を覚えるよりも、額に触れた掌をしっとりと湿らせる汗と伝わる熱にブルーは目を見開いた。
「ジョミー!」
「え?」
ブルーの悲鳴のような叫びに、ジョミーが驚いて目を瞬くその一瞬のうちに、周囲の風景が変わった。
「ドクター!」
一瞬の浮遊感のあと、ジョミーは消毒液の匂いを感じた。
同時に、それまで椅子に座っていたはずなのに、その瞬きをするくらいの一瞬の間に、抱きかかえられたブルーの腕に鎮座するような格好になっている。
元気の良すぎるジョミーは既に何度かお世話になっている部屋なので、そこがどこかすぐに理解した。
「ソ、ソルジャ-?」
その部屋の責任者であるノルディーは、唐突に現れたブルーに驚いて椅子の背凭れに仰け反っている。ソルジャー・ブルーがテレポートできることは了解していても、予想もしないときに血相を変えて現れれば驚きもするだろう。それにブルーは、使えるからといって無闇やたらとテレポートを多用しない。
ブルーの腕に抱えられたジョミーは、そんなドクターと目が合ってしまい、互いにしばし戸惑い沈黙が起こった。
だがひとり、急にサイオンを使ってまで医務室に移動したブルーだけが、このおかしな空気をまるで感じていないように、ジョミーを抱えたままドクターににじり寄る。
「ジョミーが熱を出している!高熱だ!」
「え?」
「は……あ、ああ、分かりました」
発熱している自覚がないのかジョミーが目を瞬き、ブルーの剣幕に押されたドクターは訴えられたことの理解に一拍の間を必要とした。
その一拍すらも、今のブルーには遅いと感じたらしく、返事を待たずに身を翻して医務室のベッドへと向かってジョミーをその上に降ろす。
遅れてブルーに追従する形となったドクターは、看護士をひとり呼びながら体温計を手にベッドの傍らに移動してジョミーにそれを翳した。
センサーのライトが肌に当たると、瞬時に結果の数値が表示される。
「ああ……確かに、どうも熱がありますね」
「そんなことは分かってる!だから原因を究明して治すなり、熱冷ましを処方するなり……」
「小さな子供が体調を崩して熱を出すことはよくあります。この子は他の子供とは違い、体力もある健康体だ。すぐに力尽きるミュウの子ならばともかく、ジョミーなら自然治癒力に任せた方がいいでしょう。もちろん、原因があることかもしれませんのでまず検査いたしますが、それからでなければ処置のしようもありません」
「そうか。ならばすぐに検査を……」
「いいよ、別に。寝てれば明日には治るから」
検査と聞いてジョミーは眉を寄せて起き上がる。あれだこれだと色々な機械に入れられたり、薬を飲まされたり、とにかく検査と言う言葉にいい印象がない。
「だめだ」
だがベッドから降りようとしたところで、恐い顔をしたブルーに無理やり押し返された。
「ただの発熱か、原因のあることなのか、判断はドクターが下すことだ。それまで大人しくしていなさい」
「大丈夫だって言ってるのに」
頬を膨らませて不満を訴えるジョミーから視線を外すと、ブルーはノルディーを強く見据える。
「よろしく頼む、ドクター」
「しょ、承知いたしました」
ブルーの剣幕に押されて頷いたノルディーに、ブルーも念を押すように強く頷いて、今度は歩いて医務室を後にした。
ブルーの姿がドアの向こうに消えると、ノルディーは息をついて思わず汗を拭う仕草をする。
「ソルジャーは他人のことには慎重な方だが、今度はまた随分とした念の入れようだな」
「ぼく平気なのに……」
ブルーが気づくまで、自分の発熱に無自覚だったジョミーは自己申告の通り表面上は至って元気な様子を見せている。
ノルディーは看護士になにやら道具を持ってくるようにと言いつけて、不服を隠そうともしない子供に苦笑する。
「より悪い結果を生まないために、慎重になるのはいいことだ。だが……そうだな、君たちのような子供に向ける心配の目を、もう少しご自身にも向けてもらえたら我々としても嬉しいのだけどね」
「ブル……ソルジャーも熱があってもじっとしてないの?」
大人なのにと瞬きをするジョミーに、ノルディーは曖昧に笑う。
「……そうだな……ああ、ほら今はそれより自分のことだ」
ワゴンを押して戻ってきた看護士に、ノルディーはふっと笑ってワゴンの上からひとつの危惧を取り上げる。
「とりあえず、血液を採るぞ」
ノルディーが手にした注射の針が銀色に輝き、ジョミーの顔から血の気が引いた。
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