ポストカードもミュウ、人類、どちらも見ては、はぁはぁと鼻息が荒い(笑)
ブルー……ジョミー……キース……っ!
すんごい嬉しい日で一年を締めくくれました。
ありがとう、僕の女神!!
テラを見せてもらえた……(恍惚)
ところでナスカチルドレンの年齢、というか年齢順はどこかに出ていたでしょうか?
私は知らなかったので、今回の原画集で知ることができて、そこも嬉しかったですよ!
トォニィ(3)、タキオン(2.5)、アルテラ(2)、タージオン(1.5)、コブ(1)、ツェーレン、ペスタチオの順なんですね。
( )内が原画集に載っていたナスカ崩壊の直前それぞれの年齢。ツェーレンとペスタチオはほぼ同い歳なのか……。まあミュウの、特にあの子たちの場合の見た目は当てにはなりませんけれども、ツェーレン大人っぽいなあv
赤ちゃんのコブの横に、ちっちゃく( )で001と書いてあって爆笑(笑)
幸せな一日でした~v
ブルーさん家の家庭の事情……が詳しく出るのはもうちょっと先です。でもその一端はでているかと。
ブルーをつらい状況に追い込むのが好きなわけじゃないはずなんですが、かといって幸せに満たされた生活をしているブルーという想像があまりできないのも事実。ひ、酷いこと言うなあ……。
目次
ジョミーの母に送られて帰宅したブルーに、母は困惑した様子で玄関まで出てきた。
「このたびはうちのジョミーが大変なことを」
「いいえ、そんな……運の悪い事故だったと聞いています。顔を上げてください」
腰を直角に曲げるほどに深々と、親子で並んで頭を下げられて、母はジョミーの母親とジョミーの肩にそっと触れる。
「これ、お詫びにもなりませんけれど……」
顔を上げたジョミーの母親は、子供に預けていた紙袋を手にすると、そのまま母にぐいっと差し出す。
「まあ、そんな!わざわざこんなことまでしていただかなくても……」
「いいえ。事故と言いましてもうちの子供の不注意ですから。もちろん治療費はうちのほうで。それから」
母親に頭を押されて、半分よろめいたジョミーがブルーのすぐ目の前に押し出された。
「登下校や他に何か不自由なことがあったら、この子のことをどんどん使ってくださいね」
「マ、ママ……手…」
「黙らっしゃい!」
頭を押さえつけられたジョミーが僅かに顔をしかめるが、ジョミーの母親は眉を吊り上げる。ともすれば頭に角でも生えて見えそうだ。ジョミーの妹はそれを見て肩を竦めている。まるで、見慣れた光景だとでも言うように。
しかしブルーはそうはいかない。ジョミーがトラブルを起こしやすい生活をしていようと、それとこれとは別の話だ。ブルーはとにかく、傍にいられると調子を崩すジョミーとはあまり関わりたくないのだ。
「ジョミーくんはこちらへ越してきたばかりだと聞きました。自分のことだけでも大変でしょう。僕のことは気にしないでください」
「そんなこと。この子はそんなに繊細ではないし」
「確かに、ミュウなら相手の気持ちを察することに長けているかもしれませんが、その分繊細だと聞き及んでいます。本当に、僕のことは気にしないでください」
ブルーはしれっとして、母がジョミーを敬遠するようなことを口にした。
ミュウ、と。
その言葉でその場にいた全員の表情が変わった。
母は思惑通り強張った。ミュウを嫌う母はそれだけで僅かに一歩後ろに下がる。彼らは心を読まないと決められているのに、まだ心の中を読まれることを恐れているのだ。
だがシン親子は共にきょとんと目を瞬いた。
「あの……あなたの身の回りのお世話をするのはジョミーで、アルテラではないのだけれど」
「え……」
そんなことは言われなくても分かっている。そうではなくて、まるでそれでは。
「ぼく、ミュウじゃないよ?」
ジョミーは自分を指差して軽く首を傾げた。
「ミュウじゃない?」
「うん。一度でもそんなこと言ったっけ……じゃなくて、言いましたっけ?リオ先輩もそんなこと言ってたけど。ESPチェックは悉く空振りで、検査官の人に無駄足だって嘆かれたくらいだし」
「だけど君、僕は名乗ってもいないのに、僕の名前を知っていた……っ」
「リオ先輩が呼んだじゃないですか。『大丈夫ですか、ブルー!』って」
「……そ、う……だったかな……」
あまりにも意外な答えに、ブルーは額を押さえて思い出そうとする。そう言われてみれば、そんな声を聞いた気もする。
あのとき、見上げてきた、鮮やかな新緑色。
あの目、が。
「そうですよ。じゃないとぼくにあなたの名前が分かるはずないじゃないですか。それにたとえぼくがミュウだったとしても、口にされていないことを読むのは禁じられているし、禁じられていなくても勝手に人の心の中を読んだりしませんよ」
ジョミーは呆れたように肩を竦めて同時に首を振るという器用なことをやってみせる。
思い出した瞳に、引き込まれるように思考がそこで完全に止まっていたブルーは、すぐに慌てて頭を振って気持ちを切り替えようとする。
「リオ先輩と友達なのに、ちょっとミュウに偏見がないですか?」
咎めるというよりは、心底不思議そうに首を傾げられてバツが悪くなって目を逸らした。
嫌っているのだからちょっとどころではない偏見だ。そうと自覚のあるブルーは少々居心地悪く、特にジョミーの母親の言葉からミュウだと分かったジョミーの妹のほうは見ることができない。
「そういうつもりでは、なかったんだが」
「ま、いいですよ。嫌ってたらリオ先輩と友達なはずはないし。とにかく、ぼく明日から迎えに来ますね」
「待て、何の話だ?」
「だって鞄を持つのも大変でしょう?」
「まったく大変じゃない。鎮痛薬も処方されたし、固定もしているから然したる痛みは……」
「じゃあまた明日!」
人の話を聞きもしない。ジョミーは明るくブルーにそう言い放つと、ブルーの母に対して母親と共にもう一度丁寧に頭を下げて、ブルーの自宅を辞去した。
「……さっきの子、本当にミュウではないのね?」
「本人がそう言ったならそうなんだろう」
ブルーは玄関まで運ばれた鞄を手に、家に上がる。これを部屋まで運ぶと上がり込まれなくて本当によかった。
「あなた、まだリオ君と一緒にいるのね。連絡もあの子がしてくれたけれど……」
ミュウかもしれないと思えばこの態度だ。こんな母に接すれば、本人が違うとしても妹がミュウのジョミーは嫌な思いをすることになっただろう。どうやら母はあの妹のほうがミュウだということに気づいていない。ジョミーの母親の言葉をしっかりとは聞いていなかったのだろう。幸いだ。
ブルーは母と顔を合わせようともせず、そのまま横を通り過ぎた。どうせ目を向けても母もブルーを見ていない。
だがブルーが横を通るとき、母は少し怯えたように横へと避けた。顕著な反応を示したのは久しぶりだ。ジョミーを遠ざけようと、ミュウの話題を持ち出したりしたからだろう。
自分の子供がミュウかどうかなんて、散々ESPチェックに付き添って、よく知っているだろうに。
「心配しなくても、僕はミュウではないし、いくらミュウでも電話では相手の心まで読めやしないさ」
リオからの電話に対して、感謝よりも怯えるのが先かと冷ややかな目を向けると、見るも分かり易く青褪めていた。さすがに自分の行いを恥じるだけの心はあるようだ。
そんな母を冷たく一瞥するだけで、まっすぐに自分の部屋へと向かおうと階段に足をかけたところで、自分の行動を思い返して顔をしかめた。
実際は違ったから意味をなさなかったが、ミュウであることを利用して母に敬遠させてジョミーを遠ざけようとした自分の行いを恥じたからではない。
その部分もないわけではないが、それ以上にそんなことをしておきながら、母の態度でジョミーがあれ以上の嫌な思いをしなくてよかった、だなんて。
こんな矛盾した話はない。
ジョミーのママはマリアさん(アニメのジョミーママ)で、出てきませんが恐らくパパはウィリアムさん(ハーレイじゃないほうの(笑))
でも妹はレティシアではありません。ジョミーの妹はそれでもまだ予想の範囲内の人かと。
目次
「ジョミー!」
待合室でブルーの隣に腰掛け会計が済むのを待っていたジョミーは、自動ドアを潜って入ってきた女性を見て素早い動作で立ち上がった。
「ママ、早かっ……」
「早いに決まってるわ!家を出たところで連絡が来たのよ!信じられないわ、入学早々、式もまだなのにもう問題を起こすなんて!」
眉を吊り上げ我が子を怒鳴りつける女性は、ジョミーとは似ても似つかない黒髪と黒い瞳の持ち主だった。スーツを着ているのは入学式に出席するはずだったからだろう。時間を見れば、式はきっと今頃つつがなく進行中だ。
そのスカートの裾を、小麦色の肌をしたこげ茶色の髪の小さな少女が掴んでいる。やはり似てもいないが恐らくジョミーの妹だろう。
少女は女性のスカートから手を放すと二つに括った髪を揺らして、怒鳴りつけられて首を竦めたジョミーに呆れたように首を振って見せた。
「ジョミーは相変わらずね。いくつになっても落ち着きがないんだから!」
「アルテラ……お前、ジュニアスクールは」
「わたしは明日からよ」
澄ました顔でつんと顎を上げた少女に、ジョミーは溜息をついた。
「ママ、この人がぼくのせいで怪我をさせちゃった人」
椅子に座ったまま傍観を決め込んでいたブルーを示されて、ジョミーの母親はまあと大きく悲鳴のような声を上げる。
「ごめんなさいね!大変なことになって、本当に申し訳なく思っています」
「いえ……」
正直なところ謝罪や補償などどうでもいいから、早く解放して欲しい。とにかくジョミーといると落ち着かなくて、さっさと会計が済んでくれないだろうかと会計カウンターに目を向ける。
ちょうどそのときブルーの名前が呼ばれてホッとした。これで会計が終わればジョミーは学校に戻るだろう。
だがそう思い通りにはいかない。
「ジョミー、これを持ってて。アルテラはジョミーと一緒にいなさい」
ジョミーの母は会計から呼ばれた名前にブルーが反応したとみるや、持っていた紙袋をジョミーに押し付けてさっさとカウンターに向かってしまう。
「え、あ、待ってください」
慌てて引き止めようとするがジョミーの母は振り返りもしないし、ジョミーはジョミーでブルーの服を掴む。
「あなたは怪我人なんだから座ってて」
「バンドで固定されたから痛みも大分治まった。もう君に世話をしてもらう必要もない」
服を掴んだその手を振り払うと、ジョミーは素直に手を引っ込めながら、けれど決して頷かずかずに首を振る。
「それとこれとは別ですよ」
「別なものか。今からでは式には間に合わないだろうが、せめて最初のホームルームにくらいは出席してくるといい。さあ、戻って!」
「そんなのママが許さないわ」
アルテラという少女はジョミーの腕にぶらさがるように抱きつきながら、ブルーを見上げて肩を竦めた。
「あなたのママと会ってないもん。ちゃんと謝るまで、ママはそんなの許さないわよ。ねえジョミー?」
「まあね」
ジョミーはアルテラの頭をくしゃりと撫でながらあっさりと頷いて同意を示し、ブルーの眉間にしわが寄る。
「そんなことは気にしなくていい。僕の母は恐らく来ない」
「どうして!?ママはジョミーが外で怪我するたびに、いつも急いで駆けて行くわ!わたしなんて、何度手を引かれて走ったか、覚えてないくらいよ!」
「アルテラ」
ジョミーは少女をたしなめる様に少し語気を強めた。
ブルーの家庭の事情など知らなくとも、少なくとも家ごとに家族の在り方など違うことくらいは理解しているのだろう。
「そうか。僕の両親はそうではないだけだ」
さすがに子供相手に嫌味を言う気にはなれず、ブルーは軽く受け流すと椅子から立ち上がる。
ジョミーといい、その母親といい、妹といい、傍からでは理想的な家族のように見える。
「だからもう行ってくれ。謝罪なら僕が受け取った」
「そういう訳にはいきません」
強い語調の抗議に振り返ると、いつの間に戻ってきたのか会計を済ませたジョミーの母が腰に手を当てブルーの背後に立っていた。
「大切なご子息にこんな大怪我をさせてしまったんですから、ちゃんとお詫びしないわけにはいかないでしょう。あなたを送るついでと思ってくれていいから」
来なくていいと気を遣っているのではなくて、本当に厄介ごとに関わりたくないだけだ!
ブルーの切実な願いは、あっさりとなかったことにされてしまった。
一体どうしてこんなことになっているのか、不本意なことだらけでブルーはタクシーの後部座席で不貞腐れて頬杖をついて流れる外の風景を見ていた。
隣にはジョミーの妹がこちらをちらちらと気にしながら兄に何かを囁いていて、彼女の向こうにいるジョミーはまた、妹とは違う様子でブルーが気になっているようだった。
全部窓に映っている!
ブルーが気づいていないと思っている二人にそう言ってやりたいくらいに、二人はブルーを見てひそひそと言葉を交わしていた。
だがそれも面倒だし、そんな気力もない。
息子が登校して、入学式と同時に別の講堂で行われている始業式が終わるまでは帰ってこないとほっとしているだろう母が、早々に帰ってきたブルーを見てどんな顔をするか。
想像するだけでも憂鬱になりそうだった。
「やっぱり寮に入ればよかった……」
溜息をついて後悔しようと、すでにどうしようもないことだ。
限定話撤去に伴い、代わってこれまた小話アップ。
とはいえ、限定の続きではなく、表の続きのほうです。ふたりは健全(……だからジョミーがこんなことができる……)
「そういえば、プレゼント貰いっ放しだったっけ」
そうジョミーが気づいたのはクリスマスデートも終えた、更に翌日のことだった。
遅すぎるといえば遅すぎる話だが、ブルーからのクリスマスプレゼントがサンタクロースからという名目をつけられていたり、その渡し方が夜中に勝手に家に侵入するというとんでもない方法だったりで、すっかりと「お返し」が頭から抜けてしまったのだ。
資金の豊富なブルーとは違い、ジョミーは親からのお小遣いをやり繰りしている。そして今は月末だ。小遣いは月初めにまとめてもらう。ママは前借りはさせない方針を崩したことがない。
「……お金がない」
シャングリラ学園はアルバイトは禁止していないけれど、生徒会で忙しいジョミーに学外で働く時間なんてありはしない。ソルジャーを押し付けたのはブルーだ。
けれど。
「さすがにぼくだけ貰うのはまずいよなあ」
誕生日だとかジョミーの祝い事ならともかく、クリスマスは信者ではないジョミーとブルーにとってはいわばイベントだ。ブルーなら気にもしないだろうと分かっていても、一方的に貰うだけはジョミーの心情が許さない。
「でも……」
鞄に手を伸ばし、取り出した財布を確認したジョミーは遠い目をして息を吐いた。
「お金ないし……」
振れば小銭くらいは音を立てそうだった。
携帯電話が着信を告げると、ブルーはそれを光速の勢いで手に取った。
ジョミーからの着信は、すぐにわかる。何しろ、ジョミーの声を録音したものを使用しているので。
ジョミーに「メールだよ」とか「電話に出て」とか、音声をコレに吹き込んでくれとレコーダーを前にお願いしたときは鉄拳制裁と共に断られた。今携帯から流れているのは「仕事手伝ってください!」という怒鳴り声だ。
本当は「……好き」と言う言葉を録りたいところだが、盗み撮りなので囁かれるだけのそれを録音するのはなかなか上手くいかない。ちなみに現在のメール着信音は「いい加減にしてください!」である。
「ジョミー?」
録音もいいが、やはり機械越しだろうと本物の声は更にいい。すぐに通話にすると、ジョミーの声が耳に届いた。
『今いいですか?』
「もちろん。どうしたんだい?」
『どこにいますか?』
「家だけど」
珍しくジョミーから呼び出してくれるならすぐにでも出かけようとクローゼットを開けると、しばらく逡巡するような沈黙があった。
『………実はすぐに近くに来てるんですけど……』
「え、本当に?どこだい、すぐに迎えに行くよ!」
『家の前』
一瞬の間の後、ブルーは慌てて窓に飛びついて、カーテンを勢いよく開いた。
薄暗い夕闇の中、門扉の前で携帯電話を耳に当てたジョミーが部屋を見上げている。
門灯の明かりで寒そうな白い息が見えて、ブルーは急いで身を翻した。
「言ってくれたら君の家に行ったのに!もう暗いのに危ないじゃないか!」
『あのさブルー、ぼくはあなたと同じ高校生ですよ。しかも男。まだ七時にもなってないのに』
「年齢も性別も関係ない!ジョミーは可愛いのだから自覚を持ってだね……」
『可愛いってなんだよ!』
途端に不機嫌な声が返ってきた。
ともかく急いで階下に下りて玄関の扉を開けると、怒ったように唇を尖らせていたジョミーがぱっと表情を綻ばせた。
「急にごめんなさい」
ジョミーは携帯電話の通話を切ってポケットに入れる。
「いや、そんなことは気にしなくていい。君ならいつでも大歓迎だ」
駆け寄ったブルーに、ジョミーは締めたままの門扉の向こうから、いきなり手を突き出してくる。
「そんな薄着で出てきて!はい、これ。遅くなったけどクリスマスのお返し」
「お返し?」
まさかそんなものが来るとは思っていなくて驚いて目を瞬く。ジョミーが手にしているのは一枚の封筒だ。
受け取ると、ジョミーはバツが悪そうに首を竦めた。
「もう少しマシなものを渡せたらよかったんだけど、今金欠で」
ジョミーに目で問えば、開けていいと頷かれる。出てきたのは一枚の白いカード。
「『便利屋券』?」
表にはシンプルにそれだけ、裏を見るともう少しだけ分かり易く説明があった。
「『ひとつあなたの願いを叶えます。ぼくに出来ること限定なのでよろしく』。……ジョミー」
「あ、やっぱり呆れた?子供じゃないんだからさすがにそれはないかと思ったんだけど、新年になったらまともなものを贈るから今はそれで許してくれません?」
両手を握って頬に当て、誤魔化すように笑うジョミーは分かっていない。
ブルーはそのジョミーお手製のカードを大切に封筒に仕舞い、大切に懐に入れて、おもむろに門扉を開けて、それからジョミーの両手を上から包むように握り締める。
「ありがとう。僕にとってはこの上なく素晴らしい贈り物だ。だが『願いを叶える』だなんて、こんな贈り物は僕にしかしてはいけないよ?」
「あなた以外にそれを笑って許してくれる人なんていないからしませんよ」
聞きようによっては随分な言われようだったが、しないとはっきり約束してくれたのでほっと胸を撫で下ろす。
ジョミー、約束事、それも文章にしたものは、もう少し厳密に書かなければいけないよ。
ブルーは心の中だけでそっと呟いた。
カードには有効期限が記載されていない。
忘れた頃にカードを出されたジョミーが悲鳴を上げるのは、数年のちの話。
ジョミーは半分シャレのつもり。
ブルーのお願い事は結局なんでも聞かされているからいいかー、くらいの軽い考えが半分。
そんな感じの12話目。本当はリオのハンカチから広げようかと思っていたのはここだけの話。
さすがにそれじゃ弱かった(^^;)
目次
「あら……まあ……」
大人しくしない生徒の怪我の具合を連続で診て少し不機嫌の様子だったエラ校医は、小さく声を漏らして呆れたようにブルーに目を向ける。
「よくこれで大したことがないなんて。呼吸をするだけでも痛むでしょう。あなた、友人の忠告はきちんと聞かないといけませんよ」
「え、え?どうしたんですか、先生」
ジョミーが不安に満ちた声でエラの白衣を引っ張り、ブルーは嫌な予感に眉を潜めた。
リオの忠告を聞けといい、大したことないというのが間違いなら、その推測が当たっていたということか。
思わぬ不運の怪我も痛むし面倒だし不愉快だが、それ以上に今にも泣き出しそうな新入生を見ている方が不快だった。
ジョミーに状態を説明しようと口を開いたエラの邪魔をするように、ブルーはベッドに手をついて起き上がる。一瞬痛みに息が詰りかけたが、どうにか堪えた。
「わかりました、すぐに病院に行ってみます。君はもうすぐ入学式だろう。行け」
「いやだ!」
ジョミーは大きく首を振って、追い払うように振ったブルーの手を掴む。
「あなたが怪我をしたって分かってて、向こうに行けって言われたって絶対に行かない!絶対に!」
今までの態度から反論は受けるだろうと思っていた。だがジョミーの反応は予想を上回るほど激しい。
柳眉を逆立て怒鳴りつけられて、怪我をさせられたのはこちらの方なのに、どうしてだか悪いことをした気にさせられる。
ああ、そうか。
ブルーは握られた手にちらりと視線を送った。
ジョミーの手が、僅かに震えているからだ。
もう一度見上げた翠の瞳は、力強く睨みつけているはずなのに、ブルーには涙を堪えているようにしか見えなかった。
その強い視線に、吸い寄せられる。
まるで、澄んだ湖底の深い色。
伸ばしかけた自由の利く手を、ブルーは眉を寄せて握り込んだ。
「あ……『あなた』に……ぼくが怪我をさせるなんて……」
その声が僅かに上擦ったように聞えたのは気のせいだろうか。
ジョミーは深く息をつく。
「サムの安全のことばかりに気を取られて、人がいると気づけないなんて情けない。……ごめんなさい……」
「もう十分に謝ってもらった」
どうしてだろう。彼が落ち込む様子を見るのは、常にないほど苛立つ。
なぜ君が謝る―――怪我をさせたからだ。
どうしてそんなに悲しそうな顔をする―――僕が跳ねつけるからか?
馬鹿馬鹿しい。たかが骨の一本や二本、―――がしたことに比べれば……。
「………誰だ?」
「え?」
痛ましい目をしたまま、ジョミーが聞き返すように首を傾げた。
ブルーは思考の底から意識を戻して、はっと背を伸ばす。途端に痛みが胸に響いた。
「っ……」
「ブルー!」
ジョミーがブルーの手を握り締めた両手に力を込める。
「痛い?苦しい?ごめんね、ごめんなさい。ぼくのせいだ……ぼくはまた……」
握り締める手に、更に力が篭る。
見上げたジョミーの瞳は、悔恨よりも違う色が大きくなっていく。
「エラ先生」
「え、ええ。何かしら?」
「ブルーの怪我は酷いんですか?」
「そうね……きちんと検査したわけではないからはっきりとは言えないけれど、長くてもひと月もあればヒビも完治すると思うけれど」
やっぱりヒビが入っていたのか。
暴力的に人が降ってきたとはいえ、その衝撃をそのまま受けることしかできない筋力のなさが情けない。
ブルーが呆れたのは自分に対してで、このとき既にジョミーに対する怒りや苛立ちはない。
だというのに、ジョミーは両手でブルーの手を握り締めたまま、ずいと身を乗り出す。
「じゃあそれまでの間、ぼくがあなたの身の回りのことをお手伝いします!」
「なぜそうなる」
ブルーは思い切り不賛同を表したというのに、ジョミーはぎゅうぎゅうと握り締めた手から力を緩めようともしない。
「だって、ぼくのせいで怪我をしたんだから、当然でしょう!」
「少しも当然だとは思わない。別に腕や足を骨折したわけじゃない。日常生活に障りはない」
「じゃあまず病院に行きましょう。ぼく付き添います。治療費のこともあるし……そうだ、ママに連絡しなくちゃ」
「わかった、治療費を払うというなら、後でまとめて請求する。謝罪も受けた、もうそれでいい!」
出逢って僅か数十分。接触した時間に直せばたかが数分。
たったそれだけで、ジョミーには調子を狂わされてばかりいる。これ以上関わるなんてごめんだ。
そんなブルーの切実な叫びは、使命感に燃える少年にあっさりと聞き流された。
「リオ先輩、ブルー……先輩の家へ連絡したいんですけど、番号わかりますか?」
「ええ、わかりますよ。僕が連絡しておくから、君はブルーを病院へ連行してください」
「連行ってなんだ、リオ!」
「その人、病院がすごく嫌いなんですよ。逃がさないでくださいね」
「わかりました!」
どうして君たちが連携するんだ。
納得できないままジョミーに手を引かれてベッドから降りる。
やることを決めたことでジョミーは気落ちを払えたようで、それだけがブルーの苛立ちを小さくさせた。