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日々の呟きとか小ネタとか。 現在は転生話が中心…かと。
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やっぱり3話じゃ無理でしたー!(^^;)
というわけで、あともうちょっと続きます(汗)

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「おー、ジョミー。どうした、そんなに慌てて。まだ昼休み時間あるぞ」
「へ、へ、へ……変な男が……」
「え、なに?」
息を切らせて教室に駆け込んできたジョミーに、着替えの途中だったサムが振り返る。
ジョミーは自分の後ろを指差しながら、変な男が出たと言いかけたところで、はたと止まった。
一体、なんと言えばいいのだろう。監視者だとかシンマだとか訳のわからないことを言われて、襲われそうになった相手の武器は、爪。
男の爪が伸びて刃物のようになったところを見たジョミーは信じるも信じないもないが、話だけ聞かされてあんなことを信じられるはずもない。
「………帰る」
「はあ?」
「ごめん、早退する。先生に言っといて」
「え、ちょ、おいジョミー!」
ジョミーは自分の鞄を掴むと、その中に制服を詰め込んで着替えもせずに教室を飛び出した。
あのまま教室にいて、もしもあの男が飛び込んできたらどうすればいいのか分からない。
見た目は人間だったけれど、爪が伸びたことも、あの一瞬でジョミーの前に回り込んだ速さも、到底人間とは思えない。あんなのに人前で襲われたら、なんと言い訳をすればいいのか、それにサムたちを巻き込むわけにもいかない。
「家に帰って……いいのかな………でもどこかに行く当てがあるわけじゃないし……そうだ、目覚めがどうとか……ぼくが14歳になったら何かあるのか?」
だとすれば、明日だ。明日まで時間を稼げばいい。それで事態が良くなるという保証はどこにもなかったが、悪くなるとも限らない。
はっきりしているのは、今のままでは何の対応もできないということだけだった。何しろあの黒ずくめの男の動きはさっぱりジョミーには見えなかった。
「一日くらいなら……鍵を掛けて家に閉じ篭ればどうにかなるかな」

家路の間、途中であの男に襲われることが気がかりだったけれど、家までは何事もなく帰り着くことができた。
「ママ!ママ!」
何をどう説明すればいいのか分からないけれど、家にいたら危険かもしれない。両親にはどこかへ避難してもらいたくて、言い訳の言葉も考えていないのに、家にいるはずの母を捜して駆け回る。だが見つけたのはリビングのテーブルにあった書置きだった。
「『出かけてきます。パパもママも帰りは遅くなるから、先に寝ていてください』。……ママ遅くに帰るなら帰らないほうがいいのに」
慌てて携帯電話に連絡を入れてみると、すぐ近くで呼び出し音が鳴る。
「マ、ママ……携帯忘れてる……」
父親の携帯電話に連絡をいれても、空しくコールが鳴るだけで通話にはならない。
「留守電にすらならないよ。どうなってるの?」
イライラと携帯電話をテーブルに置くと、何か武器になるものはと家の中を探してみる。
「包丁……は、逆に危ないかな……あとは、パパのゴルフクラブくらいか……」
考えた末に結局ゴルフクラブだけを手に、手早くシャワーを浴びて汗を流すと、それを抱いて部屋に戻った。
「二人とも……帰りが明日になればいいんだけど……」
ベッドに座り、頭からブランケットを被ってクラブを抱き締める。
「……こんなもんで対抗……できるわけ、ないよな」
溜息が零れるけれど、何も持っていないよりはましだ。
とにかく明日、それが日付を越えてすぐなのかそれとも明日が終わるまでなのか、それどころか本当に明日になればどうにかなるか。
まんじりもせずにベッドの上で、クラブを抱き締めて過ごした。


携帯から流れる着信音で目が覚めた。
目が……覚めた。
「うわ!寝てた!?」
ゴルフクラブを抱き締めて、前のめりに船を漕いでいたジョミーは、こんなときに眠っていた事実に驚いて飛び上がる。その拍子に被っていたシーツがベッドへと落ちた。
慌てて明かりをつけて部屋を見回し、時計に目を留める。
「明日まであと5分……か。これと言って特に何もないよな……そうだ!ママとパパは……っ」
帰っているのだろうかとベッドから足を降ろしたジョミーの後ろから、白い手が伸びて頬を掠める。
「うわーっ!?」
誰もいないはずの部屋で後ろから抱き込まれれば、何もないときにだって悲鳴を上げるだろう。まして、今はよく理解できないことに巻き込まれている。
またあの男かとゴルフクラブを握っていた手を振り回すと、白い手がそれを軽く止めた。
「ジョミー」
「え……あ……」
聞えたのは、あの男の声ではない。
もう一人の、ジョミーを助けてくれたと思われる、銀の髪の青年のものだ。
そろりと肩越しに振り返ると、やはりジョミーを後ろから抱き締めていたのはあの青年だった。
「ど、どこから……っ……って………なんかすごく無意味な質問っぽい……」
「そうだね。僕ら神魔には、人の造りし物への干渉は何の障害でもない」
「し……しんまって、何……?」
後ろから抱き締める手を軽く叩いて、放して欲しいと意思を示してみると、青年はすぐに腕を解いてくれた。やはり、彼はジョミーを助けてくれるつもりなのだろうかと、つい少しだけ安心して吐息を漏らす。
「神魔とは、神であり魔とも呼ばれるもの。人にとっては、ね。人が呼び名を変えるだけで、本来僕らに神聖だとか邪悪などと違いはない。この世界を人に譲り、闇に住まうと決めた人ならざる者たちのことだ」
「え、えっと……?」
分かるような、分からないような、とにかく人間ではないことだけは理解できた。それはもうとっくに理解していたけれど。
だがこの青年が人間ではないというのは、爪が伸びたあの男とは違うところで酷くジョミーを納得させた。
透き通るような白い肌や、美のための計算し尽くされた高い鼻梁を持つ美貌。月の光を集めて染め上げたような銀の髪も、ルビーを溶かしたような赤い瞳も、すべて人ではないと言われたほうが自然なほどだ。
ベッドに手をついて青年と向かい合うように座り直すと、握っていたゴルフクラブは横へと置いた。
青年がそれを見て、目を細める。
「君はその監視者の血を引く」
「ぼく?で、でも、ぼくはそんな大それた事なんて」
「目覚めていないだけだよ。神魔をみな、闇に沈め、僕らが人の世に出てこぬようにと見張りをする」
そんなことを急に言われても。
眉を潜めて、ジョミーは恐る恐ると青年を伺った。
「人違いじゃ……なくて?」
「……そうだったら、どんなによかったか」
青年の目が時計に向いた。
「もうすぐ君は14歳になる」
「う、うん……そう、だけど」
「この世界に存在してよい神魔は、君たちの一族と、門番としてこの世と闇の狭間にいる長だけだ」
「じゃ、じゃああなたはその長なの?」
だから助けてくれたのかと、青年ににじり寄ると、悲しげな笑みを返された。
「違うよ」
「え、だって……」
「それ」
青年は白いグローブを外しながら、ジョミーが傍らに置いたゴルフクラブを指差した。
「君の武器ではなかったのかい?」
「う……こ、こんなので昼間のあいつに対抗できるとは思わないけど、でも何もないよりはマシかなって」
「どうして手放したんだい?」
グローブを外した手が、ついとジョミーの首に掛かった。
「え……?」
ひやりと冷たい指がジョミーの首に絡みつく。
「たとえどれほど無力なものでも、狩人の前で武器を手放すのは愚かなことだ」
「ど………いう……こ……」
喉に掛かった指に、力が篭る。
「初めに会ったときに、こうしておくべきだった。……こうするつもりだったんだ」
「待っ………」
赤い瞳は、痛みに耐えるように細く歪められた。
「滅びよ、監視者の血」
美夕ダブルパロの続きです。
原作のレムレスよりキースの出番が増えたー。次で終わるのかとっても不安な中編です。



「新たな監視者」
「もうすぐ十四となる」
「目覚めの刻」
「目覚めよ、ジョミー」

「ジョミー!行ったぞ!」
大声で怒鳴られて、ジョミーははっと背筋を伸ばして振り返った。その横を、ボールを蹴ったクラスメイトが駆け抜けていく。
「あっ」
「ジョミー!なにやってんだ!試合中にぼうっとすんなよ!」
「ごめん!」
慌てて抜かれた敵チームの友達を追いかけたけれど、追いつく前にゴールを決められてしまった。

「らしくないぞ、ジョミー。英語とか数学ならともかく、体育の、それもサッカーの授業中にぼうっとするなんて」
「英語や数学ってなんだよ。ぼくは真面目に授業を受けてるぞ……時々寝るけど。あー……悪かったよ。ちょっと寝不足で」
グラウンドを走り回ってひりつくように乾いた喉を抑えながら水道の順番を待っていたジョミーは、空を見上げて溜息をついた。
一度見た夜から、頻繁に見るようになった夢。
綺麗な青年が出てくるほうではなくて、木のお化けのような影に囲まれる夢だ。そのうちただ囲まれるだけではなくて、声まで聞こえるようになって、さらにあまりに夢に見すぎたのか、最近では昼間でも声だけだが聞こえるような気がするときがある。
「……14歳、か……」
「あ、そういえばお前、明日誕生日だっけ」
「えっ」
独り言で呟いたつもりだったから、サムに言われて驚いてしまった。周囲が一斉に振り返る。
「そうなのかよジョミー」
「じゃあ明日は何か奢ってやるよ」
「全員からジュース一本ずつ、とかな」
「なんで全員でジュースなんだよ。重いじゃないか」
「気になるのはそこかよ!」
頬を膨らませて抗議するジョミーに、順番を代わったクラスメイトは肩を竦めて笑う。
「だってお前、最近やたらと何か飲んでばかりだろ」
指を差されて、順番が回ってきたジョミーは顔を洗うより手を洗うより、まず蛇口に口をつけていることに気がついた。
「んー……」
冷たい冬の水が喉を通ると、少し喉の渇きが収まったようで、口元を拭いながら首を傾げた。
「なんだろうな、飲んでも飲んでも全然すっきりしなくてさ。乾燥してんのかな」
「普段から暖房とかつけっ放しにしてるんじゃないのか?よくないぞー」
ひらひらと手を振って、水道を使い終えたクラスメイトたちが先に教室へ帰っていく。一人、隣に立ったままのサムに気づいてジョミーは顔を洗う手を止めた。
「サム、どうかした?」
「……最近なにか悩んでることでもあるのか?」
「はあ?」
一体なんのことだと笑おうとして、サムの表情が真剣なことに一度蛇口を閉める。
悩んでいるといえば、悩んでいる。だが夢で見る声を昼間にも聞くだなんて、疲れているとしか結論なんてでないだろう。昼間は影をみていないとはいえ、ひょっとすると寝不足から一瞬だけ意識が落ちているだけかもしれない。
「いや、本当に寝不足なだけだ。喉が渇いて、夜中にも何度も目が覚めて」
「ええ!?寝てても喉が渇くのか?毎日?お前それは一度病院に行った方がいいぞ」
「かなあ?でも喉が渇くだけで、熱があるわけでも咳が出てるわけでもないし、他はどこも悪くないから……」
「いーや、甘く見るなよ。異常なまでの喉の渇きっていうのは何かの重大な病気のサインってこともあるからな」
「うーん……」
蛇口を開けてジョミーは手を洗いながら、空を見上げて唸りを上げ、サムに視線を戻すと頷いた。
「じゃあ明日、登校前に病院に行ってくるよ」
「そのほうがいいって。病気じゃないならないで、安心できるしな」
「うん」
ジョミーが素直に頷いて安心したのか、サムは手を振って先に教室へと歩き出した。
その背中を見送ってから顔を洗ったジョミーは、流れる水に再び喉の渇きを覚えて口をつける。
確かに、さすがにこれは異常かもしれない。
水を滴らせながら蛇口を閉めて、濡れた手の甲で口を拭いながら乾いたタオルに手を伸ばす。
「目覚めの兆候だな」
聞き覚えのない声に振り返ると、先日街路樹の傍らに佇んでいた、黒ずくめの男が校庭の木にもたれて立っていた。

「うわぁっ!?」
タオルを手にジョミーが水場のコンクリートに手をつくと、男がもたれてた木から身体を起こした。
「ブルーが待てと言ったから様子を見ていたが、どうやらお前は監視者に目覚めつつあるらしい」
「……か、んし、しゃ……?」
「だから無駄だと言ったというのに」
男は組んでいた腕を解いてジョミーに向かって手を伸ばした。まだ十分に距離は空いていたから、ジョミーは水場に後ろ手についたまま、慎重に横にずれていく。
「姿なき声を聞くだろう。それは神魔の長どもの声だ。喉が渇くだろう。水などいくら摂取しても、その渇きは収まるまい。お前が欲しているのは水などではないからな」
すべてを見透かされたように言われて、ジョミーの足が震えた。シンマってなんだ、この男は誰だ。
ジョミーに向かって伸びていた男の手の爪が、音を立てて長く伸びた。
「なっ……」
ナイフくらいに伸びた爪は、木漏れ日の光を、まるで鋭い刃のように反射する。
「あ……あああ、あんた、一体、な、何者……」
「ほう、なかなか余裕だな。私のことなど気にしてどうする。今から死に行くものが」
「死……っ!?だ、だって目覚めろって」
何に目覚めろなのかもよく分からないけれど、いきなり殺されると宣言されて動転しているのか、ジョミーは何もない左右に首を巡らせる。助けになるものなどなにもない。
「それは長どもの望み。私の望みは――――」
男の右足に体重が掛かり、ジョミーは端まで辿り着いていた水場から身を翻そうとする。
「監視者の死だっ」
少なくとも十歩の距離はあった。それなのに、一瞬で前に回り込んだ男の爪がすでにジョミーの喉に触れようと……。
「よせ、キース!」
痛みを覚悟して目を閉じたジョミーの耳に、金属を弾くような音と違う男の声が滑り込んできた。

恐る恐ると目を開けると、視界一杯に藤色が広がっていた。
驚いて後ろに一歩飛びのく。
それが人の背中であると気づいたのはそれからだ。
「ジョミーはまだ目覚めていない。もしかするとこのまま人として生きるかもしれな……」
「お前らしくないぞ、ブルー。その状態で目覚めない可能性など、本当に信じているか。目覚めてからでは遅いのだ。今のうちなら赤子の手を捻るよりも簡単に殺せる」
「キース!」
「あ……」
ジョミーを背後に庇って黒ずくめの男を対峙しているのは、夢に見た銀髪の青年だった。
その厳しい横顔が、ジョミーの小さな呟きを拾って僅かに返り見る。
血のように赤い瞳が、ジョミーの姿を捉えた。
血、のように、赤い……赤い、瞳、が。
美味しそうな、白い喉。その肌の下を流れる赤い道が、透けて見えるようだ。
逃げようとしていたはずの足が、一歩前へ出る。
ふらりと美味しそうな匂いに誘われるままに、銀の髪の青年に手を伸ばした。
「ジョミー!」
鋭い、悲鳴のような声にはっと目が覚める。
青年の腕を掴み、つま先で背伸びをしてジョミーが近付いたのは、青年の首筋だ。
「え、あれ……ぼ、ぼく何を……」
たぶん……助けてくれようとした恩人が美味しそうだなんて、一体何を。
すぐ傍まで迫っていた赤い瞳が、まだ噛んでもいないのに痛みを堪えるように揺れていた。
「ジョミー……君はもう……」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて青年から飛びのくと、その背後で黒い方の男が手を振りかざしていた。
「う、わぁっ!」
転ぶようにして後ろへ下がったジョミーの目に、銀の髪の青年が手を横に伸ばしてもう一人の男を止めている様子が見えた。
一体何に巻き込まれているのか分からないままに、とにかく一旦逃げようと身を翻す。
「ブルー!お前はまだっ」
男の怒声が聞えたが、今は逃げることだけで精一杯だった。

金の髪の少年が転ぶように走ってその姿をコンクリートの建物の中へと消すと、キースは舌打ちをして伸ばした爪を元へ戻した。
「先ほどのあれを見ただろう。もうあいつは人間としては生きられん。監視者として目覚める前に殺さねば、我々が狩られる側になるのだぞ」
「……分かっている」
「目覚めは恐らく明日だ!その前に……」
「僕がやる」
ブルーはジョミーが逃げ込んだ石の建物を、痛ましい目で見つめた。
「僕がジョミーを殺す。だから君は手を出さないでくれ」
左右が対になった建物は、まるで墓標のように冷たい色をしてた。
いい加減に……と思うのですが、またも突発でダブルパロ。吸血姫美夕のパロです……。
ヴァンパイアものといえば、ブルーが吸血鬼なことが多いかと思うのですが(あの容姿だし。ものすごくハマる)、あえてジョミーがヴァンパイアで。
……ということを考えていると、いつの間にか美夕に辿り着いたという。
でもジョミーは男の子。
体格的にはラヴァはハーレイとかキースが適役な気がするんですが、ここではブルーで。血の契約はしていても、ラヴァと違ってブルーがジョミーの下僕ということはないです(^^;)
前・中・後編くらいで終わってくれたらと……。



死んでしまったジョミーの小鳥。
小さなジョミーは冷たくなった小さな身体を、泣きながら両手で擦り合わせて温めようとする。こうすれば、小鳥が息を吹き返すのではないだろうかと。

ふわりと背後に人の気配を感じて振り返る。すぐ傍に、一人の青年が佇んでいた。
いつの間にこんな近くに人が来ていたのか。
銀の髪と赤い瞳。白皙の面は整いすぎて冷たい感じがする。
「……お兄ちゃん……だぁれ?」
白と銀の服に藤色のマントを羽織った青年は、グローブを嵌めた手でそっとジョミーの頬に触れた。
「どうしたんだい?何を泣く」
この世の人とは思えないほどに美しい青年は、その容姿に相応しくまるで音を奏でるような声で言葉を紡ぐ。
きっとこの人は……人ではないのだ。
ジョミーは両手に抱えた小鳥を引き寄せ、青年から守るように胸に抱き込む。
「ぼくの小鳥、連れて行かないで」
「小鳥?」
ジョミーが抱き寄せた両手に目を向け、青年は首を傾げる。
「その子はもう死んでいる」
「ぼくの小鳥、まだほんの少し暖かいんだ。だからこうしていればきっともう一度飛んでくれる。連れて行かないで」
「ふむ……僕を天の使いとでも思ったのかな」
青年は指先で軽く顎を擦り、おもむろにグローブを外す。そうして伸ばされた手に、ジョミーは半歩下がったけれどそれ以上は動くことができなかった。
青年の手が、小鳥を包むジョミーの手に触れる。氷のようにひやりと冷たいそれに、ジョミーは大きく震えた。
「小鳥が暖かいのは、君の熱が移っているだけだ。いずれそれもなくなるだろう。その子は、土に還してあげなさい」
「でもっ」
「生命は、永遠ではないから美しい」
手の甲を軽く擦って、青年の手が再びジョミーの濡れた頬に触れる。ひやりとした感覚は同じだったのに、その指先の優しさに先ほどのように震えることはなかった。
「小鳥はその生命の限り生きたから闇に眠るのだよ」
「じゃあ……ぼくもいつか、この子のところへ行ける?」
ことりと首を倒して訊ねると、青年は赤い瞳を開き血のように赤い唇からひゅっと音を立てて息を吸う。
「……そうだね、いずれ、君も」
何かに驚いた風だったのに、青年はゆっくりと眉を下げて微笑んだ。
青年が微笑みを浮かべると、先ほどまでの冷たい氷のような、人形のような、そんな風にはもう見えなかった。
優しい、微笑み。
「さあ、僕も手伝うよ。小鳥を埋めてあげよう」
「うん……」
ジョミーが肩に頬を擦りつけるようにして涙を拭って頷くと、青年の手が優しく頭を撫でてくれた。


「……って夢を見た」
缶ジュースを片手に空を見上げてジョミーが今朝見た夢を語ると、一緒に登校していた友人はへえと気のない声を上げる。
「それってなんの深層心理だ?夢判断?」
「なんで夢判断なんだよ」
「だってジョミーが『小鳥が死んじゃった』なんて可愛らしく泣くなんてなあ」
「子供の頃の話だよ!それに6歳の頃に飼ってた小鳥が死んだのは本当にあったことなんだ」
友人はへえと同じ言葉を繰り返したが、今度は少し興味を惹かれた様子のものだった。
「その、人間とは思えない超美形に会ったのも?」
「そこなんだよ。そっちは曖昧なんだよなあ……でも子供の妄想にしちゃ、なんていうんだろう……想像の限界を超えてるっていうか」
「そこまでの美形となると逆に興味をそそられるな。でも男なんだろ?願望だったらお姉さんで見るよなあ」
「サムと一緒にするなよ。大事にしてた鳥が死んだときの夢だぞ。そんな色ボケしないよ」
「お前何気に失礼だよな……」
せっかく話を聞いてやったのにとぼやく友人に、もうひとつの夢は言わないことにした。
最近、夜になると誰かに呼ばれているような気がしてあまり眠れない。ジョミーの名を呼ぶ相手が誰かは分からないけれど、その声も、ジョミーを囲む大きな影も、夢の青年とは逆の意味でこの世のものとは思えない。
微笑むと優しかった青年とは違い、影はただ恐ろしい。
ジョミーは飲み終えた缶ジュースを通りがかりのゴミ箱へ放り込むと、隣の自動販売機で清涼飲料を買う。
「ジョミー、まだ飲むのか?腹壊すぞ」
「最近やたらと喉が渇くんだよ。飲んでも飲んでも足りない気がして」
「ああ、そういうことってあるよな」
プルタブを上げて一口飲んだところで、人の視線を感じた気がして横に目を向けた。
街路樹の陰に人が佇んでいる。
先を歩く友人の後を追いながら、その人物に目を向けていると、どうやら気のせいではなく青年もジョミーを見ているようだった。
黒い髪の、背の高い男。
ジョミーと目が合うと、男は途端に眼光を鋭く睨みつけてくる。
「ひ……っ」
「なんだ、どうかし……」
「な、なんでもないっ」
小さな悲鳴を聞いて振り返ろうとしたサムを小走りで追いかけて、その腕を掴むと振り返らずに走り出す。
見たこともない男に睨みつけられた。しかも尋常ではないほどに鋭く、敵意なんてものではまだ甘いくらいのきつい視線で。
関わらない方がいいだろうとサムを引っ張って急いで学校へ向かいながら、それでも気になってつい肩越しに振り返ってしまった。
だが街路樹の傍には、もうだれも立ってはいなかった。
夢と現の狭間で。


目次



「生きて」


まるで切望するような、胸を軋ませるほどの強い願い。
温かな、それでいて力強い何かに、包まれたようだった。


「ブルー……ごめんなさい、ブルー……」
目を開けると、はらはらと大粒の涙を零す翡翠色の瞳がすぐ傍にあった。
頬に落ちかかる冷たい雫に、ブルーは驚いて目を瞬いた。
色々な表情を見せてくれる少年ではあったけれど、こんな風に激しく泣くなんて、一体何があったのだろう。
「どうしたんだ、一体……」
手を伸ばそうとしたのに、右手がまるで鉛のように重い。
どうしたのだろうと意識が目の前のジョミーから自分の身体へ向くと、腕だけではなく足も、他の何もかもが重く、自覚した途端に意識が再び闇の底へ引きずられそうになった。
「なんだ……一体僕はどう……」
「ぼくのせいで……ごめんなさい……ソルジャー・ブルー……」
まただ。またジョミーはソルジャー・ブルーと呼ぶ。
そこでこれが夢だと言うことに気付いた。
どういうわけか目を覚ますと忘れているようだが、夢の中では以前の夢も覚えているらしい。なんとも不可解なことだ。
もっとも、夢に合理性を求めても無意味なのかもしれないが。
背中に添えられた手の感触で、どうやらジョミーの膝の上に抱き上げられていることだけはわかった。
「それにしても君、なんて格好だ」
髪はぼさぼさだし、頬には煤のような汚れがついているし、良く見れば少し怪我をしている風でもある。
だがなによりもブルーを驚かせたのは、着ている服が既に服の様相をしておらず、手首のあたりに僅かに布が残っているだけだったことだ。
「どうしてそんな、まるで服だけ燃えたような……」
おかしな格好をしているのだと笑おうとしたそのとき、まるで誰かに肩を掴まれたようにジョミーが仰け反った。同時に、ブルーは誰かに抱き上げられたらしい。肩から手を回すようにして脇と、それから両足の両方を持たれて、近くにあったらしいストレッチャーに乗せられる。
こういった物に乗せられることにいい思い出がないブルーは、途端に不愉快になって身じろぎをしようとしたが、何しろ身体が思うように動かない。
「ブルー!」
激しいジョミーの叫びに、首だけをどうにか捻ると、ジョミーは後ろから誰かに両手を掴まれて後ろに引きずられているような状態で、身体だけでも前へと向かうように必死に抗っている。
「ブルー!ブルー!ソルジャー・ブルーっ!!」
「何を……」
そんなに必死になって。
その叫びがあまりにも悲痛で、さすがのブルーもいつもの斜に構えた態度を取ることも出来ない。
ジョミーの身体から、まるで火花のような光が一瞬爆ぜて、拘束する手を振り解くと、走り出したストレッチャーを追って駆け寄ってくる。
「ブルー!お願い、死なないで……生きて………生きてっ」
誰かに妨害されるように押しとめられながら、ジョミーの指先がブルーの右手に触れた。
それはほんの一瞬でことで、もしかすると気のせいだったのかもしれない。
だがジョミーの手が触れた処から熱が腕を昇り、息苦しい胸の痛みが、確かに消えた。


胸に誰かが触れているような気がして目を開けると、弾かれたように手が遠のいた。
帰ってから眠気のままに逆らわずベッドに入っているうちに日が落ちたのか、部屋の中は真っ暗だ。……真っ暗なはずだった。
それなのにベッドの傍らには仄青い光があった。それを纏っているのは、まるでホールドアップしているように両手を上げたジョミーだ。
「………どうやって入った……と聞くのもナンセンスか。夢の続きか?」
だらだらと冷や汗を流しそうな様子で両手を上げていたジョミーは、ブルーの呟きを聞くとなぜか安堵したように息をついて両手を降ろした。
「え、続きって、ぼくの夢を見てたの?」
「いや……どうだったかな……」
「どっちさ」
「君の顔を見たら、そんな気がしただけだ」
片手で額を抑えながら、片手をベッドについて身体を起こす。ふと、それがスムーズに行えたことに額を押さえていた手を外した。
「痛まない……?」
今朝は怪我の痛みで目を覚まして、起き上がることも慎重にしていたのに、まるで完治したかのように痛くない。
「治ってないよ。ほんの少しだけ、痛みを誤魔化しただけだから、無茶をしたらだめ」
「誤魔化した?どうやって」
「夢に理屈を求めないでよ」
「夢の中で夢だと言い切る奴も珍しいな」
「先に夢って言ったのはあなたでしょ」
肩を竦めたジョミーに、納得するような、なんとなく腑に落ちないような気分で首を傾げる。
「しかしなぜ僕はこんな夢を……昨日から君の夢ばかりみているような気がする」
夢の内容ははっきりとは覚えてないが、そんな気がすると見上げると、青く光るジョミーは頬を赤く染めて唖然としたように目を見開いていた。
「あ……あなたって……」
軽く握った拳で頬を擦り、半ば顔を隠すような仕草でジョミーは何かを小さく呟く。
「ジョミー?」
「と、とにかく!」
ジョミーは一歩近付くと、ブルーの額に手を翳した。
「無茶は禁物だからね。安静にしてよ!」
「夢と現実を混同するほど馬鹿ではないよ」
今は夢だから痛まないとはいえ、目が覚めればまた痛みか、薬の副作用かの二択になるのは目に見えている。
「目が覚めて痛くなくても、だよ。無茶して怪我の完治が長引いたら、その分だけぼくが周りをうろちょろするんだって、忘れないでよ」
触れそうで触れない距離にあるはずの手の気配がしない。
ふとそう気づいたときに翳されていたジョミーの手が下へと下りてきて、視界を遮った。


目を覚ますと、真っ暗な部屋の中だった。
思わず首を巡らせたが、当たり前だが部屋には誰もいない。
「なんて夢だ」
夢から醒めたら、まだ夢の中で、どちらもあのお節介な少年が出てきた。
夢の中の夢の内容は思い出せないからそんな気がするだけだが、二つ目の夢はまだ覚えている。
ジョミーが立っていた辺りに目を向けならが慎重に起き上がる。
胸の痛みを覚悟して一瞬だけ息を詰めたが、眠る前に比べたら驚くほどに小さなそれに拍子抜けした。
「……なんだ?」
胸に手を当てる。服の上から、固定バンドに触れた。
―――目が覚めて痛くなくても、だよ。
夢の中のジョミーの言葉が脳裡を過ぎり、すぐに馬鹿馬鹿しくなって首を振った。
「まだ薬が効いているのか」
目が覚めたことで副作用が収まったようだから痛みもぶり返すと思っていたのに、嬉しい誤算だ。
どちらにしても薬の処方は変えてもらわなくてはならないだろう。
ふと、放っておけば明日もジョミーが迎えにくることを思い出して、帰ってきて適当に放っていた鞄を拾い上げると、携帯端末を取り出した。
一緒に挟んでいた紙が、ベッドの上に落ちる。
そこに書かれたたった数桁の番号を見て、ブルーは溜息を零した。
これを使うつもりなんて、さらさらなかったのに。
きっとあの少年は、ブルーから連絡をくれたと喜ぶだろう。それが明日は病院に寄るから、迎えに来なくていいというものであっても。
「こんなことなら、早退するときに言っておけばよかった」
眠気と不可解な苛立ちでそんなことにまで思い至らなかった昼間の自分に舌打ちをしながら、紙に書かれた番号を押す。
ディスプレイに表示されたそれをしばらく眺めたあと、もう一度溜息をついてそれを端末の短縮番号へ登録をして、明日のことを伝えるべくコールを掛けた。
ようやく引越し完了いたしました。
2月から心機一転!と思ったのに一日遅れ、しかもせっかくの改装のチャンスを逃し、結局マイナーチェンジのみorz

以前のINDEXからは、移転先のINDEX、TOP、フレームTOPと3つのリンクがあります。
元の状態から、新INDEXへのリンクが増えただけですので、リンクやブックマークなどはそのままでも大丈夫です。
なので直リンOKのバナーなのに、移転のお報せ等の加工もせずにそのまま置いてます(^^;)
移転予定をお報せしたときにも書いたのですが、このサイトは元は別サイトの一部のスペースを切り取って作っておりまして、そのため旧INDEXが消えることはありませんのでご安心ください。

TOPへブックマーク直通の方も、クリック一回分ふえることがご面倒でなければそのままでも大丈夫です。
旧TOPも旧INDEX同様あのまま置いておきますので~。

うかつで粗忽な管理のせいで、ご面倒をおかけして申し訳ありません。
でもこれで、思う存分裏が書けますー!……なんて、たぶんそんなに増えないとは思うのですが(^^;)
今後ともよろしくお付き合いいただければ幸いです。


以下は、マイナーチェンジなところの呟きなど……

自分的に一番大きなチェンジは、memoのアイコンを変えたことです。ちっさい(苦笑)
ちっちゃい押しピンから、とりあえず見えないということはないだろう鉛筆へ。
元々memoは、別ジャンルとか、特に面白味もない日常の話や、テラでもネタを呟くだけ、などが多い場所になる予定で、まさかここでちょこちょこ小話を上げたり、連載始めたりして頻繁に話を更新するとは夢にも思ってなかったんですorz
だから盛大に見落としてもらおうというつもりで、あんな小さなアイコンを使っていたんですが、転生の連載を始めたりなど更新頻度が予想以上に高かったので、移転を機に見やすいアイコンに変えてみました。
リンクがメニューじゃなくてアイコンなのは、それでも日記的記事も多いから、ということで。

cgiが使えるサーバーに引っ越したので、拍手がweb拍手からpatipatiへ。
なんのことかさっぱり分からない方も多いかと思いますが、単にレンタルか、自サイトに設置するかの差です。や、欲しかったのはチェックボックス。
レスの要不要をチェックボックスにしたかったというのが主目的という……。
わざわざ*を入れるのも面倒かな~と思いまして。似たようなものかもしれませんが。

あと、サイト内ではありませんが、登録サーチ様への登録内容を変更しました。
心情的には子ジョミが主な連載ということに変わりはないのですが、更新速度があんまり中心と言えなくなっているので、その一文を削除。
転生が女の子ジョミーであるにも関わらず、ぜんぜん女の子らしいところがないので、女体化の項目に登録する勇気がありませんでした(苦笑)
いずれ登録できるようになりたいと思います。他で女の子話を増やすかな~。

と、こんなところでしょうか。ほんと少ないな!
予定ではお話部屋もフレームにして、横に全作品へのリンクを並べようかと思っていたんですが、途中で挫折しました。
どんな作りのサイトが利便性がよくて、どんな作りだと見難いのか。
結局自分を基準にしちゃうのですが、いつも試行錯誤です。自分が基準だと、どうしてもサイトの構成が古臭い感じになりがちです(^^;)
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