日々の呟きとか小ネタとか。
現在は転生話が中心…かと。
No.59 太陽の花17
Category : 転生話
サムの視点にて。
気が付いたらジョミーとの会話まで辿り着かず、サムとキースばっかりの回に。
目次
ごくごく一般的に暮らしてきたと自負している身は、注目を集めることに慣れていない。
手ぶらでさっさと歩く先輩に、その鞄を預かって後ろをちょこちょこと付いて歩いては話し掛けている親友と、今自分の隣でその二人の様子に呆れたような目を向けるもう一人の親友と。
「……目立つんだよ、お前ら」
そう呟かずにはいられなかった。
「サム、どうした?」
溜息をついたサムに気づいたのは隣にいたキースで、先を行っていたジョミーの声を聞きつけて振り返る。
「なにかあった?」
「サムの様子が変だ」
「変ってなんだ、変って。俺だってなあ、キースの横にいたり、ジョミーとつるんだりするのは慣れてたよ。慣れてたけど、一足す一は二じゃなくて五だったり十だったりしたらさすがに気後れの一つもするっての」
おまけに更にもう一つ足されてしまえば桁が違う。
「何を言っている。一と一を足せば二にしかならないだろう。それとも二進法のことか?だがそれでも五や十というのは矛盾が」
「ああもうキース、お前って奴は……」
言葉を額面通りに受け取るなと額を押さえて苦笑いしたけれど、もう一人の親友などは早々に興味を先に行く先輩に戻して追いかけている。
「なんて友達甲斐のないやつ」
「そうなのか?」
「本当にお前って奴は」
わざとらしく涙を拭う仕草をしてふざけてみても、期待していなかった通りキースはそれには乗ってくれなかった。
冗談混じりに落ち込んで見せるのを止めると、頭の後ろで腕を組んで軽く背を反らす。
「それにしても、ちょっと意外かな」
「何がだ」
「ジョミーだよ。あいつは割りと面倒見もいいほうだけど、どっちかっていうと年下とかに対してなんだよな。そういうの。確かに怪我をさせたし悪いのはこっちだけど、忠犬みたいに家の前で待ってたり、犬っころみたいに嬉しそうに後ろについて歩くってタイプじゃないのに」
「そうなのか?……あまり違和感はなかったが」
「まあ、責任感の強い奴だから、分からなくもないっていやー、分からなくもないんだけどさ」
「どっちなんだ」
「言ってて俺も分からなくなってきた」
苦笑するキースに、サムも鼻の下を擦りながら苦笑いを漏らすしかなかった。
もう一度周囲を見回すと、女生徒たちの視線はやはりブルーとジョミーとキースにほぼ等分に分かれているように見えた。
その、ブルーに向けられる熱の篭った視線を見て、ジョミーの背中を見る。
「……あいつに限ってとは思うけど……」
「何を」
今度こそ正真正銘独り言のつもりだったサムは、聞き返されて難しいことを聞かれたように眉を寄せる。
「いや、俺もあいつが面食いだとは思ってなかったけど、知らなかっただけかもしれないし」
「だから何の話だ」
重ねられる問いにサムは思わず髪を掻き毟った。ほとんど男友達としか思えないような親友のそちら向けの話を、どうして自分が考えているのかと思うとかなり馬鹿馬鹿しい気分になってくる。
「ジョミーがあの先輩に惚れちゃったんじゃないかって話」
半ば投槍にそう口にして、言葉に直すと途端に心配になってくる。
ジョミーはああいう格好をしているから分かりにくいが、元は悪くないはずだ。けれど相手があの冷徹な美形だと思うと、どう見てもジョミーの手には負えない。
ジョミーが泣くのは見たくないと思う反面、恋に悩むジョミーという図は想像だけでも難しく、やはり自分の勘違いだろうかと首を捻り始める。
だがキースは別の意味で首を捻っていた。
「サム」
「なんだよ」
顔を横に向けると、キースはサムを見ていなかった。やや複雑そうな表情で、前の二人を見ている。
「彼は同性愛者か?」
「は?俺が知るかよ」
彼、といえばジョミーの隣を歩く先輩しかない。だがそれでは会話が噛み合わない。ブルーの人となりはキースのほうが知っているはずだし、サムは今ジョミーの話をしていたのに。
振り返ってみて、キースの勘違いに気づいたサムは思わず吹き出してしまった。
「お、お前、今のジョミーの話か?」
「そう言ったのはサムだろう」
キースはジョミーを男だと勘違いしている。
無理もない。服装は男のものだし、言動も妹のアルテラの方がよほど少女らしい。周りの視線も、ジョミーに向けられている大半は「可愛い男の子」を見つけた年上の女生徒ものだ。
考えてみれば、もしもジョミーがブルーに対して異性としての好意があるのなら、あの格好はない。
いきなり妹のように可愛くおしゃれとはいかなくとも、少なくとも性別を勘違いされるような格好では迎えに行ったりしないだろう。
「お前、そりゃーさ」
急に気が楽になったように思えて、胸を撫で下ろしながらどうにか笑いを治めようとしている間に、キースの渋面は深くなる。
「僕はそういったことに偏見はないつもりだ。だがブルーは止した方がいいと思うが」
「いや、だから偏見とかじゃなくて」
「いつでもあの調子だからな。昨年はあれでどれだけ女生徒絡みの問題を起こしたか……」
「問題?」
ジョミーに限って、まさかとは思う。思うけれど。
「女癖悪いとか?」
もしもジョミーがあの先輩に好意を寄せているのかもしれないと思うと、それは気が気ではない情報だ。
「逆だ。自分に興味を示す異性に対しては敵意に近い感情を向ける。ブルーが意図しているわけではないようだが、どうも事を大きくする」
「……それはそれで厄介だな」
ジョミーに限って、まさかとは思うけれど。
振り返らない先輩の後ろに一生懸命ついていくジョミーの背中に目を向けると、急に不安になって来た。
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